「うーん」
フィーマは丁寧に書かれた数式を見て唸っている。梯積と極積の和として表される幾何積は慣れるとかなり自由に流体力学だの波動だのを操れる便利な代物で、あとはこれと数式集を使えば計算をするだけなら結構なんとかなるというのはいいものだ。まあ
「納得できない?」
「まあ記号を動かしただけですからね、これで理解できたっていうなら
「そろそろ労働運動とか起こしそうね。やっぱり保険会社の
「機械と人間の連帯はいいものですが、本題に戻らせてください」
そう言って、フィーマは数式を指でなぞる。
「はい」
「……思ったより、微小振動力学って簡単に導出できるんですね」
「基本的には熱とか、あるいは水に落としたインクと同じ。熱いところから冷たいところへ、濃いところから薄いところへ。水溶液では浸透圧と呼ばれる圧力が、電子のまわりに発生する。そして定常状態ではそれを押し留める圧力もある。実際にはそれは
「あーなんでしたっけ、部品の故障とかを見るやつ」
「そう。誤差とかの話でもあるのだけれど」
例えば部品を加工する時、成果物の長さは最初に設定した状態から振動などによって微妙に長くなったり短くなったりしながら乱雑に変動する。その上で長さの変化が複雑な関数として製品の品質に出てくる際に、どのような影響が高次項として出るのかみたいな理論がある。平均値の移動だけではなく変動部分の二乗が効いてくるのだ。確率積分というのはそういった方面から発展して、そしてどうしても乱雑性が入るために数学の方からは工学扱いされている分野である。
半世紀ちょっと前、
しかし彼らがもたらしたものは大きい。博徒と
そしてその頃に積み重ねられ、
「で、あくまで勾配であるから渦ができなくて極積項はない。あとは展開して、
フィーマは疲れたような声で言う。この理論を数時間格闘しただけで追いつけるのはしっかりと基礎がある証拠だと思う。
「簡単でしょう?」
「全部誘導されてですからね」
「まあ私だって発明したわけではないから」
「……理解ではなく雰囲気を掴むため、と割り切っているので進めますよ」
フィーマはちょっと不機嫌に言う。理解できているならいいじゃないかと思うのだがね。
「ところでこの密度ってなんなんですか? 浸透速度が確率に依存するみたいなことが書かれてますけど、電子はあくまで一つであって、
そう問いかけるフィーマに私は深く頷く。
「よくわからないのよね。粒子が波に乗っているのだとか、あるいは本質は孤立波なのだとか。まあ
「……つまり分光像からわかるのは式の形だけで、その式が
「そういうこと。そもそもこれを密度とか波の媒質と見なすのはあくまで便宜である、という解釈が有力だけれどもね。そのあたりを勘違いしないように」
「はーい」
フィーマは良く理解してくれる子だ。とはいえ、これも一般的な物理学の話をある程度知っているからかもしれない。多くの
「そしてこれを波動の媒質と見なすと波長が短いほど速く進む波になる。そもそも確率は媒質にならないから波にならないとかは言わないようにね」
「わかりましたって」
「で、二つの
「……これが、
「にしてはおかしいのよね、そもそも電子がこうやってやり取りされていて
「あー、濃いところから薄いところに行こうとするから、一箇所に閉じ込めると出ようとして暴れるんですか?」
「あくまで数式上はそういうこと。逆に暴れさせないならどこにいるかわからなくなる。揺れる汽車の中で精密測定ができないのと同じで、
「えーそうなるとあれですか、電子で説明できるものとは桁違いの力が必要で……」
そう言いながらフィーマは数式を追いかける。亜光速補正で熱量を抱えて有効質量の増えた電子とかであればいけないかな、と思ったがうまくいきそうにないな。ともかく変数が多すぎるので、今は理論をこねるよりも着実な実験を積むべき段階なのだろう。
幾何学的代数の主たる分類は、奇数次元のものと偶数次元のものとへの分類である。$n$ 次元の楕円空間の幾何は、$n+1$ 次元の平坦空間または放物的空間において無限遠にある点の幾何と同一であり、前者における点と
CLIFFORD, Professor. Applications of Grassmann's extensive algebra. American Journal of Mathematics, 1878, 1.4: 350-358.
ウィリアム・キングドン・クリフォード『Grassmannの拡張代数の応用』、1878