「だからね、きちんと電気の話をしたいんだよ。今年の冬の講演の担当者は私だからね」
冬の講演は
そして総帥の話は退屈なわけでもないし面白いし体感としては一瞬なのだが、時計の針だけが動くのだ。もう二時間近く会話しているな。おそらく亜光速運動の過程であらゆる反応が遅延するせいだろう。物理学者の多くはこれこそが物理的相互作用と反応の基盤となる
どっちにしろ話は成立するし、なら今まで培われてきた
「
「そうなんだよ、どれだけの人が日頃から電気の恩恵を受けているか、自分たちが交換している電池がどう作られているか、認識していないんだ。だから電磁石が弁を動かすことを理解しても、機械が交代電圧を作ることを奇妙がる。結果として冶金学で先行しても大量生産では
「……散々試みられて、ほぼ成功していない分野ですからね、あそこ」
電気静力学と電気動力学の話だ。摩擦によって電荷を作る方法は発展しているが、電気動力学的に電圧を作り出す試みで実用的に成功したものはない。電圧から動力を、あるいは磁石の運動から電圧を作ることはできるが、それらはあくまで撃力的なものに過ぎない。通信には使えるが、動力とか電解には使えないのだ。
「詐欺事件にまで発展したのがこの分野の痛手だったね。ミス・バクスターは知っているかい?」
「生まれる前の話ですよ、概要ぐらいは知っていますが」
動力には石炭が必要だ。ああ待ってください、確かに例外は多くあります。まず水車と風車。畜力でもいい。あるいは小型のものであれば帯電した金属箔の小さな羽根車みたいなものが回る実験はありますし、光圧もあります。電圧だって電磁石を動かせる。はい。そうじゃなくて、実用的な範囲で、大規模に、工場の動力になるぐらいで、という話だ。
だからこそ、新しい種類の動力を見つけることができれば大成功できるのだ。この点において一番代替動力として確立されているのは石油と石気だろう。石炭と比べて液体や気体なので扱いやすく、かつ熱源と膨張体を共有できる機関を作れるという利点もある。つまり蒸気機関では石炭で熱を作り、お湯を沸かし、羽根車を回すか圧力を作る。一方、石油や石気はそれ自体を燃やし、圧力を作り出すということができるのだ。
もちろん自明な問題として内部が汚れるというものがある。圧力が逃げない精巧な機構において煤は天敵であるが、その機構の中で燃料を燃やせば煤は避けられない。なので熱源とその後の機構を切り離した方が安定性が高い、ということになっているのだ。
そしてこの種の新しい動力として、電気が名乗りを上げた。回転しながら配線を切り替え、電磁石を回転部分と外側で組み合わせるもの。各地で行われた実演には多くの人が押し寄せ、大規模な投資も集まった。そして少なくない人が再現を試みて、失敗した。
複雑な機構。摩耗する金属。やり方が悪いからだとのみ主張する発明者。消費される電池と出力の熱量が合わないこと。隠されていた圧縮空気の配管。そして失踪と大捜索と懸賞金と遺体発見。かくしてかなりの額を持っていかれた議員が「科学への信頼を担保するため」として提出した「永久機関」と「動力式定電圧製造装置」を特許として受理しないようにするための暫定措置が議会において通過し、それは今なお残っているのである。
「長いな」
まあそんなことを口頭試問で答えると総帥から怒られるわけである。仕方ないだろ考えながら語るのは難しいのだ。事前に原稿を練って秋のうちには完成させてきちんと舞台演出家の監修つけて小道具や大道具を揃えて講演会直後にその話した内容の本を売るみたいな商魂たくましいところとは違うんだよ。
「これでも理論を削ったんですよ?」
「わかるがな。それに、熱量保存について解決できない問題があるだろう?」
「……第二種
「そうだ。あれで熱量がどこかに消えるのなら、熱量を逆に生み出すことができるのでは、という話は当然ある」
第二種
「
「素晴らしい仮説だな。核内では熱量保存が起こらないというのと同じぐらい実にいい理論だ」
そう言って私たちは笑い、溜息を吐いた。本当によくわからない現象についてはどうしようもないのだ。霧箱を持った愛好家たちがこの種の正体不明の粒子を探そうとしているようだが、そのあたりの噂話はこちらには流れてこない。
「……話を戻して電気の実演となるとあれですか? 摩擦電圧発生装置で派手な雷を見せるか、あるいは交代電圧発生装置を持ってきて電気炉の実演でもします?
「子供は喜ぶんだがなぁ」
総帥はぼやく。まあ、見てわかりやすいからな。とはいえ総帥はそういうものに頼らず、もう少し地味な語りと着実な演出でかなり難しいことができるんだからそれでいいじゃないか。最近は行ってないが、今年の冬は顔を出してみてもいいかもな。
現在では、動力が利用可能な場所であればどこでも、安価かつ簡便に、制限なく強い電流を発生させる手段がに技術与えられている。この事実は、技術のさまざまな分野において極めて重要な意味を持つことになるだろう。
SIEMENS, Werner. Über die Umwandlung von Arbeitskraft in electrischen Strom ohne Anwendung permanenter Magnete. Monatsberichte der Königlichen Preußischen Akademie der Wissenschaften zu Berlin, 1867, S. 54–58.
ヴェルナー・ジーメンス『永久磁石を用いずに動力を電流に変換することについて』、ベルリン王立プロイセン科学アカデミー月報、1867年