ホラー系の世界に転生したのにあまりにも怪異がカラっとしている 作:ない因習村:賃貸の家賃が平均12万
「グルルッ、グァッ」
「部長、人語忘れてます」
「……、グァゥ、ウアァ、あぁ……アー……あ、アぁー。あイうエお。あかサたな。……すまん」
開口一番、熊語を話し始めたオカ研の部長とそれに突っ込む副部長。中々にインパクトある初邂逅にさすがのメリーさんも言葉に窮した。かの有名なメリーさんを慕うメリーさんでさえ熊語で話しかけられたことはないらしい。大丈夫、俺もない。
人語に戻すのに苦労した部長は一先ず非礼を謝罪した。
元が熊さんなのでしょうがないところもある。急に話しかけた俺達も悪いところはあるだろう。前提が熊なので一度の非礼で必殺の熊パンチが飛んでくる可能性も否定できないからだ。恐る恐る、目の前で手を振り大丈夫なことを確認した俺は改めてメリーさんにお二方を紹介した。
「見て、部長副部長。メリーさんよ。見て、メリーさん、部長副部長よ」
「……どうも」
「雑に紹介されたけど、オカルト研究部の副部長をしています。轟です。どうぞよろしくお願い致します」
「よろしく。私はメリー。苗字は彼からもらうのでないわね。怪異、それも都市伝説で有名なメリーさん、その一人よ。彼とは同棲相手兼将来の旦那ね」
「……今は彼女か」
「あら、おめでとうございます」
「待ってください」
飾られている遺影を磨き始めた部長副部長がサラッと流す。待って、待ってください。一先ず亡き先代の部員たちの遺影を置いてください。今でも生きてる人居るでしょう?あと一部は死んでも怪異としてまだ居るじゃないですか。飾る意味。
「人間的には死んでるんですから遺影は必要でしょう?」
「……死んだことにしなければこの学校との縁が切れないからな。オカルト研究部は怪異に関わり過ぎている。もしオカ研のOBであると知られれば、いつ寝首を掻かれるかわからない。その為の遺影だ」
「もうちょっとこっちの事情に興味を持ってほしいです」
「大丈夫、私が興味を持っているわ。というかメリーさん以外の興味関心は必要かしら?」
誰か俺を助けてくれ。将棋の藤〇名人でさえもう少し時間かけて詰みにさせてくるのに対面に座った時点で『詰みです』って言われた気分だ。外堀を埋めるとかそういう次元じゃない。ワンターンキル?
皆そんなに興味ない?てかマジで興味あるのメリーさんだけなの?俺の、俺って……一体……?
軽く絶望する俺を華麗にスルーした副部長はメリーさんの聞き取り調査を開始してしまい、蚊帳の外の俺はしくしくと泣いた。部長?部長は熊さんだから聞き取り調査なんて出来るわけがない。そもそも熊さんが人語を話せているだけですごいのだ。喋れる熊はこの世に部長とプ〇さんしか居ない為喋れるだけ表彰ものである。
はぁ、マジムリ暇だから蝉の鳴き真似の練習してよ……
「先ほど言っていたメリーさんその一人について。メリーさんは複数人居るの?」
「えぇ。元々私達は人形が恨みを持つことで生まれる怪異。その中でとりわけ有名になったメリーさんを倣っているのよ」
「都市伝説のメリーさんですか。具体的にどのような点で倣うに値すると考えるか教えていただいてもよろしいでしょうか」
「ミーンミンミンミンミーンミンミンミミン……」
「まずその手口、殺害の流れね。捨てた相手に対して電話をかけ、逐一位置情報を教えることで近づいてきているという恐怖と捨ててしまったという行動への罪悪感を考えさせる手口は特に素晴らしいわ」
捨てた人形が直ぐに殺しに来てしまったら瞬間的な恐怖は大きいけれど総量としてはそこまでになる。そこで恐怖をじっくりと感じさせつつ、自業自得であるという罪の意識を植え付けて、自身を責めさせることで恐怖の質を上げる手腕は稀代の人形怪異なのだと。
そう熱く語るメリーさんは本当に尊敬しているんだなといった具合だった。そう言われると本当に計画的というか、用意周到なやり方だなと思う。
「ジジッ、シュワシュワシュワシュワ……」
「……巧いな。コツはあるのか?」
「なるほど。他にどのような点で尊敬しているのでしょうか?」
「そうね。まず私達は人形で基本的に物を持つのはそれなりに大変であるという前提を理解して。伝説のメリーさんは捨てられてすぐナイフを持って電話をかけ殺しに行ったわ。つまり、怪異として生まれてすぐにナイフや携帯を持てるほど怪異としての力や才能が強いのよ」
「……そうですね。そうですよね。普通、オカルトや怪談というのは古いものほど強い傾向があります。古いとは言い換えると今現在でも話されるほど存在が伝わっているということでその分力も強くなる。逆に言えば生まれたばかりの怪異はそこまで強くないハズ……それなのに物体に干渉できる力を持っているのはすごい」
「蝉の鳴き真似にコツらしいコツなんてあるわけないじゃないですか。練習あるのみですよ」
「えぇそうよ。そこがすごいところなの。そして生まれたばかりだというのに天才的なナイフ捌き。初殺人を失敗することなく成功させた点も合わせて有名になったのよ。だから私達恨みを持った人形はメリーさんを尊敬し、畏敬の念とその伝説的所業を伝えていくため、メリーさんと名乗っているのよ」
「怪異が同じ怪異を伝承させるというオカルトを強める事をしているのが民俗学的に珍しいです。興味深いお話ありがとうございます」
「つくつくぼーし、つ、つくつく、ツクツクボウシ」
「……下手だな」
「練習中なんですよ。ツクツクボウシの鳴き声難しくて……」
「いえ、私もメリーさんのことを話せて満足よ。私達にとってスターみたいなものなの。だからこそ、名乗る上で殺さなければいけない相手は必ず殺さないといけない。つまり、捨てた相手を必ず殺す誓いでもあるのよ。メリーさんを名乗るからには捨てた相手を必ず殺しますというね」
「なるほど、一種の宗教……いえ、この場合西洋のゲッシュ、誓約みたいなものでしょうか。それでどのような利点があるのかについて伺ってもよろしいでしょうか?」
「そうね。自身をメリーさんとして定義するのだけれど、メリーさん的な行動はとりやすくなるわ。ナイフは手に馴染むし電話を掛ける為の携帯端末が手に入れやすくなる。その代わり、必ず捨てた相手を殺す必要があるから、控えめ恨みを持つ人形はメリーさんを名乗らず、普通に人形の怪異として動いたりするわね。捨てた相手に憑りついて嫌がらせしたりとか、あとは殺すよりも長く苦しめたい人形も名乗らないわ」
「……こうか?しわしわしわしわ」
「定義づけによる存在の確立……レッテル貼りによる自己の強化と書くとなんだか狩人×狩人の制約と誓約みたいなものですね」
「怪異は得てしてそういうものよ。恐怖を糧に存在しているから恐怖がより明確なほど力としては強くなる。逆に曖昧な話なのに残っている怪異はそれだけ危険よ。曖昧なのに強い力を持っているということは生まれが特殊であったり、神様が零落した存在かもしれないから」
「もっとこう……舌を震わせるようにですね」
「……こうか?シワシワシワシワ」
「惜しい。もう少し上唇を左右に震わせる感じで」
「興味深いお話、ありがとうございました。……そして外野の貴方達、うるさいです。あと部長、蝉の鳴き真似やめてください」
「あ、すみません」
「……すまん」
実践蝉講座をしていたら怒られてしまった。そんな……唯一の俺の特技を否定されたらもう俺に残るものはないじゃないか。シクシクと世の無常を儚んでいたら熊さんにポンポンと背中を叩かれた。
優しい熊さん……思わずキュンとして、二度叩かれたその瞬間多段衝撃破のような勢いでギュンとなった。
そのたくましい剛腕は人間の枠に収まらないほどミッチミチに筋肉が詰まっており、端的に言うと本人的に軽めで叩いたはずなのに思いっきし吹っ飛ばされたのだ。
悲しきバケモノのソレを遺憾なく発揮した部長は自らの制御できないパワーに絶望して体を丸め、冬眠の態勢に入るのを尻目に、副部長とメリーさんによって机に埋もれた俺は救出されるのだった。
「生きているかしら?」
「ギリ生きてるっぽいですね」
「もう少し……労わってほしい」
「それなら労わる為にお持ち帰りするわね」
優しさを求める俺をメリーさんは米俵を担ぐように抱え込むと用は済んだと言わんばかりにそのままお持ち帰りされた。
後ろから聞こえる副部長の『出荷よー』という言葉は聞かなかったことにする。誰がドナドナだ。
とりあえず……
熊さんには不用意に近づかないようにしよう(n敗)