ホラー系の世界に転生したのにあまりにも怪異がカラっとしている 作:ない因習村:最近の流行に敏感
「てってっててーれって、て、てーて」
「捕まったら死の鬼ごっこ、始まるぞ!」
ボ〇兵の戦場feat.ベテラン幼女パイセンでお送りするはノロノロと起き上がってキラーとしての役目を思い出した雨女さんからの逃走劇だ。肩にベテラン幼女パイセンを担ぎ、幼女パイセンの指示を受けながらてってこ走っている。
「私担いでも、速い」
「この世界で筋トレを怠った人間は死あるのみですよ」
「それはそう」
この世界で霊的才能がある人間はフィジカルも鍛えないと駄目なのだ。なにせ怪異が霊的存在ならそれでいいが、雨女さんみたいに物理に干渉できるタイプであったり、単純にフィジカルで殺しに来る相手だったらオカルト研究部のフィジカルじゃ逃げ切れない。
それを証明するかの如く、うちの学校のオカルト研究部はオカルト研究部じゃない。その実態は筋トレ部だ。ムッキムキのマッチョが体を鍛えるついでに怪異の謎を解き明かすんだぞ。ナヨい奴が怪異に関わっても死ぬしかないから結果的に生き残れるマッチョしか残らなかったオカルト研究部だぞ。
そんなオカルト研究部に関わらずとも俺は俺で筋トレを欠かしたことはない。この黄昏れデッドバ〇デイライトに弱者はいらない……生き残れるのは知恵と筋肉、つまり脳筋あるもののみだ。
その理論で言うとベテラン幼女パイセンはフィジカルの塊ということになるのだが、幼女にしては驚異的な運動能力を持っているし、それに怪異に対する知識と対応がえげつない。本人はオカルトが好きだからとか言ってたが……多分この世界の主人公は幼女パイセンだろう。あの夜を幼女がお散歩()するゲームの主人公かと思ったが、これあれだ。後日談だ。
「うん、追いかけてきてる」
風に髪をなびかせながら後ろをむっつりとした表情で見つめる幼女パイセン。
「なんとかできます?」
「出来なくはない」
速度自体は並……つまりつかず離れずの距離であり、血の雨に触れると酸に触れたように溶けてしまう。
「でも、傘は溶けなかった。おそらく合羽も。雨を防ぐものがあれば血の雨に害はない」
「傘はありますが……掴まれたら死にますね。血の雨塗れですし」
「うん、できれば合羽が欲しいけど……多分撃退ならできる」
そう言って幼女パイセンがランドセルを俺の顔の横に回す。首を思いっきり右に傾けられる。痛いが、まぁコラテラルダメージだ。
「んー、あ、あった。河童の発明品:けー」
「けー」
「うん、なんか小文字のkが斜めになってる奴」
「ギリシャ文字のκですね。カッパと読みます」
「ふーん、河童さんが言ってたのは長かったよ?確か……かっぱと発音してください?」
「多分kaapaかな……芥川ですね。有名な小説の一節でしょう。それを河童本人が名付けるセンス。効果はいかほどで?」
「河童の皿を展開するんだって」
そういってぽいっと軽い拍子に投げられる。それは手のひらサイズに収まる白い紙皿のようなものだった。それが一瞬にして空中で展開、人一人の雨なら防げるサイズにまで膨れ上がると、それが血の雨をまるでダイ〇ンのように吸収していく。
「河童のお皿はいっぱい水を吸い込めるんだって。効くかなって思ったけどバッチリ」
「多分天敵でしょうねぇ。見てくださいよあの吸引力」
「吸引力の変わらないただ一つの皿」
「空中浮遊出来るルンバ型モップみたいですね」
血の雨を吸われた雨女はそのまま全身に滴っていた鮮血さえルンバ型モップに吸われていく。あとずっと気になってたけど、なんで掃除機の駆動音みたいな音がずっと鳴ってんだろ。あのギュィーンって音ね。音と相まって本当に掃除機を掛けているみたいだった。
そして雨女さんはキラー側だというのにものすごい引き攣った顔をして襲い来るルンバ型吸血モップに反応。即座にハイキックを繰り出すと、蹴り飛ばした勢いそのままに空中を半回転し、背中を向けて脱兎のごとく駆け出した。
「おぉ、さすがセパタクロー部。動きが俊敏ですね」
「あんなに動ける人になりたい」
「いつかなれますよ、幼女パイセンなら」
「うん、なる」
そのまま逆・捕まったら死の鬼ごっこが開催されたのを見送ったのち、俺は幼女パイセンを降ろした。
「なんとかなったっぽいので人骨拾いながらいきましょうか」
「人骨重いし嵩張る」
「持ってあげますから」
俺達は人骨収集に精を出し、そして換金ショップにたどり着いた。
──────────
そこは場違いなほどだった。扉サイズの赤い鳥居とその下に座り、風呂敷に様々な品物を広げるコスプレ染みた女性がいる。狐耳が特徴的。
「あんれまぁ、らっしゃい~」
「お邪魔します。お稲荷さん」
「お稲荷さん、こんにちは」
「お嬢ちゃんもよーきたねぇ。あぁ、話は聞いとるよ。難儀なものに絡まれたねぇ」
「意外に便利ですし、生き残る為ですから」
「結構便利」
「それならぁ、よかったわぁ」
このホンワカ雰囲気な方はお稲荷さん、またの名をお稲荷様。怪異蔓延る黄昏時、深夜時で商売をしているお狐様である。見た目は狐耳が生えたお姉さんだ。服はその時々によって違う。今日は作務衣だった。
「何か作業をされていたんですか?」
「うーん?あぁ~、頭蓋が集まってきたから数珠にするんよぉ。でもあと一個足りんくてなぁ」
可愛い見た目と口調に反して人骨を収集して加工する結構ヤバイ御仁でもある。供養らしいが嬉々としてこの大腿骨は太ましくていいというような発言を聞いているとなんとなく怖さがある。かじりつきたくなるんだとか。イヌ科のサガ?
「でしたらこちらを。拾いたてホヤホヤです」
「あんれまぁ、ありがとうなぁ。ほんに感謝やわぁ。あぁ対価はどうするぅん?お金にしとく~?」
「でしたら白ワインと麦焼酎……あと辻神様が借金している方が好みそうなお酒と後適当なおつまみ、残りは辻神様の借金返済に回してください」
「あいよぉ~。辻のはなんもかんも一人でしようとするから首が回らなくなったのにねぇ」
「お知り合いでしたか」
「大体の神様は知り合いよぉ。最近生まれた子はあんまりだけどねぇ。辻のはほんに不器用なんよ」
「あ、長くなりそうなのはカットで」
「カットされちゃったわぁ」
あらあらうふふと笑うが中身はとんでもないお年を召しているので話が長い長い。一回、何処まで続くのか気になって聞き続けたら深夜を越えて、朝になっても続いたからな。一か所にとどまると怪異が寄ってくるもんだから死ぬ気のその場鬼ごっこしながら聞き終えたんだぞ。
「それにしてもぉ、君はやっぱり変な匂いがするねぇ」
「やっぱりしますか」
ちょくちょく言われるのだ。多分転生したからだと思う。神様的には知らない家の匂いなりなんなりが見えるらしい。でも国内……日本的なものは同じだからそんなこともあるんだろうとスルーされたりしている。一部以外。
「知らない神様の匂い……でもたぶんきっとこっちの神様ねぇ。ダブル檸檬の匂いがするもの~。ひとさまの前でダブル檸檬の匂いを付けて降臨するのは日本くらいだものねぇ」
「俺が信仰している神様の匂いはダブル檸檬の匂いだったのか……ダブル檸檬ならいいか」
ダブル檸檬なら仕方ない。それに俺の特技を褒めてくれたのだ。結構何気に嬉しかったりする。
「俺が信仰している神様は俺の特技を褒めてくれたんです。人類の珍宝だと」
「ちんぽ?」
「ちんぽう」
「ちんぽの古語かしらぁ?」
「ちんぽの古語ですね」
「ちんぽの、古語」
あぁいけない、幼女パイセンが変な言葉を覚えてしまった。
「ちなみにどんな特技かしらぁ?」
「蝉の鳴真似です」
「せみのなきまね」
「では、クマゼミファイナル……シュワシュワシュワシュワシュワ……ジジッ、ビビビビビッビビッビビビ、ジジッ」
「死にかけのクマゼミやわぁ。どこから羽が擦れる音出してるんやろか」
「上手い。ベランダで転がってた蝉がちょうどこんな感じに鳴いてた」
評判は上々だった。これ一本で食っていこうかな。