核物理学国際集成なる代物の第一号が創刊された。面倒なので普段は
巻頭の辞とかそういう贅沢なものはない。あくまで本当に表題と要約をまとめただけ、というものである。そしてそれを送り、半月もしないうちにあちこちから返信がやって来た。
「お疲れのようですな」
ラドウィックが手紙と写真に埋もれた私を見て言う。
「帰ってからの荷物整理は終わったの、ラドウィック」
「ええ。向こうの情勢も色々と掴みました。今後出かけることも増えるかもしれませんが、ご容赦を」
「いいわよ、必要なら掃除を減らすだけだから」
この屋敷の清掃は、たぶんあともう数段階減らすことはできる。そうすると誰かを招いた時に清潔ではないことが見られてしまうかもしれないが、逆に言えば問題はそれぐらいである。ここに直接訪ねてくる無礼者はそうそういないだろう。総帥が例外なだけだ。
総帥が来たのはもう二年も前になるが、あれ以降まともな客は来ていない。フィーマが本を貸すためにちょっと人を入れているような気配もするがまあそれぐらいは見逃すとしよう。一般的にこういうのを咎めるのが女主人の責務らしいとものの本には書いてあったが、この屋敷には女主人がいないので仕方がない。私は同僚を密告するような人物ではないのだ。
「……対応の重要度別に分類し、順番に片付けていくことをおすすめします」
ラドウィックが言う。なるほど、この手の書類整理の基本だろう。問題はその基本というのはある程度の事務作業の力量が求められるということであり、私はそれを見様見真似でしか学んでいないということなのだ。フィーマに頼んでこの種の秘書用の教科書でも買ってもらおうかな。
「整理をするのにかかる時間がそれなりに必要なのでは?」
「一度体制を整えれば問題ありません。数学的に効率的な分類についてミセス・ブラッケンにお聞きください」
「ああ、一応何かあったわね……」
条件付き最大値問題とかの類だろうか。産業効率で最適な状態を作るために
「……それで、集まってきたものの中に興味深いものはありました?」
ラドウィックが聞いてくる。どうせ専門用語を丁寧に説明したところで彼にとっては暗号文のようなものであるから特に説明なく言ってしまうか。
「逆第二種
私は呆れながら言う。ここで私が悪人だったら普通にこれを丸ごと盗み見て自分の成果にしたりであるとか、他の人に回したりとかするぞ。普通はちゃんと学会とかのほうに文面を送ってからこっちにも送っているのだろうけれどもね。
考えてみれば、ゴロヘシュト氏があれだけ苦労したのに比べれば簡単な機構で同じ逆電子が撮影できてしまうのである。電子と対になってできないのであれば宇宙からの
「よかったですな」
「よくないわよ、これを一人でやるのは無理な気がしてきたし、私並みにできる人があと数人欲しい、とはいっても代わりがいない」
別に私が
ダムノニーシャー研究所のウォートルからの手紙によれば未知の粒子を追加で仮定すればいいという主張のようであるが、第二種崩壊に絡む粒子の逆のものを仮定しろというのはなかなかに無茶な話である。式としては悪くないが、実験に無理やり合わせた形になっているのは否めない。
そしてまた別のもの、これは
「……懸賞問題は次号ぐらいになりそうね」
何が起こっているのかはよくわかってない、と言っていいだろう。特に
とはいえ、これのおかげでかなり色々な話をまとめることができた気がする。結局のところ面白い結果を出している研究室は片手で数えるほどしかないのだがな。もちろん当然のことだが、そうではない小さな積み重ねと検証というものにも価値はある。
Fermi hätte also sein neues Radioelement mit allen bekannten Elementen vergleichen müssen.
この論証は確実なものではない。フェルミが既知のウランの直接隣接であるプロトアクチニウムのみならず、鉛に至るまでの複数の元素を新しく生じた自身のβ放射体と比較しているという事実は、彼が最終的に半減期13分の放射性元素の生成へと至る(電子、陽子およびヘリウム原子核の放出を伴う)一連の連続的な崩壊プロセスを可能と見なしているとを証明している。──しかしもし彼がそうするのであれば、なぜ彼がウラン(92)と鉛(82)の間にある元素ポロニウム(84)を考慮に入れないのか、そしてなぜ彼がまさに鉛のところで止めているのかは理解できるない。なぜなら、放射性元素の連続した系列は鉛、あるいはむしろタリウム(81)で終わるという古い見解は、冒頭で言及されたキュリーとジョリオの実験によってまさにすでに破棄されているからである。
したがってフェルミは、自らの新しい放射性元素を、すべての既知の元素と比較しなければならなかったはずである。
NODDACK, Ida. Über das Element 93. Angewandte Chemie. 1934, vol. 47, no. 37, pp. 653–655.
イーダ・ノダック『元素九十三について』、