【AI利用実験中】ポケモン世界に転生したら、旅どころではなかった 作:うどん風スープパスタ
一週間後
~ネコメの家・門前~
俺と母さんとシズカ先生、イワオさんを筆頭とした研究所の大人たちは2台のトラックに分乗し、ネコメさんの家を訪れた。事前に電話で連絡を入れていたため、ネコメさんと数匹のニャース達が迎え入れてくれている。
「初めまして、ネコメさん。今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ、こんなに大勢で手伝いに来てくださって、本当にありがとうございます」
イワオさんを始めとした研究員の皆さんが口々に挨拶をはじめ、和やかな雰囲気に包まれている。しかし俺とウノ少年は、門の奥に広がる庭の光景に釘付けになっていた。
(サノ、庭が)
『全然ちがうな』
先日訪れた時に散乱していたゴミが、すでに一か所にまとめられている。一通りの挨拶が済んでから尋ねてみると、ネコメさんは自慢げに目を細めた。
「あの日から少しずつ、この子達にお願いして集めてもらったの。缶や紙みたいなものであれば、ちゃんと分別もできるようになったのよ。おかげで作業が捗るようになったわ」
「ここまで分別されているのであれば、だいぶ楽にすみそうですな!」
彼女が指差した先には、見事に単一の素材ごとに分けられたゴミ。袋詰めまで済んだものも、無数に並んでいる。それを見て豪快に笑いながら、ニャース達の働きぶりを心から称賛するイワオさん。彼は今日の片付けの段取りについても軽く確認を始めた。
「基本的な分別はニャース達がやってくれているみたいだから、研究員組は袋の搬出とトラックへの積み込みを中心にやろうか。ウノ君、アケノさん、シズカとネコメさんは、ニャースにできない分別と袋詰めを中心にお願いしたいが、どうだろう?」
この提案に異議が出ることはなく、そのまま本格的な片付け作業が始まる。
「さあ、みんなお願い」
ネコメさんが優しく呼びかけると、屋敷の中にいたニャース達が一斉に動き出した。ゴミの山から小さなものを1つずつ。しかし、ニャースが100匹近くいるため、一往復でもごっそりと消えていく。
そんな彼らの働きを無駄にすまいと、大人たちの手も止まらない。母さんとシズカ先生、微力ながら俺も参加し、まとまったゴミを袋に詰める。そしてイワオさんと父さんが主力となった研究員チームが、ゴミ袋を手際よくトラックへ積み込んでいく。
トラックが一杯になったら、誰かが街のゴミ処理場に行って戻ってくる。それを何度か繰り返すと、ここがただ広い庭ではなく“豪華な庭園”だったことが分かってきた。手入れがされていなかったために草や蔦で覆われているが、その中には庭石や燈篭が立っていたのだ。
「お父さん、ここも綺麗にしたい」
「そうだな。
ネコメさん、この辺の草木も少し刈りましょうか?」
「助かりますけど、そこまですると大変では?」
「ご心配なく。ニャース達が近づかないようにだけお願いしますね。
出てきてくれ! キリキザン!」
遠慮がちなネコメさんに、父さんは胸を張って腰につけていたモンスターボールを放った。
赤い光と共に姿を現すのは、全身に鋭い刃のようなパーツを持つ、悪・鋼タイプのポケモン、キリキザン。彼が父さんの相棒だ。
「キリキザン! いつものように切り払ってくれ! 中の石には傷をつけないように、できるな?」
「キザンッ!」
誰に物を言っている! とでも言うように、庭の草むらに飛びこむキリキザン。次の瞬間には生い茂った草木が細切れになり、みるみるうちに荒れた庭から庭園の面影が見えてくる。
(すごい!)
『そうだな……父さんは研究で森の奥に分け入ることも多いらしいし、いつもは道を切り開いてもらってるんだろう』
野外活動に慣れた父さんの指示もあり、あっという間に庭の一角は綺麗な空間に早変わり。
「よし、こんなものかな。キリカさん! ちょっといいかい!」
「はーい! なんですか?」
「刈った草を集めたいんだけど、君のピジョットに頼めないかな」
「いいですよ。
お願いピジョット、かぜおこしで草をまとめて」
「ピジョッ!」
今度はキリカさんがピジョットを出し、生み出した風で器用に草を庭の端まで吹き飛ばすことでまとめていく。お礼を言った父さんは、塊になった草を袋に詰め始めた。
「おー、綺麗に場所ができたな。それじゃあ、俺は例のやつを組み立てますか」
草木が払われたスペースに、今度はケントさんが運んできた資材を下ろす。彼が額の汗を拭いながら組み立て始めたのは、大きな樽を、豪快に肉を回して焼くような道具に取り付けて作った、自家製の回転式コンポスト。
これは俺が事前に頼んで、研究所の廃材などを再利用して作ってもらった。俺達の体では土や堆肥をスコップでかき混ぜるような力仕事はできないが、これなら横のハンドルを回すだけで簡単に中身を攪拌できる。
『前世のバイト先のホームセンターで見たものを思い出せてよかった。きのみ用のこやしはまた違うのかもしれないが、堆肥なら問題なく作れるだろう』
(楽しみ!)
「ウノ君、こやしの材料も集めてきたよ」
今度はミヤビさんが、袋を両手に下げて小走りでやってくる。中身は腐ったきのみや乾いた木の葉、そしてニャース達のフン。臭いはなかなかのものだが、少しも嫌がる素振りを見せず、笑顔で運んでくれた。
お礼を言って、作業に集中。ゴミの分別を進めつつ、使えそうなものや状態の良いきのみを探していく。こうしてゴミの中を探すことに没頭した結果──
『おっ! ウノ見てみろ! これヒメリのみじゃないか?』
(間違いない。あっ、その下! オレンのみがある! あっちにはキーのみも!)
なんと、午前中だけで新たに、
・PPを10回復する“ヒメリのみ”
・HPを10回復する“オレンのみ”
・混乱の状態異常を治す“キーのみ”
・全ての状態異常を回復する“ラムのみ”
・全HPの4分の1を回復する“オボンのみ”
・なつき度を上げる代わりに素早さの努力値を10下げる“マトマのみ”
以上、6つのきのみを発見した!
これだけ多種多様なきのみが手に入れば、今後の栽培や料理の幅が大きく広がる。主にウノ少年が心を躍らせ、土の汚れを払いながら、俺達は次々と有用なきのみをカゴへと移していく。
「皆さん、そろそろ一息入れましょう」
「ネコメさんが昼を用意してくださったわよ! 皆手を洗っていらっしゃい!」
ここでネコメさんとシズカ先生、そして母さんが昼食を運んできた。遠目から見ただけでも縁側に大量のおにぎりと具沢山の豚汁に自家製のお漬物。鶏の唐揚げや厚焼き玉子など、豪華なおかずが何品も並んでいる。
ネコメさんの台所をお借りしたからか、ジョウト地方の和食系が中心だけど、母さんが作ったとおもわれるパルデア伝統料理の“サンドイッチ”もいくつかあるようだ。
『ちなみにこのサンドイッチ、元ネタはスペインの国民食である“ボカティージョ”って料理らしくて、現地では食パンのサンドイッチとは明確に区別されてるらしいぞ』
(パルデアのサンドイッチはサンドイッチじゃなかった?)
『サンドイッチの一種だから間違いではないんだろうけどな』
脳内で会話しながら、言われた通り身綺麗にしてから昼食をいただく。体を動かした後で縁側に座っていただく料理は、いつもよりも清々しく美味しく感じる。もちろん気分的なものだけでなく、実際に料理も美味しい。ネコメさんも料理がお上手だ。
そして一通りの料理に舌鼓を打ち、お腹が膨れたところで、
「皆さん、まだお腹に余裕はありますか? 食べられる人はデザートもどうぞ」
母さんが追加でサンドイッチを持ってきた。これまで並んでいたものとは違い、近づいただけで爽やかなフルーツと甘いクリームの濃厚な香りを漂わせている“フルーツサンド”のようなもの。
香りに惹かれて、皆さんの手が次々と伸びる。俺も一つ貰って噛り付くと、
『美味っ!』
(美味しい!)
香っていた以上に芳醇なきのみの香りとうま味が口の中に広がり、無言で一気に食べてしまった。
「アケノさん! これは格別だね!」
「パルデアのお料理ってこんなに美味しいのねぇ」
「お口に合って良かったです。これ、この前ウノに言われて試したきのみで作ったんですよ
「ウノが?」
「もしかしてカジッチュの特性で“じゅくせい”させたやつ?」
「そうよ。まだ裏にある5種類だけでしか試せていないけど、角が取れて果物の味と香りが濃厚になるの。だから濃厚なモーモーミルクから作ったクリームにも負けないし、クリームを軽く感じさせてくれるのよ。
食材を吟味したり使い方を色々と試したり、レストランで働いていた頃に戻ったみたいで楽しかったわ」
母さんが充実感に満ちた笑顔で説明している間にも、フルーツサンドはどんどん減っていく。さらにポケモン用にも用意されていたらしく、ニャース達も綺麗になった庭で取り合うほどだ。
『平和だな……ん?』
サンドイッチ片手にそんな光景を眺めていたら、近くを通るニャースの足元に生えていた草が気になった。
(サノ、どうしたの?)
『あの草……“メンタルハーブ”じゃないか?』
縁側から身を乗り出して観察してみると、葉の形状が記憶にあるアイテムと一致する。間違いなく、ポケモンに持たせておくと、メロメロやちょうはつといった精神を乱すような技を一度だけ無効化するアイテム“メンタルハーブ”だ。
(サノ! よく見たらあっちにもある! しかも“パワフルハーブ”や“しろいハーブ”も!)
『は!? 普通に雑草みたいに生えてて気づかなかった……てかハーブ系のアイテムって第三世代、ルビー&サファイアから登場したアイテムだったと思うけど……あっ“ものまねハーブ”もあった。しかも自生して群生してる……』
「ウノ君、どうかしたの?」
ここでネコメさんが尋ねてきた、と思ったら大人達全員の目が俺に注目している。よっぽど動揺していたように見えたらしく、心配されているようなので説明をする。
「うわっ! 本当にメンタルハーブ! 他のも、何でこんなに珍しいハーブが無造作に生えてるの!? ゴミばかり見てたから全然気づかなかった……」
「……さっき切り開いた中にも混ざってるのかな……」
大人達、特にホウエン地方出身のキリカさんは知識があったようで、非常に驚いている。さらに先程、豪快に庭を切り開いていた父がちらちらとゴミ袋を気にしていた。他の研究員仲間も反応は似たようなもの。
「あれは何か珍しい植物なの?」
そんな彼らに対して、ネコメさんは目を丸くしている。どうやら全く価値を知らなかった様子だ。
要点をかいつまんで説明すると、彼女は寂しげな目をして“そうなの”と呟いた。
「ホウエン地方原産のハーブ……だったらきっと、夫が植えていたのね。あの人は若い頃から船乗りをして各地を回っていたし、貿易で財を築いてからも他所の地方への興味が強くて、度々出かけてはいろんなお土産を買ってきてくれたから」
「そうだったんですか……」
「ふふっ、そんなに困った顔をしないで。夫が亡くなったのは大分前のことだし、思い出の品が見つかったのは嬉しいことよ」
ネコメさんはクスリと笑い、懐かしむように目を細めている。穏やかな雰囲気に俺達も少し安堵し、お茶をすすって一息ついた。
「そういえば、似たような草がまだあるのだけれど、それも貴重なものなのかしら?」
「似たような草?」
「“これは地植えをしてはいけない”と言って、夫が鉢植えで育てていたものがあるのよ。お花じゃないけど色とりどりで綺麗だけど、香りの強い草なの」
何気ないネコメさんの発言に、口をつけた湯呑みの動きがピタリと止まる。
“地植えをしてはいけない”、“香りの強い草”。
前世の記憶の引き出しが開き、ある植物と、それをモチーフとした道具が思い浮かぶ。
(サノ!)
『まさか、いやでも……』
脳内ではウノ少年が息を呑み、俺も心臓が早鐘を打つのを感じる。
もし予想が正しければ、先ほどのハーブ以上のとんでもない代物。ゲームでもプレイヤー同士の対戦を楽しむ層には重要だったが、現実になったポケモン世界においてはさらに大きな意味と価値を持つ道具だ。
「……ネコメさん、差し支えなければその草を見せていただけませんか?」
「もちろんいいわよ。夫の遺したものだから手入れをしているけれど、正直私もよくわからないものだから、何かわかるなら教えて欲しいわ」
やはり価値があるものとは思っていないようで、ネコメさんは気軽に俺を屋敷の奥へと案内してくれた。さらに、俺の様子に何かを感じた大人たちも顔を見合わせ、ぞろぞろと後に続く。
こうして案内された先は、日の当たる南側の縁側に面し、小さな本棚と椅子が置かれた読書スペース。その片隅にある棚には、赤、青、水色、ピンク、緑、黄色……同じ形で色合いの異なる葉を持つ植物が21種類。小ぶりな鉢植えに植えられて、ずらりと並べられていた。
『マジかよ』
(やっぱり“ミント”系、しかも全種類コンプリート済み)
整然と並べられた鉢植えの光景に俺達は言葉を失い、杖を突き損ねて軽くふらつく。それほどの衝撃を受けるのも無理ないだろう。
なにせ、それはポケモンの性格に伴う“ステータスの成長補正”を後天的に変化させる道具なのだから。