ホラー系の世界に転生したのにあまりにも怪異がカラっとしている 作:ない因習村:すべての住宅がLED
「俺達ってどんな姿に見られてるんですかねぇ」
「言わないでよ……今更恥ずかしくなるじゃん」
受付で302室の者と言ったらあ、ふーんという感じで通された俺達はそそくさと歩を進めた。複数でのアレコレに見えてんだろうか。まぁ男2女2だからバランスはいいかもしれないが……生憎と1対3のデスマッチなんだよな。チーム戦でもここまでの不利対面はないだろう。なんなら片方は2/3が怪異だ。
「だから君も怪異でしょ」
「いやいや、ちゃんとヒューマンですから」
「うっそでー」
「寧ろ怪異側が怪異怪異してないのが悪いのでは?怪異してくださいよセパタクロー部」
「セパタクロー関係ないだろ!」
そんなやりとりをしながらガチャリと302室を開けてみれば……
「ぎゃああぁぁあぁ!!!女の子になっちゃうぅぅぅううぅぅ!!!!」
「ちんちんがへこんだからといって女の子になるわけじゃないと思う」
扉を開けたら断末魔だった。見れば股間部分がメキョメキョと滅茶苦茶嫌な音を立てて凹んでいく。恐らくソウルソサエティは猛っていて大層なものをお持ちだったのかもしれない。そんなパンツの中のバベルの塔がメキョメキョと凹んでいく様を見るのはハッキリ言ってスプラッタだった。
「対エロおやじ結殺呪術?」
「どちらかというとメリーさんの所有権に関わるものなんだけれど」
どうやらメリーさんが編み出した対エロおやじ滅殺兵器ではなかったようだ。詳しく聞くと、メリーさんは持ち主と特殊な契約状態にあるらしい。物権がどうのとか所有権がどうのとか言われたけどよくわからなかった。ただ、その物権とやらのおかげで他の人がメリーさんに手を出そうとすると物理的な呪いが掛けられるとのこと。
元々、捨てられた相手が他に殺されないようにするためのものでその応用らしいのだが……というかメリーさんの所有権じゃなくて持ち主の所有権なんだね。物権も物を独占する権利ではなく『物が発揮できる権利』という意味らしい。俺はメリーさんに所有されていた……?いやまぁ契約なんて結んだ記憶なかったし、だろうなとは思ったけど。
それによって権利状態を侵害されたメリーさんは契約に訴えたとのこと。ちょっとこじつけ気味だったが先に訴えた方が有利に運ぶのでこちら有利で裁判を進め見事勝訴したらしい。裁判って言っちゃってるじゃん。
「えぇ、これは呪いという司法を介した裁判よ。現実でも先に訴えた方が有利になるから訴えるなら速攻をおススメするわね」
「嫌なライフハックだなぁ」
「あとは相手が相手なのもよかったわ。残念なことにエロおやじに基本的人権は適用されないから司法もスムーズに処理してくれたわね」
「呪い裁判でもおじさんに人権はなかったんだ……」
悲しいな。おじさんはどうやって生きていけばいいんだよ。俺はおじさんの将来を儚んだがおじさんだから
「いやいやいや、なんか終わった~みたいな体出してるけど死んでるからね?誘拐がメインだからね?なんで殺してんのさ。寧ろ殺すなら私に殺させてくれよ」
「ついうっかり?」
またもやうっちゃりうっちゃりとメリーさんが反省を促すがまぁね。多分このままいけば部長もヤるんじゃねぇかなというオチは見える。そんなオチが雨女さんにも見えたのか今度こそはと言った風に
「いや、次は私が行くから。私が殺す。もうね、オチ見えるからね。ならヤルよ私が。あ、死体はアレ、異世界に突っ込んどいてね」
「はーい」
ポイッと辻世界に投棄。死体は最終的に辻神様に供物として捧げる予定なので辻世界に放りっぱなしで良い。社長みたいに司法解剖のついでにお稲荷様に捧げたのが例外というもの。供物はしっかりと献上しないとね。
「あ、そうそう」
とりあえず撤収~と言わんばかりに辻世界に入る間際、グイッと胸倉をメリーさんに掴まれる。至近距離、キスでもしそうな距離感だ。はいはい、なんでしょう?
「例え話とはいえ愛を疑われたのは少し不満よ」
「疑われたのは俺じゃなくて雨女さんなんですけどね」
「試すような行いを許容したのが悪いという話よ」
「それはそう。申し訳ありません」
「良いわ。まだ出会って間もないのに多くを求めるつもりはないもの」
「それでも俺はメリーさんのことわかってるつもりですよ。だから心の底からの謝罪です。ごめんなさい」
「殊勝ね」
「俺的にはもう観念しているので」
「嫌な言い方」
「失礼、メリーさん色に染められているので」
「ならよし」
「……ホントに貴方達1か月経ってないのよね?」
「「経ってないわ/ませんよ?」」
「……これが現代の恋愛かぁ。おねーさん付いていけないわ」
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ステップ3 部長を暗殺しよう
さて、最終ステップだ。部長を暗殺するべく俺達は件のブラック企業に辿り着いた。オフィス街の一角、数多の社畜戦士達が戦い続けている場所が血に塗られることになろうとはだれも思わないだろう。
「今日はようやく取れた有給……他の子はいつも通り働いているハズ……今はウチのチームで緊急の案件はなかったはずだからラクなバグ取りを引き延ばして仕事してると思うけど……」
「割と余裕ありそうですね」
「違う違う。処世術よ処世術。仕事なんて終わらせれば終わらせるほど次の仕事が来るんだからインターバル欲しいんだったら終わらせることじゃなくてラクな仕事をいかに引き延ばすかになるの。無能を演じるのはマスト技術よ」
「ほーぅ」
畑違いだから知らんかった。前世は通訳・翻訳の仕事に就いていたのでラクな仕事を引き延ばすなんて芸当出来なかったし、翻訳とか引き延ばし云々言ってたら締め切りに殺されるのでそこらへん縁遠い話である。興味深い話を聞けて虚空のへぇボタンを連打するなどした。
「社会人になったらわかるよ」
「わかりたくないですね」
「大人なんてみんなそんなモンよ」
酷く死んだ目をしながらそういう雨女さんは陰鬱なオーラを発している。闇のオーラだ。それはまるで粘々した液体のように絡みついてくる。スライム?
「あのコレ取れないんですけど」
「いつも……いつもそうだ……。終わらない残業、定時間際の仕事追加、部下のミスはなくならず……上司は死ぬほど詰めてくる……」
「あぁダメだ闇落ちしてる……メリーさんよろしくお願いします」
「えぇ、わかったわ」
ふんっ!と一撃、腹パンで崩れ落ちた雨女さん。一撃ノックアウトで倒れたのを目視で確認、ヨシッ。ちなみにだがこれらのことは辻世界で行われている。もう会社には侵入済みだ。辻世界は所謂座標は共有しているだけの裏世界みたいなものなので、セキュリティもクソもない。欠点は辻からしか出入りできないので出現場所を固定されるということだ。もし表世界に人がいた場合、虚空からぬるりと人間が出てくる絵面になる。
「ウゴゴ……めちゃくちゃいいパンチ持ってるじゃん……。世界狙えるよ」
「私は世界よりも彼が欲しいのだけど」
「優勝賞品は俺です的な?争う人居るんですかね?」
「心当たりあるヤツは何人かいる……かな」
「なるほど、ライバルということね?」
「いや、うーん……ライバル以前にメリーちゃんが王手してるしないと思う。どっちかというと……コンビ?」
「「コンビ」」
思わずハモっちゃうほどオウム返しだった。何故に?
「おん、ほら君、淡々と突っ込んでくれるしあんまり動じなかったりするじゃん?で気配とかもこっち側だし、ツッコミ役として最適なんだよね」
「まさかのツッコミ役」
「相方は渡さないわよ」
「そこでも独占欲発揮するんですね」
芸人としてカテゴライズされていると……?そう聞けばまぁ大枠はそれだよねというお言葉を頂いて大層不満になるなどした。いやいやいやいや、俺は至って普通の人間ですから。確かにセンスは磨いていますがあくまで一般、アマチュアの範疇であって……
「いやぁ……どうだろ。多分彼女の枠とかは譲るかもしれないけどギャグは粘るんじゃないかなぁ。そんくらい価値見出されてると思うよ?」
「粘るんですか?」
「まー、得難い人材じゃん。蝉の鳴き真似する狂人だし」
「……何も言えないわね」
「何か言ってくださいよ。いたじゃないですか、蝉の鳴き真似する人」
「怪異が見えて蝉の鳴き真似しながら追いかけまわしたり逃げたりして、程よく驚いてくれてツッコミのセンスがいい人材は君しか居ないから……」
納得がいかない。納得がいかないし何故そこで粘られるのかもよくわからない。えぇ……?
兎角、こんな緩い空気の中で企業転覆計画の最終工程が進んでいたのだが……端的に言えば俺達は油断していた。まぁ怪異の力を使えば楽勝だろと、そう思っていたのだ。俺達は人間の底力を忘れていたし、人間の適応能力というものを甘く見ていた。いや、ブラック企業が俺達の予想をはるかに上回ったというべきか。
「あぁ、君。出勤していたのか。ちょうどいい。この案件を今日までに、よろしく」
後ろから声がした。振り返れば恰幅の良い……端的に言えばデブの中年男性が何やら資料を片手にこちらに話しかけている。誰だ?俺とメリーさんが疑問に思った直後、雨女さんが妄念高まり憎悪が形を成しそうな声で言った。
「部長ォ……!」
「残念だが異世界ごときで仕事から逃げられると思ったのかね?」
辻世界、思ったより侵入者が多い。
2026/9/15 修正報告です。
「あぁ、君。出勤していたのか。ちょうどいい。この案件を17時までに、よろしく」
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「あぁ、君。出勤していたのか。ちょうどいい。この案件を今日までに、よろしく」