ホラー系の世界に転生したのにあまりにも怪異がカラっとしている 作:ない因習村:絶滅危惧種が増えすぎている
すみません投稿遅れました。11月末くらいまで不定期になると思います。お仕事もそうなんですが周りで色々起こりすぎていててんてこ舞なので……
でんき・ゴーストタイプになったメリーさんはふわりと浮いた。
改めて、補足しておくが怪異に理論を求めてはいけない。そもそも怪異は理不尽に殺しに来るもので、それの延長線でこうなってるに過ぎない。過程から結果が呼び出されるのではなく結果が過程を引き起こすこともある。つまり、でんき・ゴーストタイプで現状唯一のポ〇モンという結果が特性:浮遊の過程を出力したと捉えるべきだ。
「家に居づらいならウチに住めばいいじゃない」
周囲はシーン……と静まり返り、特性的にも発言的にも物理的にも浮いてしまったメリーさんはそれでもなおと
「家に居づらいなら、ウチ、来ればいいじゃない」
二度も言った。押しが念入りだから念押しとでも言うかのように
「家、来なさい」
三度も言った。あのやずやでさえ二回なのにだ。わかりやすさを優先した結果、命令系となったその言葉はしかし説得力など持たないゴリ押しであり、ゴリラが押してくるからゴリ押しなのだと言わんばかりにパワープレイだった。
「メリー、ちょいと待ちな」
懐から取り出したヤニに火をつけ、一服。あまりにも犯罪的な光景の後、眉間をもみ込んで掌を向けるは花子姐さんだ。怪異の生まれ故に永遠の小学5年生を強要されたその出自はこと進路に関して一家言を持っていると言っていい。
何千何万人、下手したら億はいくであろう小学生を見送ってきたことで進路相談におけるパーフェクトソルジャーと化した花子さんは中学受験や家庭内不和を解決するプロフェッショナルとなってしまった。『進路?興味ないね……』と嘯こうにもあちらからやってくるので対応せざるを得ないのだ。なまじ居場所が固定されているので逃げ道もなにもなかった。
不可抗力であろうともそうなってしまったからには……そう責任を背負い込むのは苦労性の花子さんらしい一面だろう。そんな経験から繰り出される結論はこのようなものだった。灰皿にヤニを置き、両手を組んでゲンドウポーズ。
「親……っつーのはどれだけ本人が大人ぶっても、事実中身が大人であろうとも必要なモンだ。毒親だからどうって話じゃない。毒親でも使いよう、逆にっていうのもある」
花子さんは言う。親というのは使いようだと。
とある心理学の実験だかで猿の子供に母親の愛着を試すテストがあったらしい。それによると、猿の子供に対して金型の人形に哺乳瓶を付けたものと毛布を巻き付けただけの人形を与えるのだという。その結果、大半の時間を毛布付きの人形で過ごし、お腹が空いた時だけ哺乳瓶付きの方に行くというのがわかった。このことから子供が親、それも母親に求めるのは食事ではなく居心地の良さ、触れ合いの良さであるいうのがわかる。
これは非人道な実験であり、本来群れを形成する猿の子供を孤立させるという現在では到底出来ない倫理観のものだが、それでもその実験で得られた物は大きい。
親は必要なのだ。それも母親の有無は子供の影響の原因に大きな割合を占めると。たとえ毒親であろうとこうならないようにするという反面教師としても見る事ができる。これは極論でそうも割り切れない子供が多いことは十二分に承知している。だが、子供にとって親とは危険が差し迫ったとき一番先に頼る安全基地でもあるのだ。親の不在は本人が思う以上に大きいのだと。
要点だけを話す様はしかし的を得ていた。花子さんは畳みかける。
「正直、メンタルの心配ってのはそうしてない。強いからだ。残念なことにな。怪異から生き残るために幼さを捨てるしかなかったのは割り切るべきだろう……良い悪い抜きにして。今後に響くことはあるだろうが、現状大丈夫とみるべきだ。問題は親の方」
「母親が心配だと」
「あぁ、親子を離して問題になったのが親の方ってのは珍しい事じゃない。親にとっても大なり小なり精神安定の重しになってるんだ。母は強しなんて言葉は『お母さんだからしっかりしなければいけない』という責任から生まれる。重しがあるから酷い目にあってもある程度動けるし多少頭が働く。それがなくなったらいよいよだぞ」
親なんていたこともない自然発生型怪異、花子さんが言う。
「だけどねぇ、現状この子に悪影響がある以上、どっちみちケアの為に引き離すしかないんじゃないかなぁ~と思うよお姉さんは」
あっけらかんとした天鋼の言葉はまた一方の的を得ていた。母親の現状は想像以上に重くなっている。夫とは関係性が冷え切っており、別居を決めたという事は離婚寸前とみてもいい。母親として今後のことを考えたから離婚してないだけとも考えられる。子供が居るからだ。
「……でも私、一人で生きていけるよ?」
そう血は争えないか、あるいはその血と環境がそうさせたのか。ベテラン幼女パイセンは自立できる幼女だった。話を聞けば自炊は出来るし、掃除洗濯はお手の物。持ち前のサバイバル能力で霊験あらたかなお山で1ヵ月、怪異から逃げ切りながらログハウスを建築せしめたという強エピソードさえある。
最近はさらなるスキルアップの為にキャンプ系のテレビチャンネルと契約したほどでその契約料さえ自身で払っている。小学生だというのに副業をやっていて剰え稼いでいるという現実は誰の手も借りずに生きていけるという事に他ならない。未成年という壁はあるものの、それさえ乗り越えればどうとでもできてしまう。なんならオカルト関係は税金の処理が難しく法律で守ることができないグレー範囲なので荒稼ぎは可能だった。まず、除霊は特殊清掃業として扱われる。
この子は親に頼らない。頼れない。困ったら自分で何とかするという強烈な意識のベースが母親を追い込んでるとみていい。手のかからない子供レベル100ということだ。
一番の被害者は母親だ。父親は頭ブラック企業の効率厨だし、子供はその血を覚醒させて自力でサバイバルできる幼女だった。なんなら徘徊が常習化しているので家に母親一人しかいないということがザラにある。病むのも仕方がないだろう。
想像以上に悪い状態だったことに気づいた一同は表情を暗くした。だがここでメリーさんに電流走る。やはり帯電している故か存在しないはずの神経経路から伝達されるシナプスが弾けたのだ。
「お母さんごとウチのアパートに引っ越すのはどうかしら?現状の問題は母親が一人で抱え込んでいることとこの子を不安定な家庭環境に置く事ができない事。この二つの問題を解決するただ一つのアイデアとして提案するわ」
メリーさんは語る。アパートには空き部屋がいくつかある。ちょっとばかり特殊な住環境故に住民は少ないし大半が怪異だ。そこの一室に住まわせることで幼女パイセンの逃げ道の一つとしてメリーさんの部屋(主人公の部屋)を提供する。もちろん名目は家庭教師としてだ。また、メリーさんが母親のフォローに回る。これもご近所付き合い、それも同室に住んでいる住民が家庭教師をしているからという少し強引だが筋は通る理由がある。
幼女パイセンにちょっかい掛ける怪異はそう居ない。よってそのアパートに住む危険性も0に出来る。
メリーさん迫真の頭脳プレイ。母親フォロー、幼女パイセンフォロー、家庭内環境の改善、三方よしの妙案だ。
「でも引っ越しの理由はどうするの?理由がなくない?」
雨女さんが口を挟むもしっかりと回答を用意しているらしい。
「離婚するしないに限らず、お金の問題は大きいと考えるわ。離婚するなら余計にね。だからこそ今のうちに貯金しておかなければいけないからそこを突くわ」
「でもそこにどうつなげる?極論アタシ等は部外者だ。どうやっても口利きまでもっていくことは難しいだろ」
「そこで貴女を使いたいのよ天鋼さん」
「わたしぃ?……あー、家庭内不和の弁護士ね。ん~、そうね。お母さんにも貴方の旦那さんはこういうことがあって話が進んでいますっていう連絡するからそれ繋がりかな?」
「えぇ、彼女はあくまで被害者。そのスタンスで助け船を出すことが出来れば……」
この場に居る全員は一先ず納得した。轟さんなどは他人の家庭事情に首突っ込むのもなと思い発言を控えていたが聞いてる限り不備はなさそうであった。
「んまぁ、とりあえず一旦訴訟進めるか」
「一旦、一旦ね?」
「つーかメリーおめー、いつまで帯電してんだよ」
「戻り方がわからない……どうすればいいの?」
「えぇ?雨女お前の領分じゃねぇの?」
「いや、雨降らせるのが仕事なんで帯電は領分じゃないっす」
「じゃあお前……お前……」
何度でも言うが怪異は結果が全てだ。結果の為ならしばしば過程が省略されるし、過程が省かれるということは原理や理由がわからないということだ。例えると数学において問題や途中式がなく答えだけを渡されるようなものだ。答えから問題を推理しなければいけない。勿論途中式もないのでまずどんな過程から出力されたかを考えなければいけない。
1+1は2であるが、2から1+1は容易に導き出せるし、4-2からも2は導き出せる。ヒントがない以上、その2がどのような過程から出力された2であるのかは誰もわからない。
「放置しかないか……」
「痺れとかないの?」
「人形に触覚もなにもないわ。でも体の中を何かが駆け巡っている感覚がするわね」
さて、話もまとまったところで家主を呼び出すべきだろう。自分の状態を一先ず放っておいてメリーさんは電話を掛ける……もつながらない。異界を跨ぐと電波が届かない事があるのは所謂チャンネルが違うからだ。かみ砕いて言うとラ〇ンでディ〇コに電話を掛けるようなものである。そもそもアプリケーションからして違う。
辻世界にでも居るのかなと思いつつ、異界用の通信に切り替えたメリーさんが再度電話を掛ける。一つか二つのコールの後、家主は出た。
「もしもし、今大丈夫かしら?」
「『あー、大丈夫ですよ。今、馬鹿魔女マヌケがピックアップガチャでSSR引いて率先してゴッドスレイヤー敢行しようとしてるだけなんで』」
「何の何の何?」
家主も家主で大分面白いことになっていた。