ホラー系の世界に転生したのにあまりにも怪異がカラっとしている 作:ない因習村:ニコニコ動画が主流
「『ごめんねぇ、確かに話だけ聞けば威力業務妨害罪なんだけど、怪異絡みだと日本の法律的に取り締まる事が出来ないし、そもそも管轄違うからどうしようもないかなぁ~』」
「管轄違うんですか……」
「『どっちかてと神祇院とかソッチなんだよねぇ、怪異案件。それにブラック企業のアレコレでしょ?お兄さん的にそういう企業は死んでもらって当然というかざまぁwとしか思えないかな』」
「アンタ警察官ですよね?」
「『警察官がブラック企業に殺意を覚えちゃいけない法律なんてないからね』」
「えぇ……?」
「シャァッ!」
ピッ、虚しくも切られたスマホと対照的に全力の歓喜を叫ぶ雨女さんの絵面は司法の闇というタイトルで絵画に出来そうなほどだった。
というか怪異案件担当の省庁あったんだ……と思って調べてみたら神祇院は昭和の頃に廃止されていた。……まって廃止された省庁なの?
「今の警察官凄い気になる事置いて切ったな……」
「怪異を取り締まる法律がないことかしら?」
「まぁそっちもあってほしかったですけど……」
この世界、行方不明とか神隠しがデフォルトで存在してるレベルだから対策であってほしかったな……。まぁどれくらいの頻度かって言えば日本でいうところの殺人が起きるぐらいとかいう高いのか低いのかよくわからないレベルなんだけど。
「警察官直々の許しを得たということ、それ即ち免罪符……!」
「多分あの人上から怒られるんじゃないかしら」
「あと免罪符は神様が発行するのであって警察官が発行するのは令状だと思うんですけど」
「うるさいうるさい!免罪符は神様も発行しないでしょうが!人間が勝手に発行してるだけなんだから警察官が発行しても良いでしょ!?」
「アウトなんだよなぁ……」
この世界で免罪符作ったところで許されるわけないでしょ。というか、怪異側が免罪符に縋るなよ。
「怪異だって自分の罪を悔いる事だってありますぅ~。もっとうまい怖がらせ方とか誘拐の仕方あっただろって反省することあるんですぅ~」
「それただの反省なんですよ。PDCAのチェックじゃないですか」
「やめて。PDCAなんて二度と聞きたくない。アクトするわよ」
「改善した誘拐の仕方をアクトするって言わないでください」
PDCA、またの名をブラック企業版闇の呪文系統服従の呪文だ。P(計画)、D(行動)、C(検査)、A(改善)のサイクルをハムスターの如くグルグル回していく仕事のやり方みたいなものだ。ただ、仕事のやり方なだけで何処をどうしろっていうのは教えてくれないので最悪な上司の場合、聞きたい事やわからないことがあっても『PDCAサイクル回せよ使えねーな』とカスみたいなことを言われる。ブラック企業に勤めた人間ならばほとんどとは言わず半分は聞くんじゃないかと思う。
そんな相手をふわっとした言い方で無理やり黙らせて発言を封じる服従の呪文は雨女さんにも効いた。頭を抱えて呻き悶え始める。
「ウグググ……てかエンジニアにPDCA回せとかジャンル違いというかお門違いにもほどがあるでしょ!」
「でもそれ通りに行動しろってことじゃないのかしら?」
「いや、……いや?えぇ……?いやだってエンジニアって基本作ってコードコピペしてあとはひたすら謎のバグとミスと保守運用だよ?PDCA回すくらいなら職場環境回してほしいわ」
「貴女やめるつもりなんでしょう?ならそこら辺考えなくていいじゃないですか」
「はっ!?そうだった。そうだったわ!私やめるんだから何しても良い!昼過ぎに出勤してくる社長をアクトしても良い!」
「アクトはやめてください」
貴女が言うとシャレにならないというか前科何件ですか……。そもそも貴女子供を対象に誘拐する怪異ですよね?
「子供だけ誘拐するのは昔雨の日に子供を神隠しされたからって伝承が続いてるからで、別に対象は問わないわよ」
「問わないんですか」
「まぁ子供の方がおいしそうだなって思うけど」
「物理的な意味で?」
「どっちも」
「私メリーさん、この女を滅殺する権利をちょうだい?」
「ダメダメ。今は雨の日ですよ。環境有利取った怪異は基本強いんですから」
「そうだそうだ!大人しくウチの企業転覆の共犯者になれ!」
「言ってる事が怪異よりも酷い」
まぁカスの上司を好んで摘む趣味はないからチューハイで流し込むんだけどね。そんなことを言う雨女さんはつくづく怪異側なんだなと思う。
──────────
「で、どうするんですか?」
「そこらへんなーんも考えてないのよねぇ」
はーい、カットでーす。俺はあの映画でカチンてなる奴(調べたらまんまカッチンだった)を鳴らす真似をした。
「なんも考えてないならどうしようもなくないですか?」
「いやそこをさぁ……考えるのが君の仕事じゃない?」
「肝心なところ丸投げしやがったコイツ……」
「いやぁ~絶対いけるって~!なんせ君は期待の超新星だからね!」
「怪異側で……?」
俺は何故だか怪異側の超新星扱いされている事実をこの時初めて知った。特に変なこともおかしなこともしてないハズなのに一体……?
「いや黄昏時間で蝉の鳴き真似しながら平然と怪異追いかけ回してたり逃げまわったりしてたらそりゃ話題になるでしょ」
「練習時間が取れないんですよ!?」
「バチギレするとこそこ?」
最近忙しかったからなんとか練習時間を確保するため……。あと普通にメリーさんが一緒に住むようになって室内練習できなくなったし……。カラオケ行くしかないのか……?
「やはりカラオケか……」
「蝉の鳴き真似の練習の為だけにカラオケ行くっつったコイツ?」
「どうもマジらしいわよ」
「えぇ……熱意ぃ……」
「良いですか?一日くらい……そう思った瞬間から技術は劣化していくんですよ。それを自覚できないことがまさに老いなんです。老化はなにも肉体的な問題じゃないんです。停滞を当たり前に受け入れることこそが老化の本質なんですよ」
「蝉の鳴き真似にここまで入れ込んだ人間後にも先にも君だけだと思う」
「なら俺が先達になるしかないでしょう。後輩の道を俺が切り開きます」
「蝉の鳴き真似の先達……ギリ居るかなぁ……?」
「今動画サイトで蝉の鳴き真似って調べたら結構出て来たわよ。何時間もやってる人とか」
「世界って広いなぁ……ってそうじゃないよ。で、どうすんのさ。企業転覆計画」
「国家転覆計画みたいなことを……あながち間違いでもないのがまぁ……雨女さんってエンジニアですよね?ITの」
「そーね。基本的にアプリ開発のマネジャがメイン。まぁ人足らないから末端の末端の仕事もしてるケド……」
「エンジニアならこう……社外秘的なものとかそれこそ、パワハラとか受けてるならその記録をして労基に提出とか……」
「それもするけど……!私としてはもっとこう直接的なやり返しをしたいのよ!社長と専務をボコボコにして、死にも優る恐怖を刻みつけた上で、永遠の地獄を味合わせるためのナニカが欲しいのよ!」
「殺意が籠り過ぎている……そうですね、んー……」
正直なところいくつか考えはあるのだ。前世社会人のサガか……どうやったら会社って潰せるのかなというのをネット検索しない人は居ないと思う。それゆえに法的処置も、闇の深いやり方にも造詣はあるとはいえ……
俺は目隠しを取り外し雨女さんを上から下まで眺めた。
今でこそ『水死体』の文字が張り詰めており、正しく水死体?のようになっている。服がね。あぁ違う。今でこそダサTを着ているズボラ女の様相をしているが一応できる社会人なのだ。マネージャーをしていて末端の仕事も熟せている。ブラック企業に耐えられる強い適性もある。なくすには惜しい人材だと思う。
それにこの人は今までの発言通り怪異だ。基本怪異に人権はないので正直なところ労基に訴えても攻められて困るのはこっち側だ。確かに労基は会社の環境を変えてくれるかもしれないが、怪異に労働基準法は適用されない。なので法的に攻めても弱かったりする。
「やはり怪異として攻めるしかないですね……」
「あ、やっぱり?」
薄々気づいていたのだろう雨女さんの言葉。まぁそれしかないでしょう。怪異に人権は通用しないので法律も通用しない。ならやる事は簡単だ。
「神隠ししちゃいましょう。社長も専務も悪いことしてる奴等全員」
「やっぱり人間でその思考に辿り着く君はこっち側だぜ~?」
うりうりと肘をぶつけられるが、横に居るメリーさんがすごい形相をしているので勘弁してほしい。