爆発で意識飛んだと思ったら顎殴られて意識飛びかけた   作:なはは

2 / 5
2話 情報の整理

 

 

 シャワーを出て、部屋に戻る。体のことは今は考えない。どうせ考えても状況は変わらない。

 

 黒瀬恋としての記憶が、次に何をすればいいか教えてくれる。午後は柔軟だ。自室でやるらしい。

 

 床に座って、足を開く。子供の体は柔らかい。前の俺よりも柔らかいような気がする。体の感覚が違いすぎて戸惑いっぱなしだが、そこに関してはとても良いと思う。

 

 柔軟を続けていると、ドアをノックされた。

 

「セレン。いるかしら」

 

 沙希だ。セレンと言うのは、恋の愛称のようだ。恋の記憶では、稽古外ではこう呼ぶらしい。

 

「……はい」

 

 返事をすると、沙希が入ってくる。道着ではなく、Tシャツとスウェットだった。

 

「体調はどうかしら」

 

 言いながら顎のあたりを見てくる。さっき殴られた場所だ。

 

「大丈夫です」

 

「そう、ならいいわ。何かあればすぐに言いなさい」

 

 沙希の稽古は厳しい。実際、道場では容赦がなかった。

だがこうやって娘の様子を確認しに来ている辺り、同時に優しさもあるようだ。

強さを求める家だが、そこまで過酷ではないのか。今日の稽古が早めに終わったのも、俺が頭を強く揺らしたからだろう。まあぶん殴った張本人だが。

 

 沙希の後ろから別の声がした。

 

「大丈夫かい? セレン」

 

 記憶を辿る。

彼は黒瀬ダニエル、父親だ。穏やかな性格で、優しい父親。ダニエルも俺が心配で様子を見に来たようだった。

 

「大丈夫だよ。柔軟だけ」

 

 言葉が勝手に恋の口調に変換される。

沙希には敬語、ダニエルには砕けた口調で恋は喋っていたみたいだな。

 

 ダニエルは安心した顔をした。沙希に視線を送る。沙希は小さく頷く。

 

「今日は柔軟が終われば好きにしていいわ。セレンは休んで。念の為、夜にまた見る」

 

「はい」

 

 沙希はそれだけ伝えた後、部屋を後にする。 ダニエルもそれに続いて出ていく。

 

 俺は足を伸ばしたまま、黒瀬恋の記憶を漁る。

 

 この状況だと分からないことが多すぎる。何故俺の意識がこの体にあるのかもそうだが、そもそも俺が生きていた時代と同じ時代なのか。俺はどうなったのか。

 

 恋の記憶を辿ると、少なくとも今が日本で、スマホも電車もあるのは分かる。俺が死ぬ直前の世界と、生活の水準は近い気がする。

 

 ただし、同じかどうかは分からない。記憶の端を触ると、学校のクラスや、街行く人、男の数が妙に少ない。恋はそれを当たり前として覚えている。俺の感覚だと、そこが一番違う。戦争で男性が減ったのか? と思ったが、戦争があったという記憶はない。

 

 一方で自分の記憶の方は、そこまで出てこない。軍にいたような気がする。爆発したような気がする。それ以上は、名前も顔も出てこない。

……考えても、今すぐ答えは出ないな。

 

 柔軟の残りを済ませる。昨日までの恋も、毎日これをやっていたはずだ。体が手順を覚えているので、その通りにやる。

 

 一通り終えて、ベッドに座った。

 

 沙希は夜にもう一度来るらしい。それまでに、分かっていることだけ整理しておく。今は黒瀬恋として動けている。母親は厳しい。父親は優しい。それだけ分かれば当分は良いだろう。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。