ホラー系の世界に転生したのにあまりにも怪異がカラっとしている 作:ない因習村:図書館に呪い本コーナーがある
まだまだ本調子ではないですがぼちぼち再開します。ちなみにですが入院とは別に台風で被災もしたので厄月なんだと思います。
一方その頃、辻異世界にて。
「おかしくないですか?」
「逆に呼ばれてない私って何?」
『……おぉ……』
「だからおぉじゃないが」
俺は辻神様に自身の置かれた様を愚痴愚痴していた。横にはフレンドガチャ狂いも居る。
なんか急に『女子会しようず!』って天鋼さんが言うモンでそういうものかぁと思っていたら流れるように弾かれた。全然蚊帳の外であることを追い出された後に気づき、俺は憤懣遣る瀬無い気持ちで路傍の石ころでドリブルを始めたところ、辻神様に引っ張られた次第である。ちょうど道の角を曲がった時のことだった。
これ幸いと引きずり込まれた辻世界にて辻神様に事の現状を愚痴るもとい報告した次第。しかして辻神様は声帯が未発達なので定型文と鳴き声のように『……おぉ……』としか喋れないのだった。そんな折、懲りもせずフレンドガチャに勤しんでいる魔女に遭遇したのである。なんか悪魔のいい感じの触媒を手に入れたのでピックアップガチャとのことだ。あんまり悪魔召喚をピックアップって言わない方が良いよ。引きたくなるから。
ちなみにだが今のところ判明している定型文は『力が、欲しいか?』と『願いを言え』と『READY』といった感じだ。恐らく世の中にある願望器のセリフを再現したものだと思われる。悪意ある感じの抽出をしているが、悪神なので大概も大概だった。
「クッソ!!!私も女子会行きたかったっ!こうなったらサバトしてやるっ!!!」
俺よりも自業自得な理由でハブられたフレンドガチャ狂いはキレ散らかしながらもガチャを決行するらしい。女子会ならぬサバトを強行しようとする姿をぼんやり眺めながら思った。落ち込むんじゃなくてキレるあたり多分コイツ陰キャ向いてねぇなと。
クッソ荒ぶるサバト女はさておき、辻神様の話をしよう。
辻神様は神様だ。確かに辻神と呼ばれる辻を司る存在からそっち方面にしか役に立たないとか思われそうだが、神様のパッシブ機能として願いをかなえる力が存在する。それは例えば太陽神アマテラス様に豊穣を祈ったら、太陽パワーで植物の成長促進みたいな願いを叶える毛色の違いはあるものの概ね願いを叶えてくれる存在である。
さて、ここ最近の信者の増加や捧げものによって辻神様の信仰力は大分元に戻った。全盛期とはいかないまでも存在を保つだけに使っていた初期とは違い、いくらかの願いを叶えるだけの力があるということだ。
「やっぱり高位の悪魔を召喚するにはキン〇マが一番触媒力高いんですよねぇ……」
言うなればそれは株主に対する配当だ。信仰力を高めてくれた株主もとい信者たちに対し会社側が配当という形で返還する。それが神様の願いを叶える仕組みだったりする。俗な言い方が正しくはそうなっている。
辻神様は考えた。いくらか黒字経営になった恩恵をこの筆頭株主もとい教祖もとい最初の信者に返還せずしてどうすると。言うなれば会社を初期から支えて投資してくれたのがこの人間だ。感謝もひとしおであり、自分此処まで立ち直れましたよという報告でもある。よって最初の恩恵の相手として選んだのだ。
悪神は言う。多くの人間を欲によって滅ぼしてきた妖怪ともされる神は嘲笑い問うのだ。
『願いを、言え』
「いや、まだまだ安定したばっかなのに何言ってるんですか。経営に集中してくださいよ。今こそ設備投資の時でしょう」
しかし筆頭株主は経営に貪欲だった。
「……神様を触媒にしたら何が召喚できるんですかね……?ちょっと辻神様よろしいですかねぇ?」
そう、黒字経営になってようやく計上できた内部留保(諸々の現物的出費を差し引いて手元に残った資金のこと)は設備投資に使うべきだ。コンサルティングの真似事のようなことを言う筆頭株主だが、実際に神様のアレコレって経営に近いよなと本を買って学んだりしているのでコンサルティングだった。
ガラガラと何処からともなく持ち込まれたホワイトボードにキュキュっと書かれていくは経営方針だった。
確かに信者も増えてきて、信仰力も大分安定してきた。安定してきたとはいえ、未だその信者の数は教祖、ベテラン幼女パイセン、茄子原さん、フレンドガチャ魔女の4人である。それぞれも宗教勧誘は行っているものの芳しくなく、候補者は何人かいるものの候補止まりだ。
よって、目下の目標はそのまま信者の増加であり、そちらに力を行使した方が良い。筆頭株主の言い分はこうであった。ちなみにだが怪異達が信仰してしまうと辻神様に怪異としての力が混ざってしまい良くない事になる。荒神とかではなく祟り神とかそんな感じになってしまうらしい。それはそれで力は増幅するものの、現代で祟り神になると討伐対象にカテゴライズされるため難しいそうだ。
ホワイトボードにデカデカと書いた今後の方針に『実利の急務』が描かれている……。
「まずは信仰する事での実利を増やしましょう。辻世界に入るだけじゃメリットが頭打ちです。辻世界での身体保護、これをまず導入しましょう。辻世界に入っても危険が無くならないんじゃ意味がありません。それに辻世界思ったより侵入されます。ファイアウォールみたいなの作りましょう。少なくとも侵入を妨害できるものが一つ必要です」
そう、
「……おぉ……」
「いやだからおぉじゃないが」
「ちょっとだけ!ほんの先っちょだけ!」
なるほど、言わんとすることはわかる。信仰力というのは実はお金にも近かったりする。なんならソウルライクゲーの経験値とお金が一体化になっているアレとほぼ同じだ。通貨としても神々で取引しあい、自身の力を高める為にも使用される。どう扱うかは個人ならぬ個神次第であるが、辻神様はあれば使っちゃうタイプの神であった。
とりあえずと辻神様は紙を表出させる。あの古い文字で書かれたアレソレだ。はい、と渡されたソレを見るが何を書いてあるかはわからない。だがなんとなくスキルツリー的なものを見せられていることは分かった。
「これは何ですか?」
「……おぉ……」
「あぁそうだ、こっちが聞かないといけないんだった。えぇっと、辻世界の項目ですか?」
そんなやりとりの末、現代語訳したものをホワイトボードに乗せるとこうなる。
・辻神
├辻世界
│├─干渉力強化
│└─身体保護
└信仰
├─御利益
└─願望
ゲームみたいだ。
「ゲームみたいだ」
思わず思考と言葉が一致してしまったソレは紙に書かれた樹形図的なものを抜粋して作ったものだがまんまスキルツリーだった。そしてとんでもなくシンプル。
「なんかしょぼい」
『……おぉ……』
「遺憾のおぉだ」
今までの『おぉ』は『お(⤵)ぉ(⤵)』だったが今のは『お(⤴)ぉ(⤴)』だったので遺憾の意であるらしい。いやでもほとんど言語が通じず首だけのイエスノーだけで何とか解読した末のこれなんだから文句くらいは許されるでしょ。
「クソッ!なんだこの……!服っぽいのに肉体と癒着してる感じ?擬態じゃん!これガワだけっぽく見せてるだけじゃん!分類的には食品サンプルじゃん!」
とりあえず、このぽい奴である干渉力強化と身体保護を推す。前者は多分侵入されにくさとかそんな感じで、身体保護は入った人の防御力的なものであるらしい。これは大事だね。雨女さんとの共闘でもそうだったが味方のダメージで死にかける事はザラになるだろう。よって戦闘フィールド的な意味合いを含んでいる辻世界の強化は急務だった。
「最初はそこのノミとトンカチで辻神様を削ろうとしてる不敬罪女が召喚する悪魔に対抗レベルを目指しましょう。コイツ召喚したら召喚したで放置することがよくあるのでたまに現世をほっつき歩ける悪魔が辻世界をお散歩してるんですよ」
辻世界に危険はないと思われそうだがこの女のせいで最近危険度の概念が生まれてきている。コイツ後始末をしないタイプの害悪魔女なので、たまに強化素材にし忘れて放置した悪魔がそのまま辻世界に居残ってそこらへんほっつき歩いてることが良くあるのだ。襲ってきたりは低頻度だが、悪魔らしく邪悪な契約を持ちかけてくるので口を開く前に滅殺することが推奨されている。
基本的に悪魔に対処できるのはベテラン幼女パイセンとメッ!で滅する事ができる能力エクソシストの癖にやってること中世魔女のコイツしかいない。俺と茄子原さんなどはスニーキングミッションか遭遇した瞬間にドロップキックで怯ませてからの逃走なので非常に面倒なのだ。
辻神様はその3m弱ある自らのご神体をよじ登って削ろうとする不遜な信者をそっと優しく地面に下ろしてからギリギリと万力の如きパワーで上から打ち据えた。お叱りする時はお叱りするらしい。だがお叱りも優しいのでこの神様多分悪神向いてないんじゃないかと思うんだよね。
四股を踏んで腰を据え、全体重を安定させる体勢で両手でもって辻神様の手を受け止め、膝のクッションと身体のバネを生かして神の力に耐える姿は凡そ女子中学生がしてはいけない顔をしていた。ほらあの……刃〇で登場人物がキレた時みたいな……。
「おォ……!陰キャは強い!」
「陰キャは弱くあれよ」
ド級の偏見、ド偏見だけども。陰キャを自称する癖になんでフィジカル全振りゴリラなんだよ。フィジギフなの?でもお前霊的才能もあるから捧げてないじゃん。どっちも持ってたらソレはもう五条パイセンじゃん。
「あ、やば……そぉい!!!!」
華麗な身のこなしで身体を少し沈ませ、辻神様の手が沈み込む瞬間に流れるように抜け出したことで万力から逃れたクソ不敬罪魔女はドヤ顔でこう言った。
「話は聞いていましたよ。信者を増やす方法ですよね?簡単なことです……ガチャですよ」
魔女は悪魔の笑みを浮かべていた。