第一章第二節① Fall in the web of SpideR
[Fall in the web of SpideR]
2014.5.19 23:18:24 姫ノ舞市郊外
side:白波 月夏
「よかった無事だな」
家から1ブロック先にある駐輪場は無事だったようで、愛車は一昨日置いたところに鎮座していた。
流石に歩きで県北に行くのは無謀すぎるし、何よりあの家の状態だ。近くだとすぐに警察に捕まって事情聴取されてそれどころではなくなるだろう。
ガソリンは……よし、これだけあれば中継の町までは着ける……よな?
「アナ!こいつで行くぞ!
イグニッションをかけつつ鴉那に半ヘルを渡す。一瞬きょとんとする鴉那。
「えっ……と?」
「あ、もしかして2ケ……タンデムは初めてか?座って振り落とされないようにしがみついてりゃいいんだが」
「月夏にしがみついておけばいいの?」
あー……少し想像して思考が停止した。
「そーだなー、行くまでに怪我しちゃいけないからなー」
後ろに野郎しか乗せたことねぇからその辺ぬかった!
「……なにか、問題があるの、かな?」
こちらの棒読みに不安そうに尋ねてくるが、ただ自身の経験値の低さによるショートなのでそこまで気落ちさせても申し訳ない。
一度深呼吸を挟む。
「すまない、大丈夫だ。俺もさっきので疲れてるし、アナも同じだろ?少し乗り心地は悪いかもだが、これで進む方がいいんじゃないか?」
「そうだね!じゃ、しっかり捕まってるから!」
そう言って密着する鴉那。
「そ、そこまでじゃなくても落ちねぇからさ!!」
そんな無防備な鴉那に、理性が急ブレーキをかける。
まだ原付は発進していないのに急ブレーキというのも変な話ではあるけども。
果てしない情けなさを感じつつ、少し協議して腰に手をまわすことで落ち着き、そのまま夜へと駆け出した。
休憩を挟みながらもなんとかスマホで調べた目的としていた場所に辿り着いた。
月も雲に翳り、自動販売機とわずかな街灯の光だけが灯る、本当に暗く寂れた町の趣があった。
だが、それ故に出来ることもある。
「着いたぞ」
「ん……」
少し眠そうだな、もう丑三つ時も近い時間だし、何より先の戦いでの疲労はバカにならないのだろう。
俺自身も、かなり疲労感は溜まっている。
「一旦原付はここに置いていく。今日のところは、公園で少しでも休ませてもらおう」
始発まではもう4時間ほどある。少しでもお互い休んでおきたい。
「わかった……」
少しうつらうつらとしている鴉那に肩を貸しながら、近くの公園のベンチへ腰かける。
「ん……月夏……」
おそらく半分寝てるのだろう。すごく眠そうな声。
「そこに、いて……ね……」
と言うと、寝息を立て始めた。
……これもしかして動けないやつか?
とはいえ、起こすのも可哀想だし、肩を貸すしかなさそうか。
……側から見たら仲のいいカップルなのだろうか。
警察のパトロールが来ないことを祈りつつ、とりあえずスマホで時刻表とマップを眺める他なかった。
明け方前に鴉那を起こし、休憩したコンビニで買っておいたおにぎりと飲み物で朝飯を済ませた後、俺たちは駅まで戻ってきていた。
東の空が白み始めた頃、通りの向こうからディーゼルエンジンの重い音が聞こえてきた。
「来たな」
星見里行きバス。
他の乗客は見当たらず、自分たちだけが薄明るいバス停に立っていた。
「あのバスに乗ったら、師匠に……」
「そうだな、きっと会えるさ」
その時はきっと、遠くない。
[名探偵?アオシ]
2014.5.20 0:42
side:
クソダリィ……
深夜のコンビニはやることは多いが暇な時間帯はてんで暇だ。
深夜便も終わり、掃除はまだモチベが湧かない。2時過ぎでいいだろ。
今も同じシフトの店長はタバコ休憩に行っており、何もすることもない。
……タバコ補充しとくか。
そんなことを思っていると、一組の客が来店する。
「らっしゃーせーこんばんはー」
カップルかよ……モチベの火がさらに消えかかる。
男の方はさして特徴的とも言い難い、20歳過ぎくらいだろうか。大学生か、高卒の社会人数年目くらい。
だがそいつに引っ付いてる女の方は、露出の多めな服装も相まってかなり扇情的ですらある。
どんな組み合わせだと思って少しだけ……そう、万引き!万引き対策でそれとなく観察する。
「……なあ、なににする?」
「……茶ぁ〜」
「あいよ」
そう言って飲み物をカゴに入れていく。
……まさか、お持ち帰りというやつか!?これから始まるのか!!?
だが酒を買ってる様子もないし、この辺にモーテルなんてものは無論ない。
酒の匂いがしてたらあやしいが、そのような感じではなさそうだ……
ちらっと駐車場を見るものの、車が止まってる気配はない……となるとバイクか?
そう考えてる間に例のカップルはおにぎりコーナーで物色をしていた。
「うーん、ツナマヨ、梅、しゃけ……変わり種でこれも入れておくか……」
若干独り言が多いタイプのようで、男は吟味しては行ったり来たりしている。早く決めてほしい。
「ん、これにするか。お願いしまーす」
「はーい」
何食わぬ顔でレジに戻る。
おにぎり4つ……なんか一つ生ハム巻き巻きという塩分爆弾があった気がするが、プロとしてどんな商品であろうとポーカーフェイスを崩しはしない。
それとお茶とスポドリと水。
……思ってたものがないことに拍子抜けしかけたが、まさか……これからオールを……?
ハッ!動きが止まりかけてた。
「842円でーす」
「じゃあこれで。」
「1052円お預かりしまーす、210円のお返しですね、ありがとーございまーす」
「どうも」
その後店を出た2人が、やはり二輪に乗って左折して行った。
レシートを片付けながらふと思い返す。
あれ?なんでさっきのカップル、やけに気になったんだろうか?
普段ならカップルがゴムだろうが成人誌だろうが持ってこようと平気で捌くし、客も常連しか覚える気がないわけなのだが、どうにも記憶に残る組み合わせだった。
単に暇だったからか?
「ま、ええわ」
それよりもそろそろ店長が帰ってくる。掃除の準備を始めようか。