久しぶりに、本気の計算をした。何回も検算をした。多くの産業系の資料も漁った。
そして、ついに報告ができた。
「……趣味ですよね?」
清書を読みながらフィーマは呟く。
「空想科学小説の枠だよ、明らかに」
超爆弾。一度に熱量を放出できるのなら、それをもし瞬時に起こすのならどうなるかというものだ。具体的には火薬の連鎖反応に相当する。一つの分子が分裂した時に放出された熱量が、次の分子の発火を引き起こすのと同じだ。
最近
化学的に分離することはまず不可能。物理的分離についても手間がかかりすぎる。このあたりは熱蒸留による同位体分離について
あとは連鎖反応を起こすだけの塊の大きさの桁を計算する。ざっと千
おお、恐ろしい兵器だ。当然ながら火薬庫に火花を突っ込んだら爆発して一帯が吹っ飛ぶものである。問題はこれだけの濃縮をするのにどれだけ手間がかかるかということだ。
今の最良の方法よりもさらに良い条件を揃えるとして、その上で計算された費用は戦艦が数隻作れると出てきた。なら戦艦を作るよな。
いやまあ軍事的価値は理解しなくはないですよ? 例えば特殊な飛行船を一つ用意して、それに新型爆弾を搭載し、夜闇に紛れて相手首都に近づき、落とし、爆発させる。あるいは普通に堂々と貨物として持ち込んでもいい。やけに重い貨物なんて珍しくもないからな。適切な荷車があれば数人で運べるぐらいの重さである。運んだ人間の健康については保証をしておりません。
「冗談が多くありませんか?」
フィーマが原稿をめくりながら言う。
「そうでもしないとこの爆弾を使う場面を考えられないのよ」
これだけのことができる組織は企業でもないだろう。国家がその総力を賭して、ようやく一つ作れるかどうかだ。となれば、狙う相手は他の陣営となる。狙うべきは軍事施設、工業地帯、あるいは首都。
そして、大抵の陣営には複数の大都市があるのだ。一つ消し飛ばしたところで、残りが徹底抗戦を叫べば終わらない戦争の始まりだ。なによりこんな非紳士的な兵器を使う陣営を信じられるかとなり、三大陣営で静観していた残り一つが宣戦布告をすることになる。
すなわちこの爆弾はまともな組織しか作ることができず、まともな組織は使うことができない代物である。もちろん物理が値下がりすればこのぐらいの分離を屋根裏部屋でできるようになるかもしれないし、うまい具合に液体にした
「人間というものは残酷ですからねぇ、これを兵器で使う戦争が起こるかもしれませんよ」
「その頃にはこの爆弾よりももっと効率いいものができているわよ、
重力による作用を組み込んだ
とはいえこういうものが存在するだろうということは昔から言われている。数学的に書いたところで存在するかどうかはわからない。もしかしたら明日あたりに暗黒の彗星が近寄って来て地球の大気を丸ごと持ち去ってしまうかもしれない。ああ怖い怖い。
「とはいえ、これを学術雑誌に載せるんですか?」
「手紙欄に匿名で載せるだけよ、一応匿名投稿は受け付けているから」
というより名前を書かない馬鹿がいたので晒しただけなんですがね。あと一部の趣味人はそうするのが美徳だと思っているので匿名にすることも多い。一応筆跡から分類してはいるのでたぶん同一人物だろうみたいな人はわかります。
しかし核物理学もなかなか楽しいことになってきた。海軍が出した金は
海軍動力諮問第十三委員会なるものものしい組織も、そろそろ報告書がまとまる頃である。なんと驚くべきことに、ちゃんと運用できる可能性が高いのだ。しかし金属
しかしここで問題となるのが時定数だ。火薬は一気に燃え上がるが、石炭はちょうどいいぐらいに温かいまま燃え続けてくれる。逆に
上述した結論の信頼性に関しては、未だ誰も超爆弾を製造したことがないゆえにそれらは直接的な実験に基づいてはいない、と言うことができるかもしれないが、しかしそれらは原子核物理学における近年の研究によって極めて確実に立証されてきた事実に大部分基づいている。唯一の不確実な点は、その爆弾のための臨界寸法に関することである。我々は臨界寸法はおよそ
FRISCH; PEIERLS. On the Construction of a “Super-bomb” based on a Nuclear Chain Reaction in Uranium. 1940.
オットー・ロベルト・フリッシュ、ルドルフ・エルンスト・パイエルス『ウラニウムにおける核連鎖反応に基づく「超爆弾」構築について』、1940年