ホラー系の世界に転生したのにあまりにも怪異がカラっとしている 作:ない因習村:因習とは別に邪教がある
「今日も平和ですね」
「平和かぁ?今日いくつ死んだよ」
「『たしかしたかし、黄昏時に4人死んでるっすね』」
「オッ、縁起いいじゃねぇの」
「………ん?あぁ、怪異側だから4が死でも嬉しいんだ」
「『4が嬉“し”いってね!』」
「殺すわ」
「殺した」
若干一名、花子姐さんによりお亡くなりになったものの今日も平和に狼化は進んでいる。うごうごと断片になった怪異を学校の窓から不法侵入した教室のほうきと塵取りを無断で拝借して掃除。ちょっと、学校にゴミ残さないでくださいよ。
「『体脆くてごめんね~。いやぁ主成分が紙だからペライんだよね。ホント“蚊みたい”な“紙耐”久なの涙ちょちょぎれそうだよ~。あ、泣いたら濡れて力が出ないかw』」
「すいませーん、このどぐされアン〇ンマンどのごみですか?自然ごみ?」
「トイレにでも流しとけよ。水は良い。クソも罪も全て覆い流してくれる」
「トイレに流したら下水道の人達困っちゃいますよ。こんなクソ、トイレにも流せません」
「『ちょっとぉー?一応トイレの怪異なんですけど~。ちょっとしたユーモアですってぇ。寛大な心で水に流してくださいよ。トイレの紙だけに、ねっ!』」
「燃やしましょうよ。紙ですし」
「有害なガス出るんじゃねぇの。吸いたくねぇぜ。こんなゴミ塵」
「それは激しく同意です」
「『“禿”散らかすほど“激”しく同意かい?』」
「私は漆黒のメリーさん、チャラ男の横領店員と同じくらい殺意を抱いていることに驚きを隠せないわ」
「『コイツはこういう奴っすよ。もう学校で絡まれ過ぎて最近家出してんすから』」
「何?のっぺらお前家出してんの?そいや、最近夜に見かけねぇたぁ思ったが」
「『そっすよ。姐さんがいつも逃げるんすから学校に俺とコイツ二人だけっすよ?もう耐えられないっす』」
ボロクソに言われているコレは前世でも有名だった都市伝説『赤い紙、青い紙』だ。トイレで紙がない時に「赤い紙が欲しいか?青い紙が欲しいか?」と聞かれ、どっちを答えても殺されるという理不尽な怪異。
それはまぁいい。大体の怪異なんて理不尽なものだ。問題なのはコイツがトイレに流せない程のクソセンスを発揮し、ゴミのダジャレやカスのユーモアを垂れ流すところだ。初めて出会った時のファーストボイスからしてクソ以下のゴミだった。
「『“紙”がない時“神”に祈ると“上”から“紙”の救いがある……ってね!』」
「『ケツを拭けなくてもいいので一発グーで殴らせてくれませんか?』」
トイレで紙がなくて絶望している時、こんなことをトイレの上から言われるのだ。殺意以外のどんな感情を抱けばいいというのか。しかもコイツのユーモアは面倒くさいことに文章化しないと韻を踏んでも意味が伝わらないことが多い。上で言うと……
『かみがない時かみに祈るとかみからかみの救いがある』だ。お腹が痛くて苦しんで苦しんで、そしてトイレの紙がないという絶望を味わってる時にこれを言われてみてほしい。もし人間だったとして殺しても罪にはならないし、コイツは怪異だったので本当に殺しても罪にはならない。殺し得だった。
残念なことにコイツは現代になって新しい怪異として生まれ変わってしまった。コイツは即死性能が高い怪異として名を馳せたが、本人?本紙?は不満だった。なにせ、問うて答えたら死なので自慢(笑)のユーモアを披露できる場がなかったのだ。
だからこう考えた。質問しなければ良いと。
問わなければ答えはない。それを理解したコイツはトイレの個室、紙がない時に現れて、ひたすらにカスのユーモアを披露し続ける害悪と化した。なまじ、こちら側から「はいはい赤い紙赤い紙」や「青い紙だろ死ね」と答えても意味がない。問われてないからだ。
そして怪異特有の理不尽も持ち合わせている。コイツは腐っても『赤い紙、青い紙』だ。問うて、答えたら殺す怪異。逃げる術はないとされている。人間をトイレに閉じ込めることは能力以前の前提条件だった。
つまり、トイレに紙がない時に現れて、トイレに閉じ込めひたすらにカスのユーモアを延々聞かせられるという地獄の怪異。満足したら帰る。たまにカスのユーモアに共感した人間と一緒にクソダジャレを言い合って気に入ったら殺す。仲間として連れてっちゃうらしい。
トイレにも流せないクソの怪異として再誕したコイツは存在する地獄だ。これから先、地獄は場所ではなくコイツ単体を指すことになる。天国もコイツが居るなら地獄になるだろう。そういうことだ。
その証拠としてこの学校には怪異が多いのに学校の怪談が半分もない。花子さんとドグサレ赤い紙青い紙と「っす」口調ののっぺらぼうだけだ。他?カスのユーモアに耐えられず逃げ出した。怪異なのについたあだ名が『学校の怪談クラッシャー』出会う者全てにカスのユーモアを流し込んでくる。
そんな苦しみを毎夜、同じ学校の都市伝説同士ということで延々聞かせられているのっぺらぼうさんには頭が上がらない。俺ならノイローゼになって死んでしまう。
「どうするんですか。また学校の怪談減っちゃいますよ。新規も久しく来てないのにこれ以上流出したらこの地域立ち行かなくなっちゃいますって」
学校の怪談が令和になった今でも無くならない理由の一つに治安維持の側面がある。学校は各地域にほぼ必ずある。つまり、拠点にしやすく子供という噂を広げやすい存在もいる。怖がらせることを生業とする怪異にとってこれほど都合のいい場所はない。人気スポットだ。だからこそ、学校の怪談になった怪異達は自分のポジションを守るために他の怪異を積極的に追い払う。結果、怪異に襲われる人間が減るという寸法だ。
しかし、この地域ではこのドグサレのせいで学校の怪談が少なくなっている。成ろうとする者も居ない。正確には居たには居たがカスのユーモアを流し込まれて耐えきれず逃げた。カス嘘ASMRが流行る昨今において、嘘でもなんでもない純粋なカスのユーモアを垂れ流すコイツに耐えられる怪異はそう居なかった。
「わぁってるよ。だがコイツはウンコ以下のゴミであっても『赤い紙、青い紙』だ。格で言やぁアタシと同じだぞ」
「コイツが?」
「……コイツがだ。なんせコイツは元々夜の便所でケツを撫でる妖怪だったんだぞ。古さで言えばアタシより上。都市伝説と化した今でもコイツは強い。殺傷力で言ったらダントツだ。だからタチがわりぃ。便器に沁みついたシミと一緒だよ。擦っても擦っても落ちねえし色だけは主張してきやがる」
「汚い例えですけどなんとかわかりました。じゃあどうするんですか」
「意地でも殺すしかねぇ……ここで坊に一つ相談がある」
「……なんでしょう?」
花子姐さん……いやトイレの花子さんが居住まいを正した。煙草の火を消し、こちらに向き直り、真剣な面持ち。俺も自然と背筋を伸ばして傾聴した。
「坊、アンタ悪神と縁を結んだそうじゃねぇの」
「……はい。そうですね。辻神という神様とご縁を結びました」
「頼む。コイツを神に殺してもらえねぇか?」
「……掛け合ってみます。確約はできませんが」
「『神様に殺されちゃうの!?俺ちゃんやっさしくておしゃべりが好きなだけの怪異なのに!花子姐さんの横“紙”“破り”で“神”様に“破られちゃう”……ッてコト……!?“ペラペラ”喋ることくらい許してよ!!人だってたまにしか殺してない超絶スーパー優しい怪異なんだよ!?』」
「すみません。これ終わったらすぐに辻神様に取り次いでみます」
「……頼んだ」