「ペテル、ギウスーー!!」
まずいまずいまずい
油断していた!!
ペテルギウスの見えざる手によって俺とスバルの腹は貫かれた
ここまでの傷なら治癒するのに100年は使用しなければならないだろう
だが俺のストックは145年と2ヶ月
二人とも完治させるにはあと50年強足りない
冷静に考えれば、俺が完治してペテルギウスと戦い、スバルは残りの寿命で何とか傷だけ塞いでフェリスの元に行くまで耐えてもらうのが最善
だけど……
「『145年使用』配分はスバルに100年と僕に45年!!」
やっぱり、スバルより自分を優先するなんてできないや
それに、これには感情だけでなくちゃんとした理由がある
まず、45年じゃ傷を塞ぐので精一杯。それもとても不安定な状態だからいつ傷が開いて内臓が飛び出るかも分からない
そんな状態でスバルが耐えられるかの賭けになってしまう
だけど今、今度は俺がその状態でペテルギウスと戦わなければならない
「傷が……塞がった…?」
「マールス!!魔女に与えられた寵愛を他者に!!ましては敵に分け与えるとは…!!あぁ怠惰だァ…怠惰怠惰怠惰怠惰怠惰怠惰!!!」
「僕の権能の効果だよ。ちゃんと塞がったみたいで良かったよ」
そう語るマールスの様子を見てスバルは目を見開いた
「マールス…お前…!」
「うん、ちょっとストックが足りなくてね。僕はかろうじて傷を塞いだだけの致命傷。さて問題!この状況で僕たちはペテルギウスに勝てるでしょうか」
そう言いながらマールスはヨロヨロと立ち上がった
それを見たスバルは強い意志のこもった瞳をして高らかに言い放った
「あぁ!!勝ってやろうじゃねえか!!勝ってみんなで帰るんだ!!」
「そうこなくっちゃ!なら、スバル。ペテルギウスから黒い手が伸びてるのが見える?」
「あぁ見える!」
「ならスバルは今から僕の目だ。あの手が僕に向かってきたらそれを教えて!」
「おう!ガッテン承知の助ぇ!!」
その言葉と共にマールスはペテルギウスに向かって駆け出した
「右側ッ!!」
「ドーナ!!」
スバルの叫ぶ方角に俺はドーナで壁を作る
通常のドーナなら見えざる手によって破られていただろう
だが俺のドーナは違う
「…!?硬い…?」
これは俺が最初に習得してからスバルに会うまでの17年。一日も欠かさず一万回唱え続けたこの世で最も洗練されたドーナだ
故に硬度も段違い
見えざる手程度の威力では破れない
「なぜ?なぜなぜなぜなぜなぜなぜぇぇ!!??なぜ私の権能が見えるのデスか?ワタシの寵愛の証を!!あぁありえないあってはならない!!あぁ脳が震える震えるルルルルル!!」
「決まってんじゃんお前の愛よりスバルの方が何倍もすごいってだけ。ただそれだけだよ」
「ありえなきありえないありえない!!あぁ魔女よ!!」
そう言って狂人は狂ったように自身の髪を掻きむしる
そこに俺は自身の出せる中で最も殺傷能力の高い魔法を使用する
「『エル・ドーナ』」
そう唱えた瞬間、地面が刃の形に変わりペテルギウスの喉元に迫る
それは違う、それでいて確かにあった未来でラムとスバルの命を奪った魔法だった
「『ウル・ドーナ』」
それに対し、ペテルギウスは土の上位魔法で自身の周りを囲うように壁を作った
しかし
「バ…バカな…!?」
その刃は驚くほど、それでいて不気味な程に簡単に障壁を貫き、狂人の首を地面に落とした
「お、終わった…のか?」
「ッまだだ!!スバル!!」
そうマールスが叫んだ瞬間スバルの様子が一変する
「グッなんだ…これ?あっああああ脳が!!脳が震える!!」
よし、想定通りだ。
ペテルギウスがスバルに憑依した
原作ではこうなったらスバルごと息の根を止める他に方法はなかった
しかし原作と違い、ここには俺がいる
「あぁ!!あぁ!!脳が震えるルルルルル!!ってそうじゃねぇ!!俺はナツキスバルだ!!マールス、俺の意識が残ってるうちに俺ごと…!!」
「スバル、そのまま動かないでね」
そう言って俺はスバルの左胸に手のひらを当てる
確かにスバルの心臓の鼓動を感じる
本当ならこのまましばらくこうしてたいけど、そんな悠長なことは言ってられない
「ペテルギウス。お前はもう復活できないぞ」
「…ッ!!??」
「お前の正体は邪精霊だ。魂を他者に移して体を乗っ取る。だけど僕の権能はその魂を奪う。この意味、わかるよね?」
それを聞いた瞬間ペテルギウスの目の色が変わる
「あぁなぜなぜなぜなぜ!!ワタシは寵愛に報い!!勤勉に!!」
そう、最後の瞬間まで狂ったように勤勉を叫ぶ男にマールスは言葉を返す
「あぁ、ペテルギウス。お前は勤勉を謳うが、結局それってお前の自己満足だろ?他者や魔女の気持ちを考えず、自分よがり。それってさすっごく……『怠惰』だね」
「ッ!?違う…チガウチガウチガウチガウ!!あぁ魔女よ!!」
そう最後まで愛を叫んでいるペテルギウスの魂だけを吸収する
その瞬間、ペテルギウス、もといスバルの体は全身を支える力を失いその場に倒れ込んだ
そして僕の中にペテルギウスの魂と怠惰の魔女因子が流れ込んでくる
そして吸収してわかった。精霊の魂はただのマナの塊だ。
だから他の生物と違い、寿命を使用することはできない
これもあり、僕は迷わずその場でペテルギウスの魂を消費した
こんなやつの魂、いつまでも体内に入れときたくないし。何より魔女因子の行き先がわかっていることが大きい
『あらあら、ロマネコンティ司教は最後まで勤勉でしたね。彼の次の生にも幸があることを心から願っています』
…鬱陶しい
魔女因子さえ無ければこいつもさっさと消費してしまいたい
だがこいつを消費してしまうと今、こいつの魂を介して使用できている虚飾の権能も使えなくなってしまう
僕には適性がないからか、権能はしょっぱかったけど。それでもあるかないかだと絶対あったほうがいい
そんなことを考えている時、急に視界が揺れる
あれ?なんだ?敵の術か?
まだ何かあるのか…?
…いや、違うな。傷が開いたんだ
そういえば俺まだ死にかけだった
そして俺の体は地面に倒れた
「マ──!!誰か!!フェ───!!」
スバルが何か叫んでる。上手く聞き取れないよ
スバルの声を聞きながら俺の意識は途絶えた