ホラー系の世界に転生したのにあまりにも怪異がカラっとしている 作:ない因習村:ふるさと納税の返礼品がPC
「白ワイン買わないとなぁ」
「おい高校生」
チョップを頭に食らう。いててと頭を押さえると後ろからぬっと現れたのは今日ウッキウキになる予定の狼男、ウルフリックの
「いやいや、ちょっと神様拾っちゃったのでお供えしないといけなくなったんですよ」
「神様ってそこら辺に落ちてるモンか……?」
「落ちてたんですもん。コンビニに売ってない地酒屋で買えるタイプの白ワインを要求されましたもん」
「要求が図々しいな」
「本当に」
昇降口から空を見上げると綺麗なまでの夕日が見える。俺は文芸部に所属していて、今先ほど部活動を終えたところだ。なんで文芸部か?図書室が部室になるので本読み放題だし、この世界はホラーの世界だ。対策しておかないと初見殺しで死ぬことになるので最も対処しやすい知識で対応しているというわけである。
夕日、夕暮れ、黄昏時。往々にしてそういう知識を得るとこの時間がとても危ない時間であることがわかるだろう。この世界でもそれは同じで、黄昏時は深夜に次いで危険な時間帯とされている。夜よりも怖いのが黄昏時だ。深夜はもっと怖いけど。
「どうする?送ってくか?」
「大丈夫ですよ。今日は満月ですよね?また学校集合で」
「おう、いつもわりぃな。死なずに来いよ」
「善処します」
猫又さんは早めにラーメンを食べに帰ってしまった。というより、俺が白ワインを買う予定が出来てしまったのでラーメンがおじゃんになったということだが。狼は陸上部の部活が丁度終わったところだが、家に帰ってもらって今夜の準備をしてもらいたい。ので、今日は久しく一人で帰ることになった。いつもは大体誰かと帰っている。
学校を出てから数歩、靴を半脱ぎにしながら折り畳み傘を取り出す。
「雨か天気か、雪霜か。あーした天気になあれ」
言いながら靴を放り投げて、それから折りたたみ傘を開く。靴は裏側……靴底を上にして落ちた。下駄占い、天気占いとも言われる遊びの一つだが、この世界では占い一つとっても特別な意味を持つ。それは今日の怪異を割り出す条件のあぶり出しだ。
傘もそうだ。開く。血の雨が降る事もなく、傘の中に硫黄の匂いもしない。
あしたというのは明日と勘違いされそうだが、これからのことを指している。あと前半の奴も確か奈良あたりの下駄占いの掛け声ね。ふむ、にしても結果が妙だな。靴を履き直しながら、後ろに居た狼に声を掛ける。
「天気が雨で傘に関係しない怪異って何かありました?」
「雨降り小僧……は傘被ってるな」
「水難系ですかね」
「水難系なら一番やべぇのは龍神だけどここら辺でそれはねぇだろ。花子姐さんが許してねぇ。花子姐さんが御せるレベルだな……あぁ、一番有名な奴がいたわ」
「なんです?」
「雨女……子供を狙う女の妖怪だぜ」
手を打つ。となると雨女の対策……対策……
「雨女に対策必要でしたっけ?」
「死ぬ気で逃げるか殺すかだな。俺達はまだまだ未成年、子供判定で捕まったら持ってかれんだろ」
「なら全力で逃げときます。ちょうど逃げ道に良い物をもらったので」
「あー、拾った神からの権能って奴か?」
「権能っていうほどのものでもないと思うんですけどね」
クンッ、と土と酸っぱい感じが入り混じった独特の匂いがあたりに充満する。あぁ、そろそろ時間らしい。空に夕暮れの朱い色が広がっていくのを確認した俺は靴が脱げないかどうか靴紐を改めて確認し、折り畳み傘のストラップを指に嵌めて手に持つと片手をあげて狼に挨拶した。
「じゃ、そろそろ行きます」
「おぅ。また夜な」
「はい、また夜に」
俺は駆けだした。夕暮れ時、逢魔が時、怪異活性化タイムの始まりである。
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夕暮れ時、逢魔が時、そういう時間というのは大体怪異が活性化する。妖怪然り、都市伝説然り、神様然りだ。昼と夜の境目の時間がそうさせるらしく、理性的な方の彼ら彼女らでさえこの時間はエキサイトするものだから、理性がないタイプの怪異はそれはもうひどいことになる。今日のエキサイト怪異は雨女だ。確か一度会った事がある。普段は結構理性的な人だったので多分ストレスか何かで悪化してるんだろう。
「血の雨が見えるなぁ。誰か抵抗して千切られたかな」
遠くで見える赤い雨から進行方向をズラしながら拾い物をしていく。数少ないホラー要素だと思うのだがまぁ好き好んで近づこうとは思わないし、それにこっちの方が儲かるのでこっち優先だ。俺は道端に落ちているガラクタをここぞとばかりに拾っていく。
この逢魔が時はちょっと特別で身も蓋もないことを言えば妖怪〇ォッチの鬼時間と一緒である。特定の人にしか入る事が出来ず、今日の鬼と言わんばかりに怪異が現れて皆殺しにせんとチェイスを開始する。大体リアルデッドバ〇デイライトだ。俺達は発電機の代わりに逢魔が時のこの謎空間みたいなところでしか拾えないガラクタを拾って換金し、時に襲い来る鬼から隠れて時間いっぱいまで逃げる。ちなみに逃げ口とかはない。逢魔が時が終わるまで生き残らなければいけないワケだ。
「おっ、ラッキー。肋骨だ」
換金できるところもランダム配置なので今日のキラー、雨女に見つからないように探さないといけない。面倒だが、そこでは日用品から呪具や護符、果ては家電なども売っているなんでもショップだ。そこで白ワインを買おうという魂胆である。
「頭蓋骨発見。今日は幸先良いなぁ」
俺は何故だか逢魔が時になるとそこら辺に転がり始める謎の壺や鍵、長方形の変な板、人骨を拾ったりする。人骨が一番レートが高いので見つけたら前者のどれかを捨ててでも持っていく必須品だ。俺は上あごと下あごを無理やり分離した頭部の人骨を学校のバッグにねじ込んでから移動を開始した。
「生き残れるかなぁ」
ぶっちゃけデスゲームも毎日やってると慣れるものだし、死にかけたことはあっても死んだことはない。いや、あったらダメなんだけど、幸いにも人にも怪異にも恵まれているので今の今まで死ぬことはなかったりする。
「辻ワープできるから多少生存力上がってると思うけどなぁ」
まぁぶっつけ本番の初使用なので一抹の不安はあるのだが、貰ったものは利用しないと意味がない。ので、俺は早々に拾うもの拾って辻ワールドに逃げることにした。
十字路を見つけ、その先を曲がる。曲がる瞬間、何かぬるりと粘度の高い壁を突き抜けるような変な感触を味わいながら、俺は辻ワールドに突入した。
「【やっほー、お邪魔してるよー】」
そこには道路のど真ん中で座布団を敷いてちゃぶ台でお茶をすすっている神様が居た。知り合いの疫病神さんである。電柱の陰で辻神さんがひっそりとこちらを伺っていた。貴方辻の主なんですから堂々としてくださいよ。