ホラー系の世界に転生したのにあまりにも怪異がカラっとしている 作:ない因習村:コンビニ同士の距離が近い
つなぎの回なので壁耳メアリーさんはここまで。次回はアルティメット陰キャ回です。
「え、じゃあ俺の部屋とかも覗き見していたり……?」
「今時神棚を置くあたり相当に熱心な方だなと……」
「プライバシーの侵害だ」
「不法侵入者に言われたくないですぅ……」
それを言われるとこちらも耳が痛い。だが、そちらが先手で行ったことだから悪さで言えばこちらが被害者で訴える権利はこちらにあるのでは?
「人の私生活を覗き見する人が自分の生活を覗き見されてキレるのは普通にどの口フレンズでは?」
「うっ……」
黙った。どうやら自覚はあったらしい。覗き魔が被害者面してんじゃねぇ。
「でもボラギ〇ールを頑なに渡そうとしてくるベランダから侵入した人も大概だと思いますぅ……」
「うっ……」
カウンターが痛すぎる。どうしよ、物理に訴えたら勝ちにならないかな。俺はジリジリと近づきながらシュバっと障子の紙に手を伸ばすとペライこの人は舞うような身のこなしで回避した。実際に舞っているというツッコミは受け付けないことにする。
「カスユーモアと言い、なんで紙関係の妖怪ってカスな奴が多いんでしょうね」
「アレと一緒にしないで下さいぃ……」
「あ、知ってるんですね。でもベクトルは違えど大体同じですよ。覗き魔さん」
「うぅ……でもこうしたのは貴方達人間のせいですぅ……私は人カスが透明な私にぶつかって痛がり怖がる姿に愉悦を感じていただけなのにぃ……こんな姿にしくさりやがったんですよぉ……」
「その愉悦してるところが悪因悪果というか……」
「怪異に善性を求める人カスは熊の保護訴えて食われてしまえばいいんですぅ……」
「優しい熊さんだっているだろうがっ……!」
部長をバカにするのか……!
「やっぱり人カスは自分の知性を高尚な何かと勘違いしている惰弱な生物ですぅ……。自分達は蚊帳の外だって思ってるから怪異に容易に入り込まれて同棲を余儀なくされることになるんですぅ……」
「くっ……!痛いところを」
確かに……!俺はちょっと怪異に対して自分は大丈夫だろうという慢心がなかったと言えばウソになる。だって普通に会話できるし、今まで逃げきれてきたからこれからも大丈夫だろうという意識がないわけではなかった。それでメリーさんに付け込まれたと言えばそうなのだろう。
だがそれでも……!
「メリーさんの事悪く言いやがったお前を俺は許さないぞチリ紙め……!」
「貴方事を悪く言ってるだけでメリーさんの事は悪く言ってないですぅ……」
「語尾もガワも可愛いクセして中身がしっかりカスなのがまた……!」
アニメキャラクターみたいな容姿と幼女?っぽい語尾とは裏腹に中身がしっかり煮詰まったカスだ。しかもこれまたアニメみたいな高音のカワイイ声なのがボディブローのように効いてくる。ガワは可愛いのがなんか……ガワと中身のリアルみたいな……
「そう、アイドルの表と裏みたいな感じでグロいですね。炎上すればいいのに」
「グロい言わないで下さいぃ……」
「いやグロイです。グロいグロい。ドロっとしたエスプレッソの表面を牛乳で覆い隠したマキアートみたいな」
「それを言うならストレートに部屋に侵入して真顔でボラ〇ノール進める貴方はアイリッシュコーヒーみたいなモンですぅ……。自分コーヒーですよみたいなツラして酔わせて来るようなカスですぅ……」
「わかりました。今から隣人の隣人というフィルターを外して直で話しますねドグサレ覗き魔め」
「勝手に不法侵入する人カス如きに慈悲の欠片があると思うなら随分な思い上がりで笑えるレベルですぅ……」
俺は脇を締めて、軽くジャブを放ちながら半歩距離を詰める。
紙のように舞い、紙のように切ってくるような動きでこちらに横面(ペライので本当に薄く見える)を見せて距離をわかりづらくしてくる。小賢しい真似を……。
だがしかし、俺には猫又さん直伝の障子破り殺法がある。猫又さんは割と武道派であり、いくつかの戦い方というものを教えてもらったことがある。黄昏時間で生き残るための自衛手段だ。
その教えてもらった戦い方の一つに猫又さんが猫時代から連綿と親から子へ受け継がれた喧嘩殺法があると聞く。猫特有の反射神経と好奇心、独特のしなやかさを要求する技術だが、それでも人間用に使えるものがいくつかある。
障子破り殺法、猫の好奇心が連綿と引き継がせた技術の一つ。障子に対して横でも下でもなく斜め上から急襲するソレはとても避けづらい。当たり判定が上から下、横へ広がっていくので瞬間的に相手の振り下ろしと対角線上に避けなけばいけないという格ゲーなら速攻ナーフされるであろう技だ。
左上から右下へ袈裟切りのように吸収するパンチは線であると同時に点でもある。非常に避けづらいそのパンチに襲われたドグサレ覗き魔は済んでのところで自身を折りたたんだ。
「猫又さん直伝の障子殺法を避けるとは……」
「たかだか人カス如きのパンチに負ける程脆弱じゃないですぅ……」
「人間をナチュラルに見下しているあたり本当にわからせる必要がありますね。概念浸食された弱小怪異如き、私が引導を渡してやります」
俺は荒ぶる鷹のポーズをとりながら宣言した。
「3分も要りません。ビリビリに破いてヌリカベという存在をこの世から消し去ってあげましょう」
「あの有名漫画家御大に描かれるほどの私に勝てると思ってるのが片腹痛いですぅ……」
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「……で、貴方は花子姐さんに頼まれごとをしているのに、足を切り刻まれて帰ってきたと」
「はい」
「……何か弁明はあるかしら?」
「でもこちらも奴の半分を破りさってきました。相打ちです。仕留め損ないましたが、手も足も出ない状況にはなりませんでした。次こそは奴の全身を破りさってきます」
「その並々ならぬ闘志は称賛に値するのだけれど足を使えなくなるレベルで揉めるのはやめなさい」
「……でも、奴はこの世に存在してはいけないカスで……!」
「私メリーさん」
「ごめんなさい」
殺害予告と同じレベルの常套句を持ち出されるとこちらも弱い。俺は足を血塗れにしながら謝罪した。
奴は仕留め損なった。ドグサレ覗き魔の頭を破りさったものの、どうやら本体は壁……つまり全身をビリビリに破かないといけないらしく、頭を破った時点で逃げやがったのだ。
そして頭を破るまでの間に俺は紙の鋭いところで肌を切ってしまうのと同じ奴で足……正確にはズボンから見えていたくるぶしをズタズタに引き裂かれたわけである。クソ痛い。
幸い、頸動脈と手は腕でガードしていたので上半身に怪我はない。寧ろ上半身のカバーに意識が向きすぎて足をズタズタにされたわけである。
いやしかし、本当にカスみたいな口調の癖に結構強かった。初手不意打ちで頸動脈を的確に切ろうとしてきたあたり、殺り慣れてる人のソレだ。猫又さんの『基本相手は自分の急所を最初に狙ってくると思った方が良いにゃ。初手でジャブを打つのは悪手にゃ。初手こそ必殺の一撃を叩き込まないとその後は警戒されるにゃ』と言っていた教えの通りだった。
最終的にペライ紙に対して延髄斬りを叩き込んだところで頭を破りさる事ができたのだが……まぁ相手も傷ついた足でまさか変則飛び蹴りをかましてくるとは思わないだろう。
「はぁ……もういいわ。花子姐さんに申し訳ないし、おんぶして向かうけれどそれでいいわよね?」
「いやギリ歩け……」
「私メリーさん」
「殺害予告やめてください」
俺はメリーさんに負ぶわれて隣町に向かうことが決定した。許すまじ、壁耳メアリー……!