ホラー系の世界に転生したのにあまりにも怪異がカラっとしている 作:ない因習村:神様の扱いが害獣レベル
ぬるっとした感覚。どうやらガバ辻判定を突破する事ができたらしい。もしくは辻神様が機転を利かせてくれたのか。俺はメリーさんを。性癖ねじ切り悪女は人体模型さんと茄子原さんを掴んだことで一緒に入ることが出来た。これで一旦は凌ぐことができるだろう。
俺達は辻の世界に入った。此処は人も怪異もほぼいないとされる世界だ。現実世界をそっくりそのまま持ってきたような、ともすれば裏側の世界ともいうべきこの場所で一先ず腰を落ち着ける。
「どうするんですか……?あんな、あんなバケモノ……」
「ほぼ貴女のせいなんですけどね」
「あんな風になるとは思わないじゃないですか……」
それはそう。全くもってその通りなのだがやらかした本人が言うのは違うくないか?俺と人体模型さんは静かに頷きあってからぶつかりおじさんと化した。
「ちょっ、痛っ、痛い!女の子ですよ!女子ですよ!男女平等!」
「ほぅ?この令和の時代に男女平等を掲げるんですか。なら右の頬をグーパンしたら頸椎にラリアットを喰らっても文句はありませんよね?」
「ん~、申し訳ないけど悪魔召喚の儀式をフレンドガチャと呼ぶ女を女とは認めないですね。いや、女は女でも魔女というか……分類が性別じゃなくて属性:邪悪とかそういうタイプ」
「私、混沌の悪ですか!?」
「まぁ少なくとも秩序側の人間ではないですね」
そんな……と絶望してるけどもしや自分が秩序側の人間だと思ってる?マジ?今までの行動を振り返って?どう貴女正しい側?
「お友達作りは至って健全なことであり、相手が誰であろうと区別しないのは昨今の多様性に配慮してると思うんです」
「曇りなき眼で言ってる……こわ……」
ドストレートにそんなことを言う悪女は本当に魔女になるべくしてなったというほど純粋無垢な目をしていた。透き通るような、感情なんて何も籠ってないようなガラス目ん玉だ。化け物が改心しないって多分こういうことを言うんだろうな。根本的な価値観が違うんだ。
「で、どうするんすか?とりあえずこの……異世界?に逃げ込んだのはわかったすけど、こっからどうやって逃げるんすか?」
「そうでしたそうでした」
茄子原さんの言葉で現実に引き戻される。俺は別に無策で辻ワールドに突っ込んだわけじゃない。いや提案される前はやべっ、って感じだったけどね。辻ワールドは現実世界と地続きだ。つまり、こっちで移動するのと現実で移動することに差異がない。安全な辻がある場所まで歩いて辻ワールドを出れば無事逃げられるということである。
「便利すね」
「あ、なります?信者。実はこうこうこういうワケでして……」
俺はかいつまんで神様存在支援プロジェクトのあらましとメリットを告げた。あとノルマ……まぁ祈るだけなのだが。一応お供え物があったほうが喜ばれるし、力が強くなるよ~的なことも伝えておく。あくまで任意だ。強制はしない。宗教に強制力が入るととってもめんどくさくなることは歴史が実証済みである。というか、強制力で言ったら辻神様自身がやるんだろうけどね。だってあの人悪神だし。
「欲しいすね。黄昏を抜けられるのが良いんすね。黄昏のせいであの時間帯に授業入れられないんすよねぇ~」
「おぉ~~そんな見える人弊害あるんですね」
「あるすよぉ~?つっても今のゼミ通ってる教授が同じく見える人なんで多少融通してくれるすけどね」
「へぇ~~。ちなみに学部とかお聞きしても?」
「専攻は文化人類学・民俗学で口伝での民間伝承を主に取り扱ってるす。つっても好きだから~とかじゃなくて必要に駆られてすけどね」
「そうなりますよねぇ……」
結構いいところの大学の人だった。すげぇ、怪異が見える人って基本怪異対策に時間取られてこう……言い方悪いのだがスペシャリストになる傾向がある。怪異特化になって人間社会で不適合になるというか……そうして段々社会に居づらくなってドロップアウトするのが多い。行方不明になってどこに行ったのかな~と思ったら神隠しされた裏世界で怪異ハンターになってたりする。
そんな人間失格率80%を超える中でちゃんと勉強して大学に進んで剰え深夜に警備のバイトをしている茄子原さんの尊敬度が一気に上がった。それに比べて……俺はもうタックルの域でぶつかられて人体模型さんとスクラム組んでる性癖バキバキ悪女を見やる。
「オォッ、陰キャは負けない!」
「負けるでしょ」
「猛々しい陰キャって陰キャなのかしら?」
「よもやわたくしが押されるとは……!」
無駄に男らしい掛け声で人体模型さんを弾き飛ばしたフィジカルウーマンは蹲踞の姿勢で手刀を切った。
「ごっちゃんです」
「フィジカルは一流なんだよなぁ……」
この世界で見える人が鍛えないのは自殺行為だからこうなるのは当たり前っちゃあ当たり前なのだが……一般怪異レベルなら楽々押し返せるレベルのフィジカルを持つ陰キャを果たして陰キャと呼べるのか……。というか友達作りに躍起になってるし言うほど陰キャでもないなコイツ……?
だがしかし、割とちゃんとした陰キャのプライドを持っているのか。無駄にキリッとした表情で
「陰キャは死なない!死ねない!唯一無二、天衣無縫の友達ができるまで!」
「友人に求めるハードルが高すぎる」
こんな奴が陰キャを背負うな。降りろ、全員。
そんな感じでわちゃわちゃしていたら、そっと服のすそを掴まれた。見れば、メリーさんがある一点を見つめている。なになにどうした?とばかりにそちらに目を向けて、目を剝いた。
「私メリーさん、もしかしなくてもアレ……」
「なっ、あっ!?」
「どうしたん……です……か………」
「嘘でしょう……?まさか?」
「此処って許可証がないと入ってこれないんすよね!?入ってこれないはずすよね!?」
目線が集まる先、虚空が異様な音を立てていく。それは言葉にするならメリメリという音だろうか。何かと何かを無理やりこじ開けるような引き裂かれていくような、辻世界が割れていく。
それは紛れもなく手だ。両手、何かが両手で世界をこじ開けている。
隙間、ギロリとこちらを覗く目が見えた。俺はたまらず叫んだ。
「
「『ケモケモケモケモケモケモケモ』」
辻世界に無理やり入ってきたエロガキが、エロへの執念が別世界の移動までもを可能にしたという事実が、俺達の頭から安全という二文字を消し飛ばした。
──────────
辻世界に入門したエロガキはやはりアスリート走りでウサギを咥えて走ってくる。ヤバイ、ヤバイぞ……!
何がやばいかってここに渡り廊下の怪異さんはいない。居ないので距離は引き離すどころか縮まるばかりで気持ち悪い笑みとつぶやきが理性と思考を奪ってくる。捕まったらどうなるかなんて考えたくもない。現代社会が生み出した闇にどうやって戦えというのか。
どうする……どうする!?俺は何とかできないかと必死に思考を回すが全力で走り続けたせいか酸欠で上手く頭が働かない。万事休すかと思ったその時、
「お、お前は……メンヘラ包丁!使えというのか……!」
自分が居るぞと、バットが話しかけてきた野球選手みたいな顔になったが、まぁ言わんとすることはわかる。
夜闇の中、磨かれた刀身に俺がうっすらと映る。今宵のメンヘラ包丁はどうやら血に飢えているらしい。だがしかし……!俺には包丁の心得なんてものはない!せいぜいが振り回すだけだ。メンヘラ包丁に体を任せてもいいが、元は女性の霊だ。男と女では身体の違いがある。それに下手をすれば乗っ取られる危険性もあるだろう。一時の感情で協力してくれるとはいえ、相手はメンヘラ。急にヘラる可能性もなくはない。
本当の本当に万事休すか……?そう思っていた時、反対の手。即ち
「ふっ、私のこと忘れているんじゃないかしら?」
繋いでいた右手がぎゅっと握られる。メリーさん……!そうだ、メリーさんは刃物のスペシャリストだ!そして人形とはいえ女性でもある……!つまりメンヘラ包丁を御することができるということだ……本当にそうか?
いや理性的になるな。怪異に理屈はあるけどあるっぽいだけだ。どんどん突き詰めていくとフィーリングに行きつくので普段言っている事は理屈っぽいナニカということになる。だがそれが怪異の力の源泉だ。だって怖さに理屈はいらないから、
俺から渡されたメンヘラ包丁をメリーさんはスチャッと回して逆手持ちにする。俺は邪魔にならないよう手を放そうとするがメリーさんが放さない。離れない。引っ張られるようにしてメリーさんの体の中に納まる。お姫様抱っこに近い体勢になった俺に対してメリーさんは艶やかに笑った。
「あら?彼女を置いて逃げるつもり?」
「片手でどうにかなると!?」
「良い?好きな男の為なら女は……」
止まってしまえば距離なんてものは数秒もしないうちになくなる。ケモケモうるさいエロガキ怪異はこちらに手を振り上げて襲い掛かる。危ない!そう思った瞬間
「理屈なしに神様だって殺せるんだもの」
一閃、辻世界の奇妙な月光に照らされた斬撃が、一筋の線を描いてエロガキを逆袈裟に切り裂いた。
散りゆくエロガキの残滓がまるで蛍の光のように照らす中、思わず背筋がぞわぞわするような声で囁いた。
「惚れたかしら?」
「この状態で決め掛からないでください」
9割堕ちてる気がしないでもないけど、1割堕ちてないならセーフだろう。うん。
「出来てるんですね……」
「わ、わぁ~……ドストレートですよ……」
「ウチの教授みたいすね」
最後の言葉にはちょっと後ろ髪引かれたが、しかし、俺は刺さりまくる視線に耐えかねて静かにメリーさんの腕の中で目を閉じた。これ以上は俺の中の乙女が耐えられなくなる……。