ホラー系の世界に転生したのにあまりにも怪異がカラっとしている 作:ない因習村:コミケに村全体で参加
「では。返済の方、すみませんがお手伝いお願いします」
「先生だし、良いよ。また水曜日に」
「はい、水曜日に」
俺達は無事黄昏時を抜けることが出来た。ベテラン幼女パイセンとの関係は一口に言えば家庭教師と生徒の関係である。お金?幼女パイセンから?いやいや……幼女パイセンは基本的に怪異強しのこの世界で怪異キラーの大ベテランだ。そんなお方からお金なんて取れるわけがない。逆にこっちが払いたいくらいだ。まぁ家庭教師という体で払っているんだが。
幼女パイセンは英語が本当に壊滅的なので親御さんとしても俺の怪しさを差し引いたとしても家庭教師は願ったり叶ったりだそうだ。知らない男子高校生に無償で家庭教師をやると言われて怪しみながらも受け入れる度量があるほど幼女パイセンの親御さんは大らか。だが、幼女パイセンの英語力が本当にどうにもならないレベルだったから多少の怪しさを飲み込むことが出来たとも言える。
まず発音が壊滅的だ。例えばリンゴがりんごぉとどこかの時間を6秒巻き戻せそうな人の名前みたいになる。バナナはばなななぁと「な」が一つ多いし、DOGに関してはドクだ。どこぞのドクターだよ。別の意味でネイティブじゃん。
書くことに関しても並々ならぬ怒りを抱えており、発音しない文字に中指を立てている。例えば、knockやknightといった「k」だ。アレが気に入らないらしい。
そんな英語に悪戦苦闘する幼女パイセンに辻神様の借金を重ねてお願いする。幼女に借金の連帯保証人になってもらうという字面のパワーと情けなさはあまりにもあんまりだが、それでも幼女パイセンはベテランだ。お散歩するように夜の街を徘徊して大量の人骨を収集するだろう。あとよくわからない拾い物も。
とりあえずどでかい借金返済相手を確保できたので首尾は上々。あとめぼしい人に声を掛けて連帯保証人を増やしていこう。こういうとホントにカスなのだが実態もカスなのでやはりカスだ。カスの皮を被ったカスなのでカスのマトリョーシカとも言える。
家に帰り、とりあえずお供えする。神棚にずらずらと並ぶお酒とおつまみ、宴会かな?と思った瞬間、眩い光がカッと視界をジャックした後、神棚に置いたお酒とおつまみが消えて手紙が一つ置いてあった。
開いてみる。……読めない。また古語だ。本格的に猫又さんから古語の勉強した方が良いだろうか。俺が知っている古語なんてほんとに一部だ。珍宝とか。
「『うぅ……ウンチ出るにゃぁぁあ……身体の水分全部持ってかれるにゃぁ……』」
「あ、帰ってたんですね」
猫が喧嘩する時のような唸り声をあげりながら必死にトイレで格闘している猫又さんの声をBGMにスマホで手紙の写真を撮り、猫又さんに送る。
「『なんにゃあ……あぁ、水ー!水をー!あとトイレットペーパーくれー!紙がないままずっとトイレに閉じ込められてたー!』」
「語尾が消え去る程助けてを欲していたんですね。はいはい……『今持っていきますー』」
「『助かるー!』」
ペットボトル二本とトイペを抱えてベランダから猫又さん家に侵入する。基本的にこのアパートで住人同士が交流する時はベランダを経由することがマストになっている。なぜか?玄関からアパートの住人を装ってくる怪異が多いからだ。特にこのアパートの住人は怪異が多いので騙り易いし、雨女さんみたいにエキサイトすることがあるので、玄関から訪ねてくる場合は理性がない時が多い。理性がないと言っても熱に浮かされた感じなので、ベランダから来ようとしても転落するのだ。ふらついた状態で敷居を跨げるほどヤワなベランダしてないというわけである。
とりあえず猫又さんのプライバシーに関わるのであまり部屋の中を直視しないようにしてトイレの前に水とトイペを置くとサッと扉が一瞬開いて消える。中からふぅっと一息ついた声がしたのち、ぴろんとメッセージが飛んだ。
『助かったにゃ。でも恥ずかしいから早く部屋に戻るにゃ』
「トイレを実況する貴女が言うんですか」
『それはそれ、これはこれにゃ』
「まぁ、はい。さっき送った手紙の翻訳お願いしますね」
『これくらい簡単にゃ。ドパガキ向けに圧縮するとお礼の手紙にゃ。供物は神々に届いたらしいにゃ。次はチョコとかお菓子系のおつまみが欲しいって言ってるにゃ。あと暇つぶし用のゲーム機も欲しいって言ってるにゃ。最新機種のヤツでマ〇パと桃〇郎電鉄も合わせて欲しいにゃ。これは借金とは別枠で捧げてくれたらいい感じに良いことがあるらしいにゃ』
「要求が具体的なくせに報酬が抽象的」
「『でもそう書いてあるにゃ。でも優先はお酒らしいにゃ。』」
「はぁ、まぁお酒優先で余裕が出来たら奉納します」
「『それがいいにゃ。最後に忠告があるにゃ。辻神がアンタに触れたことでアンタッチャブルが解禁されたにゃ。多分、これからどんどん神様が絡んでくるらしいにゃ』」
「最悪すぎますね。というかアンタッチャブルだったんですか」
「『んー、本当にこう書いてあるからそのまま訳すと【触らぬ神に祟りなし】みたいなノリだったにゃ。でも辻が触れちゃったので【あ、触って良いんだ。じゃあ俺も俺も~】みたいな感じらしいにゃ』」
「神が触らぬ祟りって言ってるのなんか面白いですね。あとノリが軽い」
「『借金返せるまではあんまり関わってこないらしいけど、逆に借金関係者が興味持ってるらしいにゃ。気を付けてね~by疫病神ってあるにゃ』」
「悪神がですか……。はい、まぁ、頑張ります」
「『じゃ、私は最後の一欠けらまで絞り出すからさっさと出ていくにゃ』」
「汚い表現やめてくださいよ……女の子でしょうに……あ、子ではないか」
「コロスゾ」
「ごめんなさい」
ひえっ、今までチャットだったのに急に声出さないで……。女の“子”問題は触れてはいけないアンタッチャブルだということを身に染みて理解した俺はそそくさとベランダから自分の部屋に戻るのだった。女性のドスの効いた声怖すぎ。
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「レッチェゴー」
マ〇オの掛け声を真似しながらくり出すは深夜徘徊。ベランダから抜け出し、学校へと向かう。今は午後11時。多分恐らく十中八九きっとメイビー、怪異が襲い掛かってくるだろう。夜の怪異はある意味黄昏時よりも恐ろしかったりする。なにせ夜は彼ら彼女らのホームグラウンドだ。やろうと思えば誘拐殺し、何でもござれ。
まぁ理性的といえば理性的なので黄昏時よりはマシの時もある。黄昏時が酒に酔った状態なら夜は仕事の時間だ。人を襲うことが業務なので基本的に危ないは危ないが話は通じたりする。交渉が出来る。
さて……
テンテンテンテンテーン……テンテンテンテンテーン……
スマホが鳴っている。電話だ。相手は非通知。基本的に取らない方が良いのだが……取らないことで殺しに来る怪異の線もある。電話してくる怪異はいくつか思い浮かぶが、電話を取ってすぐに殺しに来るタイプの怪異は居なかったはず……どれも段階を踏むはずだ。
俺は意を決して取ってみることにした。
「……もしもし」
「『私、メリーさん。今、ゴミ捨て場を抜けて、郵便局を曲がって少し進んだ先のアパートの貴方の部屋の中にいるの。なんで居ないの?』」
「全部ワンコールで……?」
「『いちいち電話を切ったりするのはタイパが悪いわ』」
「ドパガキのメリーさんだ」
「『で、なんで居ないの?せっかく私が来てあげたのに。あと隣人のウンコ実況がうるさいんだけれど』」
「あ、まだトイレ引きこもってるんですね。隣人の猫又さんです。今日はほら、満月なので学校で花子姐さんのところに行くんですよ」
「『あ、やべ。忘れてたわ。私、メリーさん、今貴方と一緒に花子姐さんに挨拶に向かうわ。今どこ?』」
「えっと、アパートのベランダから出た裏道を抜けて、通りに出たところを右に曲がって、直進。二番目の横断歩道を左に曲がったところ。電柱の下に居ます」
「『電話切るの面倒だし繋ぎっぱにするわね。私メリーさん、今そちらに向かっているわ』」
「じゃあちょっと待ってますね。お土産にハー〇ンダッツ買ってあるんですけど、花子姐さん用のイチゴ以外のバニラとチョコとマカデミアナッツ、どれがいいですか?」
「『マカデミアナッツを所望するわ』」
「はーい、じゃ、待ってますね」