ようこそ黒歴史を思い出す教室へ   作:松葉牡丹

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プロローグ

 

 

月下名草の独白

 

 幼い頃から口下手で友達が1人もいなかった。でも別に寂しいと思ったことはない。家に帰れば母親がいたから。しかし母にも同じことを言ったら笑ってはくれたもののどこか困ったような顔をしていた。それが私の後悔の一つ。でもあの時私が起こした事件に比べたら、こんなの後悔にもならないのかもしれない。

 

 

 4月、入学式。私はバスに揺られながら窓の外を眺める。東京都高度育成高等学校。日本政府が作り上げた、未来を支えていく若者を育成する。それを目的とした学校。日本の未来とかそんな大層なことは考えていないが学費が無料で卒業すれば希望する進路に進ませてくれるらしい。私の家は母子家庭でお世辞にも裕福とは言えない。もちろん母は私を何不自由なく育てるために懸命に働いてくれていたので特に困った覚えはないが私ももう16歳になる。いつまでも母に甘えてばかりではいられない。問題行動を起こさず無事卒業すれば大学の費用を出してもらう事も可能だ。(希望すれば進路は自力で進まなければならないが進学にかかる費用負担してもらうことも可能)そんな決心をしている私の横に同じ制服を着た男が座ってくる。

 

「はぁ!?」

 

 突然バスで大声を出すヤバい客になってしまった。他の乗客の視線が集まってしまったので私は立ち上がりすみませんと謝り席に座り視線を横に向ける。だが私が大声を出した元凶の男は我関せずと本を読んでいた。龍園翔。私の中学時代の黒歴史。その元凶。でも少し、ほんの少しだけ、感謝してる部分もある。

 

 バスで醜態を晒してしまったが気にせず私は高育の門をくぐる。というか優先席に座って老婆に席を譲らない同じ制服を着た金髪の男のせいで大声を出した程度の私はもはや他の乗客の記憶にも残っていないだろう。不幸中の幸い、いやそんな変な奴と同じ学校なのは全く幸いではない。

 

 入学式が終わり自らのクラスに向かう。どうやら私はCクラスらしい。教室に着くと机にネームプレートが置かれていた。私は教室を見渡し自分の名前が書かれたネームプレートの席に座る。窓際の1番後ろの席。当たりの席だ。幸先の良いスタートになるかと思われたがふと横のネームプレートを確認するとそこには龍園翔の文字があった。同じクラスなのは入学式の段階で薄々勘付いていたがまさか隣の席なのか…前途多難にも程があるでしょ…

 

 Sシステムや学校の設備の説明が終わり今日は解散となった。初日から授業がないのは助かった。私はそそくさと帰路に着く。クラスメイトは友達作りのために交流していたが生憎中学では1人も友達がいなかったので今更友達の作り方など忘れてしまった。別に欲しいとも思わない。…いや別に強がりとかじゃないから。中学と違って高校では静かに過ごしたい。そのためにクラスで浮かないようオシャレは欠かせない。寮生活をする上で荷物は最低限しか持ち込めなかったためコスメや日用品を揃える必要があるな。私は1人ケアキモールに向かった。

 

 買い物が終わり寮に戻ると(寮と言っても完全個室だしもはやマンションだ。)ロビーのソファに知った顔がいる。龍園だ。誰か待っているのか?まあ私には関係ないのでスルーしてエレベーターに向かうが途中で呼び止められる。

 

「おい、名草。」

 

「…なに?」

 

「お前、Sシステムについてどう思った?」

 

 …??意味がわからない。というかいきなりなんなの?普通本題に入る前に何かしらジャブ的な会話するでしょ。まあそんな気遣いをこいつに期待するだけ無駄か。

 

「どう思ったって10万もくれるなんて太っ腹だなぁって思ったけど。」

 

 そう言った私を鼻で笑ってそのまま私を置いてエレベーターに乗り上に上がって行った。え?なんで1人で上がって行ったの?普通私も乗るでしょ。しかも聞いといて碌に返事もしないし。…相変わらず変な男だ。でもちょっと、ほんのちょっとだけ懐かしいと思ってしまう私もいた。

 

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