【AI利用実験中】ポケモン世界に転生したら、旅どころではなかった 作:うどん風スープパスタ
招き入れられた家の中は、外見と同じく年季が入っている。しかしそれ以上に目を引いたのは、庭の一角に積み重ねられたゴミの山。家の中は綺麗に片付いているだけに、庭の汚い部分が際立って見える。
片付けようとした形跡はあるけれど、物が多すぎて全く追いついていないようだ。それに綺麗に片付いているといった家の中も、片付いた状態で長く使われていない部分が多いように感じた。
あと、とにかくニャースが多い。先程見えたニャースは本の氷山の一角で、下手すると100匹近くいるのではないだろうか?
「散らかっていてごめんなさいね」
ネコメさんが申し訳なさそうに微笑みながら、お茶と茶菓子を出してくれる。お盆を持っているため杖がなく、歩くのも少し辛そうな様子を見て、母さんとシズカ先生が慌てて配膳の手伝いに入った。
そして落ち着いたところで、ネコメさんはぽつりぽつりと懐かしむように語り始める。
「改めまして、うちの子を連れてきてくれてありがとうございました。特にウノ君、ありがとう。この子は寂しがりで人見知りだから、あなたが見つけてくれなかったらどうなっていたことか」
「どういたしまして」
「飼い主として恥ずかしい話だけれど、近頃は体が思うように動かなくてねぇ……この子達のお世話も満足にできなくなってしまって……」
「でしたら……ネコメさん、差し出がましいことを言うようですが、ポケモンセンターや保護団体を頼ってはいかがでしょうか?」
シズカ先生がやんわりと伝えようとして、改めてハッキリと言った。ネコメさんも先生の言葉には頷いている。そうすべきだと、頭では理解しているようだ。
しかし、
「実は以前に一度だけ保護団体に預けたことがあるのだけれど、そこが詐欺まがいの悪徳団体でね……幸いにも預けて間もなく不正が発覚して立ち入り検査が行われた結果、その子達は帰ってきてくれたけど……あの時のことを思うと、他人に預けようとは思えなくて」
さらにネコメさんがその団体の名前を出すと、シズカ先生もその団体は知っていたらしい。
なんでも高齢のトレーナーから飼いきれなくなったポケモンを集めて、珍しくて高値が付くポケモンは売りさばく一方、希少性が低くて売れないポケモンは“コスト削減”という名目でろくな餌も与えず、病気になっても治療せず、狭い檻に詰め込んだまま放置していたという。
当然そんな扱いをしていれば、命を落とすポケモンもいる。数多くのポケモンの命を奪い、団体を信じて愛するポケモンを預けたトレーナー達の思いを踏みにじったことで、有名な団体なのだそうだ。
(そんなことが……)
『そういう団体が存在するのは理解はできるけど、やるせないな……』
俺達が今の状態になってここにいるのも、犯罪者予備群共にやられた結果だし、ポケモン関連の犯罪は意外と身近な問題だ。決して他人事ではない。
「もっとも、一番の理由は私自身がこの子達と離れたくないからよ。
私と主人の馴れ初めは、お互いに飼っていたニャースがきっかけでねぇ。この子達は、その時のニャースの子供達……夫との子宝にも恵まれなかった私にとっては、この子達が子供なの。
満足な世話もできないのに手放せないなんて、エゴだとも思うけれど……それでもやっぱりできる限り、最期まで一緒にいたいのよ」
深い皺が刻まれた顔が優しく緩み、一瞬だけ部屋の隅に置かれた仏壇の、旦那さんと思しき遺影に視線が向いた。夫に先立たれて独り身となった今、この子達は彼女にとってかけがえのない大切な家族なのだということは、分かる。
「幸い、主人が遺してくれた家と蓄えがあるから寝床とご飯には困らないのだけれど……体が動かないからこの子達が遠くに行ったら探せないし、拾い集めてきた物の片付けも間に合わないのよね」
「“ものひろい”?」
「あら、ウノ君よく知ってるのね。そうなのよ、最初の2匹の特性がものひろいだったからか、この子達の特性も大半はものひろいでね。他人の物を盗んでこないようにだけは躾けてあるけれど、物を拾ってくることはやめないの。
それで勝手に家の外に出ていくから、今回みたいにこの子達が外に出て帰って来れなくなるんじゃないか? 他の方に迷惑をかけてしまうんじゃないか? と、毎日気が気じゃなくてねぇ……」
心細そうに肩を落とす彼女の姿に、母さんもシズカ先生も同情的な目を向けている。しかし、出会ったばかりで親しくもない相手に、安易な言葉も書けらない。
不意に沈黙が流れた──その時、
(サノ……ニャースに頼んだらダメなの?)
『えっ?』
ウノの言葉に、俺は思わず目を見開いてネコメ婆さんとニャース達を交互に見つめた。
「ウノ? どうしたの、急にキョロキョロして」
この行動に気づいた母さんが、俺の顔を覗き込みながら不思議そうに首を傾げた。そこまで不審な動きをしたつもりはないが、最近は特に俺の様子を気にしているので気づいたのだろう。少し思ったことがあると前置きし、急ぎウノから聞き取った詳細を語る。
「えっと、外にあるゴミは全部、ニャースたちが拾ってきたんですよね?」
「ええ、そうよ」
「ということは、1つ1つはニャースたちが運べる重さと大きさのものばかり」
「そうなるわね」
「そしてネコメさんはニャース達に、他人の物を盗まないという躾ができている」
「ええ。それだけは、絶対にやらないようにと教えてあるわ」
「つまりネコメさんには指導力があって、ニャース達には新しいルールを覚える賢さもある」
俺が断言すると、母さんとシズカ先生も気づいたようだ。ウノが考えていたのは、ゴミを集めてきたニャース達自身に、ゴミの片付けもやるように躾けること。
具体的には“拾ってきたゴミを指定の場所に置く”、“可能であれば拾った物によって分別して一か所にまとめる”ということ。これができれば、ネコメさんの負担は大幅に減るはずだ。
そう考えたが、ネコメさんとしてはどうか? と尋ねてみると、彼女は一度目を丸くして、庭ではしゃぐニャース達を見つめる。そして、すぐに表情を明るくした。
「できると思うわ」
ネコメさんが試しにと、縁側で寝転んでいた5匹のニャース達を呼ぶ。呼ばれたニャース達は機敏に反応し、ネコメさんの前に整列。この時点で躾がしっかりされていることがうかがえた。
『なんかこの子達、思ったより訓練されてないか?』
(だね……本当にお歳のせいで手が回らないだけで、飼い主としてはちゃんとしてる人なのかも)
この様子なら、と期待したところで、ネコメさんの指示が飛ぶ。
「皆、庭にあるゴミを1つずつ、持ってきてちょうだい」
「「「「「ニャン!」」」」」
呼ばれたニャース達は元気よく返事をし、縁側を飛び越えて庭に出ていく。そして各自がゴミをくわえて戻ってきた。ネコメさんは彼らが出ている間に近くのゴミ箱を手元に置いており、戻ってきたニャースにゴミを入れるよう追加の指示を出す。
するとニャース達はその指示にも従い、ゴミを入れる。ネコメさんがすかさずニャース達をなでながら褒めたので、ニャース達も得意げだ。
「ウノ君の言う通り、持って来てもらうことはできたわね。今は私が指示を出さないとだめだけど、教えれば一か所に集めてもらえると思うし、分別も教えたらある程度は──」
根本的な解決策ではないものの、長く抱えていた不安に対して、僅かなりとも希望が見えたのだろう。呟いていたネコメさんの表情は明るく、かすかに目元に涙が浮かんでいる。
「うちの子を助けてくれたお礼をしようと誘ったのに、またお世話になってしまったわね」
「そんなことは」
「いいえ、実際に私はこれまで思いつかなかったわ。これまで通り私がお世話をしてあげる、あげたい……そればかりで、この子達にお世話をしてもらうなんて考えもしなかったもの。だからこれはウノ君のおかげよ。これについての何かお礼をしたいのだけれど、何がいいかしら」
『……ということだけど、ウノ、どうする?』
(それなら、ゴミの中にある腐ったきのみや使えそうなもの。それからニャース達のフンが欲しい! こやしを作ってみたい!)
なるほど、ウノらしい。そう思いながらそのまま希望を伝えると、ネコメさんは首を傾げた。純粋な好意から出たお礼に対してゴミを要求されたのだから、無理もないだろう。
一方、ウノの事を知る大人2人は俺と同じでウノの目的に気づいたようで、納得しつつ苦笑い。
「ネコメさん、ウノ君は今、きのみの栽培に夢中なのです。
ゴミの中にきのみがあれば、栽培できるきのみの種類が増えるでしょう。増えなくてもニャース達のフンと合わせて肥料、つまり“こやし”の材料にできる。そう考えたのよね? ウノ君」
「はい! シズカ先生の言った通りです」
「そういうことなの」
俺が力強く頷いて肯定すると、ネコメさんはある程度納得をみせた。
「なら、使えそうなものというのは……」
「それについては私から。私とこの子はパルデア地方の出身なのですが、パルデアでは環境保全の観点から、落ちているゴミや道具を拾うこと、そして再利用できるものは再利用が推奨されています。特に子供は、拾ったものを換金してお小遣いにするのも一般的ですね。
私も子供の頃はよく集めましたし、うちの子も以前はよくやっていましたから」
「まぁ、パルデアにはそんな習慣があるのねぇ……ちょっと申し訳ない気もするけれど、ウノ君がそれでいいと言うのなら、もちろん構わないわ。
でもフンを持ち帰るのは大変でしょうし、匂いもあるでしょう? それにフンは今後も出続けるから、どうせなら持っていかずにうちの庭で肥料を作ったらどうかしら? 私としても、たまに誰かが遊びに来てくれると嬉しいから」
(サノ! これならきのみをもっと増やせるよ!)
『ああ、そうだな。でも、まずは母さん達に許可をもらわないとな』
脳内で歓喜するウノ少年をなだめつつ、俺は母さんとシズカ先生に視線を向けた。初対面の人の家の庭を借りるなんて、許しを得るのは難しいだろうと思ったけれど、以外にも2人は優しく微笑んでくれている。
きのみ栽培がウノ少年の回復に繋がると思われているからだろうか? ……なにはともあれ、許可は出たとみていいだろう。
「ありがとうございます、ネコメさん。庭の一角、お借りします」
「ええ、いつでもいらして」
全ては成り行きの結果だが、こやし作りを試す目途が立った。色々と準備も必要なので、すぐにとはいかないが……将来的な希望を胸に抱きながら、この日はこれでお暇することになった。
……
…………
………………
帰宅後
~食堂~
「そんなことがあったのか」
夕食の席で母さん達から事情を聞いた父さんが呟く。他の研究所の大人たちも、ネコメさんの状況には似たような反応だ。
「でもニャースたちの躾けはされていたし、ウノ君の提案があったから今後はある程度改善すると思うわ」
「それは良かった、ウノ君のお手柄だな!」
イワオさんが大きな声で豪快に褒めてくれる。さらに続けてミヤビさんが、こやし作りについても言及した。
「きのみの栽培研究も興味深い結果が出てるし、丁度僕達も欲しくなってきたところだった。まだ使えるものになるかは分からないけど、試す場所と材料が手に入るのは助かるよ。なによりもタダなのが助かる」
「面白いけど、これに関しては完全に自腹だもんね。でも材料があるならそっちも本格的に進めていいと思う。私はホウエンから情報を集めておくね」
「じゃあ俺は作業用の道具とか用意するか。っていっても何が必要なのか知らないし、ウノ君、必要なものがあれば俺に言ってくれな」
キリカさんとケントさんも、こやし作りに前向きな意思を示してくれている。皆さんの協力には改めて感謝を伝え、よろしくお願いする。
「あっ、あとこやしの材料以外で貰う物についてですが、皆さんが使えそうな物があれば使ってください。不用な物は売って、きのみ栽培や研究の資金にできないかと考えています。
今回のバザーにもそんなお店が結構出ていたので、不可能ではないと思います」
「そこまで考えていたのかい? しっかりしてるなぁ……」
「ゴミに関しては成り行きだけど、バザーへの出店については私達も考えていたのよ」
行きの道中で聞いた話だが、実は母とシズカ先生はバザーへの出店を考えていて、その下見として今日のバザーを見に行くことにしたそうだ。
シズカ先生は皆さんの削減されている研究資金の足しにするため。母は簡単に外出ができない中で料理研究に精を出しており、腕と空いた時間を活用して家計の足しにするため。
理由はそれぞれだが、隙間時間を活用して自分達のためになる活動をしたいとのこと。元々シズカ先生1人で考えていたが、母がきて一緒に料理をしながら語り合う中で、実行しようと思い立ったとのこと。
俺もウノ少年もこの計画には賛成しているので、余剰在庫のきのみやミニーブのオイルなど、必要とあらば無理のない範囲でどんどん提供する所存である。
これを聞いて研究所の大人達、特に所長のイワオさんは複雑そうだ。
「むぅ……私の立場としては不甲斐なくもあるが、その気持ちは非常にありがたい。そういう事なら私は2人のバザー参加にも全面的に協力しよう」
「俺も手伝いますよ、妻と子も手伝うと言ってるんですから、夫の俺が何もしないわけにはいかんでしょう」
「俺も俺も! できることなら手伝いますって」
「私達も無関係じゃないですもんね!」
「商売は専門外だけど、裏方なら協力できる……」
満場一致でこやし関係だけでなくバザーへの協力も決まり、さらに、
「それならそのネコメさん? って人の家のゴミの処分も手伝うか。ゴミの分別はニャース達がやってくれるとしても、それを運び出して捨てるのは人手がいるだろ」
「長く放置されてたのなら腐ったものとか、ニャースが咥えて運ぶのは衛生的に良くないものもあるはず。一度古いものは一気に綺麗にして、その後の管理をネコメさんとニャース達に任せた方がいいと思う」
「であれば、トラックなどの手配は私がしよう。勝手に進めるわけにはいかないから、相手方の許可を得てからになるだろうがね」
「ウノのこやし作りのための場所を借りるわけですし、ついでに片付けてしまいましょう。あちらも困っているのなら、断られることもないでしょうから」
大人たちはネコメさんのゴミの片付けにも協力の意思を見せている。
研究所の資金難とネコメさんのゴミ問題、そして俺とウノ少年のきのみ栽培。
3つの物事が組み合わさって、少しずつだが良い方向に転がっているように思えた。
せっかくそういう流れになったのだから、気分だけでなく現実になるよう頑張っていこう。