石炭時代の終りと淑女   作:小沼高希

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ミス・バクスターに伝えられたし 6

「……いや、理解はできるよ?」

 

 私は言う。キージスの述べていることは、たぶん合法だ。少なくとも違法なところはないはずだ。

 

「ああ、よかった。これでもし騒がれるようであれば困るところだった」

 

「そこについては安心して。それなりに面倒事の噂は聞いているつもりだから」

 

 私の言葉に全然安心できなさそうな表情でキージスはケーキを食べている。口には合っているようだ。何よりである。

 

 いわゆる「闇の中心」と呼ばれる地域は、豊富な鉱物資源があったがあった。多くの者が一攫千金を求めたし、彼らは現地の勢力を利用した。当然、現地の勢力も彼らを利用した。一方的にやられるほど人間というのは弱くはないのである。

 

 鉱山で働かせるための人材を現地で雇用するとなれば、専門知識を持った人間を集めねばならない。共同連邦(コモンウェルス)本島南西半島地域からも鉱山系の職人が流出したし、戦争が終わった大陸帝国(コンチネンタル)や連合議会(コングレス)の軍人が雇われ、植民地が色々と整理された結果金が微妙に余った各地の企業も資金を提供した。かくして銅、亜鉛、合金の原料となる各種金属、そして閃質(リームシャフト)の原料である閃瀝鉱を採掘する企業なのか植民地なのか国家なのか軍閥なのかわからない何かができたのである。

 

 そしてその株式の少なくない割合を、複数の共同連邦(コモンウェルス)の企業が持っていた。それを海軍と繋がりのある会社がまとめて買収の形で手に入れたのである。紳士の口約束と数枚の書類、そして百万金貨(クィッド)は下らないだろう額でこの作業は行われた。つまり「闇の中心」にいる彼らは特に何も知らない間に自分たちの雇い主が変わり、鉱石を買う相手が海軍になってしまったわけである。

 

「……しかし、言われてみれば博打だな」

 

 私の説明に納得してくれたキージスは言う。

 

「そう。具体的な情勢はなんとも言えないけれども、たとえ燃料の不要な艦隊ができたとしても一隻を作るためにはまだ計算はできないけれども、ある程度の量の天神質(テューシャフト)が必要になる。つまりもし、我々がこの鉱山地帯を使えなくなれば、それは艦隊建造計画の停止を意味する」

 

 普通に考えれば手元にない資源に依存するような軍事力を持ちたくはないだろう。確かにここにある鉱物は天神質(テューシャフト)の原料としてみるのであれば世界最良と言ってもいいかもしれない。今まで閃質(リームシャフト)にしか注目されていなかったから余っているだろうというのも考えれば、少なくとも暴挙ではない。賭けにはなっている。

 

「……これはハッパム提督の一存で行われている」

 

「いいの?」

 

「彼を止められる人間は、海軍にはいない」

 

「陸軍に頼んで消してもらえば?」

 

「……戦争を一国家の中でやりたいのか?」

 

「冗談にならないので止めておく」

 

 だめだ、ラドウィック相手なら冗談になるのだがこれはたぶんラドウィックが調整してくれているせいだ。雇い主に恥をかかせない執事というのは得難いものである。

 

「しかし面倒ね、そういう人物がやりたいと言えば軍としてはやるしかないのでしょう?」

 

「彼の友人も多いし、新型の動力を手に入れれば海軍同士の競争で先を行ける……という考えも大きい」

 

「……外交的にはともかく、表に出たらある意味では面倒そうね」

 

 私はそう言いながらラドウィックから聞きかじった経済とかの話を思い出す。

 

「どういうことだ?」

 

「共同連邦(コモンウェルス)の海軍は、基本的には植民地を維持するためにある。そうでなければ海峡に警備隊を置いておけば十分でしょう?」

 

「まあ、否定はしないが」

 

「そして植民地を維持する理由の一つは、各地に海軍を展開できるようにするための給炭地」

 

「……そうだな」

 

 こうやって言葉にするとどっちが先なのかわからなくなるが、まず領土がなければ資源がないという前提から考えれば両方は同時に導かれる。さすがの共同連邦(コモンウェルス)であっても港が不十分だったり奥地だったりするところについては「現地勢力」との「協力」を行うし、必要であれば「技術支援」も惜しまないのだ。諸藩王国のあたりはかなり力を入れた結果引くに引けなくて大変なことになっているが。

 

「もし全ての船が核熱炉で駆動するようになれば、海軍はその存在意義を失うのでは?」

 

「……そう思われただけで市場と議会は動くし、海軍への扱いも変わる、か」

 

「受注に絡んでいる企業としては対応が大変でしょうね。そしてネイダーズ鉄鋼鋳造社は石炭系との繋がりも切れないでしょう?」

 

「名前からしてその通りだ」

 

 頷いて言うキージスに、私は息を吐いた。面倒事ばかりである。とはいえ、考えてみればそこまで悪い話ではないな。

 

「ところで、どうして私に気がついたの?」

 

「核熱炉の話が出てひとまず文献を調べるだろ?」

 

「うん」

 

「そうするとだな、なかなかわかりやすい総説があるわけだ」

 

「あー……」

 

「作者の名前はなかったが編集長はペレディル・バクスター。バクスターだけなら偶然かもしれないが、ペレディルとまでつけられるとあからさますぎる」

 

「……見つけてほしかったのは事実だけれども、こういう形で見つかるとは」

 

 そう言いながら、私はなんとも馬鹿なことをしていたなと思う。とはいえ、悪戯が発覚した子供ができることはそう多くない。真摯に反省して再発防止に努めるとともに関係者に対して謝罪をすることだ。ここで下手に自己弁護をするとさらに面倒になることが少なくない。

 

「とはいえ、俺以外にはそうそう気がつかれないと思うぞ。奢られたことに思い悩む人は……決して多くはないと思うから」

 

「それぐらいでいいのよ、私は順位外の人間なんだから」

 

「七位の席は君のためにあるべきだっただろ」

 

「嫌だよ、半位下扱いされるのは……」

 

 まったく、どいつもこいつも私の扱いを何だと思っているんだ。もし私が名簿に載ったら七位だが、扱い上は六位と七位の間、つまり七位より上なのだぞ? その微妙な違いを理解せず善意の顔をして私の扱いを引き下げようとしてくるんじゃない。一位より上という響きのほうが、単なる一位というよりも格好がいいというのがなぜわからんかね。




(1) Subject to the provisions of this section, it shall be the duty of any director of a company who is in any way, whether directly or indirectly, interested in a contract or proposed contract with the company to declare the nature of his interest at a meeting of the directors of the company.
(1) 本条の規定に従い、会社との契約または提案された契約において直接的であるか間接的であるかを問わず、いかなる形であれ利害関係を有する会社の取締役は、当該利害関係の性質を会社の取締役会において申告する義務を負う。

Great Britain. Companies Act 1928, 18 & 19 Geo. 5 c. 45, § 81.
英国、1928年会社法、ジョージ5世の治世19・20年、第45章第81条
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