【AI利用実験中】ポケモン世界に転生したら、旅どころではなかった 作:うどん風スープパスタ
「ウノ!?」
「大丈夫か!?」
俺達が転びかけたのを見て、両親が慌てて駆け寄り支えてくれる。
「ごめん、大丈夫。ちょっとこの植物に驚いて」
「そんなに珍しい植物だったの?」
「実物を見たのは初めてなので、珍しいのは確かだと思います。ただ、それ以上に効果が……えっと、皆さんはポケモンの性格が成長に影響する、ということは聞いたことがありますか?」
ネコメさんの質問に答えつつ、言葉を選びながら前提となるステータスの話を確認。するとここで、ケントさんが手を挙げた。
「臆病なポケモンは“すぐ逃げるから、足が速くなりやすい”とか、勇敢なポケモンは“前に前にと出ていくから、物理攻撃力が強くなりやすい”とか、昔そんな論文を読んだ気がするな。
結局のところ“性格による向き不向き”の一言を引き延ばして小難しくした印象が強くて細かい部分は覚えてないが、タイトルは“性格による行動特性と成長傾向”だったような……それがどうかしたか?」
「簡単に言うとこれらの“ミント”は、今ケントさんが仰ったポケモンの“成長傾向”を後天的に変化させる植物だと思います。
例えば、本来は防御が育ちにくい性格の子でも、これを使えば防御が育ちやすくなる、という風に」
「なんだって!?」
父さんが目を見開き、大きな声を上げる。他の大人たちも息を呑み、信じられないといった様子で鉢植えを見つめていた。
……それもそのはず、ポケモンが現実の
特にゲームで行われていた、自分の戦術や技構築に理想的な能力のポケモンを求める行為、いわゆる“厳選”やそれを行う“廃人”に相当する概念はこの世界にもあるけれど、これらは“倫理観の欠如した行為、あるいは人間”として、世間一般には強く忌避されている。
何故か? なんてわざわざ説明する必要はないだろう。ポケモンがデジタル上のデータでしかない前世ならブラックジョークで済む行為も、こちらでは冗談では済まないのだから。
そして今回のミントに関しては、成長補正……こちらでいう成長傾向を変えるだけであり、性格そのものを変えるアイテムではない。しかし、成長傾向が性格に紐づいている以上、十分な知識がなければ“ポケモンの性格を変えてしまうアイテム”と考えてしまうのも無理はないのだ。
この点については誤解のないよう、念入りに説明をしておく。
「ミントについては分かったけど、ウノ君はどうしてそんなことを知っているの? 効果どころか存在も、少なくとも私は知らなかったわ」
「シズカの言う通りだ。我々は仕事柄、植物の知識はある方だと思うが、これらのミントについては誰も知らないようなのだが」
「アカデミーに通っていた時、書庫にあった本で読みました。あまりクラスに馴染めなくて、休み時間は人目を避けて人が来ない所を探して……そこを使うようになってからは、暇潰しにそこにあった古い本をたくさん読みました」
書庫に関しては、嘘ではない。まだ不登校になる前のウノ少年は、実際に昼休みのほとんどをその書庫で読書をして過ごしていた。
オレンジアカデミーのエントランスに併設された図書室スペースは名所の1つで人も多いが、そこの書籍を入れ替え・管理するための書庫には滅多に人が寄り付かない上に、生徒が入ってはいけないという規則もなかったからだ。
「アカデミーの、それも表に出ていない蔵書からか」
「教育機関としてはともかく、研究機関としては間違いなくパルデア随一だものね」
両親が俺とアカデミーのことで複雑そうな顔をしている一方、イワオさん達は困った顔で会話している。
「他の地方の植物とはいえ、そのような効果があるならもっと有名でもいいと思うのだが……もしや、意図的に情報が伏せられているのか?」
「生育条件が厳しい希少種で単に文献が少ない可能性もありますが、自分が伸ばしたいポケモンの能力を手軽に伸ばせる手段があったら、欲しがる人はいくらでもいると思いますしね」
「特にリーグ優勝を本気で狙う層はガチですから、いくらでも金は払うでしょう。それこそ裏では倫理観をかなぐり捨てるような連中もいるし、ギリギリをせめる奴もいる。暴力に訴えてでも、って奴がでてきてもおかしくないんじゃね?」
「それだけじゃない。公にしたら需要が大きすぎて、供給も間に合わない可能性もある。ミントがポケモンの性格を変えるものではないとしても、強い個体を求めて命を選別するような人間なら、浮いた時間をまた別の要素の追求に充てるだけだろうし……」
大人達、特にミヤビさんの懸念はよく分かる。
前世でもミントが導入された第八世代・ソードシールドからは厳選の手間が大幅に減り、初心者でも対人戦に挑みやすくなった。その一方で、以前から厳選をしていた廃人たちは、性格厳選にかかっていた時間を別の要素の厳選に費やし始めた。それだけ人の欲と、それを追求する熱意には際限がない。
「まさか、この草がそんなに恐ろしいものだったなんて」
研究者チームの会話を聞いてミントの価値を理解したネコメさんが、不安そうに呟いた。
「でも確かに、夫は腕利きのポケモントレーナーだったわ。ポケモンリーグには興味がなかったけれど、船乗りとして各地を旅するのに、バトルの腕は重要だからって」
「ミントが全種類揃っていますし、おそらくネコメさんの旦那様は効果を知っていたかと……ただ、さっきも言ったようにこのミントはポケモンの性格を変えるものではないので、別に旦那様が非道なことをしていたわけではないですよ。
それに誰も知らないということは、違法な品でもないですよね?」
「違法薬物の類にこれらのミントが含まれていないことは、私が医師として保証するわ。
法で規制されるということは、周知されるという事でもあるから、情報が広まらないようにどこかで伏せられている可能性までは否定できないけれど……現状では法に反する代物ではないわね」
厳選に関わるイメージのせいか、シズカ先生の言葉が“合法”ではなく“脱法”に聞こえるけれど、とりあえず問題はない。それを聞いてネコメさんは少し安心したようだ。
「それなら、このまま持っていてもいいのね?」
「所持していることは公言しない方が良いと思いますけど、処分の必要はありませんね。
将来的に規制されるとしても、それまで違法でなかったものが違法になるなら、必ず移行期間として手放す時間が与えられるはず。処分するとしても、そうなってからで大丈夫です」
「それならこのまま、ここでこっそり育てておくことにするわ」
「大事な思い出でしょうし、僕もそれがいいと思います」
「我々もこのミントについては黙っておくこととしよう」
イワオさんの一言に全員が頷き、世界を揺るがしかねないミントの存在は、ネコメさんの屋敷の片隅に秘匿されることで話がついた。
……
…………
………………
夕方
ハーブ系とミント系アイテムの植物の発見からの動揺が過ぎ去って、落ち着きを取り戻した皆で作業を再開。皆で力を合わせて作業を続けた結果……
(終わった!)
『綺麗になったな』
日が傾き始める頃には、庭に積み上がっていたガラクタの山が完全に姿を消した。庭そのものも余計な草木が取り除かれて、やや寂しさは感じるものの、広々とした状態になっている。
「皆さん、今日は本当にありがとうございました。おかげさまで、見違えるように綺麗になって……」
ネコメさんが庭園を見渡し、安堵の表情を浮かべていた。これまでのゴミ屋敷状態は、彼女も望んでいたものではないし、将来の不安もこれで少しは解消されたのだろう。足元で喉を鳴らすニャース達も気持ちよさそうだ。
「こちらこそ、活動に役立つものを沢山譲っていただき感謝します。しかし、本当に全て貰ってしまってよろしいのですか?」
そう尋ねるイワオさんが目を向けた先には、ガラクタの中から発見され、トラックの荷台に積まれたアイテムが多数。
その内訳は、
・ポケモンに持たせると、毎ターン最大HPの16分の1を回復する“たべのこし”
・進化前のポケモンに持たせると防御と特防が1.5倍になる“しんかのきせき”
・20%の確率で先制攻撃ができる“せんせいのツメ”
・悪タイプの技の威力が1.2倍になる“くろいめがね”
・攻撃技が外れた時、一度だけすばやさを2段階上げる“からぶりほけん”
・ポケモンに持たせると野生のポケモンとのエンカウント率が低下する“黒いビードロ”
・攻撃が1.5倍になる代わりに、最初に選んだ技しか使えなくなる“こだわりハチマキ”
・持たせたポケモンを戦闘に出して勝つと、賞金が二倍になる“おまもりこばん”
等々……現実での仕様がどうなっているか分からない物もあるが、バトルを有利にする“もちもの”が山になっている。
さらに発見されたのは持ち物だけでなく、モンスターボールや傷薬、進化の石などの消耗品や、高額で売れる“ほしのかけら”まで。実用的な道具が続々と見つかったのだ。
傷薬などの薬品類は容器の汚れや保存状態による劣化の可能性があり、命に係わる道具ということでシズカ先生からドクターストップがかかったため廃棄したが……それを除いてもかなりの収穫。全て換金できれば、それなりにまとまった額になるだろう。
だからこそ、皆が本当に貰っていいのかと念を押すけれど、ネコメさんは軽く笑う。
「気になさらないで。それはうちのニャース達が拾ってきたもの、本来は私の物というわけでもありません。大体、庭のお掃除を業者さんに依頼したらもっとお金がかかるでしょう? 不用品と引き換えにお掃除をしていただいただけで十分得をしていますもの。
それよりも、こやし作りのついででいいから、時々皆さんが来て話し相手になってくれた方が嬉しいわ」
「ありがとうございます。それではまた近いうちに、伺わせていただきます」
「ウノ君も、いつでも遊びに来てちょうだいね」
「はい! また来ます!」
こうして俺達は今後の付き合いを約束し、ネコメさんとニャース達に見送られ、ログハウスへの帰路につくのだった……