「えッ…!?」
レイクは慌てて照準から目を離すと共に、ペンシルノヴァの銃身を下ろす。だが、そうして雷君から意識を逸らしたその途端、レイクは雷君達から放たれた猛烈な弾幕に全身を晒された!
「が、ぁ…!」
レイクに悲鳴を上げさせる暇すら与えず、雷君達は容赦なく弾丸を浴びせかける。レイクはたちまちに動けなくなり、弾丸の衝撃によってガレージの隅にあっという間に追い詰められてしまった。
「…!?こ、これは不味い…!」
とても射撃頻度が最低になっているとは思えない雷君達の攻撃に、ウタハは慌てて、親機となっている中央の雷君の緊急停止ボタンを叩いた。しかし、それでも雷君達は止まらず射撃を続ける。
「ウタハ先輩!?どういうことですかこれ!?」
「こ、このままじゃレイク、大怪我しちゃう…!」
駆け寄って来たゲーム開発部の髪からチラチラと舞い散る、銀色の粉末を確かめた途端、ウタハは胸に冷たいものが勢いよく流れ込んでくるのを感じた。
(ジャミング用の金属片…!しまった…!)
ペンシルノヴァの初めての実用試験が出来るということに、完全に気を取られていた。ウタハ達は、先程レイクが撒いた金属片が自分達の身体にまだ付着していることを失念し、雷君を起動してしまったのだ。お陰で雷君達はジャミングによって制御を失い、最大出力でありったけの弾丸をぶつける殺人マシーンと化してしまった。
「レイクッ!」
「アリスだめッ!この弾幕じゃ、貴女もただじゃすまない!」
ハチの巣になっているレイクに、アリスは急いで駆け寄ろうとするが、直ぐにヒビキに捕まってしまった。
何も出来ないまま、1秒が1時間に感じられるような時間が、流れていく。そんな残酷な時の流れの中で、遂に雷君達の弾丸が全て撃ち尽くされた。
合計数千発の弾丸をまともに受けたレイクは、穴だらけになったガレージの壁によりかかった体勢で微動だにせず、全身から黒い煙を吹いていた。新しい制服と、ヒビキが用意してくれたズボンはズタズタになり、もはや衣服と判断することすら出来ない。
『レイク大丈夫!?』
モモイ達は改めて、レイクに駆け寄ろうとする。しかし
『80…90……120……エネルギー充填完了しました。射撃可能です』
突然響いた機械音声で、4人はぴたりと足を止める。その音声は、ボロ雑巾のようになっても尚レイクが握りしめていた、ペンシルノヴァから流れていた。
「れ、レイク…!?」
4人は小さく息を飲む。突然、レールガンを握る右腕とレイクの首が、まるで操り人形のようにぬるりと動いたからだ。銃を構え、制止した5台の雷君を見据えるレイクの目は、いつかと同じように、爛々と光り輝いていた。
ヒィオンッ…!
風を切るような独特の発砲音と弾丸が、アリスの頬を掠めた。それにアリスが驚いたのも束の間、彼女の後ろにあった雷君の一台が、一瞬の内にバラバラに破壊される。
「残り、4つ…」
レイクはぼそりと呟くと、続けざまに引き金を四回引いた。放たれた弾丸はどれもゲーム開発部の間を縫い、4台の雷君達を残らずスクラップに変えた。
「う、うぅん……」
絶句する皆の前で、レイクは細い煙を吐くペンシルノヴァを握ったまま、気だるそうに伸びをした。
「あ、はは…派手にやられちゃいました…でも何とか、5台全部倒せましたよ…」
ばつが悪そうに、レイクは微笑む。笑みと共に細められた瞳には、いつも通りの優しい光が戻っていた。
「ソーラーシステム、ですか…?」
真っ黒になった顔を洗い、取り敢えずの服としてヒビキが引っ張り出して来てくれた、ぶかぶかの放射線防護服を着たレイクが、ウタハにそう尋ねた。
「そう。このペンシルノヴァには光を受けると自動的に発電を行って、射撃時のエネルギーに充てる機能が備わっているんだ。エネルギー切れの状態からでも射撃が出来たのは、そう言う訳さ。本当は戦闘が終わってから教えるつもりだったんだけど、まさかこんなことになるとは。レイク、君には本当に申し訳ないことをした」
後輩達と共に深々と頭を下げたウタハに、レイクは首を横に激しく振った。
「そんなこと気にしないで下さい!僕だって皆さんに迷惑をかけたんです、この位の報いは受けて当然ですよ!それよりも…」
レイクは再び、ペンシルノヴァを高く掲げた。
「こんな凄い武器を下さって、本当にありがとうございます!何だか、ゲームの最初の方に魔王を倒せる伝説の剣を入手したみたいです!!」
無邪気に振り上げるレイクを見て、ウタハ達は困ったように笑った。ボサボサの髪で、宇宙服のような銀色の放射線防護服を着ているというちんちくりんな恰好でなければ、レイクのその姿は伝説の剣を引き抜いたちびっ子勇者に見えただろう。
「何はともあれ、レイクが無事で本当に良かったよ!そしたら武器も貰ったし、私達は帰るね!ほらレイク行こう!」
モモイはアリス達を従えて、レイクを囲うようにしてそそくさとガレージを出ようとする。まるで「ここにこれ以上レイクを置いておくのは危険だ」と言っているかのようだ。
「ま、待って下さい!帰るのは結構なのですが、その恰好のレイクさんを表に出すのはちょっと…」
コトリの待ったに、先頭を歩いていたモモイが急ブレーキをかける。そのせいで、レイクは危うくモモイの後頭部に頭突きを入れそうになった。
「あ、そっか…このまま学校歩いてたら、完全に不審者だ…」
それなり以上の変わり者がいるミレニアムでも、流石に地肌に放射線防護服を着て校内を歩き回る者などそういない。ただでさえレイクはイレギュラーな存在なのだ、多くの生徒が寮に戻っているこの時間に外に出して、好奇の目に晒させる訳にはいかない。
「う~ん、そしたら私の予備の制服持ってくるしか…」
「お姉ちゃん忘れちゃったの?こないだの戦闘でボロボロになったから、今着てる制服しかもう持ってないでしょ?」
呆れ気味にそう言ったミドリに、モモイは「あ…そ、そだったね~…」と、間の抜けた返事をした。
「私がお詫びに、明日の朝中に全員の新しい制服を作ってあげる。だからレイク、今夜はここに泊まっていくと良いよ。私達が最近開発した超安眠寝袋も貸してあげるから」
どうやって部室まで戻るかモモイ達が思案していると、ヒビキがそんな提案をして来た。
「う~ん…予備の制服も無いし、今日はここに残していくのが正解かなぁ…今日は夜通しレイドバトルに付き合わせてレイクにネチケットを叩き込むつもりだったんだけど」
「それ、ただお姉ちゃんがレイドの仲間欲しいだけでしょ?それに、レイクはゲーム初心者なんだからゼルナの伝説:神々のクワトロフォースみたいな簡単だけどやり込みがいがあるアクションゲームをやって貰った方が絶対良いって!」
「アリスはブロックマン:エグゼのマスターズコレクションがオススメです!あのボードゲームとカードゲームが合わさったようなゲーム体験はエグゼでしか味わうことが出来ません!」
「初めてやったゲームがTSCだったから、やっぱり次もRPGが良いんじゃないかな…!?エグゼみたいなレトロゲーでも、RPGなら名作が沢山あるし…!」
モモイ達に四方を囲まれた状態でオススメのゲームを矢継ぎ早に紹介され、レイクは困った笑顔を浮かべた。
「えっと、皆とゲームをしたい気持ちは山々ですけど、ヒビキさんの言う通り僕はここに残った方が良いと思います。ちゃんとした服が無いと体がスースーしますし…」
「決まりだね」
ウタハはそう言って、モモイ達にいたずらっぽくウィンクをした。
「そしたらレイクは責任を持って預からせて貰うよ。なに、心配しないでくれ。相棒であるこのモンキーレンチに誓って、彼を危ない目に合わせるようなことは二度としないから」
ゲーム開発部が帰ってから、早速制服の製作に取り掛かったヒビキ。彼女が全員分の制服を完成させた時、時刻は真夜中の2時を回っていた。
「部長~、出来たよ~…」
制服の入った紙袋を持ってガレージに入ったヒビキ。そして飛び込んで来た光景に、思わず眠気眼を力強く擦った。
ガレージの中央には、複数の油圧ジャッキで持ち上げられた、トリニティ総合学園の校章が描かれた古いクルセイダー戦車が置かれていた。そしてその足元では、キャタピラの傍にしゃがみ込んだウタハの指示で、レイクが防護服を着たままエンジンのメンテナンスをしていた。
「ウタハ先輩、このゴムパッキンひび割れとか起こしてないですけど、これも新しいのと交換するんですか?」
「あぁ、そうだよ。古いパッキンは多かれ少なかれ必ず劣化しているから、ぱっと見では問題無くとも絶対に新品に交換するんだ。取り付ける前に、エンジンオイルを塗布するのを忘れないようにね」
「了解です!」
レイクは戦車の横に並べられた道具の中に置かれたオイル缶に指を入れ、指先に付着したオイルを黒いゴムパッキンに塗ると、それを持ったまま戦車の腹下に器用に潜り込んだ。レイクの全身が戦車の中に隠れて直ぐ「うぅん…中々入らない…」というくぐもった声が聞こえて来た。どうやら取り付けに苦戦しているようだ。
「指だけでやりにくいなら、マイナスドライバーを使うと良いよ。今そっちに投げ入れるから…」
ウタハは傍に置いた工具箱からドライバーを取り出し、レイク目掛けて投げ込もうとする。しかしこちらに歩み寄るヒビキの姿を見て、その手を止めた。
「おや、ヒビキ。もう出来たのかい?」
「うん。それよりもこの戦車って、トリニティからメンテナンス頼まれてたやつだよね?」
「あぁ、そうさ。レイクがエンジニア部の活動内容にあまりにも食いついてくれるものだから、簡単な作業を任せてみることに…っと、出て来ちゃったか」
会話を聞いたのか、腹下からレイクがひょこっと顔を出した。さっき顔を綺麗に洗ったのに、今度は古いオイルや機械油やらで顔中を真っ黒に染めている。
「ヒビキさんこんばんわ。ちょっとだけ、お手伝いさせて貰ってます」
日付を跨いだというのに眠そうな顔一つしていないレイクに、ヒビキは優しく微笑んだ。
「夜遅くまでお疲れ様。制服、完成したよ」
ヒビキはレイクの頭の上で紙袋をひらひら揺らした。
「本当ですか!?そしたら直ぐ着替えたいです!この服、ひんやりしてて気持ちいいんですけど動きにくくて…」
「ふふっ、防護服を直接着てたらそうだろうね。ここに置いておくから、好きな時に着替えて。あ、そうだ。中に良いもの入ってるから良かったら使って。それじゃ、おやすみなさい」
「はい!おやすみなさい!」
ヒビキは工具箱の横に紙袋を置くと、大きな欠伸をしながらガレージを後にした。
(良い物って、なんだろう…?)
戦車から這い出たレイクは紙袋の中をがさがさと漁る。
(これのことかな…?)
紙袋にはパリッとした新しい制服の他に、楕円を半分にしたような、小さいカチューシャのようなものが入っていた。ゴムに似た柔らかい素材で出来ているようで、レイクはそれを上下左右にぐにぐにと動かしてみる。
「…なるほど。良いものってそういうことか。使い方を教えてあげるよ、貸してごらん」
レイクからそれを受け取ったウタハは、両端を軽く広げると、レイクの首にそっと取り付けた。
「うん、サイズもぴったりだ。そしたら…」
ウタハはチョーカーのようにして取り付けたそれに指を近づけ、中央に描かれた電源マークをそっと押した。するとレイクの頭の上に、白い光の環がぼんやりと浮かび上がった。
「名付けて『ヘイロープロジェクター』。自分のヘイローにアクセントを加えられるアクセサリーとして売れるんじゃないかと思って作ってみたんだが、そもそもヘイローをオシャレのポイントとして見る生徒が殆どいないことを忘れていて、試作品止まりになっていたんだ。自分で見てごらん」
レイクはウタハが差し出してくれた手鏡で、頭の上に浮かんだものを確かめた。
「これが、ヘイロー…」
レイクは暫くの間鏡をジッと見つめていたが、やがてプロジェクターの電源を落とし、そしてウタハに浮かぶ紫のヘイローに視線を移した。
「あの…皆さんが持っているそのヘイロー?というものは、別にこのプロジェクターが無くとも、浮かんでいるもの、なんですよね…?」
(…しまった)
レイクの顔を見て、ウタハは柄に無くまたミスをしてしまったことに気付いた。