ホラー系の世界に転生したのにあまりにも怪異がカラっとしている 作:ない因習村:ASMRの配信が流行る
ぐいぐいとアピールされながらなんとか学校に着くと、校門前に花子姐さんがヤンキー座りでヤニを吹かしていた。見た目がおかっぱ黒髪で白のワイシャツ赤スカートの王道トイレの花子さんファッションだから余計にインパクトがある。
「おぅ、なーに遅刻しやがってんの。おどれ」
「私は謝罪が出来るメリーさん。いつも大変お世話になっております。このたびは予定していた集合時間に間に合わず遅刻してしまい、大変申し訳ありませんでした」
「ちげぇよ。んで遅れたかって聞いてんだ、こっちは。謝罪でなんとかなんなら業務なんざ回ってねぇだろ。理由と改善を言えつってんだよ」
足元には缶コーヒーの空き缶にヤニがギチギチに詰まっており、大層待っていたことが伺えた。流れるように次のヤニに火を付けて吸い始めた花子姐さんが人差し指でトントンと灰を落とす。妙に様になっていた。
ふるふると震えて謝罪を重ねる様はあまりにも哀れだが約束を忘れたメリーさんにも非はあろうというもの。しかし、世のコンプラが花子姐さんの存在そのものを許さないのも事実だ。まず女児はヤニを吸ってはいけないし、言動がモラハラすぎる。
「花子姐さん、メリーさんは俺を迎えに来てくれたんですよ。ちょっと黄昏時でごたついていたので気を利かせてくれたんです。決して約束を忘れていたわけではないんです」
「ほーぅ?坊、言うじゃねぇの」
ヤニをぐーっと吸い込んだ花子姐さんは頬杖をついてこちらを睥睨する。凡そ女児の存在感ではないが、この方は怪異の大御所、トイレのハナコさんだ。現代に適用しようという努力はあるのだが、少しばかり古い現代に適用してしまった。ハナコさんの中では最近らしい。それ歳言ってる人が放つ下の世代の流行り(一個か二個前)を最近っていう奴じゃん。
「謝罪の品は此方に」
俺はかねてよりお世話になっている兼メリーさんを守るための謝罪としてハーゲン〇ッツイチゴ味と俺が食べる用のバニラ味も贈呈した。
「……っぱ、坊はわかってるねぇ。そうだぜ、謝罪っつーのはただ謝ったところで相手に火ぃ注ぐだけの時もある。現物か、あるいは矛を収められるだけの理由が必要だ」
「承知しております」
「コイツは若ぇのに道理を分かってやがる。最近のヤツは骨なしばっかだと思ったが……まだ若いモンは捨てたもんじゃねぇな。いや、頭がかてぇのはアタシの方でもあるか」
ハーゲンダ〇ツを開封し、木のスプーンですくって一口。一つ二つ頷くと花子姐さんがメリーさんにドスを効かせた。
「おぅメリー。誠意に水差すのは野暮だ。今回ばかりは不問にしてやる。だが次はねぇぜ。怪異っつーのは怖がられてナンボの商売だ。逆に言やぁテメェみたいに舐め腐った奴が出てくると商売あがったりなんだ。トイレのハナコさんってあろうものが手下の教育が出来ていない……そんな噂一つアタシの耳に入れてみろ」
ぞぁっと近づき、胸倉をつかみ、目の前までヤニを近づける。
「クソに塗れて死んでみるか?」
「……肝に銘じておきます」
「おぅ、そうしとけそうしとけ。テメェはガッツがある。反省も改善も出来る。一度のミスで殺すにゃ惜しい」
「過分なお言葉、恐縮です」
怖すぎる。平身低頭謝罪するメリーさんと一緒になってガタガタと震えていると花子姐さんはヤニを空き缶に突っ込んだ後、ガラガラと校門を開ける。
「入りな、もう始まってる」
「失礼します」
「失礼いたします」
「おぅ……ところで、猫又のヤツぁどうした?」
「トイレです。全身の水分という水分トイレに吸われてるらしいです」
「アイツまた……わぁーったわぁーった。テメェの胃が雑魚なこと理解しろよ……」
ガシガシと頭を掻いてため息を吐いた花子姐さんに招かれて、俺達は夜の学校に入るのだった。昭和の中間管理職みたいな空気が花子姐さんから感じるんだよな。本当にお疲れさまです。でも怖いので本当にやめてください。令和の時代に真っ向から反逆してるんです。
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「今日は満月だ。余所モンが活性化する時期な」
「花子姐さん余所モンはさすがにアウトです」
「あぁん?んだって余所モンは余所モンだろうがよ。テメェの事情は知らねぇが制御できるモン制御できずに余所の土地に押し付けるカスだぜ?」
「事情ってものがあるんですよ……ほら西洋はこちらより怪異に厳しかったんですし。それに友人でもあるんです。良い奴ですよ」
「わぁってるわぁってる。愚痴だよ愚痴。アタシは海の外なんざクソ程興味もねぇが……んだ?キツイのか?」
「らしいですよ。怪異に厳しい宗教ですし、そもそもあちらでは大半の神様が怪異に厳しいものですから」
「それはなぁ。ツクヨミ様のお力借りてるこっちがおかしいって言やぁおかしいか」
深夜や黄昏時で霊的才能を持つ人以外に被害が出ていないのは神様たちの棲み分けによるものだ。八百万の神様はそこらへん本当に緩い感性を持っているし、妖怪から神様になった者だっている。なのでこちらの事情も踏んでくれるし、緊急時には介入して止めてくれる。えっ?怪異が人を殺すのはどうなんだって?悪神も人殺すし、うちらもあらぶったら殺すよ?……だそうだ。それはそう。荒神とか言いますもんね。
そんな日本と比べたら西洋の良く言えば二元的な……悪く言えば悪は悪として、悪いものが神と祭り上げられず悪魔として言われたりする宗教観では生きづらいものだろう。だから
まぁそんな狼も……
「『嫌だぁ~~~~!!!全身脱毛したばっかなんだよぉ~~~~!!!!』」
あんだけ慨嘆しているのを見ればそんなに哀れに見えないのだが。いや、別の哀れか……?
「全身脱毛ねぇ……男がぁ?っつーと今怒られんだろ?」
「怒られますね。それに腋毛がボーボーの男を受け入れる女性は多分少数派です」
「私は衛生面のメリーさん。女性がムダ毛を綺麗にする価値観が男女共に起きていると考えられるわ」
「永遠の女児だから毛なんか生えねぇんだよ」
「私も人形だから無駄毛はないわね。聞いておきたいのだけど、あなたは毛はアリ?ナシ?」
「すっごいキラーパスが飛んできた。えぇっと……どこの毛」
「それはもうし」
「やめてください。……まぁありのままの方が良いと思いますよ」
「それは人間として?人形として?」
「人形として……!」
「そう、わかったわ」
「んだよメリー。惚れたか?」
「惚れた……というとまた違うのだけれど。人形としての直感といくつかの基準を通過したからよ。物持ちの良さ、会話のリズム、生活における嗜好の類似性。私は分析のメリーさん、相手のリサーチは欠かさないわ」
「ほーぅ。まぁ坊はいい男だぜ。見る目がある。んだ?いつ祝言上げる?」
「待ってください、俺まだ未成年です」
「あー?ガキでも祝言上げられんだろうよ」
「今は18歳以上じゃないと結婚できません」
「はぁ?また変わったのかよ……」
お上の考えることはわからねぇと愚痴をこぼす花子さん……うん、こういう人なのだ。面倒見は良いし仕事は出来るのだが、如何せん考え方が……ね?
俺達がこうして集まってるのは狼が変身して暴走した時、止めるために居る。俺達のほかにもここら辺に居る妖怪、怪話の人達がスタンバイしていて、もし危なそうだったら容赦なく叩きのめせる盤石の布陣だ。
「『ちっす。花子姐さんちっす。ポテチの上納っす』」
「『お酒もありますよ~』」
続々と集まってきた怪異達。手にはお酒にジュースにお菓子お菓子お菓子。なにせ、ここ最近は思春期が落ち着いてきたのか精神が安定することが多く、もっぱら狼男が変身して嘆く様を肴に持参したおやつを食べる月一行事と化している。