ホラー系の世界に転生したのにあまりにも怪異がカラっとしている 作:ない因習村:図書館に呪い本コーナーがある
追記:()はわかりやすさの為で読まない体でお願いします
「トイレ(概念)ってどこだと思う?」
「そこの突き当りを左に曲がった奥の部屋ですね。右手側が女子トイレで左手が男子です」
「違ェよ。今の話の流れでトイレ(場所)聞いてどうすんだよ。てかトイレ(概念)なら今お前等がトイレ(場所)じゃねぇかよ」
真っ向からお前達はトイレって言われると中々にクるものがあるな。どの時代でも訴えられたら勝てるぞ今の発言。
「え、トイレ(概念)じゃないんですか?」
「トイレ(場所)だけどトイレ(概念)的には違う。いや違ぇな、えーっと、そう、トイレの定義だよ」
「トイレじゃないんですか?」
「そうだけどそうじゃねえ!」
台パンはやめてください!まぁ少し狙ったところはあるけれども……!
慌てて花子姐さんの手を掴んで止めるとはぁーっと長めのため息を吐いてから心底面倒くさそうに言った。
「トイレっつーのは便器があって洗面台がある場所か?違うね。洗面台ないとこもあるし、海の外の奴等は今でもそこらへんでウンコしてるそうじゃねぇか」
トイレの花子さんは持論を語る。そうじゃないのだと。自分が生まれる遥か昔じゃそこらへんでウンコをしていて、それが今になってトイレと呼ばれる場所でするようになっただけ。トイレの様式や設備に限定させると紙ナプキンがないだけでそこはトイレじゃなくなるかもしれない。トイレの定義は一概に決められない。
だから逆にこう考えたのだと。
「良いか?本質はそうじゃねぇ。トイレっつーのはトイレでウンコするからトイレなんじゃねぇ。ウンコするからそこがトイレになんだよ」
「そんな逆説の屁理屈罷り通っちゃうんですか」
「罷り通るっつーかそう考えねぇとトイレの定義が出来ねぇだろ。昔のトイレの定義に合わせたらアタシ和式のぼっとん便所にしか出れねぇことになっちゃうだろ。現代に適応してんだよ。洋式トイレに合わせたんだよ」
「現代に適応したら宇宙に進出出来ちゃったんですか」
「出来ちゃったな」
「出来ちゃいましたか……」
強奪されたケーキが無残にも食いつくされ、口周りをケーキ塗れにした花子姐さんはメリーさんに口を拭いてもらいながらの状態で駄弁っている。
「アタシ的にもデリケートな話なんだよ。昔じゃ三階?二階の女子トイレの奥の個室に居るみたいな話でさぁ。あぁここに居なきゃいけないのねハイハイみたいなノリだったワケ」
「誕生のノリが大雑把すぎる」
「んでも今じゃどうよ?アタシ何処にいる?三階?いや二階だ。いや男子トイレだ。花子さんじゃねぇ太郎くんだどうのこうの……」
「ありますねぇ。なんなら美少女化したりありますもんね」
バンッ!両手を思いっきり机に叩きつけてカフェ店内に響くほどの声量で叫んだ。
「アイデンティティ何処だよッ!!!」
迫真の叫びだった。
「アタシァ何処に居やぁ良いんだよッ!せめて噂するなら指定しろよッ!ハッキリさせろよッ!じゃあもう幅広げてトイレに常駐するしかねぇじゃねぇかよ!トイレの場所もそうだよッ!やれ奥の個室だ。三番目の個室だなんだ。で、知らねぇところ尋ねて居なかったら『やっぱり花子さんっていないんだ~』とかヘラヘラし腐りやがってェッ!」
「怨念が籠り過ぎてる」
「トイレの花子さんのトイレだけが先行してやがるッ!トイレに居る小学生のガキの怪異なら何でもいいみたいな風潮だッ!ハナコどうしたよッ!アタシは一体どこに向かうんだよッ!ロボにでもなれっつーのかッ!?」
「トイレのハナコロボはちょっと見てみたさありますけども」
「しかも怪異のこと知る企業は取材にも来やがる!来ンなよ!ガキの前にしか現れねぇように気を付けてんのに大の大人がカメラとマイク持ってゾロゾロ訪ねてきたら怖がるモンも怖がれねぇだろうがッ!」
「取材来るんですね」
「題材にしたり許可取りしてぇんだとよ。アタシはメリーみたいに複数いるタイプじゃないからな。ワンオペだよ。今この瞬間も足でガキの相手してんだよ」
「出てこないと思ったら今足で子供の相手してんすか」
「パンツ見せるとガキは黙るから良い」
「なんてことを……」
「最近ポチったTバックの肌触り良いヤツな」
「本当になんて事を……取り返しがつかない」
今この瞬間、性癖が絶望的にねじ曲がった子供のこれから、健やかな未来を願うしかなかった。R.I.P。
「んなこって、ミソッカスガキ共の為にトイレの幅広げて何処でも出れるようにしてるワケ。苦労したんだぞ」
「業界の闇だなぁ」
花子姐さんは一通り愚痴りに愚痴った後、そうだそうだと本題を切り出した。珈琲はもう冷めたし、花子姐さんは勝手にチョコケーキとイチゴケーキを注文してバクバクと食っていた。あのその、ソレって誰が払うんすか?あ、俺達……はい。
「ウメェわ。こういう時じゃねぇと食えねぇんだよな……でよ、本題な。別にトイレの定義しに来たんじゃねぇのよこちとら」
「まぁトイレの定義決めるだけに出てこられても困りますけどね」
「そらそうだ。あぁ、坊に少し仕事を頼みたいんだ。仕事っつっても夜に隣町の学校をちと回ってほしいんだよ」
「隣町の学校……ですか?」
「おぅ。隣ンとこの学校の怪談連中が知らねぇ怪異が入り込んでるつってアタシに泣きついてきたんだ。なんでも、怪異にビビらねぇし毎夜学校ン中に入り込んでは逆に追いかけ回してるらしい」
「怪異が負けてどうすんですか」
「それな。アタシもキレたんだけどよぉ。どーもそうじゃないらしい」
詳しく聞けばどうやら隣町の中学校で学校の怪談をしている怪異から、夜中に学校に入り込んでひとりかくれんぼやら鏡合わせやらそういった都市伝説や怪異を呼び出す儀式を遊び感覚でやるヤツが居るらしい。追っ払おうとしても追っ払えずどうしようもないと。呼び出された怪異が学校に居座ったりと非常に面倒くさいので助けてほしいのだそうだ。
「あんまりこういうのって人に助けを求めることないと思うんですけど」
「アタシは坊を人にカテゴライズしてねぇよ」
「どうして……!」
「怪異に囲まれてマトモな顔してる奴は普通じゃねぇし、都市伝説のメリーを平然と受け入れてる時点で手遅れだろ」
「それに関しては俺被害者というか……受け入れる時間すら与えられなかったので」
「恋は速攻だろ」
「花子姐さんもソッチ側だったかぁ……」
何その恋愛速攻理論。流行りなの?
「恋愛で足踏みしてんだから誰かに取られたりすんだろ。あたって砕けろ」
「当たる側が超合金だったせいで当たられたこっち側粉々になっちゃったんですけど」
「砕けた、だろ?」
「当たる側が砕けるんじゃないんですね」
それから、恋愛マスターを自称するちょっと古い価値観を持つ花子姐さんはやれ昨今の少子化はアレコレが悪いとお年を召した方々が言いそうな愚痴を言いながら元に戻っていった。本当にあの人、出てくるたびに気疲れがパなくなる。
疲弊した俺を労わるように追加注文したチーズケーキをフォークで食べさせてくれたメリーさんへの好感度が留まる事を知らないが、それはそれとしてこの人が原因でもあるんだよな。
俺は振り上げた拳の降ろし先を失い、ただ静かにお腹にしまい込んでグーを震わせるなどした。
「心臓がお腹にあるタイプの心臓を捧げよ?」
「ブン殴りますよ」