「ハァッハァッ…」
わたしは走る。
石も隠れられる場所もない場所で急に現れた犬のようなおばけはわたしに向かって吠え、走り出したわたしの背中を追いかける。
「確かこの一本道を抜けたら看板があったはず!」
息も絶え絶え走った先、看板がある電柱に滑り込んで一つ目の犬をやり過ごそうと息を潜める。
心臓がうるさく鳴るのを抑えて必死に身を小さくして目を閉じていると、見失ってくれたのか犬のおばけはグルルルと唸りながら離れていってくれた。
「はあ、はあ、あぶなかった。」
いなくなったユイを探すために夜の街を歩いてもう2時間ほど経った。
嫌な想像をする。
あの子はもう死んでしまっているかもしれない。
あの子はもうこの世のどこにもいないのかもしれない。
そんな考えを断ち切るために声を上げる。
「そんなことない!ユイは生きてる!探さなきゃ!」
わたしは立ち上がって振り返る。
「やあ」
「こんばんは」
そこにいたのは黒だった、黒い、黒い服を着た人だった。
この街の全ての夜を混ぜてぐちゃぐちゃに混ぜ込んだような黒だった。
月の明かりがあるはずなのにちっとも顔が見えない、なんとか見える目の辺りも服と同じくらい黒く、まるでわたしを全て吸い込んでしまうような大きな瞳だった。
わたしの全身をじっくり目を細めながら観察して、目を細めるような仕草をした。
わたしが会ってきたおばけや人間の中で1番不気味な大人の人だった。
「こ、こんばんは」
その人はわたしの絞り出すような声の挨拶をなんとか聞き取って、わたしを安心させる為なのか、それともあのおばけたちのようにわたしを攫う為なのか、その不気味さから判断できないが、笑った…ように見えた。
「こんな時間に何をしてるの?」
「おばけが出るよ」
なんてニヤニヤしながら言った。
「わ、わたし、ユイを、友達を探してるんです!」
うわずりながらもなんとか声に出したわたしを不気味に首を傾けながらその人はじっと見つめている。
「こんな時間に探すことないんじゃないかな?」
「さっき僕は冗談として『おばけが出る』なんて言ったが、実際にこの街にはアレらが出るんだからさ、今さっき君を追いかけていた一つ目の犬だってそうさ。」
「まあ僕から言わせれば、あれらはただの…いや、なんでもない。」
「ほら、分かったらおうちに帰りなさい。僕が送ってあげよう。」
今帰ったらユイは助からないかもしれない、どこかで泣いているかもしれない友達を助けるためにここで帰ったりするもんか。
伸ばされる手から一歩離れてわたしは震えながらも声を上げる。
「わ、わたし帰りません!ユイを見つけるまで帰りません!」
わたしの真剣な目を見たその人は困ったような顔をしながら、それでもニヤけたままの口元のまま。
「ふむ、困った。真剣に思い悩んでいる君を説得するのは苦労しそうだな。」
「ここで君を1人で行かせるのは簡単だ、僕はこのまま踵を返すだけだ、そして君を見殺しにしたことを忘れればいい。」
「ただでさえ不審者扱いされているというのに、行方不明者を閉じ込めてるんじゃないかなんて警察に言われて家宅捜査されるのはもう懲り懲りだ。」
「しかし、ついていくのは面倒だし、メリットがない。」
「どうしたものか。」
体を不気味にゆらゆらと傾けながらその人はひとしきり悩んだ素振りを見せる。この人はあぶない人なのかもしれない。おばけ以外に夜を歩いてる人を見られたのは良かったけど、おばけとは違う怖さを感じて一歩後ずさる。
「あ、あの、わたし、1人で大丈夫です。それじゃあこれで…」
「そうだ!」
「うひゃう!?」
大きな声を上げたその人にびっくりして体が跳ねる。
「君、うちで仕事をしないかい?」
初投稿でホラーは無理だろ