石炭時代の終りと淑女   作:小沼高希

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動力源としての天神質の利用 3

 この会議は機密であるので、参加者の事前調査についてフィーマに頼ることはできなかった。自分で紳士録を引いて確認するのはなかなか大変なものである。具体的には面白い話を見つけてしまって関係者を探して時間がなくなるという意味で。こういうのを論文でもやっているから毎回国際集成(レペルトーリオ・インテルナツィオナーレ)の原稿が危なくなるのである。

 

「本件における植民地からの動きは未だ不透明ですな、諸藩王国地域および南洋諸島の方で大きな動きはありません」

 

「しかし黒鉛となると諸藩王国の方からの輸入となるだろう、良質なものを選ぶとなると多少は影響が出ないか?」

 

「全体の産出量に比べれば多いとは言えないかと」

 

 その道の現場の人が手際よく用意していた資料をもとに答えている。とはいえこのために行った調査自体からある程度察しのいい人は気がついているんだろうけれどもね。

 

 この会議もあくまで海軍動力諮問第十三委員会の下にあるということで王認自然学会(ザ・クウェーンズ・フェローシップ)の建物内部で行われている。そのくせ省庁とかの人がそれなりにいるんだよな。まあ、政治的な影響に対応しなくてはいけないのは彼らだから仕方がないか。どうせ自分の懐から辻馬車代を出したところでそう傷まないぐらいの給与をもらっているのだろうしな。

 

 政治部会の目的はまず核熱炉という技術をどう扱うか、予算とか折衝とかをどうするか、どの程度の機密として流すのかについて助言するというものだ。このあたりの項目の調整はキージスと私でやった。そして、ここの会議で行われている内容はそれらの項目の決定ではない。いや、完全に無関係というわけではないのだが。

 

 机に並んだ人たちの所属組織を頭の中で思い浮かべていく。海軍は植民地運営の方面にも、あるいは外交の方面にも繋がりがある。そして当然ながら、膨大な国家予算を喰らう側として大蔵省とも。

 

 彼らはハッパム提督という人物に困らされてきた人たちであり、そして今まさに困らされている。可哀想だ。そしてその上で、どうすればその面倒な問題を自分ではなく別の人に押し付けることができるか、そしてもし核熱炉絡みで利益があるならそれをどうやって自分のところに引っ張ってこれるかについて腐心しているわけだ。

 

「……核熱炉について技術的進捗がある、と議会で答弁をするのはどうだ?」

 

「新聞側が過剰反応しないよう適切に話をしておく必要があるだろう、必要であればするが」

 

「いや、そこまで介入するのも彼らに失礼だろう」

 

 ええとつまりあれだ、自分のいる組織と関係している議員に「理解」いただくまで説明した後で議会の操り人形として喋らせて様子を見る、そしてその様子を新聞でばら撒いてやろうかと言われればほどほどにしておいてくれと返した。何もしなかった時に過剰反応になるかどうかはわからないが、こういうのは大抵狙ってさえ盛り上がらないものなのだ。しかし気を抜いた時は話題になるからな。難しいものだ。

 

 このあたりは本当に上手い人は上手いな、と思う。確かに交渉というものは紳士の基本技能であるし、私も多少は齧っている。それでも機知に満ちた言い回しをその場で言うことは難しい。大抵はどこかで読んだか聞いたかしたものを、それらしく並べているだけに過ぎないのだ。

 

 しかしこういうあまり表に出すべきではない話を聞くのは趣味人としていかがなものかね、とは思う。劇が好きな人で舞台裏の役者たちを見たいと思うことはあっても、興行主の出資会議まで見たいという人は稀だろう。私はここまで来たので付き合ってやるというのと、あとは私の趣味に金を出すことに関与してくれる人々への恩義としての仕事の側面が大きいが。

 

 だって私に回される金は本当に微々たるものですよ、淑女の仕事を何だと思っているんだ。計算手でももう少し貰っているぞ。とくに強気になって請求しているわけでもないのだが、それはそれとして払われた銀貨を見ると少し悲しくはなるのだ。子どもの小遣いか、と言いたくもなる。そういう怒りを抱えて寒い風が吹く中で食べる焼き栗はなかなかいいものだ。ちょっと多めに買って帰ったらフィーマに分けてあげようと思うとなぜか紙袋が空になる怪現象が起こるが。

 

 議論はちゃんと進んでいる、とは思う。キージスのやつも進行になかなか慣れてきているな。少し前までは慌ただしく誰にどういう発言をさせるかを調整しようとしていたが、今では程よい諦観とともに椅子に深く腰掛けている。そのぐらいでいいんだよ。

 

 この手の話し合いには色々な目的がある。例えば知り合いを作るであるとか、何かの承認の根拠を得るとか、あるいは今回のように責任を誰が負うかを決めるかとか。

 

「……しかし、失敗を加味するのであればいっそのこと外洋船の上でやるべきではないですかな」

 

「噂の恐ろしさを知らないのですか? 危険な毒物を積んだ海軍の船が漁場で事故を起こしたともなれば何を言われるか……」

 

 そういうことを聞きつつ私は打字機(ステイヴライター)を叩いていく。彼らの警戒は概ね正しいが、しばしば過剰で、しばしば過小なのだろう。それは仕方がない。前提が少ない上に、結論はある程度決まってしまっているのだから。

 

 技術部会は核熱炉の構築について多くの予算と適切な安全対策があれば可能だと言った。そして海軍には予算がある。安全対策についても専門家がいる。私の書いた報告書自体にもそう書いてある。

 

 だから、問題はそれを実現する時に誰が面倒事を引き受けるかになるのだ。これを拒むこと自体がそれなりに面倒事である。報告書はわかりやすくは書いたが付録は数式がいっぱいあるし、それを理解するための説明も何回かあったが、その上でなおこの中で具体的な動作原理を把握できている人はほとんどいないだろう。

 

 ただ、それでも彼らはそれが何であるかを知ったはずだ。かなりの量の熱を出す代物。植民地でもない、微妙な地帯の資源に依存する代物。海軍の今までの戦略を変えうる存在。保険評議会の会員の誰一人としてこれを引き受ける覚悟がないだろう。

 

 想定される事故の被害についても、一応夜嵐連盟(ニクトゲール)から暫定的な数字は出ている。ある意味では、街一つが消えうるほどの公害が起こる。まあこの核熱炉を動力として運用したいなら街一つ作るぐらいの覚悟が必要だろうから、事故を起こして不要になった炉と街の処理が同時にできていいと考えるべきかもな。




A commission should seldom consist of more than three members, and in many cases a single commissioner with two secretaries would be better, but for the superior weight and authority which, whether erroneously or not, will attach in the public mind to the judgment of three commissioners as compared with that of one. Erroneously I believe it to be in all cases where the matter to be judged of by the commission is integral and not separable into portions more or less independent of each other; because in such cases the judgment of the three or more men is almost always determined by the judgment of one amongst them.

委員会が三人を超える委員から構成されることはまずあるべきではなく、また多くの場合において二人の書記を伴う単独の委員のほうがより優れているであろうが、一人の判断と比較して三人の委員の判断に、誤っていようといまいと、大衆の心において付随することになるより大きな重みと権威がなければである。委員会によって判断されるべき事柄が不可分であり、互いに多かれ少なかれ独立した部分へと分割可能でないあらゆる場合において、誤ってそうされていると私は信じている; なぜなら、そのような場合においては三人以上の者たちの判断は彼らの中の一人の判断によってほぼ常に決定されるからである。

TAYLOR, Henry. The statesman. London: Longman, Rees, Orme, Brown, Green, & Longman, 1836.
ヘンリー・テイラー『為政者』、1836年
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