配信者を始めてから、一つだけ増えた習慣がある。
配信開始三十分前。
私は必ず、お茶を淹れる。
コーヒーじゃない。
紅茶でもない。
緑茶。
湯呑みに注いで、一口。
熱い。
うん。
今日も美味しい。
それだけ確認してから、配信部屋へ向かう。
理由は特にない。
もう何年もそうしている。
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「こんばんは。」
『こんばんはー!』
『待機!』
『間に合った!』
『今日もきた!』
「みんな今日もありがとう。」
コメント欄がゆっくり流れる。
ゲームの話。
今日の天気。
夕飯の話。
誰かが猫の写真を貼って。
みんながかわいいと言って。
その話題だけで五分くらい過ぎる。
平和だった。
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『そういえば昨日、駅前混んでたね』
「あー、混んでたね。」
『事故あったらしい』
『ニュース見た』
『帰るの大変だった』
「私は大丈夫だったよ。」
『よかった!』
「うん。」
それだけだった。
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ゲームを始める。
今日は協力ゲーム。
『そこ右!』
『違う違うw』
『あー惜しい!』
「分かってる分かってる。」
『ほんとに?w』
「たぶん。」
笑いながら操作する。
少し失敗して。
少し笑って。
少し褒められる。
それくらいが一番楽しい。
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一時間ほど経った頃。
コメント欄が少しだけ速く流れ始めた。
『初見です!』
『おすすめに出てきた!』
『こんな平和な配信ある?』
『癒やされる』
「初めまして。」
『登録しました!』
「ありがとう。」
『質問いい?』
「どうぞ。」
『配信で一番大事にしてることって?』
私は少しだけ考える。
……考えるふりをした。
「明日も配信したいなって思えることかな。」
コメント欄が少し静かになった。
『いい言葉』
『それ大事』
『確かに』
『無理しないのが一番』
私は笑う。
「配信って、長く続ける方が難しいから。」
これは本心だった。
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配信終了。
時計を見る。
二十二時三分。
予定通り。
パソコンの電源を落として、
椅子から立ち上がる。
伸びを一つ。
スマホを見る。
通知が来ていた。
トレンド
『○○配信者 炎上』
私は画面を閉じる。
今日は見ない。
たぶん、見ない方が幸せだから。
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コンビニへ寄る。
アイス売り場を眺める。
チョコ。
バニラ。
抹茶。
少し迷って。
今日は抹茶にした。
レジへ向かう途中、
新商品のポテトチップスが目に入る。
「あ。」
手に取って。
少し見て。
棚へ戻した。
今日は、いいや。
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帰宅。
ソファへ座って、
買ってきた抹茶アイスを開ける。
一口。
「……美味しい。」
テレビではニュースが流れていた。
『本日発売の新商品に異物混入が確認され——』
私はアイスをもう一口食べた。
今日は、抹茶が美味しい日だった。