ホラー系の世界に転生したのにあまりにも怪異がカラっとしている 作:ない因習村:電車の快速が止まる
次の日になったので投稿です
「『便秘にゃぁ……何も出ねぇにゃあ……』」
「おはようございます」
「おはよう、気持ちがいいけど最悪のアラームね」
「どうしてメリーさんがここに居るんですか?」
目が覚めた。いつもの最悪なアラームによってたたき起こされた俺は此方をのぞき込んでいるメリーさんに心底驚いた。まじまじと見ると本当に人形なんだなとわかる。目が硝子玉みたいな感じなのだ。
「私は神出鬼没のメリーさん。家の中に入る事など造作もないわ」
「許可取りをしてほしいって話なんですけど。普通にビビりました」
「怪異にとっては嬉しいことね。洗濯や掃除は終わってるから朝ごはんを作りなさいな」
「……偏見なんですけどこういうのって朝ごはんも作るもんじゃないんですか?」
「私は恋愛IQ180越えのメリーさん。私にもできない事の一つや二つあるわ。完璧よりも弱みがある女はモテるの。実は料理が苦手よ」
「意外。出来そうなのに」
「だって私、人形ですもの。食べても消化されないし逆に体内が汚されて綺麗にする分手間がかかるわ。食事をするメリットよりもデメリットが勝つから今まで料理はしてこなかったのよ」
「言われてみると納得。そうですよね、人形ですもんね」
「えぇ。……それで一つ頼みがあるのだけれど」
「はい、料理を教えてほしいとかですかね?」
「いいえ、そこはおいおいね。一朝一夕でなんとかなるものでもないし、食事は貴方しか取らない以上料理=貴方に食べてもらう事になるわ。下手なものをお出しすることは私のプライドが許さない。最低限食べれるだけのものを提供できるまで私個人で練習する」
「すごい努力家……ですけど、同棲するならそこらへんも一緒にやっていった方がいいのでは……」
「……本音を言うと恥ずかしいのよ。下手な料理を見せて幻滅されたくないというだけよ。気にしないで」
可愛い。少し顏を火照らせて目を逸らしたメリーさんはそんなことより……!という風に本題を切り出した。
「洗濯機をお借りしても良いかしら。水道代や洗剤分の代金は払うわ」
「制服とかの洗濯ですか?生憎女性の服にはあまり詳しくないので色落ちとかそういうのがあるんだろうなという知識しか……」
「いえ、私の丸洗いよ」
耳を疑った。自分の耳が壊れたのかと思ってもう一度聞いて見た。
「……すみません、もう一度お願いしていいですか?確認のために」
「私の丸洗い……言い換えると私の洗濯よ」
「わたしのまるあらい、わたしのせんたく」
「えぇ、私は人形、メリーさんよ。材質はTPEと布製。本来TPE製のものは柔らかいスポンジとぬるま湯で優しく汚れを落とす必要があるのだけれど、私は怪異。生半可な耐久力はしてないわ。よって丸洗いが可能よ」
聞き間違いじゃなかった。そして想像以上に便利な身体をしているなとも思った。しれ~っとスマホで確認すると普通のラブドールは丸洗いとかできないらしい。破損する恐れがあるんだとか。それはそう。なのにできるんだ、丸洗い。
「丸洗いできるんですか」
「えぇ、お風呂を借りるより貴方の入った残り湯で丸洗いした方が安上がりなので提案しているわ」
「いえ、まぁ……こちらとしては水道代的にありがたいんですが……良いんですか?」
「何が?」
「いやその、心情的に」
「ジェットコースターみたいな感じだから案外楽しいわね」
「あ、結構エンジョイしてらっしゃる。ならどうぞ」
本人が納得しているなら何も言うことはない。じゃあ遠慮なく、そう言ってすたすたと洗濯機のある洗面所の方に歩いて行ったメリーさんを見送りながら俺は思った。
「メリーさん、丸洗いできるんだ……」
ここ最近で一番の出来事かもしれない。
──────────
トーストをかじり終えると洗面所から鼻歌が聞こえてくる。メリーさんお風呂で鼻歌歌うタイプなんだなと思ったが、そうだ、丸洗いされてるんだった。道理でなんか音程が安定しないと思った。回ってるんだもんな。
あぁ、そう。昨夜の顛末についてだが、辻神様に引き渡したカスユーモアは辻神様がバッチィものでも拾ったかのように長い手の人差し指と親指でそぉーっとビニールの袋を摘んだ後、どこかへ持ち去っていってしまった。寛大な心に信仰力が留まる事を知らない。悪神だ何だと言われようときっとあの神様は良い神なんだろう。それはアレを引き取るという覚悟からも容易に伺えると言うものである。
念入りに確認したのだが残念なことに死んでいるかどうかに関してはまだ生きているとのこと。というか、一時的に水で濡らして封印しただけで普通にちょっかい掛けられた程度なんだそうな。しぶと過ぎる……さすが花子姐さんと同格といったところか。でも封印処置するらしいので一先ずは安心だ。
ちょっと気になったので俺は洗面所を覗いてみた。好奇心からだった。
「うわっ、本当に丸洗いされてる」
「ちょっとサイズが小さいから蓋を開けたままで失礼するわ」
メリーさんが真顔でグルングルン、右回り右回り、左回りと回ってる光景を見せられている俺は一体どうすればいいというのか。見たのは俺だがなんとなく交通事故の被害者の気分。ご丁寧に身体をぎゅっと縮こませて体育座りで回っている。中古で買った古い洗濯機だからよかったものの、多分現代の最新式洗濯機だったらこうはいかなかっただろう。
「なんというか……猟奇的ですね」
考えても見てほしい。人が体育座りで顔だけ出して丸洗いされている様相を。死体を洗浄してる途中かな?という誤解を受けても致し方ない。俺は言い訳する理由を持たないし、警察に捕まる自信しかない。
「ありがとう。怪異としては誉め言葉ね」
「多分別ベクトルのホラーだと思うんですが」
サスペンスとかソッチ方面の。メリーさんがグルングルンと回りながら平然と会話する現実に耐えきれなくなった俺は溜まらず提案した。精神衛生的に絵面がキツイ。
「お風呂入りましょう?いいですよ、お風呂使っても。そちらの方が洗いやすいですし良いじゃないですか」
「いいえ。私はメリーさん。何処までいっても人形よ。人形にとって湿気とカビは天敵。怪異として耐久力が上がっているとしても、貴方はカビが生えた私とそういうことをしたいかしら?」
「ごめんなさい。ナマ言ってすみませんでした。……せめて、せめて事前に伝えることと俺が居ない時にお願いします。真夜中洗われてる姿を見たら俺絶叫する自信しかないので」
うん、生々しい話だがカビはノーセンキューだ。だが俺の精神的な負担も分かってほしい。そのことを伝えるといくらか思考した後、うんうんと頷いていた。XZ軸の全方向に納得の意を表してる……。
「怪異としては驚かれることは非常に嬉しいことなのだけれど家主の意向を尊重するわ。事前通告と早朝、深夜、貴方が居ない時間に済ませておくことを約束する」
「えぇ、よろしくお願いします」
「この際だから同棲をしていく上でのいくつかのルールの草案を決めておきましょう。まだ学校までの時間はあるわね?」
「そ……うですね。まだ時間あります」
「なら洗い終わったら契約書類を用意するわ。学校の支度が終わったらリビングで待っていて」
「わかりました……あぁ、えっと」
「……ん?何かしら。まだ何か聞きたいことが?」
「いえ、その一応同棲するらしいので」
俺は背筋を伸ばしてお辞儀した。
「よ、よろしくお願い致します?」
「えぇ、よろしくお願いするわ」
洗濯機でグルングルンと回されているのでXZ軸全方向にお辞儀したメリーさんは律儀にそう返すのだった。絵面が締まらねぇ……。