ようこそ黒歴史を思い出す教室へ   作:松葉牡丹

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中間テスト

 

 

 入学して一週間。特に何事もなく過ごせている。授業にしても居眠りや机の下でスマホを触っている生徒はいるものの静かな環境で勉強出来ている。中学時代は筆箱は飛び交うわ、上履きが飛び交ような環境だったのでそれに比べたら居眠りやスマホ程度ではむしろ真面目だと思えてしまう。ただ以外だったのは隣の龍園だ。中学の一年の時しかクラスが同じだったことはないのだが授業中はほぼ教室にいなかった。というか学校に来てたかどうかも怪しい。そんな男が高校に入ってからは居眠りもせず真面目にノートを取っている。大人になったのかそれとも何か企んでいるのか。まあ私には関係ない。

 

 授業が終わり昼休みに入る。いつもは自分の席でお弁当を食べて過ごすが今日は救急箱を持って教室を出ようとする龍園に声をかける。

 

「龍園、ちょっと待って。」

 

「あ?」

 

「口元、傷が開いて血が出てる。手当てしてあげるから私の席座って。」

 

「いらねえよ。こんなのかすり傷だ。唾つけときゃ治る。」

 

「いいから。早く座って。」

 

「ちっ、早くしろよ。」

 

 こうなった私は断ってもしつこく追いかけ回すのを龍園は知っているため大人しく私の席に座る。

 

 私はガーゼで血を拭き取り絆創膏を貼る。一昔前は消毒液で消毒してたらしいが傷を治そうとする自分の細胞も傷つけてしまうらしい。

 

「はい、終わり。もう行っていいよ。」

 

「相変わらず鬱陶しい女だな。」

 

 そう言って龍園立ち上がって教室を出て行った。自分でも余計なお世話なのは自覚している。でも仕方ない。私はそういう人間に″なった″のだから。血の付いたガーゼを袋に入れ鞄にしまう。そのまま救急箱を持って今度は石崎達の元へ向かった。

 

 石崎、小宮、近藤の3人はいつも屋上でご飯を食べている。私は救急箱を持って屋上への階段を上がる。

 

 3人は楽しく談笑してるが私に気づいて話すのをやめる。厄介な奴が来たと思われているんだろうな。だが気にせず声をかける。

 

「石崎、クリーム塗るから動かないで。」

 

「あ?クリーム?なんのだよ。」

 

「顔の内出血の。赤紫から黄色に色が変わったでしょ?そうなったら血行促進の効果があるこのクリームを塗ると早く治るから。」

 

「こんなのほっときゃ治るからいらねえよ。」

 

「いいから。」

 

 そう言うと石崎は抵抗をやめて私に大人しくクリームを塗られている。素直に治療されてるのか、はたまた面倒になって早く済ませるために大人しくしてるのか。おそらく後者だろう。石崎に塗り終わったのでそのまま小宮、近藤と続けて塗る。塗り終わったのを確認すると石崎達は早くどっか行けというような目で私を見てくる。しかし私にはどうしても確認しなくてはならないことがある。

 

「繰り返し聞いて悪いんだけど、3人とも龍園に虐められてるわけではないよね?」

 

「あぁ?だから何回も言ってるけど別に虐められてねえよ。ちょっと喧嘩しただけだわ。怪我が治ったら次はボコボコにしてやるよ!」

 

 そう言った直後にしまったという顔をして口を押さえる。本意ではなかったにしろ怪我の治療をしてくれた人間相手にまた喧嘩をすると宣言するのは居心地が悪かったのだろう。もしくは私を龍園派の人間だと思っているか。まあ両方か。

 

「何回も聞いてごめん。もう聞かない。喧嘩も好きにして。」

 

「え?あぁ。おう。」

 

 まさか肯定されるとは思わなかったのだろう。歯切れの悪い返事になった石崎達を置いて私は教室に戻った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 5月1日、早いもので入学してからもう一か月だ。私はいつものように学校へ向かい教室へ入る。何やらクラスが騒がしい。何かあったのだろうか。大きい声で話してるので聞き耳を立てるまでもなく会話が耳に入ってくる。

 

「なぁお前ポイントいくら振り込まれてた?」

 

「49,000!毎月10万くれるんじゃなかったのかよ!詐欺だろこんなん。俺もうポイントあんま残ってねえよ。」

 

「俺も!調子乗ってゲーム機なんか買うんじゃなかったわ。」

 

 どうやら月初にも関わらずポイントが49,000ポイントしか支給されてないらしい。朝はポイントを使わず無料の水を自販機で買った(無料だからこの場合貰った?)から気づかなかった。私はスマホを取り出してプライベートポイントを確認する。大まかな残高しか覚えてないので正確な値はわからないが私も49,000ポイント程度しか支給されていなかった。まあそれでも十分大金ではあるし、この前の10万ポイントは入学して何かと物入りだから多めに支給しただけで本来はこんなものかと思う。4月も半分程度しか使わなかったしさほど問題ないか。私は教科書とノートを開きテストに向けて勉強する。もう中間試験まで三週間ほどだ。今から少しずつ勉強したほうがいいだろう。

 

 しばらくすると坂上先生が教室に入ってきてホームルームが始まる。どうやら私達の生活態度のせいでポイントが半分程度しか支給されなかったらしい。それはまあいいのだけれど問題は学費を負担してくれるのはAクラスのみという点だ。Aクラスは940ポイント、Bクラスは650ポイントに対して私達は490ポイント。Bクラスとですら160ポイント、Aクラスに至っては450ポイントも離れている。…Aクラスで卒業できなかった時のために学費免除の特待生になれるよう勉強頑張らないと。それか大学には行かず公務員でも目指そうかな。そんなことを考えらながらも私はとりあえずは中間試験に向けて勉強していた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 クラスポイントなるものが坂上先生から知らされてからはや一週間と少し。最初こそ動揺があったものの今は落ち着いている。(まあ龍園が王になるとか訳わからないことを言って多少混乱はしてたけど)まあ動揺しててもしょうがないしDクラスがクラスポイントが0だったのも大きいのかな。当初の半分になったとはいえ0のDクラスに比べたら私達は遥かに恵まれている。けれど朝のホームルームのせいで私達は再び混乱する。テストまで残り10日にも関わらず試験範囲が変更されたのだ。それに坂上先生は君たちが赤点を取らずに乗り越えられる方法はあると確信していますって言ってたけど少し楽観的すぎない?この前の抜き打ちテストで3人赤点だったのに10日前に試験変更されたらまずいんじゃないかな?まあ幸い私は早めに勉強してたのでなんとかなるとは思う。赤点組は…まあ頑張ってもらうしかなさそうかな。

 

 昼休み、いつものように自分の席で自作のお弁当を食べようとしてたのに隣の龍園に声をかけられた。

 

「おい、名草。ちょっと付き合え。」

 

「え?なに?私は、今からお弁当食べるんだけど。」

 

「いいから来い。」

 

 そう言って私の腕を掴み教室を出る。相変わらず強引だなぁ。それにせめてどこに向かってるかくらいは言いなさいよ。

 

「どこに向かってるの?」

 

「食堂。」

 

 …なんでこいつは聞かれたことしか答えないのだろうか。会話のキャッチボールをしよう。ボールは投げ返そうよ。

 

「私、お弁当あるんだけど。」

 

「飯食うのが目的じゃねえからな。」

 

 よくわからないけどなんかしら目的があるみたい。まあなんで私が連れてこられたのかはわからないけど。これ以上聞くのは面倒なので黙って私は龍園に着いて行った。

 

 食堂に着くと龍園は食券も買わずに辺りを辺りを見回してる。彼氏がフードコートで自分を探してキョロキョロしてたら冷めるんだっけ?龍園のこれもカエル化現象って奴かな?いや彼氏が自分を探してたら手くらい振るでしょ。最初に言い始めた奴頭おかしいんじゃない?そんなどうでもいいことを考えてると龍園はお目当てのものを発見したのか私に一言行くぞとだけ告げ男子生徒の元に向かった。

 

「よう、お前二年か?それとも三年か?」

 

 てっきり待ち合わせでもしてるのかと思ったら知らない上級生に声をかけてるらしい。相変わらず先輩にも敬語を使ってない。こいつ面接の時もタメ口だったのかなぁ。

 

「あ?なんだお前。一年か?」

 

「一年Cクラスの龍園だ。お前は?」

 

「随分舐めた口を聞く一年だな。まぁいい。三年Dクラスの山口だ。それで?なんか用か?」

 

「テメェが一年だった頃のこの時の中間テストをよこせ。安心しろ。プライベートポイントは払ってやる。」

 

「俺が三年と分かっても変わらずタメ口か。失礼な奴だな。まあ売ってやってもいい。だが何故俺に声をかけた?」

 

「あ?テメェが山菜定食なんてクソまずいもん食ってるからに決まってんじゃねえか。んなもんポイントに困ってでもねえ限り食わねえだろ。」

 

「ふっ、態度は最悪だが見どころがある一年だな。それで?いくら払える。」

 

「10,000ポイントだ。」

 

「30,000だ。それなら売ってやってもいい。」

 

 これから値段交渉が始まるらしい。ていうかこれ私なんで呼ばれたの?そんなことを考えながら龍園を見ると龍園もこちらを見ていたので目が合う。…なるほどそれで男子生徒に声をかけたのか。まあ私も過去問欲しいし龍園の期待に応えてあげよう。まあ期待通りの結果になるかはわかんないけど。

 

「山口先輩、龍園君が失礼な態度をとってすみません!私から謝ります!」

 

 そう言って頭を下げる私に山口先輩は面を喰らう。失礼な奴の連れは同じく失礼な奴だと思っていたのだろう。

 

「いや、まあ君が謝ることないよ。悪いのはそいつだし。」

 

 先程までと違い多少空気が先輩の柔らかくなる。とりあえず畳み掛けるか。

 

「ありがとうございます。優しいんですね。じゃあ私達はこれで。」

 

「えっ!?過去問は?」

 

「買いたいのは山々なんですけど私30,000ポイントも持ってなくて。すみません。」

 

「え?あ、じゃあ20,000ポイントでいいよ。それなら払えるの?」

 

「20,000ポイントですか…それなら私も明日から山菜定食にして夜ご飯を抜けばなんとか…」

 

 そう言いながら私はスマホを取り出してポイントを確認するフリをして龍園からのメッセージを見る。見終わったのでその後さりげなくスマホの電源を落とした。

 

「え?そんなカツカツなの?」

 

「はい…実はDクラスの友達にポイントを貸してて。Dクラス今月0ポイントだったらしくて…」

 

「あ、そうなんだ。それはカツカツにもなるね。」

 

「はい…でも20,000ポイントならなんとか払えます!買わせてください!」

 

「そんなカツカツの子に20,000ポイントも貰えないよ。分かった。特別に10,000ポイントで良いよ。」

 

「良いんですか!でも申し訳ないので15,000ポイント払います!その代わり小テストも付けて貰えたりしますか?」

 

「あぁ分かった。じゃあ後で送るから連絡先教えて貰える?」

 

「はい!勿論です!あ、ごめんなさい。スマホの充電サボってたら電源が切れてしまいました。悪いんだけど龍園君、立て替えて貰える?それと先輩との連絡先の交換も。」

 

 そう言いながら反応しないスマホを触る。まあ電源落としたんだから反応しないのは当たり前なんだけど。

 

「クク、あぁ分かった。電源が切れたならしょうがねえな。」

 

 そうして龍園がポイントを払い連絡先を交換した。このままでは過去問が届くのが明日になるかもしれない。多少はサービスしておこう。私は先輩の手を取る。

 

「本当にありがとうございます!」

 

「あ、うん。じゃあなるべく早く送るね。」

 

「はい!ありがとうございます!」

 

 そうして山口先輩と別れ教室に戻る途中、龍園から声をかけられる。

 

「やるじゃねえか。コミュ症のお前があんなに上手く交渉するとは思わなかったぜ。Dクラスにポイントを貸してるなんて嘘よくついたな?」

 

「よく言うよ。15,000ポイントまで値下げして小テストも付けさせろなんてメッセージ送ってきたくせに。」

 

「ふっ、まあお前の連絡先をダシにすればそんくらいで済むかと思ったんだがまさか電源切れたフリまでするとはな。完全に想定外だ。」

 

「人の連絡先勝手に売らないでくれる?まああの頃とは違うからね。龍園も言ってたでしょ。我を通したいなら強くなれって。」

 

 そう言って私は中学の頃を少しだけ思い出す。いややめよう。あんな黒歴史忘れたほうが絶対いい。

 

「あぁ、そんなこともあったな。」

 

「もう用は済んだよね?じゃあ私教室戻るから。」

 

「あぁ、だがあいつから過去問が届いたらお前に渡すからクラスの人数分コピーして教科ごとに分けとけ。終わったら一旦俺のとこにもってこい。」

 

「はぁ?なんで私がそんな面倒なことしなきゃいけないの?自分でやってよ。」

 

「そうか。なら仕方ない。だがそれならさっきの奴にお前の連絡先が流れるだろうな。」

 

「ッッ!最低!」

 

「クク、知らなかったのか?じゃあ頼んだぜ。」

 

 そうして過去問を龍園が前日に配ったことによりCクラスは1人も赤点を取ることなく無事中間試験を突破した。(なんで前日に配ったんだろう。もっと早めに配ればいいのに)意外だったのはDクラスも退学者が出なかったらしい。私達よりポイントの多いABクラスはともかくDクラスは0ポイントになるくらいだから赤点を取る生徒もたくさんいるのかと思ったけどそうでもないらしい。まあ私には関係ないか。

 

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