石炭時代の終りと淑女   作:小沼高希

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質量二の水質同位体 4

 大陸帝国(コンチネンタル)のほうから物理学の論文がやってきた。最近は中性子(ニュートラオン)が流行らしい。彼らは中性小体(コープュスキュル・ヌートル)とまず最初に定義してから、以降はさらりと中性子(ニュートラオン)と呼んでいる。最初から共通語(ウルガー)使うなら全部それで通せよ、その対立のせいで語釈共通化委員会が死ぬほど大変なことになっているんだよ。

 

 大陸帝国(コンチネンタル)が成立するに至った革命と動乱の後、かの地は単位の統一に乗り出した。彼らはどういうわけか人間の指の本数という偶然と進化によって決まったものに対して偏執的なまでの盲信を抱いており、それを理性と勘違いしているようだ。一方我らが共同連邦(コモンウェルス)は子供でも素因数分解ができると知性を信じ、便利であるとして十二–二十進法を通貨に採用した。人間の知性はあまねく遍在するものであるようだ。

 

 そしてその過程で、厚かましくも彼らは世界各国に対して単位系を統一しようと言い出した。かくして、外交的奇跡としか呼べない何かのせいで、世界の全ての文明国がその単位系を採用したのである。何回か改正されているし、今から考えれば馬鹿みたいな定義の単位もあったのだが。

 

 例えば1百分温度(センチグラード)は当初標準気圧下における水の融点を0、沸点を100とした単位として決定された。かつ、標準気圧は北緯四十五度、海面高度における一年を通した平均値として定められた。このために大陸帝国(コンチネンタル)連合議会(コングレス)、そしてこの緯線が通る地域が協力して測定を数年間に渡って行った。共同連邦(コモンウェルス)ですか? 領土がないので測定機器の精度向上で貢献したということになっています。

 

 とはいえこれでは良くない、もっとちゃんとした圧力を既に定められている単位を元に決めよう、となるわけである。かくして標準気圧は百分温度(センチグラード)で0度の時に、10.4単位長(メンスーロ)の液体水柱が与える圧力として定義されることになる。よかった。

 

 では単位長(メンスーロ)の定義を見よう。北緯四十五度、海面高度、真空中、百分温度(センチグラード)で0度、半周期が1秒となる振り子の長さとなっている。おや、標準気圧の時にもそうだったが百分温度(センチグラード)なる単位がでてきてしまった。これでは基準がなくなってしまう。

 

 ここで二つの対立が起きた。一つはそもそも振り子は真空中であれば温度に関係なく揺れるのであるから温度の定義を消そうというもの。もう一つは単純な振り子ではなく実際の精密測定結果の外挿として基準値を得ているのだから互換性を担保せよというもの。そして彼らは水の三重点を百分温度(センチグラード)の0基準にするという改定によってこの矛盾を解決した。微妙な温度変化があったがそれを専門としている人以外は困らないし、そういう専門家は誰もこの単位系の持続性を信じていなかったので独自の方法で測定記録を残していたため、誰も困ることはなかった。

 

 とまあそんな感じでできた国際会議の後継が螺子の規格だの紙の大きさだの用語だのを決めているのだ。なんと素晴らしいことに弾薬も砲弾も規格化されているので、南方では現地勢力が共同連邦(コモンウェルス)の銃に大陸帝国(コンチネンタル)の照準器をつけて、連合議会(コングレス)の弾薬を撃っているのである。

 

「うっげ」

 

 そんなどうでもいいことを講義風に思い出しながら該当の頁をめくっていると、私の手元を覗き込んできたフィーマが嫌そうな顔をしてきた。

 

「見なければいいのに」

 

 屋根裏部屋で気灯の下のんびりと寝る前に読む論文というのはなかなかいいものなのに、寝間着姿のフィーマはそうではないらしい。

 

「いやまあ気になって……微小振動力学ですか?」

 

「それを使って水質(ワータシャフト)核と中性子(ニュートラオン)の結合を説明しようとしている意欲作ね」

 

 微小振動力学は電子の振る舞いについての最有力の解釈の一つ、というかそうでもしないと電子の振る舞いを説明できないとして消去法で選ばれた理論である。運動量の離散性仮定は日質(サンシャフト)の分光像分析で倒れ、ではそれをどうにかしようとした式を真面目に見ると電子は光媒質(エーテル)熱で振動しているんじゃないか、という理論になってしまったのである。

 

 もちろんそのような振動を引き起こすのは熱ではない、という微視熱力学からの批判はすぐにやってきた。数学的にも弾性論だの音響学の変分法の手口を山程取り込んだ代物になった。とはいえ、それはかなり良く各種の分光像を再現できてしまう模型だったのだ。私が大学で物理をやっていたときには、学友たちとこの手の議論で盛り上がったものだ。

 

 そして数学的邪道が詰め込まれたこの理論は、一旦波動形式に変換して計算をしやすくしてから戻すみたいな奇妙な手法が必要で実に面倒である。いやまあ工学においてそういう方法は王道であるし、大学時代に物理を教えてくれた教授の一人はそのあたりの裏付けをした人なのであるが。だからといって演算子法の未解決の問題の証明を宿題にするな。できたやつはあの時二人だけだったぞ。私は全く別方向に進んで結局駄目でした。

 

「……いやこれ相当難しいことしているわね」

 

 そう呟きながら私は頁をめくる。積み上げられる無茶な仮定。引用されているのは機械振動の共鳴の論文だろうか? 座標軸上で取られた電子位置から導かれる確率模型。このあたりは運算機関(レックニングエンジン)の部品精度と計算結果の解釈のあたりで磨かれた系譜だ。

 

 そして相関によって生まれる作用を電気力学的な点と点の問題に変換する。放射線(アウトビーム)が説明できるように、知られている核の大きさに合わせてその引力の有効範囲を決める。一定以上離れると距離の七乗に反比例した引力になる、ね。

 

「私でも読めると思いますか?」

 

 フィーマが聞いてきた。ひとまず最後まで目を通してしまおう。やろうとしていることは原子核の安定性を水質(ワータシャフト)核と中性子(ニュートラオン)の数から示すもので、根拠になっている研究自体は見たことがあるものが多い。式の変形の詳しい部分はともかく、やっていること自体は追える。

 

「……数学的な道具がいくつか必要。たぶん屋敷にあるけど、なければ参考書として買う」

 

「わかりました。今後そういう論文の翻訳を口述筆記させられるなら、最低限そのあたりは知らないといけないので」

 

 フィーマはそう言って、私に早く寝るように手で促した。はいはい。どうせこういう内容だって、一年か二年もすれば冬の講演会で扱われるようないい比喩をもった模型に調整されるか、あるいは致命的な計算間違いが見つかったり実験との食い違いが起きて悲惨なことになるのである。それを見るのもまた楽しい、というのはあまり良くない観客としての態度だろう。




Ähnlich wird die Wechselwirkung zweier Neutronen durch eine Wechselwirkungsenergie $-K(r)$ beschrieben werden, wobei man wegen der Analogie zum H2-Molekül annehmen kann, daß diese Energie zu einer Anziehungskraft zwischen den Neutronen führt2). Endlich bezeichnen wir den Massendefekt des Neutrons relativ zum Proton (im Energiemaß) mit $D$. Es wird nun weiter angenommen, daß außer den durch die Funktionen $J(r)$ und $K(r)$ gegebenen Kraftwirkungen und der Coulombschen Abstoßung $e^2/r$ zwischen je zwei Protonen keine merklichen Kraftwirkungen zwischen den Bausteinen des Kerns auftreten sollen. Ferner sollen alle relativistischen Effekte, also auch die Wechselwirkung zwischen Spin und Bahn vernachlässigt werden. Über die Funktionen $J(r)$ und $K(r)$ lassen sich nur einige ganz allgemeine Aussagen machen. Man wird vermuten, daß sie in Bereichen der Ordnung 10-13 cm mit wachsendem $r$ rasch nach Null absinken. Ferner soll in Analogie zu den Molekülen angenommen werden, daß für normale Werte von $r$ die Funktion $J(r)$ größer ist als $K(r)$; diese Annahme erweist sich später als wichtig. Der Massendefekt $D$ des Neutrons dürfte klein gegen die gewöhnlichen Massendefekte der Elemente sein.

同様に、二つの中性子の相互作用は相互作用エネルギー $-K(r)$ によって記述されることになるが、ここで H2 分子との類推から、このエネルギーは中性子間の引力をもたらすものと仮定することができる2)。ついで、陽子に対する中性子の質量欠損(エネルギー単位で)を $D$ で表す。ここで関数 $J(r)$ および $K(r)$ によって与えられる力作用、ならびに二つの陽子の各々の間におけるCoulomb反発力 $e^2/r$ の他は、核の構成要素間にはいかなる顕著な力作用も生じないものと仮定される。さらに、全ての相対論的効果、すなわちスピンと軌道との間の相互作用も無視されるものとする。関数 $J(r)$ および $K(r)$ については、ただいくつかごく一般的なことを述べることのみができる。これらは、10-13 cm 程度の領域において、$r$ の増大とともに急速に零へ低下すると推測される。さらに、分子との類推において $r$ の通常の値に対しては関数 $J(r)$ は $K(r)$ より大きいものと仮定されるものとする; この仮定は、後に重要であることがわかる。中性子の質量欠損 $D$ は、元素における通常の質量欠損に比べて小さいはずである。

2) Für den Hinweis hierauf und für manche anderen wertvollen Diskussionen möchte ich Herrn W. Pauli herzlich danken.

2) この点に関するご指摘に対して、ならびに他の多くの有益な議論に対して、私はW. Pauli氏に心より感謝申し上げたい。

HEISENBERG, Werner. Über den bau der atomkerne. i. Zeitschrift für Physik, 1932, 77.1: 1-11.
ヴェルナー・ハイゼンベルク『原子核の構造について I』、1932年
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