爆発で意識飛んだと思ったら顎殴られて意識飛びかけた 作:なはは
俺は席に着いたまま待機していた。
ドアが開いて、担任が入ってきた。女の先生だ。
「おはようございます。皆席につきなさい。朝の会、始めるわよー」
全員が座ったのを確認した先生は、笑顔で挨拶をする。その後出席確認を取り始めた
「黒瀬恋さん」
「はい」
自分の名前ではないが体が勝手に反応するのは便利だ。怪しまれない。もしかしたら俺の意識が黒瀬恋に乗っ取ってるように見えて、本人の意識はうっすら残っているのかもしれない。考えても仕方の無いことだが。
「佐藤ひなたさん」
「はいはいはーい! 元気でーす!」
「はいは1回でいいのよひなたさん」
笑いが起きる。お調子者がふざけ、笑いを取るのは違う世界と言っても同じなようだ。安心する。
出席確認が終わり、短い連絡が続く。今日の時間割、提出物、その他連絡事項を先生が淡々と読む。クラスはもう慣れきった顔だ。俺だけが、一つ一つ記憶と照合している。
黒瀬恋は優秀なようで、特に抜け漏れは無いようだった。あの稽古の合間に学校のことも済ませているとは、とても7歳だとは思えない。当時の俺に同じ事をさせたとして、果たして同じ事が出来ただろうか……記憶はないが出来ないだろう。
「では、朝の会を終わります。1時間目の準備をしなさい」
先生が教室を出ると、教室が再びざわつく。
授業の準備をしていると、ひなたがすぐ席を離れてこちらに寄ってきた。
「セレン、3時間目の護身楽しみ! 私、今日こそ受け身を完璧にやるんだから!」
ひなたはやる気に満ち溢れている。
「ひなたなら出来るよ」
内心ではすでに疲れていた。この子が悪い訳ではなく、慣れないことだらけだからだ。護身ってなんだ。そんな物騒な世の中なのか?
ほとんど俺のいた世界と変わらないのに、ほんの少し違う。その少しの違いが強烈な違和感を覚えさせる。
他人の体を間借りしている俺が言うのもあれだが変だ。本当に勘弁して欲しい。
ひなたは構わず話を続ける。昨日の宿題、先生の話、何かを話しているが頭に入らない。辛うじて相槌だけ打つ。護身ってなんだ。
1時限目は国語。変わったところは特に何もない。教科書を開いて、指示されたところを読み、ホワイトボードに書かれている内容をノートに写す。あえて感想を言うなら、ページをめくる感覚がどこか懐かしく感じるくらいだ。
2時限目は算数。これも特に何もない。計算をして、ノートに書き写す。指先の操作がぎこちなく、ペンで小さく文字を書くのが難しい。マス目からはみ出しそうになるが、それだけだ。
算数の授業が終わると、ひなたがまたこちらに来た。目が輝いていて、ワクワクが止まらない様子だった。何故かは分かる。俺は嫌だが。3時限目は、ひなたお待ちかねの護身だ。護身ってなんだ。
教室で体操着に着替えて、体育館に移動する。
先生が少し喋ってから、見本を出す。今日は受け身のみのようだ。いや、今日もなのか。ともかく、想像していたほど物騒じゃないので安心した。
前世で言うところの柔道だと思えば良いのだ。小学2年でやるのかと言われたら少し怪しいが。
とは言え、これはいい機会だ。体のズレを出来る限り無くすには、色々動かなければいけないと思っていた。先生の動きを手本にして、体の動きを試すように、ゆっくりと行う。
ひなたは隣で真剣な顔をしていた。楽しみにしていた分、呼吸が荒い。
まだ若いのに頑張っているな。そんな感想を浮かべながら、イメージした動きと体のズレを確かめていく。
しばらくそうしていると、先生が話しかけてきた。
「黒瀬さん、今日も実演をお願いしてもいい?」
「実演ですか?」
実演ってなんだ。……ああ、皆の前で実際に投げられて、受身を取ってみようという事か。
「誰が私を投げるんですか?」
「え、私よ?」
この人が何を言っているのか理解出来ない。耳が聞こえづらくなってしまったか。同時に黒瀬恋の記憶を掻き回す。なるほど、お手本があるとイメージしやすいと言うところから始まり、受け身が一番上手い黒瀬恋にお願いしたのか。
頭おかしいのか? 大人が子供を投げるってなんだ。虐待じゃないのかこれ。いくらなんでも体格差がありすぎる。
「分かりました」
「いつもごめんなさいね。悪いとは思っているんだけど、黒瀬さんが1番上手だから……じゃ、お願いね」
どうやら以前から引き受けていたようなので、ならここで断るのも変だと思い了承した。
それに、相手が子供なら多少の手加減はするだろう。流石に……
だが、そう思ったのが間違いだった。先生が皆を呼び、お手本を見せると言って俺を投げる。しかも、容赦なく。
考えるより先に体が動く。受身を取り、畳を強く叩く音がする。手が痛い。馬鹿なんじゃないのか。
しかもこれで終わりではなく、俺を様々な方法で投げる。こちらもただで投げられる訳にも行かず、必死に受け流す。これは受け身の実演じゃなく、俺を殺しに来てるんじゃないかという考えが頭に浮かんでくる。俺が何をしたって言うんだ。
記憶が流れ込んでくる。どうやら普段からこんな事をしてたようだ。黒瀬恋の方も大概だった。
永遠にも思える時間だったが、ようやく先生が投げるのを辞める。
「ありがとう黒瀬さん。あまりにも上手だから、少し授業を先取りしてしまったわ。前より上手くなってないかしら?」
それは黒瀬だからなのか、俺だからなのか分からないが、とにかく上手かったようだ。
先生は笑顔だった。イカれてんのか。