「フィーマ、これわかる?」
私は
「これ買って欲しいって前言ったやつですよ」
「電報なら買ったわよ」
電報を買う、というのもなかなか不思議な響きである。回線を引き込むのは一応電報を買ったと言ってもいいだろう。
「
「そう言われてもあまり把握できないのよね……」
描かれている図は概念的なものに近い。そこから読み取れるものには限界があるし、そもそもこの雑誌は光学機械系の専門誌だ。学術雑誌というよりも業界誌。そこで示された装置が
「このあたりは私も趣味でかじった範囲ですからね」
「ミセス・ブラッケンは?」
私は尋ねる。計算手としての腕がどこまで残っているかはわからないにしろ、今でも雑誌は取って読んでいるのだ。完全に分野ごと理解できないとまではならないと思うが。
「光学系の研究はなかなか統合されていないとかじゃないですか? あまりそっち側の話を聞きませんし」
「じゃあフィーマはどこから知ったのよ」
「本の管理ですよ、一応は館長代理ですので」
胸を張って彼女は言う。この書斎とも呼ぶべき空間に詰め込まれた本は徐々に目録が作られている。とはいえ、新しく入ってきたものがどうしても中心にはなるが。古いもののうち他に確実に蔵書があるものは抜けている巻をどうにか集めたりした上で地方の大学とかに適切な書店を通して売ったりして本棚の余裕をなんとか確保している。このあたりもフィーマがいなければできないことだ。あと私としては彼女に黙って本を処分することはできない、というのもあるが。
「まず本を考えましょう。数百頁を並べて、それを写真にして、
「うん」
「さて、この中から特定の文字を探したいとします。どうしますか?」
「……本の行と文字の並び、あと形とかは概ね揃っているとしていい?」
「はい」
となると光工学のあたりだ。理論だけはやった。実際に動いているものを見たこともないし、具体的な話はわからない。
「光学的に文字を二つの経路に分離して、黒い部分がその文字に一致しているか、白い部分がその輪郭に一致しているかを数える。そしてその両方が満たされた時に計数を行う」
「その通りです。実際は電磁石を動かして機械的判定をすることが多くて、このあたりはどうやって作業をするかでまだ色々と議論が続いています」
私は頷く。そもそもが光を検出する素子自体の理解が碌に進んでいないのだ。どういう理屈で光を電子の動きに変えているのかがよくわかっていない。電子が光の熱量を受けて核から束縛されなくなり、あるいは異なる振動数の軌道へ動くのだろうという定性的理解はあるが、じゃあそれを微小振動力学できちんと扱うとどうなりますかというのはまだ難問である。
結晶の中の波を仮定する計算もあるが、それがどこまで電気的性質に反映されているかはまだ議論の余地がある。適当な模型を立てれば何でも説明できてしまう弊害がここにもある。そもそも知られている測定値を式に入れても大まかな整合性しかないし、よくわからない定数を入れなければ合わないのだ。
そうなれば、応用範囲が狭まるのも仕方のないことだろう。この手の物質に対しては温度であるとか波長であるとかで特性が変わることが知られているが、素子自体の品質を安定させることができなければいくら一つの素子について詳細な情報を得ることができたとしても意味がない。
ただ、それでもうまく作ることのできた素子は機械に組み込むことができる。それがたとえ一つであっても、装置の方を工夫すればどうにでもなるのだ。
「で、そこからどうやって
「格子に区切ってそれぞれの濃度を見ているというのが第一段階ですね」
「それだと他のものも検知する」
「だからここで人間を入れるんですよ。一定の閾値を超えたら人間の判定に回します。それで問題がなければ計測、という形ですね」
「……賢い。だから線源が特殊なのか」
「特殊というのは?」
フィーマが聞いてくる。
「質量二の
摩擦電圧発生装置で質量二の
そしてこの方法のいいところの一つは余計な
判定するのは
そしてその結果の上で、もし正確に測定された増幅率とでも呼べるものが、他の係数と掛け合わされた時に1を超えてくれるのであれば、熱をうまく引き出すことができる可能性が生まれてくる。そんな都合の良い話などない、と言われたらそれはそれで困ってしまうのだが、なら最初から期待させるような数字を出すなって話である。
Any instrument sensitive to the radiating energy can be used. In addition to the above stated devices the human eye can frequently be used wherever simplification of the apparatus is more important than speed. While the thermo-pile and far more the photo-electric cell are capable of following the fluctuations of the radiating energy with extraordinary speed, the limit of speed with which the human eye can perceive such fluctuations and transmit them to a recording mechanism or counter is about 5 times per second. When the eye is used as an indicator the apparatus is greatly simplified. In the example described above the eye sees immediately whether a complete darkening of the field of vision is obtained or not. In the first instance only a knob connected with a counting device needs to be pressed to ascertain that the combination exists.
この手法の発展は、異なる統計記録の組み合わせが望まれる場合には大いに重要である。穿孔の代わりに黒い文字、語、数字、またはその他の記録記号を備えた写真の透明陽画1がその場合に用いられることができ、さらに数字または語のある組み合わせの陰画2(以下「探索板」と呼ぶ)が作られる。様々な統計表示を含む透明陽画がここで陰画が透明陽画と合致するような仕方で機械の中を通されるならば、いかなる光または熱の放射をも通さない完全な合致は、ただ一つの確定した場合においてのみ可能となる。これは陰画が当該の透明陽画と全く同じ文字、記号、数字等を帯びているときにのみ生じるのであって、唯一の違いは、陰画においてはこれらの記録が暗い地の上に明るく、一方、透明陽画においてはそれらが明るい地の上に暗い、ということである。ある一つの組み合わせが、こうしてこれまで得られなかった並外れた速さと確実さをもって、多数の他のものの中から選び出されたのである。陰画と透明陽画との合致を得るために、それらは接触させられる(直接の重ね合わせ)か、あるいは一方が他方の上に投影される(光学的な重ね合わせ)かのいずれかでありうる; 後者の方法は、機械の機構的な部分が簡素化されるのでより有利である。
放射エネルギーに感応するいかなる器具をも用いられうる。上に述べられた装置に加えて、装置の簡素化が速度よりも重要であるところではどこでも、人間の眼がしばしば用いられうる。熱電堆、そしてはるかにそれ以上に光電池が、放射エネルギーの変動に並外れた速さで追従することができる一方で、人間の眼がそのような変動を知覚し、それらを記録機構または計数器へと伝達することのできる速さの限界は、毎秒約5回である。眼が指示器として用いられるとき、装置は大いに簡素化される。上に記述された例においては、眼は視野の完全な暗転が得られるか否かを即座に見る。前者の場合には、その組み合わせが存在することを確かめるために、計数装置に接続されたつまみ一つが押されることのみを要する。
GOLDBERG, Emanuel. Statistical machine. United States of America, Patent US 1838389 A. 1928-04-05.
エマヌエル・ゴルトベルク『統計機械』、米国特許第1838389号、1931年