「久しぶりだね。ラム」
その言葉で場の空気が変わる。
「おいラム…久しぶりって、あいつはお前の何なんだ…?」
そうスバルは問いかけるがラムからの返事はない
今ラムの目にはかつて慕っていた幼馴染の姿しか見えていなかった
ラムの頭に偽物、変身の術、幾つもの可能性が頭によぎるがマールスの頭に生える角のマナがそれを否定する
「マル姉……一つ聞いていいかしら?」
「ん、言ってみな」
「今からでも魔女教を裏切ってこちら側にくる気はない?」
「ないね。残念ながら」
そう語るマールスは困ったような薄い笑みを貼り付けてそう言う
「今更戻ったところで待っているのは処刑か、拷問か、まぁ碌なことにならないよね。スバルの隣に居れるってのは魅力的だけど……」
「そう、ならボコボコにして目を覚まさせてあげる。『エル・フーラ』」
そう言ってラムはマールスに向けて透明な風の刃を放った
だがそれをマールスは一歩も動かず首を傾けるだけでそれを避ける
「やめときなよ。今の角がないラムじゃ僕には勝てない」
ラムは一気に距離を詰め拳を放つがその全てを受け止めるか流されてしまう
「僕は出来るだけ罪のない人は殺さないようにしてるんだ。昔馴染みのよしみで今大人しく帰るなら見逃してあげるよ」
「うるさい!!ラムが!!レムが!!どれだけ…!」
そうラムは腹に溜まった呪詛を吐き出すように震える声で叫んだ
「はぁ、しょうがないな。『エル・ドーナ』」
その言葉と共に地面が刃の形に変わりラムに襲いかかる。
「…カハッ…!?」
刃がラムの左胸を深く貫き、口から鮮血を撒き散らす
「ほら、だから言ったんじゃん。やめときなって」
マールスの横顔にはさっきまで貼り付いていた薄い笑みが取れ、まるで自身に言い聞かせるように呟いた
「ラ…ム…?」
スバルが呼びかけるが、ラムからの返事はなく、ラムの体はぴくりとも動かなくなっていた
「ラム!!」
スバルはラムに駆け寄り必死に呼びかけるがすでに瞳孔は開きっぱなしで、目から生気が失われていた
そんなスバルの元にマールスが近寄る
「ラムのことは残念だね。僕も本当はね、彼女にも生きていて欲しかったんだ。でも仕方ないね、僕たちが幸せに暮らすためだもん」
そう言ってこちらに微笑んで来るマールスをスバルは敵意の籠った瞳で睨みつける
「あぁいいよ!!その顔だよ!僕はね、スバルの全部が好きなんだ。喜んでる顔も、困ったように笑う顔も、悲しんでる顔も、怒ってる顔も、泣いてる顔も、絶望してる顔も、全部、全部見たいんだ!!」
そう頬に手を当て赤らめながら息を荒くしてマールスは笑っている
「さて、じゃあスバルはまた事が終わるまでの間拘束させてもらうよ。」
そう言ってスバルに近寄っていくマールスだったが、ふとスバルの様子がおかしいことに気づいた
スバルが静かすぎるのだ
まるで何か覚悟を決めるように
「ッまさか…!?駄目だ!!」
マールスはスバルを止めようと掛け出すがすでにスバルはラムに刺さっている刃の先端を自身の喉元に突き立てていた
「やり直しだ……」
そう力なく呟いてスバルは自害した
薄れゆく意識の中でスバルは今回のループ内容が走馬灯のように駆け巡っていた
『ラムが!!レムが!!どれだけ……!』
そしてその中でも一際スバルの記憶に強烈に刻み込まれたラムの泣きそうな顔で叫ぶ姿があった
『必ず、
そう決意したところでスバルの意識は途絶えた
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「………ッ」
スバルは死に戻りが発動した時の奇妙な感覚に襲われ目覚めた
そして周囲を見渡すと草原、そして兵士たちが円形になって集まっている。そこから白鯨を討伐した後なのが読み取れる
「セーブポイント……更新されてたのか…」
そう一人で呟くスバルのことを周囲は不思議そうに見ていた
「スバル殿、どうかされましたかな?」
ヴィルヘルムがスバルの異変を察して声をかける
「あー、いや何でもない。でもみんなに伝えたいことと協力してほしいことがある。まず一つ目に、敵の大罪司教は最低でも二人いる」
「…ッ!?」
スバルの言葉に場がざわつく。
大罪司教、それはたった一人でも下手すれば国家を揺るがすレベルの災害だ
それが一度に二人
「そんでこれはただの。俺の我儘だ。そのうちの一人を俺に任せて欲しい。そして、出来れば殺さないでやりたい」
「なっ!?」
スバルの最後の一言でこの場にいる全員、ヴィルヘルムやユリウスでさえ動揺を隠さなかった
「待ってくれ」
そう声を上げたのは最優の騎士ユリウス・ユークリウス、今はユウリと名乗る男だ
「まず一つ、大罪司教が複数いると言うことをなぜ伝えなかった?そのような重大な情報を隠すことはこれから命をかけて戦うものへの裏切りに値する」
「…あぁすまねぇ。こればっかりは白鯨討伐の寸前に手に入った情報なんだ。だから少しでも士気を下げちゃいけねぇと思った。けどこれは俺の勝手な判断だ。本当にすまない」
スバルの正面からの謝罪にユリウスもこれ以上の詮索をやめた
「ふむ、そして二つ目、大罪司教の一人を君に任せると言うのは賛成だが、なぜ生かしておきたいんだ?情けをかけているのならきっと後悔することになる」
「これに関しちゃ俺の完全な我儘だ。あいつは世界を揺るがすだとか国家をどうこうとか、そんな崇高な理念は持ってない。だから話し合いでどうにか出来るんならそうしたい。」
「賛同できないな。もしその判断によって死人が出たら、君はどうするつもりなんだい?」
「そん時は命でも何でも、俺に取れる責任全部取ってやるよ」
そう語るスバルからは口先で言っているのではなく、確かな信念と気迫、そして何より覚悟があった
「ふっいいだろう。なら僕のことを使うといい。君の障害を打ち砕く刃となろう」
スバルの言葉を受けたユリウスは、彼に協力する姿勢を見せた
「おう!頼りにしてんぜ!なら、作戦はこうだ─────」
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「頼む!!エミリアが!あの子がみんなと仲良くなれる子なんだって、それをそれを分かりあうための時間を俺たちに守らせてくれ!!」
そう言ってスバルは村人達の前で額を地面に擦り付けている
そんなスバルの様子を息を荒くしながら熱い視線を送る銀髪の少女がいた
あぁどうしよう目の前にスバルがいる!!生スバルだ生スバル!!
今までずっと、ずっとこの時のために生きてきたんだ
このために10年もパンドラからのだる絡みもペテルギウスからの頭のおかしい話も全部、全部耐えてきた
でもそんな日々は今日でおさらばだ!!
……いや、違うな
このスバルの頼み方は二回目だ。
一度目は魔女教と言う単語を伏せて頼んでいたはず
つまりこのスバルは二周目
ならこのスバルは僕の正体を知っている…?
前の僕がしくじったのか。どこだ、どこで間違えた。
まずい、一度スバルに敵認定されたらもう打つ手がない
スバルはどこまで知っているんだ?
そして村人が続々と竜車に乗り込んで行く時、スバルに呼びかけられる
「イムちゃんだよな?ちょっと聞きたいことがあるんだ。来て欲しい」
それはイムにとって自身の正体を知っていると言っているのと同義だった
だが今のマールスの頭はそんなどころじゃなかった
どうしようどうしよう!!スバルに話しかけられちゃった!もうこれ十中八九正体バレてるけどもうこの際罠でもいいや!!
「は、はいぃぃ!大丈夫です!!」
「こんな時に呼び出して悪いな」
「いえいえ!とんでも無いです!むしろ本望です!!」
そんなマールスの様子にスバルも苦笑するが、急にマールスの様子が変わる
「で、本題は何ですか?」
「…気づいてたのか」
「えぇ、わかりやすかったので」
「なら、話が早い。俺たちはお前の正体を知っている。その上で提案だ。俺たちの仲間になる気はないか?」
「……断る」
マールスはスバルの提案に少し考えるようなそぶりをしてから言葉を返す
「今、状況が有利なのは僕の方だ。なら、処刑されるリスクを背負ってまでそちらに行くメリットがない」
「メリットならあるさ。毎日俺とエミリアたんとラジオ体操ができる!」
「へ?」
思わずマールスの口から気の抜けた声が漏れる
「おっとそれだけじゃねぇぜ。他にはレムの美味い飯食って、ラムとコントみたいな会話して、そんでふかふかのベッドで眠る!そんな何でもない、それでいてこれ以上ない生活ができる!」
スバルの語る提案は確かに、現代人。さらにスバル大好き人間にとっては喉から手が出るほど欲しい生活だった
「……それを約束できる根拠は?」
「無い!!完全な俺の我儘だ!!」
そう言ってスバルは親指を立てて自信満々に突き出した
「ぷっ…ククッ…アッハハハハ!!」
そんなスバルの様子にマールスも思わず声を上げて笑う
「ほんっと面白いねスバルは…!はぁ……なんかスバルの様子見てたら今まで魔女教がどうだの気にしてたの馬鹿らしく思えてきちゃった」
「ッてことは……!?」
「うん、いいよ。一旦は保留にしといたげる。だけど何かあったらすぐスバル連れて逃げるからね?」
そう言ってマールスは権能を解き、元の姿に戻った
「よっしゃーー!!マジで最高だぜマル!!」
「マル?」
「ん、あぁお前のあだ名だ。嫌だったか?」
「いいや、本望です!!」
そんな何気ない会話をしている時、藪の中から暗い手が伸びる
「ガハッ…」
「コフッ…!?」
不可視の手がスバルとマールスの腹を後ろから突き刺した
「あぁマールス!!敵の甘言に惑わされ自身に与えられた寵愛から逃れようとするとはそれは!!それは!!」
「『怠惰』デスね?」
狂人はそう言って狂ったような声を上げている
「ペテル、ギウスーー!!!」
マールスは魔女因子とか取り込む前から大体こんな感じの性格です。今までパンドラからのだる絡みとかでストレス溜まってきてからのスバルなので情緒が行方不明になってます