夢幻世界の王 β版   作:月乃杜

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第1話:VRMMO−RPG

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 VRMMORPGというのを知っているだろうか?

 

 まあ、所謂処のヴァーチャル・オンライン・ゲームの事である。

 

 とはいえ、容量やシステム的に実現させるのがキツいのか、普通のオンライン・ゲームは兎も角としても未だにそちらは出る気配もなかった。

 

 何しろ、リアリティーの追求だとか、感覚のあれやこれやだとか色々と弄らねばならない事は多い。

 

 それ故に、そんな未来型なゲームは物語の中だけの話でしかないと、彼も諦めていた。

 

 高校生、上月彰吾(かみつきしょうご)。

 

 いつか本当にVRMMORPGをプレイしてみたい……そんな夢を見るゲーム好きの少年である。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 彰吾は某県S市の桜川高校の二年生。

 

 今日も今日とて幼馴染みの少女、赤坂百合と教室内でゲーム談義をしていた。

 

 内容はオンライン・ゲーム【英雄譚インフィニット・ブレイバー】について。

 

 アクション性が強くて、やり込み要素も多いゲームで、前作【幻想界(インフィニット・ファンタジー)】と世界観が同一という事もあって、データ・コンバートをする事により前作のプレイヤーに優しいシステムを満喫出来た。

 

 まあ尤も、コンバート無しでは獲られない様な武器とスキルを一個ずつ、始めから持っているだけだが。

 

「そろそろ【英雄譚(インフィニット・ブレイバー)】も過渡期なのかな?」

 

 百合は溜息を吐きながらジュースを啜り、そんな事を洩らす。

 

「いや、まだイケるだろ」

 

「そうかな? だってさ、もうボクも彰ちゃんも既にレベル255。カンストしちゃってるんだよ?」

 

「う……まあな。スキルも覚えたモノは全部99まで上げてカンストだしな」

 

 【英雄譚(インフィニット・ブレイバー)】に於けるプレイヤーの最高レベルは255でスキルの熟練度は99となってるのだが、当たり前の話そう簡単に上がるものではない。

 

 だがずっと続けていればいずれは辿り着くもので、彰吾と百合も半年以上前にはその領域に来ていた。

 

 別にこの2人は、ネット廃人という訳ではない。

 

 単純に2人で効率良く狩りを行ってきただけだし、少しレベルを上げたら少し強めの敵とエンカウント出来る場所に移動していただけである。

 

 アクション重視のゲームなだけに多少、効率的に戦えればダメージさえ通るなら意外とやれるものだ。

 

 元々、百合はゲームを余りしない方なのだが、彰吾に誘われて前作の【幻想界(インフィニット・ファンタジー)】から一緒にプレイしていた。

 

 幼馴染みの趣味に付き合っている訳である。

 

「次回作の話もチラホラと出だしたし、そろそろ潮時かもよ?」

 

「ああ、そういや情報誌に挙がってたな」

 

 タイトルは【夢幻王(インフィニット・ドリーム)】だったと記憶している。

 

「けどさ、あれってまだどんな形のモノか発表されてないだろ? 判ってるのは前作、前々作と同じ世界観の違う大陸の物語ってくらいだし」

 

「う〜ん、そうなんだよ。ボクも気になってはいるんだけどね」

 

「それはまた、百合も変わったよな。昔はゲームなんてって感じだったのに」

 

「それは……彰吾が悪いんだよ。ボクを彰ちゃんの色に染めるから」

 

「ブッ!」

 

 行き成り科を作り、頬を朱に染めて言う百合に彰吾が思わず噴き出す。

 

 直ぐにキョロキョロと辺りを見回し、彰吾は百合に小さな声で言った。

 

「ば、バカ! 何つー危ない事を言ってんだよ!」

 

「フーンだ、意地悪な事を言うからだよ」

 

「ハァ、悪かったよ」

 

 嘆息しながら謝る彰吾に百合は満足そうに頷いて、話題の転換をする。

 

 それは噂のレベルではあるが、真しやかに流れている一つの情報に関してだ。

 

「そういえば彰ちゃんは聴いてる? 次の【夢幻王(インフィニット・ドリーム)】が実は、VRMMOじゃないかって話……」

 

「そうなのか? でもさ、前に百合は『そんなの漫画じゃあるまいし、出せる訳が無い』とか否定していたんじゃなかったか?」

 

「うん。けどね、この学園の天才引き篭りな少年が、技術的な不可能をブレイクスルーしたとか」

 

「天才引き篭り? 若しかして橋本祐希の事か?」

 

「そうだよ。例のゲームも高倉コーポから発売だし、彼って高倉のお嬢様と恋人なんでしょ?」

 

「そんな噂があるな」

 

 体育には基本的に出席はしないで見学し、他の教科では満点ばかりの天才児、橋本祐希が高倉コーポレーション社長の三女の、高倉翔子と三年くらい前から付き合っているという話は、結構な語り種である。

 

 身体的な虚弱症だとかの所為で、学校以外では引き篭りの少年だった橋本祐希だが、中学時代に衝撃的な告白を高倉翔子から受け、それにイエスと返事をしたのだとか。

 

 詳しくは2人も寡分にして知らない、然しある程度の内容は伝わっていた。

 

 概要で云うと、『貴方の頭を私の身体で買うわ』……というもの。

 

 美少女だった故に、告白を聞いた周囲の男子連中が悔しがったらしい。

 

 噂を聴いた時は、どんな頭脳だよと思ったものだったのだが、本当にVRMMOを開発したというなら、話の通り相当の天才という事なのかも知れなかった。

 

 これで高倉コーポレーションはゲームの分野のみならず、様々な分野で頭一つ抜きん出る事だろう。

 

閑話休題……

 

「若し、噂が本当なら嬉しいんだけどな」

 

「VRMMOのRPGって云えば、彰ちゃんの憧れでプレイは夢だったからね」

 

「ああ!」

 

 放課後もいい加減、生徒の下校時間が過ぎてきて、彰吾と百合は家に帰宅して【英雄譚(インフィニット・ブレイバー)】のプレイをする事になった。

 

「じゃあね、彰ちゃん」

 

「応、またゾアーナ大陸で会おうぜ」

 

「うん!」

 

 この2人、単純に幼馴染みというだけでなく、ベタなお隣同士で家族ぐるみでの付き合いがあるという、ある意味では恵まれた環境だったりする。

 

 彰吾が家に入ると、玄関に大きめの包みがデン! と置かれていた。

 

「何だこれ? 母さん! この包みって何?」

 

「知らないわ。彰吾が頼んだものじゃないの?」

 

「……は?」

 

 彰吾は戸惑いを隠せないでいる。何しろこんな大きな梱包が必要な荷物など、頼んだ覚えがないからだ。

 

 首を傾げながら宛名を見てみれば、其処には確かに【上月彰吾様】とある。

 

「あ、本当だ。俺の名前が書いてある」

 

 とはいえ、彰吾にこんな荷物の覚えは無い。

 

「どっから送られてきたんだろ?」

 

 彰吾が送り主の名前を見てみれば、其処に書かれていたのは【高倉コーポレーション】だ。

 

 つい先程、学校で名前が挙がったばかりの会社名、それには余計に戸惑う。

 

 高倉コーポレーションから何かを送られる理由が思い付かない。

 

「取り敢えずは部屋ん中に運び込むか」

 

 どっこいしょっと、荷物を持ち上げて部屋へと運び込んだ彰吾は、包装を解いて中身を広げてみる。

 

 その中には……

 

「MMOバイザー? 少し形が違うけど」

 

 まんまな名だが、MMOバイザーと云うのはMMOゲームの為に被るバイザー型のディスプレイだ。

 

 これを被り彰吾は大規模ネットワークRPGゲームをプレイしている。

 

 だけど形状が彰吾の知るMMOバイザーとは可成り別物で、首を傾げながらも中身を取り出していく。

 

 入っていたのは本体とも云えるMMOバイザーらしき機器と、βと書かれている量子ディスク。

 

 更には取り扱い説明書っぽい用紙に、コンバート用プラグ、そして申し送り状であった。

 

 彰吾は、現状を把握するべく申し送り状を読んでみる事にする。

 

【拝啓 この度はおめでとうございます。貴方様は弊社が開発致しました世界でも初のVRMMO−RPG『夢幻王(インフィニット・ドリーム)』のβテスターとして当選しました。尚、選考基準は前作、前々作をプレイされたお客様の中から、無作為に抽選で選考しております。参加人数は二千人で期間は一ヶ月、弊社の新しい形のRPGをお楽しみ下さい。 高倉コーポレーション敬具】

 

「って、マジか?」

 

 確かに前作【英雄譚(インフィニット・ブレイバー)】でも、βテスターは前々作の【幻想界(インフィニット・ファンタジー)】のプレイヤーから無作為に選ばれたと聴いた。

 

「うん? PS……弊社が新開発したVRバイザーでお楽しみ下さい? VRバイザー?」

 

 どうもネーミングセンスの良いスタッフがいなかったらしく、またもやまんまな名前で攻めてきた様だ。

 

 彰吾は取り扱い説明書を読みながら、VRバイザーのセットアップを始める。

 

「然し、バイザーは返却しなくて良いなんて、随分と太っ腹なんだな」

 

 高倉コーポがこの2〜3年で可成りの急成長をしていると聴くが、こんな高価な物をポンと送る辺り、思っていた以上らしい。

 

 セットアップも完了し、彰吾はMMOバイザーの方を被ると、百合へとメールを送る。約束を反故にする事になるのは心苦しいが、やっぱり早く試したい衝動が沸き立つし、今日はもうアクセス出来ない事を伝えねばなるまい。それに……

 

「送信っと」

 

 百合の事だからきっと、このメールを見れば飛んで来る筈。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

【同時刻】

 

「遅いな、彰ちゃん」

 

 赤坂百合は既にログインをして待っていた。

 

 時間にルーズでない彰吾が遅れるなら、それは相応の理由が有ると理解してはいるものの、せめて連絡の一つも欲しい。

 

ピコン!

 

 電子音が響き、メーラーが起動したのを確認して、百合は送信されてきた内容を読む。

 

「何々、高倉コーポレーションから【夢幻王(インフィニット・ドリーム)】のβテスターに選ばれた? 今日はそちらに集中したいからログイン出来ない……って、何よそれは!」

 

 百合は叫ぶとログアウトして直ぐにも階段を駆け降りて、母親に行き先を告げると隣の家に駆け込んだ。

 

「おば様、こんにちは!」

 

「あら、百合ちゃん」

 

「彰ちゃん、居ます?」

 

「ええ、帰ってから何処にも出掛けてないわ」

 

「ありがとうございます」

 

 礼を言って二階へ駆け上がると、百合は彰吾の部屋の扉をノックした。

 

「彰ちゃん、居るよね?」

 

「おお、入れ」

 

 返事を聴いた瞬間、扉を蹴破る勢いで開く。

 

 

「彰ちゃん! あのメールってなに……してんの?」

 

 百合の見た事もない様なMMOバイザーを弄る彰吾の姿に、思わずそちらへと目が行って訊ねた。

 

「VRバイザーだってさ」

 

「ハァ?」

 

 彰吾が詳しく説明をすると神妙な表情となり先ずは偽物を疑ってみたものの、それを証明するモノは得られない。

 

 其処で、空いている彰吾が元々持っていたMMOバイザーでネットに繋ぐと、高倉コーポレーション公式ホームページに入り、情報が何かしら無いかを確かめてみると……

 

「嘘、有った」

 

 公式ホームページには、確かな情報として【夢幻王(インフィニット・ドリーム)】のβテスターが決定して、二千人のテスターの候補者へとVRバイザーとβ版の量子ディスクを送った旨を伝えていた。

 

 更新が今日という事は、これらが送られたのは数日前の筈で、少なくとも騙りではあるまい。

 

 目に見えて落ち込む百合を見て彰吾も少し困ってしまうが、だからって折角のβテスト版のプレイを諦める心算などなく、取り敢えずはラインを繋いでおけばMMOバイザーで観賞だけは出来ると教えた。

 

 尤も、本当に観賞だけで干渉は出来ないのだが……

 

「さて、始めようか」

 

 ゲームをスタートするとガイダンスが始まり、それに従ってキャラメイクを行っていく。

 

 そのシステムは、前作のものをその侭にしたかの様なものらしく、使い勝手の良いインターフェースだ。

 

 アバターを作成、数値の変更、職業の変更などをして全ての作業が終了。

 

 遂に、彰吾の分身(アバター)が雪景色の大地に降り立つ。

 

 光と共にアバターの誕生を祝福され、そして彰吾は──ショーゴは口を開いて第一声を世界への産声として上げる。

 

「寒っ! さみーよ!」

 

 百合は思わずズッコケたものだった。

 

 

.




実はVRMMO−RPGの皮を被ったファンタジー。


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