【AI利用実験中】ポケモン世界に転生したら、旅どころではなかった 作:うどん風スープパスタ
パルデア地方の港町、マリナードタウン。
潮の香りが満ちる船着き場の待合室に、身を寄せ合う3人家族がいた。
「ウノ、アケノ、もうそろそろ出航の時間になるよ。船に乗り込もう」
「そうね……」
父親は明るく声をかけるが、虚勢であることを隠せていない。
返事をした母親も、憔悴して心ここにあらずといった様子で遠い空を見る。
なかなか動かない2人をおいて立ち上がったのは、間に座っていた1人の幼い少年だった。
「行こう、お父さん、お母さん」
「ウノ……もういいの? お引越しをしたら、当分は帰ってこれないわよ?」
「いい、早く行こう」
自ら大人用のスーツケースを掴み、急かすように船の乗り場に向かおうとする少年には、未練というものがまるで感じられない。それどころか、1分1秒でも早くこの場を離れようとしている。
杖をつき、左足を引きずった状態で懸命に。
「ウノ、荷物は全部お父さんが運ぶよ。貸しなさい」
「お母さんもいるから、無理しないで」
「……うん」
父が荷物に手を伸ばし、母が慌てて立ち上がり、少年の歩調に寄り添う。
船の汽笛が遠くで鳴り響き、波打つ海に向かってひっそりと。
……この日、彼ら家族はパルデア地方を去っていった……
……
…………
………………
~船上~
『ウノ、気分は悪くないか? 船は初めてだろう』
(大丈夫だよ、
『船が着くまでゆっくり休めばいい。何かあれば、俺が対応するから』
(そう、だね……よろしく……)
ゆっくりとウノの意識が薄れ、眠りについたことを確認して、ふうっと息を吐く。
『疲れてたんだな……俺でもそうなんだから、子供の精神なら尚更きつくて当然か。
まぁ、これでひとまずは安全だろうし、新しい土地に行ければ多少は気分が変わるはず。そこからどうするかはまた別問題だけど……』
ひとまずこれまでの経緯を整理する。
まず、俺は転生者。前世の名前は佐野大輔、今は通称“サノ”だ。
二次創作系小説のように、ポケットモンスターの世界に転生した。
転生先は父・ウドと母・アケノの間に生まれたウノ少年なのだけれど、
『前世の意識が覚醒しても、ウノ少年の意識がそのまま残ってたんだよな……』
これは転生系の中でも“憑依転生”というパターンに近いのか? 記憶を取り戻す前の意識がそのまま残るパターンがあるのか? これ転生というか、ただ俺がウノ少年に取り憑いただけじゃないか? ……色々と疑問は残るが、おそらく転生はしていると思う。
なぜなら俺はウノ少年を“今の自分”だと認識しているし、ウノ少年は俺を“前世の自分”だと認識している。誰に教わることもなく、この状態に気づいた時に自然とそう理解したのだ。だから、1つの体に2人分の精神が入っていると考えて後はスルーしておく。
そんなことより重要なのが、今の状況。時期はゲームのストーリーで言うとポケモンSVの原作開始前。クラベル校長はいないし、まだスター団は結成すらされていない。アカデミーの中には陰湿ないじめが蔓延している。そして、ウノ少年はいじめの被害者の1人。
原因は……おそらく俺、というか俺の知識。当時の彼は転生の自覚がなかったけれど、ゲームの事はうっすらと覚えていたらしく、教えてもいないことを知っている“ポケモンが大好きで知識欲が旺盛な天才少年”として扱われていた。
それが他の生徒の気に障ったのだろう。徐々に彼はアカデミーで孤立するようになる。快活だった性格は内向的になり、やがて露骨な罵倒や暴力を振るわれ、不登校になった。勉強は自宅学習で問題なかったが、1日の大半を部屋に引きこもる生活が続く。
しかし、自分でもそんな状態ではいけないという思いがあったため、年齢に応じて与えられる勉強内容だけでなく、将来のための資格の勉強にも力を入れて日々を過ごしていた。
『そのまま穏やかに進めばよかったのにな……』
ある日……ウノ少年が町のはずれで手持ちの“ミニーブ”を日光浴させていると、偶然いじめっ子のグループと遭遇。奴らはセルクルタウンのジムリーダーの店に、お菓子を買いに来ていたらしいが、ウノ少年を見つけるなり邪悪な笑みを浮かべた。
“オイ、お前なんでアカデミーに来ないんだよ?”
“授業サボってんじゃねーよ!”
“天才少年は勉強しなくても人生楽勝ですってかぁ!?”
“いいよなぁ、天才様は。アカデミー行かなくても親が許してくれるんだし”
取り囲まれ、力づくで街の外に連れていかれ、罵倒と暴力を受けた後……いじめっ子の1人がさも良いことを思いついたかのように言った。
“なぁ、こいつアカデミーに来てないし、勉強が遅れてるんじゃないか? 俺たちで
そこから始まったのは、補習でもバトルでも何でもないただの
流石にこれはまずいと思ったんだろう。傷だらけのウノ少年を放置して、奴らは慌てて逃げ去った。出血多量で意識が薄れていくなかで、ウノ少年は最後の力を振り絞り、庇ったミニーブに助けを呼ぶよう指示をする。
次に目を覚ましたときには俺の意識が覚醒して、単身赴任中だった父が家に戻ってきていた。
『死に瀕して前世が目覚めるってのはよく聞くが、あいつら普通に殺人未遂だろ。悪ガキなんて可愛いもんじゃねぇぞ』
ミニーブが人を呼んでくれたから助かったけど、医師の先生が言うには、もう少し処置が遅れていれば命はなかった。また、特に傷がひどかった左足には後遺症も残っている。だけどそれ以上にヤバいのはウノ少年の
あの事件までは不登校でもまだ外出はできて“引きこもりがち”という程度だったが、今では“ガチな引きこもり”。外に出ないだけでなく、何事にも無気力で食事にもほとんど手を付けなくなってしまったから、さらに状況は悪い。
不幸中の幸いと言えるのか……覚醒した俺も記憶は共有していたし、体を動かすこともできたので、最低限の勉強と食事・風呂・トイレなどの日常生活は俺が代行している。外やポケモンに対するトラウマや発作のような症状が出ていないことだけが救いだ。
『あの連中にも、その親にも、アカデミー教師達にも腹が立つが……とにかく体とウノ少年の心を癒すのが最優先。スター団や主人公のことは気になるけど、原作がどうこうなんて考えてられん』
とにかくウノ少年、そして母の心を癒やすことを第一に考える。
頼むから療養に適した環境であってくれよ……