ホラー系の世界に転生したのにあまりにも怪異がカラっとしている 作:ない因習村:小学生は放課後サリ裏に集まる
「彼を……!彼をあんな目に遭わせて……!」
人体模型さんは義憤を燃やした。あるいは大人の人体模型として思春期男子中学生の霊の性癖を絶望的に捻じ曲げてしまった不甲斐なさに対する怒りもあったのかもしれない。責任が取れないことをするなとは言わない。未成年は往々にして責任が取れないから未成年なのだ。
せめて、せめて彼には知らせないでほしかった。裸婦像に対して『エロっ』で済むだけの性的知識しか持たなかった彼に生々しくいっそ暴力的なまでの性知識を植え付けたことがどれだけひどいことか。人体模型さんはこつこつと語った。
「彼は普段は優しい子だったんです。生前でさえ美術の授業で裸婦像をチラチラ横目で見て、片思いしてた子に『キモッ』と言われ自殺してしまうくらいに繊細な子だったのに……!」
「繊細過ぎないか……?いやまぁ昨今の令和のガキならあり得るか……?」
「とてもいい子だったんです。裸婦像のスケッチに終始し、上手く描けなくとも怒る事などせず、黙々と自分の『エロッ』って思った曲線を何度も……何度もノートに描いて……!」
「男子中学生あるあるだ。曲線描いてエロイかどうか判断する奴」
「そんな彼は……!もう帰ってこない……!」
帰って来なくても良いんじゃないかなと思わないでもなかった。ただの繊細なエロガキじゃねぇか。
だがしかし、さしもの彼女もこうまで言われてしまうと自分が何かとんでもないことをしでかしてしまったのではとビビり散らかした。その実、繊細なエロガキに猛烈なエロを叩きつけてしまっただけなのだが……。男子中学生にとってエロショック(ポリゴンショックの亜種)は今後の人生全てが変わると言っても良い。ずっと囚われ続けるからだ。小学生、中学生の精神が少しずつ育ってきて、異性というものを意識し始めるくらいに劇物を摂取してしまったら昨今のドパガキよりも酷いものになってしまう。
事の重大さを理解したのだろう。サッと顔を青ざめて平謝りするが、彼は戻らない。もう彼は純真無垢な頃のエロガキには戻れない。エロガキは純真無垢じゃないだろというツッコミは受け付けないことにする。
「彼は……もう普通のエロガキではなくなってしまった。飼育小屋に自ら入り、動物に粘着質な目を向けるヤバいエロガキになってしまったんです」
「で、でも……彼が自ら望んだことで」
「男子中学生がエロを探求しないワケないでしょう……!」
「そうなの?でも貴方の部屋ってエロ本の類が見当たらなかったわ」
「うーん、ノーコメントで。あと俺は電子書籍派です」
まぁ発言は控えたが人体模型さんの言う通りだ。男子中学生はウンコウンコと連呼するところからやがておっぱいに興味を持ち、ついには自らの癖を探す旅に出て第二の故郷を見つけ出す。彼もまたその道に進み、そして道を踏み外した。だがそれは彼が望んでそうなっただけであり、何ら罪はない。
そう、男は常に性癖を探す生き物だ。真顔でエロ動画を吟味し、エロ漫画に抜けるかどうかを思索する。思索しすぎて最早そういう気分にならず読まずに積むなんてことザラだ。開拓しようとなんだかんだ探すものの結局は自分のお気に入りのものになったりもする。性癖の開示はリスクなので暗黙の了解で互いの性癖について言いふらすことはしない。その代わり、近い者同士は魂で通じ合うことができる。
それが性癖、それがエロへの探求心だ。彼はその探求心に踊らされた哀れな被害者でしかない。
「ちなみに彼に何を見せたんですか?」
「い、いい、言えませんよ!?」
「言えないようなものを見せたんですか!?」
「人間は業が深いわ……」
「無機物に興奮する人もいらっしゃると聞いたことがあります。この学校の生物の教師もわたくしの内臓を手にとっては『ふひゅっ』と笑う人だったのでとやかくは言いません!ですが、ですが彼は……!彼は飼育小屋ですよ!?」
「この学校の先生も終わってんな……いや違う違う。本当に何見せたの?ヒントくらいくれない?」
彼女は逡巡、苦悩を得て、自らの罪を告白するように意を決して言った。
「……着ぐるみってありますよね?」
「それ以上は良いです。わかりました、貴女を公然わいせつ罪訴えます。理由はもちろんお分かりですね?貴女が未成年にそんな動画?絵?を見せて健全な青少年の性癖を捻じ曲げたからです。覚悟の準備をしておいてください。近いうちに訴えます。裁判も起こします。裁判所にも問答無用できてもらいます。慰謝料の準備もしておいてください!貴女は犯罪者です!刑務所にぶち込まれる楽しみにしておいてください!いいですね!」
「健全な青少年ではなかったですよ彼は!」
「裸婦像に対して『エロッ』で済ませるガキは健全です!!!」
「そうだそうだ!寧ろ今のうちにエロに触っておかないと将来えげつない人間になるんだぞ!だからといって限度があるだろうが!キャパシティを超えるようなモン見せやがって!」
「でも私はVRゴーグルを持ち込んだだけで……!」
「アンタVRゴーグルで何見せたんだ!?」
「言えませんよ!!!!」
「言えないもん見せたんか!?」
ん……?飼育小屋、動物、着ぐるみでVRって……あ、オイまさか……
俺は辿り着いてしまったかもしれない。辿り着いてしまったかもしれないが……これは触れられない。世の中の闇を濃縮して行きつく先だからだ。触れたら帰ってこれなくなる。俺はそっと青少年に大変なことをした稀代の悪女に沙汰を言い渡した。
「えぇでは、主文朗読は後回しにして先に判決理由から述べます」
「主文後回し!?」
ほう、知っていたか……。メリーさん包丁をくれ。この女は健全な青少年をVRの闇に放り込んだ悪魔だ。たとえ犯罪者になろうと滅しておかなければならぬ。それに花子姐さんからこの学校を荒らすヤツを始末しろって言われてるしな。言われたことはしなきゃいけない。これ以上花子姐さんの顔に泥は塗れないからだ。
俺がスッと手を出すと手に収まるは包丁だった。メリーさんが渡してくれたのか?と思ったがメリーさんの手にはナイフが握られていてそれを渡そうとした姿で固まっていた。
ふむ、つまりこの包丁は……?
俺はマジマジと包丁を見つめ、そしてはっとした。
「我が導きのメンヘラ包丁……!力を貸してくれるのか……」
「ちょっ、女子中学生を殺そうとする異常者がいます!た、助けてください!」
「ド深夜学校に潜り込んで、夜な夜な悪魔召喚の儀式やひとりかくれんぼする異常者が何を言うか」
「私は怪異しか殺してませんよ!?いらない友人もとい怪異はこうテイッてすると消えますし」
「殺人鬼……!いやこの場合は殺怪鬼!怪異だって生きてるんです!ただ人を怖がらせるのが生きがいなだけで……!」
「人類悪じゃないですか!?やっぱり人体模型さんも友達の素材にするべきですね……!そろそろ足りなかったんですよ、友達のレベル上限を上げる強化素材が……!」
「花子姐さんの威信にかけて健全な青少年を歪ます女は許せん……!」
「花子姐さんもTバックで青少年の健全な心を歪ませていた気がするのだけれど……」
「あ、じゃあ花子姐さんに『メリーさんは傍観していました』って伝えときますね」
「私メリーさん、青少年の健全な将来を守る為に悪女を滅殺するわ」
大乱闘ド深夜学校スマッシャーズが始まろうとした瞬間、廊下の方から声がした。
『お、おーい。誰かいるのかぁ……?』
すわっまた敵襲か!?と思ったが人体模型さんと悪女がサッと顔を青く染める。彼ら彼女らは足早にロウソクや儀式の物を片付け始めた。
「何してるの?」
「誰か来るわね」
のんきな俺達に二人は声をそろえて言った。
「「見回りの人が来ちゃったんです!」よ!」
あぁ、この学校ちゃんと見周りの人居るんだ。俺は怪異蔓延るホラーの世界で軍隊の人よりも死傷率が多いであろう学校の警備の仕事をしている人達に敬意を表した。ウチの学校、カスユーモアのせいで気が狂った事件を機に誰も来なくなっちゃって……。