ホラー系の世界に転生したのにあまりにも怪異がカラっとしている 作:ない因習村:道路が三車線
おでかけして書く時間がない時に限っていっぱいアイデアが思い浮かぶので投稿です。
『それじゃあ職員室で先生と話してくるわね』
メリーさんは一応転校生の枠なので職員室に行く必要があるらしい。別れて教室に着くと花瓶が俺のところに置かれていた。いじめと思われるがそうではない。れっきとした怪異の一体である。
「おはよー、今日のデイリー花瓶?」
「おはよ。そうだよ、今日のデイリー花瓶。頑張れ~」
「あーい」
先に来ていた同級生に問えばそう返ってくる。マジか、面倒臭いな……。
デイリー花瓶もとい花瓶当番と呼ばれるソレは、この学校の“昼から夕方まで”のみに現れる花瓶の怪異の対処当番だ。元々、いじめを受けた子が自分の机に花瓶を置かれてショックで自殺し、幽霊として花瓶に宿ったというもので、机に花瓶が置いてある状態で放課後を迎えると連れ去られるらしい。対処方法は空き教室にランダムで現れるいじめられた子が使っていた落書きされた机を綺麗にして最後に花瓶を割る事。これを放課後までに熟さなければならない。
これが花瓶当番の仕事だ。
クラス、学年を跨いで発生する為、当日にならないと誰が当番かわからないし、休んだ人の机にも現れるので結構大変だったりする。休んだ人の時どうするんだって?休んだ人を無理やり学校に来させてやらせるのだ。ちなみに判定がガバガバなので先生が高熱でぐったりしている当番の子の手を上から掴んで掃除させてもOKだったりする。
とりあえず花瓶を横に置いて、朝の準備をする。今日は体育に美術と移動が多いので何とか昼休み中に終わらせないとな。そんなことを思っていたらホームルームが始まった。
「おはよう~。死んでる奴居るか~?」
「死にかけたヤツが二人いるけど五体満足です~」
「オッ、珍しい。五体揃ってんのか。なら大丈夫だな。朝のHR始めるぞ~」
ガラッと先生が入ってくる。先生は犬で、顔だけ人間。そう、ウチのクラスの担任は人面犬なのである。犬種はトイプードル。周りの人にはカッコいいよりも可愛い寄りの男性教師に見えるらしい。何故神は俺に霊的才能というものを授けたのか。
真面目な顔で人面犬が教師をする絵面に毎回耐えなきゃいけない俺は何をしたというのか。誰を訴えればいいんだと苦悩した時期もあったが今では慣れたものだ。
「今日は急な話だがサプライズがある。転校生だ。紹介しよう。メリーさんだ」
紹介され入ってきたのはメリーさんだ。やはり眉目秀麗で美しい。読モをやっているだけある。可愛いより綺麗的な容姿に薄っすらとナチュラルメイクがされている。ウチの学校は校則があってないも同然なのでメイクはOKだ。そんな中、濃いメイクではなくあえてナチュラルメイクに抑えるあたり素材の良さを生かすという方向なのだろう。
朝めっちゃ話されたもん。可愛さアピールに余念がないのはアピールの為なのかはたまた服飾関係故なのか……。
そんなことよりメリーさん。カッカッカと自然と背筋が伸びるような足音共に黒板にサッと「メリー」と書く。
「私はメリーさん。仕事と私事で最近こちらに引っ越してきたメリーよ。苗字はあえて言わないわ。好きな人からもらうつもりだから。趣味は裁縫、服飾関係で働いているけれど学業は疎かにしないつもりよ。読モもしているからファッションやメイクで困ったことがあるなら相談しなさい。紹介は以上よ。何か質問あるかしら?」
圧倒的カリスマ感を兼ね備えた自己紹介は瞬く間に女子の興味と感心を搔っ攫っていった。すごい勢いで手を上げ始めた女子たちの質問に次々と答えていく。
「読モしてるんですか!?」
「えぇ、専属モデルとして雇われているわ。株式会社『一反コットン』のホームページから飛べる所属モデル一覧のトップを飾らせてもらっているわ」
「好きな人が居るんですか!?」
「居るわ。このクラスの中に。その人の苗字を貰うつもりよ。今は同棲しているわ」
「同棲!?」
「えぇ。私は恋愛マスターのメリーさん。狙った獲物は逃がさないわ」
「どんなところに惚れたんですか!?」
「いいえ。腫れた惚れたではないの。私は長い目で見ることができるメリーさん。生活を共にして苦にならないか、会話のテンポ感、そうした同棲における問題を解決できるかどうかを基準にしているわ。」
でも
少し夢のない発言にしらけそうになる空気を切り裂くようにメリーさんは続けた。
「私は相手を好きになるよりも相手の好きになりたいのよ。追う女より追われる女。それに好みに関してはこれから好きになっていけばいいわ。私は恋がしたいんじゃない。恋を実らせたいのよ。だって、恋する乙女は美しいというでしょう?ならずっと恋する乙女で居たい、それを人は恋ではなく愛と呼ぶ……そうでしょう?」
だからこそ、相手が好きかどうかより、相手との共同生活が長く続くかどうかを基準にしている。一緒に暮らしていれば相手の嫌な部分に否が応でも目に着いてしまうから。それで恋を冷ますよりもじっくり熱い恋をしていたいのだと。
演説するように語ったメリーさんの言葉はクラスの女子の心をがっちりとつかみ、一気にカーストトップに上り詰めた。わぁっと沸いた女子達をよそに、俺を見つめて爆弾を投下する。
「そう、貴方のことよ。私は貴方を好きになる。そして、貴方の好きになる。本気だから今此処で宣言しておくわ」
ギラついた女子の視線と男子の嫉妬混じりの視線に顔を引きつらせながら、俺は何とか頷くのだった。メリーさんが恋愛強者過ぎる……。
──────────
女子の執念深く熱狂とも言える圧力を伴って行われた拷問もとい質問攻めに疲弊しきった俺に狼男の
「お前メリーさんと付き合ってんの?」
「違うハズなんですけどね。告白?はされましたけど友達から始めましょうって確かに言ったハズなんですよ」
「おん」
「というか昨日の夜初めて会ったんですよ。で、告白されて友達からで~って言ったんですよ」
「おん」
「朝目が覚めたら居たんですよ。部屋の中に」
「おん」
「いつの間にか同棲することになってたんですよ」
「おん」
「そして今です」
「おーん……恋愛RTAでもやってる?」
「やってないですね」
狼にどういうことだと聞かれたので一から十まで説明したけど話がスピーディー過ぎて納得できないらしい。大丈夫、俺も納得できていない。
「えっ?同棲はマジでいいの?」
「いや、だって相手がメリーさんじゃないですか。断ったら殺されそうじゃないですか。断る権利あります?」
「ない……か。うん、ドンマイ」
「友人がこんな目に遭っているのに……」
「いや、俺にどうしろと?てか同棲しなくてもあのメリーさんなら勝てねぇだろ。諦めて結婚しろよ」
「まだ結婚できる年齢じゃないです」
「来年結婚できるじゃんか」
「来年結婚できたとしてもです」
俺達は高校二年生で来年は三年生。このままいけば高三にして結婚することになる。学生結婚だ。ちょっと醜聞として酷すぎない?いやでもあんだけ宣言されたらどうしようもないのか?
「なぁ狼、俺はどうすればいいんですかね?」
「据え膳」
「据えようと思って据えられてないんですよ。膳を頭に叩きつけられて据え膳って言われてる気分です」
もしくは布団で寝ていたら枕の代わりに膳を引かれたような。
「でもお前逃げ場なくね?同棲もしてる。告白もされて実質受け入れている。ラブコメの8割飛ばして終盤戦じゃん」
「2割を伸ばしていきましょう。3クールくらい」
「いい加減くっつけって炎上するぞ」
「心の準備が出来ていないんですよ」
「相手はもう心の準備飛ばしてウェディングドレスでケーキ入刀のデカイナイフ持って歩いてるようなもんだけどな」
「助けてください」
「逆に俺にどうしてほしいんだよ。当人同士の問題にしても介入できる余地ないじゃん。普通のカップルでさえ喧嘩とかするはずなのに、お前等性格が合うから喧嘩のしようもないじゃん」
「昨日、普通に『居そうで居るわけない海外俳優を言って一番それらしいものを言った方が優勝』ゲームで盛り上がりましたね」
「結婚して倦怠期乗り越えて一生共にする夫婦の暇つぶし過ぎるだろ」
それでも……!と俺が言い募るもののいい加減諦めろと言われてしまった俺は肩を落とすのだった。ちなみに優勝はメリーさんの『片玉がデカい』だった。普通に下ネタも言うんだなと思ったけど、それ以上にソレはハムスターのヤツと二人で爆笑していた。楽しかった。