「……いや、理解はできるよ?」
私は言う。キージスの述べていることは、たぶん合法だ。少なくとも違法なところはないはずだ。
「ああ、よかった。これでもし騒がれるようであれば困るところだった」
「そこについては安心して。それなりに面倒事の噂は聞いているつもりだから」
私の言葉に全然安心できなさそうな表情でキージスはケーキを食べている。口には合っているようだ。何よりである。
いわゆる「闇の中心」と呼ばれる地域は、豊富な鉱物資源があったがあった。多くの者が一攫千金を求めたし、彼らは現地の勢力を利用した。当然、現地の勢力も彼らを利用した。一方的にやられるほど人間というのは弱くはないのである。
鉱山で働かせるための人材を現地で雇用するとなれば、専門知識を持った人間を集めねばならない。
そしてその株式の少なくない割合を、複数の
「……しかし、言われてみれば博打だな」
私の説明に納得してくれたキージスは言う。
「そう。具体的な情勢はなんとも言えないけれども、たとえ燃料の不要な艦隊ができたとしても一隻を作るためにはまだ計算はできないけれども、ある程度の量の
普通に考えれば手元にない資源に依存するような軍事力を持ちたくはないだろう。確かにここにある鉱物は
「……これはハッパム提督の一存で行われている」
「いいの?」
「彼を止められる人間は、海軍にはいない」
「陸軍に頼んで消してもらえば?」
「……戦争を一国家の中でやりたいのか?」
「冗談にならないので止めておく」
だめだ、ラドウィック相手なら冗談になるのだがこれはたぶんラドウィックが調整してくれているせいだ。雇い主に恥をかかせない執事というのは得難いものである。
「しかし面倒ね、そういう人物がやりたいと言えば軍としてはやるしかないのでしょう?」
「彼の友人も多いし、新型の動力を手に入れれば海軍同士の競争で先を行ける……という考えも大きい」
「……外交的にはともかく、表に出たらある意味では面倒そうね」
私はそう言いながらラドウィックから聞きかじった経済とかの話を思い出す。
「どういうことだ?」
「
「まあ、否定はしないが」
「そして植民地を維持する理由の一つは、各地に海軍を展開できるようにするための給炭地」
「……そうだな」
こうやって言葉にするとどっちが先なのかわからなくなるが、まず領土がなければ資源がないという前提から考えれば両方は同時に導かれる。さすがの
「もし全ての船が核熱炉で駆動するようになれば、海軍はその存在意義を失うのでは?」
「……そう思われただけで市場と議会は動くし、海軍への扱いも変わる、か」
「受注に絡んでいる企業としては対応が大変でしょうね。そしてネイダーズ鉄鋼鋳造社は石炭系との繋がりも切れないでしょう?」
「名前からしてその通りだ」
頷いて言うキージスに、私は息を吐いた。面倒事ばかりである。とはいえ、考えてみればそこまで悪い話ではないな。
「ところで、どうして私に気がついたの?」
「核熱炉の話が出てひとまず文献を調べるだろ?」
「うん」
「そうするとだな、なかなかわかりやすい総説があるわけだ」
「あー……」
「作者の名前はなかったが編集長はペレディル・バクスター。バクスターだけなら偶然かもしれないが、ペレディルとまでつけられるとあからさますぎる」
「……見つけてほしかったのは事実だけれども、こういう形で見つかるとは」
そう言いながら、私はなんとも馬鹿なことをしていたなと思う。とはいえ、悪戯が発覚した子供ができることはそう多くない。真摯に反省して再発防止に努めるとともに関係者に対して謝罪をすることだ。ここで下手に自己弁護をするとさらに面倒になることが少なくない。
「とはいえ、俺以外にはそうそう気がつかれないと思うぞ。奢られたことに思い悩む人は……決して多くはないと思うから」
「それぐらいでいいのよ、私は順位外の人間なんだから」
「七位の席は君のためにあるべきだっただろ」
「嫌だよ、半位下扱いされるのは……」
まったく、どいつもこいつも私の扱いを何だと思っているんだ。もし私が名簿に載ったら七位だが、扱い上は六位と七位の間、つまり七位より上なのだぞ? その微妙な違いを理解せず善意の顔をして私の扱いを引き下げようとしてくるんじゃない。一位より上という響きのほうが、単なる一位というよりも格好がいいというのがなぜわからんかね。
(1) 本条の規定に従い、会社との契約または提案された契約において直接的であるか間接的であるかを問わず、いかなる形であれ利害関係を有する会社の取締役は、当該利害関係の性質を会社の取締役会において申告する義務を負う。
Great Britain. Companies Act 1928, 18 & 19 Geo. 5 c. 45, § 81.
英国、1928年会社法、ジョージ5世の治世19・20年、第45章第81条