ホラー系の世界に転生したのにあまりにも怪異がカラっとしている 作:ない因習村:カラオケに最新機種がある
「こんなもの芸術じゃないッ!ダッシャラー!」
「勢いのある割り方、10点満点ね」
パリーンと綺麗な音を立てて割れた花瓶に厚めの布を敷いて粉々に踏み砕く。音が楽しいので二人でタップダンスして踊っていると空き教室の扉ががらりと開いた。
「メリーさん、少し学校の手続き面でお話があるのでよろしいですか?」
頭をブラシでトントンしている教頭先生に話しかけられた。メリーさんも同伴して花瓶当番の最中だったが丁度終わったところなので大丈夫だろう。
「えぇ大丈夫です。彼も連れて行ってよろしいでしょうか?」
「大丈夫ですよ。それなら住所の件も合わせてお話するとしましょう」
そう言って不毛の土地を頭に抱えながら、なおも植林を欠かさない教頭先生と一緒に応接室に向かうのだった。
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「同棲ですか」
ブラシで延々と頭をトントンする教頭先生からの話はシンプルで、提出書類に少し不備があったが書き足すだけなのにすぐに修正して欲しい旨だった。住所欄が空白だったらしい。それはそう。メリーさんには今まで住所がなかったので空欄でもしょうがないのだが、学校側としては問題だった。
しょうがないがいつの間にか同棲することになったので俺の住所を書かれる。それを横目にブラシトントンの教頭先生が言った。
「校則としては不純異性交遊の類を禁止するものはありません。一応『節度を保ちましょう』とは書いてありますがとやかく言うつもりもないでしょう。それを言うなら怪異側の方が何かとトラブルを起こしますからね。そちらの対処で大変ですからそこまで縛るつもりはありません」
ですが
「同じ立場の者として念のため聞いておきます。同棲は無理やり強要されていたりしませんか?」
「あー、まぁなし崩し的に認めましたし、いきなり朝同棲すると言われてびっくりしていますが、気も合いますし同棲の問題ごとは追々起きた時解決していけばいいので大丈夫です。心配かけてすみません」
「いえ、いえ。それなら大丈夫です。いらぬ心配でしたね」
ブラトン(ブラシトントンの意)教頭先生はとてもいい先生だ。人格者で生徒思いの優しい先生である。ただ一つ、いや二つほど問題があるとすれば、禿なことと地味なことだ。
一つ目、禿なことは、いや当人のデリケートな問題なんだから致し方ないだろと思われるかもしれない。だが、それとはまた違う生まれ的なものだからだ。
今も念入りに毛根の救急をしている教頭先生、またの名をぬらりひょん。いつの間にか家の中に入り込んで勝手に居座る妖怪のことだ。ぬらりひょんを頭に思い浮かべると大体禿げているものである。そう、妖怪のサガとして禿なのだ。だが、それに納得のいっていない教頭先生は現代で育毛に執着する化け物になってしまった。
育毛剤を常に持ち歩き、日がな一日頭皮を刺激する為にブラシでトントンし続けている。アデ〇ンスもとい植毛にも手を伸ばし、化学系、とりわけ頭髪関係の企業への投資額は莫大で筆頭株主にもなっている。髪にすさまじい執着を見せるある意味怪異なのだ。
だがしかし、ぬらりひょんだ。毛根は生まれた時から死んでいる。水子毛根だ。いや?毛根の遺児?まぁ兎角、白骨死体に人工呼吸と心肺蘇生をしている構図は見る者に何とも言えない物悲しさを感じさせる。残念なことに死後云年が経過している白骨死体はもう散骨するしかないのだ。
教頭先生の頭皮は磨かれた鏡面のように輝き、そして毛根一つないほど閉じていた。育毛専門の医師をして『植える隙間がない』と言わしめた頭は今日も第二の月(太陽の光を反射するので)として俺の中で語り継がれている。
そんな一日中、何処へ行ってもブラシで頭皮を刺激している先生が目立たないハズないと思われるかもしれないがこれが二つ目、地味なことに関わってくる。
地味なこと。これは教頭先生特有のものかもしれないが、あまり生徒の前に出ないからか顔を覚えづらく、名前もあまり覚えてもらえないことが多い。だが此処の教頭先生はそもそも認識されづらいという特性を持っている。
そう、ぬらりひょんの力だ。
教頭先生はぬらりひょん。いつの間にか家の中に入り込んで勝手に居座る妖怪であり、妖怪の特性として認識されづらくそもそもいても普通に思ってしまうというものがある。+α教頭という職業故の隠密性能も加わって驚異的なステルス性能を持っているのである。
よって常に頭皮を刺激し続ける髪に憑りつかれた化け物であっても、地味で目立たないのだ。まぁそれだけで普通に優しい人なのだが。
行動に反して致命的なほど話題にされない教頭先生だが、何故だか担任や隣人の正体が見えてしまう俺にとってはツッコミたいが突っ込めないものとして頭を悩ませている。
いや、ツッコミたいんだよ。いつまでやってるんですか?とか、何年続けてるんですか?とか。それなのに誰も話題にしないし、本人もそれが普通だと思ってるからツッコめない。それにプライベートというかデリケートな話題なので突っ込めないのもある。
俺にとっては拷問のような話を終えて、一先ず、俺とメリーさんは正式に同棲することになった。色んな意味で逃げ場がない。
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「『快便にゃ!』」
廊下に響き渡るほどのウンチ報告を頭から追い出しながらメリーさんに今日の予定を告げる。
「オカ研に寄りましょうか」
少しばかり用がね。無事、デイリー花瓶に連れ去られることはなかったので放課後、メリーさんと一緒にオカルト研究部の部室に向かう。
「あのオカルト研究部というにはあまりにも運動系の?」
「あまりにも運動系のオカ研です。この学校には怪異が多いんですがオカ研はそのほぼすべてを網羅しています。メリーさんも研究対象なので先に突っ込まれるよりこちらから話に行ってあげた方が結果的に早いんですよ」
オカルト研究部は運動だけじゃない。というか運動はあくまでオカルトに対抗するための身体づくりでついでなのだ。本来の目的、オカルト研究がメインであり熱心に活動している。なので、新しく入ってきた怪異のメリーさんは絶好の研究対象だろう。オカルトの為なら禁則地とされている場所にも行ってしまう熱量があるので自分から言って適度に話しておいた方が精神衛生上良いのだ。
俺も怪異じゃないのに何でか研究されたし、自宅にも突っ込まれた。猫又さんをスケープゴートにしたがなんで俺も?怪異じゃないんだけどなぁ。
「なるほど、まぁ面倒な手合いなら私が殺してあげるから安心してちょうだい」
「いえ、大丈夫です。というか死ぬかなぁ……」
「それは私の実力を疑ってるという事かしら?私の実績は82%よ」
「すごい、2割失敗してるリアルな数字だ。いやこの世界で8割殺し切れてるなら全然好成績か……?」
いやそうじゃないんですよ。俺はオカ研について話した。
「オカ研の人達ってなんかイカれてる人達が多いんですよ」
逆に言えばイカれた人達しか生き残らなかったというべきか。
例を挙げよう。まず素手で熊と対等に渡り合える部長、出会ったら死ぬというドッペルゲンガーに対して『本当に貴女は私であるのかディベートしましょう』と言って最終的に言論で勝利し違う人認定された副部長、神社生まれなのに本人の信仰する宗教が仏教なので実家の神様が物凄い複雑な顔をしている巫女部員、数多の怪異に出会っているのになぜか生き残っている自称普通陰キャの新人部員。この4人で活動している。
部長は見た目がぱっと見熊で、守護霊も熊で前世も熊らしい。占った人がたまたま人間に生まれて来ただけの熊と言っていた。好きなものは意外にも肉。シャケじゃないんだと言ったら『前世で散々食った気がする』と言っていた。飽きるわそりゃ。それでも肉食なあたり雑食性の熊なのに前世肉ばっか食ってる気がする。
続いて副部長。圧倒的な文系少女。眼鏡をかけた真面目少女なのだが怪異に対して一歩も引かない胆力を持ち、ドッペルゲンガーを言葉責めして『もう私は
ちょっとデリケートな巫女部員。神社生まれ神社育ちの信仰:仏教という中々に反骨精神のある人だ。同級生であり、話を聞いたところ『いや、神社生まれとして神様の色々そういうこと知ってるから信じようとか思えないなって。巫女?仕事でしてるけどさ。まぁ心内はさ。信教の自由だよね』と言っていた。話の内容が実態を知る経験者のソレ過ぎる。
最後に新人部員。一年生で入って来た子なのだが、メカクレで猫背の自称普通の陰キャだ。普通の陰キャですよと言っているが、あのカスユーモアのトイレ閉じ込めになんなく対処し、逆に撃退せしめたという物凄い実績を持つ。他にも怪異撃退の話に事欠かなく、ベテラン幼女パイセンの同類である。
そして全員もれなくムッキムキである。部長は熊だし、副部長は見た目だけなら女性ボディビルダーでもやっていけそうなほど引き締まっている。眼鏡をかけ地味めの服装で隠しているが、隠し切れないフィジカルの高さが腕一つとってもハッキリわかるのだ。巫女部員さんは特に足が輝かしいし、新人部員くんは隠れ細マッチョといった感じである。
「今他の女の身体のこと考えたわね。殺すわ」
「勘弁してください。兎角アクの強い人ばっかなんですから。行っておきましょうよ」
「……しょうがないわね。終わったらなにか埋め合わせを所望するわ」
「じゃあお気に入りのカフェがあるのでそこでコーヒーを……飲食必要ないんでしたね。すみません」
「別に味覚はあるのだから気にしなくていいわ。なんなら貴方のコーヒーを私が口移しで飲ませても良いわよ」
「本当に勘弁してください。読モやってるなら割とスキャンダルでしょう?」
「だって飲めないのに注文するのは非合理的でしょう?」
「味わうだけならせめて間接キスでお願いします」
「言質は取れたわ。カップの縁を舐り回すから覚悟しなさい」
「本当にこの人強いなぁ……」