ホラー系の世界に転生したのにあまりにも怪異がカラっとしている 作:ない因習村:バイトの時給が平均1800円
「オカ研〜ッ!」
『ファイッ、オッ!ファイッ、オッ!ファイッ、オッ!』
「オカ研〜ッ!」
『ファイッ、オッ!ファイッ、オッ!ファイッ、オッ!』
「今日もオカ研は精が出るなぁ」
学校に近づくとオカ研の快活な掛け声が聞こえてくる。
オカルト研究部、略してオカ研は朝練放課後錬を欠かさず毎日やっている熱心な部活だ。その驚異的なフィジカルは、学校の外に出る許可までもらい、この街を一周するレベルにまで足を伸ばしている。
「オカルト研究部なのよね?」
「えぇ、オカルト研究部ですよ」
剥き出しの太ももが太ましく眩しいオカ研に会釈して見送りつつ、乾燥機でしっかり乾燥されたメリーさんと一緒に通学している。微かに香る知らない柔軟剤の匂い……というか柔軟剤使うんですね。なんでしたっけ?なんか……材質的に大丈夫なんですか?
「いい匂いでしょ?持ち込んだ柔軟剤よ。私は丸洗いできるし、服を脱ぐ手間があるから基本服ごと洗った方が早いわ。材質の問題は怪異の力でカバーできるもの」
「怪異パワー便利ですね」
「一番便利に感じたのは体型変化ね。服飾関係の人間としてトルソー……マネキンいらずなのはとても嬉しかったわ。女児用服からマダムの落ち着いた女性服まで。綺麗に見せたいモデルからおしゃれをしたい妊婦さんまで、需要を満たすために知識ではなく経験として知っておかないといけない。例えばお腹を締め付ける服はモデルに良くても妊婦さんに良くないわ。女児服と言っても動きを阻害するようでは子供の生活範囲に合わなくなる。そうしたこまごまとした問題を体験として理解できたのは僥倖よ」
「すごい、出来るビジネスウーマンのメリーさんだ。というか怪異の力フルに使ってますけど会社とかに迷惑掛かったりしないんですか?」
「えぇ、会社も怪異がやっているもの」
「怪異が会社をやる世界……?」
とも思ったがそういえば雨女さんは普通にセパタクロー部のブラックITエンジニアだったし、知り合いのいくつかも普通に仕事してましたね。じゃあ普通か。
「服飾関係及び繊維、プロモーション事業の株式会社『一反コットン』よ」
「一旦……コットン?」
「言っておくと一時しのぎの方ではないわよ?コットンは翻訳で木綿ね。通しで読んでみなさい」
「一旦、木綿。あ、一反木綿。すごい、誰が社長か一発でわかるし何も隠してない」
一反木綿が社長なのかぁ……。
「社長は繊維のプロよ」
「そりゃあ繊維ですもんね」
繊維のプロっていうか本人じゃん。繊維そのものじゃん。
「会社の経営理念は『一旦を御洒落に』」
「ちょっと名前のギャグ拾うのずるくないですか?」
「服は成長するにつれて代替わり、つまり一時しのぎのものでしかないのよ。一生着れる服なんて存在しない。だからこそ、たとえ成長が早い赤ちゃんの服であっても、老い先短いおばあさんであっても、御洒落に妥協しないという意味があるわ」
「タイトルに反して内容がガチ」
「あと、急遽スーツや服が必要になったとき、安く手早く用意できるようにという意味もあるわ。たとえ1時間後にスーツが必要であっても用意できるのがウリよ」
「企業戦士大歓喜ですね」
前世社会人だったので急な時のスーツは本当にありがたい。というかクリーニングに出したのに急な案件で必要になったときとか本当にキツかったりするし。何着か持てって話だけどそういう時に限って着慣れてなくて硬かったり、サイズ合わなくてつんつるてんなんだよな。
「そこは怪異も人も普通に仕事してるわ。怪異も所属してるから契約する時守秘義務とかが多いし、ちょっと呪いの儀式する必要あるのだけれど」
「あ、そこはちゃんと怪異なんですね」
「えぇ、一人かくれんぼで霊を一体憑かせることが目的よ。監視兼怪異との連絡手段ね」
「ちゃんと怖い目的だった……」
「外に怪異がいるなんてバレたら面倒よ。怪異企業界隈で有名なのだけれど、怪異が関わった企業が海外展開で社員を除霊されて事業頓挫&国際問題になった話する?」
「面白すぎるけど企業としてはシャレにならないですね……」
そうですよね。怪異なら除霊で消えちゃいますよね。日本でもワンチャン害あったら除霊されるから必要か……。
「えぇ。葬式でお坊さんが唱えた念仏で参列者の8割が成仏しかけた事件は失敗談として語り草になっているわ」
「何もかも間違ってるのに何もかも面白いのずるくないですか?ギリ辿り着いて欲しかったな……成仏」
「じゃあ貴方は故人を偲ぶ葬式で自分が死ぬかもしれないと考えたことあるのかしら?」
「グーの音も出ない正論」
ないけど……ないけれども……!アンタ等怪異じゃんか。怪異が念仏聞いたらそりゃあ成仏というかダメージ受けるでしょ。というか怪異が故人を偲ぶのもなんだよ。死んでるじゃん。死んでる奴もいるじゃん。二度死んでるんか?怪異は二度死ぬんかよ。
「えと、無事だったんですか?」
「何名か持ってかれてその場で合同葬式になったわ」
「この世は狂ってる」
「その後、念仏を唱えたお坊さんを訴える裁判を起こしたけれど、裁判官から『僧侶は依頼を受けて念仏を唱えただけでそれが人ならざる者を払ってしまう認識はなく、寧ろ人ならざる者を偲ぶためのものである。本罪は故人を偲ぶために行ったものであって他者を害する行動及び目的があったわけではないとして違法性を欠き、犯罪の成立に当たらない』として無罪になっているわ」
ズルイな、怪異業界。話題全部面白いのがずるい。お坊さん訴えちゃうんだ。そして内容が全部正論。お坊さんもとばっちり過ぎるでしょ。葬式で念仏唱えたら人殺し……怪異殺しになっちゃったの。
じゃあ本業じゃん。
「そんなこともあるから契約は大事よ。本当に」
「そりゃあ大事ですよね。でも良く受け入れますね。社員の方」
「まぁそこらへんはおおらかな人を採用基準にしているし、結構図太い方が多いのよ。一人かくれんぼで憑いた霊に身体貸してる人も居るし」
「それ人体的に大丈夫なんですか?」
「ダメよ」
「ダメでしたか……」
「『アタシは実存として“私”だからたとえ俺の中身が変わったとしても“僕”だろう』と言っていたわ」
「すごい、一人称が一定じゃないあたり本当に駄目そう」
「『哲学的ゾンビやスワンプマンと霊に身体を貸すの。一体どちらが非人間的?寧ろ元が人間である分、主観がない哲学的ゾンビや材料が泥のスワンプマンと違っていたって人間的』と言っていたわ」
「哲学の行きつく先だけどそれで割り切れるのは非人間的ですね」
「怪異よりも人間の方が本質的にはよっぽど怖いものよ」
「多分怖いのベクトルが違うと思います」