人生2回目でパン屋開いたら客に泣かれた   作:テン吉

1 / 2
第1話

 

 私の話をするとしよう。

 普通のOLで、昼食にホッカホカのおにぎりを食べようと「わー!美味しそー!」となってるところに、瞬きしたら赤ちゃんになってた。

 

 どういうことだろう。疑問しか出てこない。

 

 さらに知らない人間2人がパパとママだと語られ、不気味かわいい怪物も仲良く住んでた。

 よく分からないけど新種のペットなんだと思った。

 最初怖くて泣き喚いた時にオモチャを壊してしまった以来、私にビクビクと下僕のように懐いてくるペットは皆には見えないらしい。

 両親も見えないらしい……が、ペットなのだろう。

 そうして、よく分からないまま大人びた子供として育っていった。

 

 

 突然だが、私は米が嫌いである。

 

 死んだ時に食べていたのがおにぎりだった為、という他人にとっては鼻で笑って過ごすような。

 でも私は口に入れられない。

 

 不幸中の幸いか、あまりにも毛嫌いする私には他の主食が与えられた。

 

 その内の1つがパンである。

 

 パンは魅力的である。

 元々前世の時から好きだったが、もっと好きになった。

 ふんわりと柔らかな食感から、パリッと外側をこんがり焼いた食感、あるいは地球に噛み付いているくらい硬すぎるパンとか。

 あと米と一緒で、何にでも合う美味しさ。

 

 世界中のパンは6000種類もあって、私が手に取っているのはその内のほんの1握りにしか過ぎない。

 だからこそ私はパンを愛す。

 ちなみに米粉パンは形状がパンのおかげか食べられた。 

 

 

 

 と、ここまで来て分かったでしょう。

 パンが好きならばパン屋になろうと思いまして。

 ビル街から少し離れてですね、人が疎らになったりならなかったりの曖昧な位置。

 そんな人が来るか微妙な所に、ちょこんと小さなパン屋さんを建てました。

 

 

 

 勿論ペットも連れて。

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

 今日も客を待っていると、カランカラン、と音が鳴る。

 そのお客さんは新作のパンの前で、真顔のまま嬉しそうな雰囲気を醸し出していた。

 

 言っていなかったが、人生2回目のパンの種類はまだ少ないらしい。

 お客さんはスーツをかっこよく着ていて、遠目から見ても鍛えている人なんだと思った。

 変態ではなく単純にそう思っただけ。

 

 ああいう人が店に居ると安心するよなぁ、と心の中でボヤいているとお客さんはいつの間にか選び終わったのかレジに来る。

 お客さんは、さっきまでの花が舞っていた雰囲気は消してどこか冷えた雰囲気を出していた。

 謎に思って、お客さんの視線の先を見ると、休憩室からペットがこちらをチラチラと覗き見ているのが見えた。

 

 

 

 「あの……」

 「ああ、アレですか。私のペットなんです」

 「……は?」

 

 「なんか誰にでも見える訳じゃないらしくて。あ、時々人を襲おうとするんですけどメッ!!ってしたら大人しくなったというか」

 

 

 こう、しつける的な。

 お客さんは何を言ってんだコイツみたいな感じの視線を送ってくる。

 

 

 「…………呪術師ですか?」

 「じゅじゅ? 優しさで●れるようには好きですよ」

 「……」

 

 

 

 お客さんは黙り込むと、「祓った方がいい……のか?」と呟いた。

 

 

 

 「もしかしてヤバいペットでしたか?」

 「ヤバいなんてものではなく、そもそもペットにしてはいけません」

 「でも人を襲いませんよ。人助けをしたこともありますし」

 「人助け?」

 「はい。パン作りの為に山菜採取しに田舎町に行ったんです」

 

 

 

 そのとき、ペットに触れたら皆に見えちゃったらしくて。

 「今までの不気味な現象はお前のせいか!!出てけ!!」ってよく分からないまま怒られたんですけど。

 

 

 

 「後から小さな女の子2人がやってきて、か細い声で『ありがとう』って言ってくれたんです」 

 「それは…………貴方にとって嬉しかったことですか?」

 

 

 お客さんの表情は暗い。

 

 

 「嬉しかったですよ。ああ、自分でも人助け出来たんだなぁって。それより、そういう質問をしたお客さんこそ人助けをしている側では?」

 

 

 そう言うとキョトンとされる。

 同時にレシートとお釣りを渡しておいた。

 はいコレお買い上げのものです、っと。

 

 

 「最初私のペット見たとき警戒したじゃないですか。そこは良いとします」

 「いいんですね」

 「まあ誰でも同じ反応ですし。それで、ですよ」

 

 

 お客さん、私の心配してくれたじゃないですか。

 

 

 「……」

 「お客さん、ありがとうございます。いつも買ってくれてありがとうございます。助けようとしてくれてありがとうございます」

 

 

 沢山のありがとうございますを伝えると、お客さんは、ビニール袋を持っていない手を、ゆるゆると顔に持っていく。

 すると目を隠してしまった。

 

 

 

 「それからですね、えーっと」

 「もう、いいです」

 「あ、前に店頭でウチのペットを狙った他の」

 「聞いてますか店員さん」

 「はい、聞いてますよ。でも感謝が足りません」

 「……そう、ですか」

 

 

 なんとなく、お客さんの前に鼻セレブをそっと置いた。

 

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

 

 カランカランと店のドアに付けたものが響きのいい澄んだ音を出す。

 同時に入ってきたのは背の高い2人組。1人は見覚えのある人だった。

 

 

 「七海ー! オススメのパン屋ってここ?」

 「……」

 

 

 いかにも嫌そうな顔をしている七海さんだが、新たなお客さんを呼んでくれたことに感謝する。

 

 

 「田中さん、うるさい子供が1人居てすみません」

 「ねえ七海それ僕のこと?」

 「ああ、大丈夫ですよ。逆にペットがビビるだけなので安心できます」

 「ペット?? ペットって僕??」

 「なに馬鹿なことを言ってるんですか」

 

 

 七海さんが窘めているのを横目に、私はペットに対して「窓のとこまでおいで」と声を呼びかける。すると新しいお客さんは「気配でまさかとは思ってたけど……」と神妙な顔になった。

 

 

 「あれがペットです」

 「…………。七海」

 「はい」

 「ペットって何だっけ」

 「……彼女に常識を求めてはいけません」

 「あれ1級だよね」

 「私達はペットを見た。ただそれだけです」

 

 

 なんとなく貶された感じがしたが、ペット紹介はさて終わり。

 新作のパンに目を輝かせる七海さんに声を掛けて後ろに引っ込む。

 実は、パン系統はかなりのグルメだと言う七海さんに、味見して貰おうと隠していたパンがあった。従来のチョコメロンパンを改良したものである。

 それをゆっくりと持っていくと七海さんの視線がこちらに釘付けになる。一緒に居た新しいお客さんもチラチラと見てきた。

 

 

 「それは……」

 「新作のパンです。味見して欲しいな〜と思って。勿論そちらの方も」

 「え! いいの!?」

 「はい。お茶も用意しますよ」

 

 

 2人から嬉しそうな雰囲気が伝わってくる。

 お茶を持ってきて渡せば、味の感想を水が流れるようにスラスラと話してくれる七海さんが居た。隣のお客さんも、言葉は少ないものの端的で明確な感想を言ってくれる。

 

 

 「いやぁ、お2人が居て良かったです」

 

 

 また感謝の気持ちが増えました。

 

 

 「そちらのお客さんもありがとうございます」

 「え? 僕? 何もしてないよ」

 「いやいや。味見もそうですし、さっき入ってこようとしていた怪物を一瞬で消し去って下さったので」

 「あー、アレね。そんな大したものじゃないし」

 「とりあえずお礼貰って下さい」

 

 

 はい、とパンが入った袋を渡す。

 お礼という言葉にピシリと石化したお客さんは、その袋をぎこちない様子で受け取った。

 

 

 「僕、呪霊祓って初めて礼の品貰ったかも。それも善意100%で」

 「五条さん分かったでしょう。そういう人なんです」

 「うん……。七海が行きつけの店で、さらに長居するのも納得した」

 

 

 

 よく分からないが、鼻セレブを置いておいた。

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

 

 私のペットは他の怪物を食べると強くなる。

 怪物は低級だと微々たるものだが、強いとさらに強力な強さを得る。

 七海さんは「とっきゅう」と言った。電車かと聞いたが違うらしい。強い怪物のことを言うのだという。

 

 最初は自分が食われそうになっていた。だが段々とお互いに愛着が湧いてきたといいますか。

 グロテスクな見た目でも、双方見た目や種別が違っても。ペットと私はいつの間にか契約を結んでいたらしい。

 

 

 そんなペットと私は、最近お客さんが来ないことに嘆いている。

 悲しいのでペットに「お客さん来ないの寂しいね」とぼやいた。

 すると何を思ったのが飛び出していくペットに呆気に取られた。カランカランと鳴ったドアを呆然として見る。泣き言を言ったから呆れて出ていったとか。

 悲しくなった。

 思えば少しだけ、思い当たる節があったのもそうだ。

 七海さんが何の訓練も無しに怪物を祓えるわけが無い。だから以前は怪物を倒す仕事をしていたんだろうな、と予想は付く。

 だから今来ないのが凄く不安なのだと。

 

 新しいお客さんの五条さんもそうだ。一瞬で祓ってしまったことに七海さんよりも上級者なことに気づいた。

 でも人は誰しも壁がある。

 どうか無事でありますように。その一心で店内からは見えない位置でパンに齧り付いた。

 しょっぱい味がした。

 

 

 七海さん、五条さん。

 いま元気ですか。

 

 暗い空が私の心を映しているかのようだった。

 

 

 「七海さん、元気か____」

 __な。

 

 

 

 驚いて食べかけのパンが床に転がる。

 

 

 「なんで……」

 

 

 ペットは帰ってきた。

 ボロボロになって帰ってきた。

 

 でももっとボロボロだったのは、ペットの背中からチラチラと見える1人の男性の体。

 

 ボロボロの……七海さんだった。

 

 慌てて近づいて、虫の音で『いえいり』さんって人の名前をボヤいているのが聞こえてくる。

 その人に会えばいいのだろうか。

 その人に会ったら七海さんは、お客さんは、元気になるのだろうか。

 

 

 

 「お客さん、起きたらまた試食お願いします!!」

 

 「…………ええ。喜んで」

 

 

 

 

 

 

 






田中さん
 パンを愛し、米に愛されてない女。
 見えるけど呪力無いっていう前世持ち故のヘンテコな体の持ち主。なので、渋谷に降ろされている帳は1つを除いて全て行き来できる。前世持ちなので一般人の枠組みには居ない。そして魂も元から肉体に乗り移った形だし、ごちゃ混ぜなので真人の能力も多分効かない。エッエッナンデェ!?ってなる。
 作中に出てくるパン屋とはまた別のパン屋なのであって、このパン屋はあのパン屋ではない。つまりパン屋はパン屋なのである。
 誰落ちかは決めてないのでご想像にお任せする。



ペット
 名前はポチにしようか、田中2号にしようか迷ってた。
 まだ生まれたばかりでめっちゃ弱い時に、オモチャを人間業じゃねーだろってくらい壊した夢主がトラウマ。
 しかしペット扱いされると途端に腹を見せるペット。ペット扱いが逆に好きになり、契約を結ぶ。害悪な他の呪霊を食べてたらいつの間にか特級に上りついてた猛者。
 真人を避けながらボロボロの七海をゲットするという素晴らしきペット。
 よくやった。
 




七海
 新しく出来たパン屋があると聞いて行ったら、知る人ぞ知る美味しさ抜群の店だった。さらに種類が豊富でここは聖地かと歓喜した。
 他の店でも呪霊を祓ったらお礼を言われて呪術師に戻ろうってなってた。けど、そのあとで寄った夢主の店()でも、呪霊を倒してること自体に感謝されたのでちょっと心労気味なサラリーマンには刺さった。
 夢主と鼻セレブが優しくて泣いた。
 頑張って戦ってたら急に誘拐された人。気持ち悪くて吐き気がしそうなくらい可愛い()ペットが助けに来た時は思考が止まった。




五条さん
 七海が最近呪霊の残穢をたくさん纏って帰ってくるもんだから何かヤバい女にでも捕まってるのか!?と思ったら普通のパン屋さん()で安心した。
 だがそれは一時的な安堵である。呪霊をペットとする店主が居て広辞苑にペットの新たな意味を追加させようか迷った。
 『礼の品』云々は作者が勝手に思っただけ。なんか強すぎて逆に倒すのが普通に思われていそうだなって。お礼とか銀行に金が振り込まれるだけなのかな〜と思って。




パン
 おいちいよ。




ベル
 カランカラン








「新商品の激辛パンです」
「それは泣きますよ」


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。