「ハッパム提督は成し遂げましたな」
執事のラドウィックが新聞を読みながら呟いた。
「陸軍の方はどうなっているのさ」
私はあくまで気軽に尋ねる。彼はあくまで元陸軍所属。それも階級などなかった男だ。そういう相手に雇用主として圧力をかけるような形になるのは不本意である。今更だが。
「総司令官を回避する形で色々と話を通しました。彼を入れると面倒になる、というのが私の元上司の言葉です」
「ああ、あのあたりの……」
保守派、と呼べばいいのだろうか。あるいは古き良き軍隊制度を守ろうとする人物。女王陛下の縁戚筋にあたり、まあつまりは王族というやつである。まあ大事ではあるんですよね。我が国の貴族制度はそれなりに陸軍と関係性があって、つまりは陸軍というのは貴族を含む上流階級が溜まっている場所なのである。
そして陸軍が仕事をすることはあまりない。海軍のように船に乗って年単位で帰ってこないなんてこともない。そうなると、どうしても複数の派閥が生まれてしまうものです。
一つは実務的なもの。将来的な戦争に備え、今の軍を怠惰と見なし、その改革を求めようとするもの。こちらのほうがしばしば正しいと描かれることがありますが、必ずしもそうではないのが厄介なところで。
ええとどういうことかと言いますとですね、軍というのは非常に巨大な組織であり、多くの雇用に関与している政治的主体でもあるわけで、同時に外交上の意味をも持っているわけです。そして平和な今の御時世においては、特にそのあたりもうるさいわけで。
というわけでもう少し外交とかの方に力を入れようぜ、というのも出てきます。ラドウィックはここに所属していると行っていいのかな。厳密に言えばこのあたりは明確に派閥として割り振られているものではなく、軍に入った年次であるとか訓練の過程とか所属とかによって生まれる緩やかな繋がりであるそうで。
とはいえ、こちらの外交とかのほうの派閥も別に戦争をやらないというわけではない。むしろ向こうが仕掛けてくるのであればそれを事前に察知して全部潰してやるぐらいの気合を入れているのだ。気合はある。金はない。それはそうだ、誰が好き好んでそんな後ろ暗い仕事に金を出してくれるというのだ。ただ、上の方でも外交系を歩いた人はこのあたりに理解を示しているようだ。
そして、そういう危ないやつらを制止しているのが保守派というか安定重視の人たちである。いいことだよ、間違いなくいいことなんだよ。
「国王は過ちを成し得ず」。現在裁判所によって解釈されているように、この格言は、第一に、法律によって知られているいかなる訴訟手続によっても、国王は彼自身によってなされたいかなる行為に対しても個人的に責任を負わされることはあり得ないということを意味している; もし(荒唐無稽な例を挙げるなら、女王が自らグラッドストン氏の頭を撃ち抜くようなことがあったとしても、イングランドのいかなる裁判所もその行為を審理の対象とすることはできないであろう。
DICEY, Albert Venn. Lectures Introductory to the Study of the Law of the Constitution. London: Macmillan and Company, 1885.
アルバート・ヴェン・ダイシー『憲法研究入門講義』、1885年