【AI利用実験中】ポケモン世界に転生したら、旅どころではなかった 作:うどん風スープパスタ
3日後
~きのみ畑~
「よし、これで全部だな」
「ウパッ!」
「ミニ!」
ウパーとミニーブの協力もあり、先日植えた新しいきのみが無事に実を結んだ。オレン、ヒメリ、キー、ラム、オボン、そしてマトマの全6種類。どれもツヤツヤと輝いていて、品質は申し分ない。新しい種類だから勝手が違うかとも思ったが、順調な生育ぶりに安堵する。
『これもこの2人のおかげだな』
(大豊作で、2人も嬉しそう)
「いつもありがとな」
「ミニ~」
「ウパー」
「ウノ~! ご飯よ~!」
「あっ、お母さん! いまいく!」
俺達が2匹に感謝をこめて撫でていると、ログハウスの方からエプロン姿の母さんが俺達を呼びに来ていた。
……
…………
………………
~食堂~
「お待たせしました!」
母と共に食堂に入ると、父さんたちの視線が俺の背中に向く。大きな背負いカゴに詰め込まれたきのみを持っているので、目を引くのは当然。しかもウノ少年は、内心で自慢したがっていた。
「ウノ、僕達も丁度来たところだけど……今回も豊作だったみたいだね」
話題に挙がったのをいいことに、カゴをテーブルに近づけて今回の成果を披露すると、イワオさんとケントさんが感心した様子でカゴの中を覗き込む。
「今回も見事な出来栄えじゃないか。1回目でこれだけ収穫できるのは凄いな」
「ミヤビとキリカのポケモンがせいちょうを使ってもここまでにはならないし、やっぱりミニーブの特性が関係してると見てよさそうだな」
和やかな空気が流れているが、ここでミヤビさんがマトマのみに目を留め、少しだけ真剣な顔つきになる。
「ウノ君、“マトマのみ”の扱いには気をつけてね」
「気を付ける、というと?」
「ポケモンは好んで食べるし、毒ではないけど“与え過ぎると運動能力が落ちる”ことが確認されているんだ。人間でいうところのジャンクフードみたいなものと考えればいいかな」
ミヤビさんが優しく諭すように注意を与えると、キリカさんたち他の研究員も頷いている。
しかし、俺は違和感を覚えた。
(運動能力が下がる……すばやさの“努力値”が下がるからかな?)
『ああ、そういう認識なのか』
ゲームにおける“努力値”、別名“基礎ポイント”。これはポケモンの最終的なステータスを決定する上で重要な要素だった。廃人界隈では特に。
……つまり、これも先日のミントと同じく、一般的な知識ではないのか。
ただ、経験則からの知識は広まっているようなので、まだ詳細が把握できていないだけなのかもしれない。だから“能力が下がる”という表面的な現象だけを見て、ジャンクフードのような扱いをしているのだろう。
「まぁ、マトマのみも量を制限すれば問題はないさ。重篤な健康被害がでたということは聞かないしね。
それに他のきのみの回復効果は本当にありがたいよ。これだけあれば、怪我の備えとしても心強いからね」
父さんがオボンのみを手に取り、嬉しそうに笑っている。
確かに今回得たきのみは回復系が多い。特にオボンのみのHP4分の1回復、ラムのみに至っては状態異常の万能薬と言ってもいい。きのみ版の“なんでもなおし”だ。
「皆、テーブルを片付けてちょうだい」
シズカ先生が大きな鍋を抱えてきたので、きのみの話題はここで中断される。
それから美味しいお昼を食べたのだが……俺とウノ少年はちょっとした違和感を覚えていた。
(きのみのこと、もっと知っておいた方がいいかも)
『そうだな……ゲームを元にした俺達の知識と所々でズレがあるし、一度すり合わせておくか』
先日と今日、2回も世間一般の認識とのズレを感じたため、俺達は早めに行動を起こすことにした。
「ごちそうさまでした」
「あっ、お父さん、きのみのことや植物のことをもっと知りたい! だから、植物図鑑を貸してもらえないかな?」
「図鑑かい? もちろん構わないよ。研究室に私物があるから、すぐに持ってくるよ」
……
…………
………………
~自室~
父さんから借りた分厚い植物図鑑を机に広げ、まずは昼食で話題に挙がった“能力を低下させるきのみ”についての項目を探す。
(あった。マトマのみのページだね)
『なになに……“過剰な摂取により、敏捷性に関する運動能力の低下が見られる”か。聞いた通りだな』
(他のきのみもあるけど、そっちは“筋力低下”とか、“耐久力の低下”ってなってるね)
図鑑の記述を読む限り、やはり“努力値が下がる”という現象を身体機能の低下という“症状”として捉えているようだ。毒性はなくてもそのような症状が出ることから、あまり健康的でない食べ物という扱いになり、ジャンクフードと表現されたのだろう。
しかし、残念ながらそれ以上の内容は書かれていない……
『ついでに、ネコメさんの家で見つけたメンタルハーブとかについても調べておくか』
(うん。この世界だと、どんな風に知られているのか気になるし)
目次を引き直し、ハーブ系の項目へとページを飛ばす。だが、こちらも残念ながら目新しい情報はな買った。その後もしばらく、なんとなくページをめくって図鑑に目を通していたところ……ネギのような絵が目に留まる。
『“クスリソウ”って確か、レジェンドアルセウスで出てきたアイテムだよな?』
(たぶん、そうだと思う。説明にも“浸出液に消毒と傷の治癒を促進する働きがあり、昔の人が傷薬として使っていた”って書いてあるから)
ヒスイ地方……大昔のシンオウ地方を舞台にしたゲームで使われていた“クラフト素材”。主人公はこれを使って、冒険を助ける様々な薬を自作することができた。
『クスリソウがあるなら、他のクラフト素材はどうだ?』
(探してみよう!)
思い出せる限りの植物系クラフト素材を紙に書き出して、索引で見てみると、驚いたことにピーピーグサやムシヨケソウ、ゲンキノツボミやキングリーフなども存在が確認できた。
『これ、もしかして材料を集めたら俺達も“クラフト”ができるか?』
(わからないけど……ゲームの主人公も別に、最初から技術があったわけじゃないよね? レシピを教わったら、それが作れるようになるって感じで)
『具体的な手順や作り方は分からないけど、材料は分かるし、後は工夫とトライ&エラーで行けるかもしれないな……』
(お父さんも、回復アイテムはありがたいって言ってた)
『きのみだと食べなきゃいけないから、余裕がある時ならともかく、緊急時の治療には使いにくいだろうし、そういう意味では薬の方が便利だろうな』
(この前の傷薬も、スプレータイプで使いやすいようにできてたよね……品質が保証できないから捨てちゃったけど。あそこまではいかなくても、もう少しきのみそのものより使いやすくて、品質が安定したものを作れれば……)
幸いなことに、材料になるきのみは十分にある。今後の安定供給も可能だろう。自分達の畑で採れたきのみで安全な薬を備蓄できるのならば、コストをかけずに万が一の時の備えになる。であれば、
「試してみよう」
きのみを材料とした薬のクラフトに、俺とウノ少年の興味が向かうのは必然だった。
……
…………
………………
~研究室~
思い立ったが吉日ということで、早速食堂の2階にある研究室を訪ねた。
「ウノ、どうしたんだ?」
パソコンに向かっていた父さんが、俺の姿に気づいて優しく声をかけてくれる。俺は植物図鑑を抱えたまま父さんのデスクに近づき、ここまでの経緯を説明。
「ということで、このリストの植物が欲しいんだ。手に入らないかな?」
「どれどれ……ああ、クスリソウならすぐ近くにも生えているよ」
「本当!?」
「はっはっは! ウノ君の探求心は素晴らしいね!」
俺が声を弾ませると、横のデスクで話を聞いていたイワオさんが、豪快に笑いながら会話に混ざってきた。
「ウド君、たしか君の今日の仕事はもうほとんど片付いているだろう? 残りは私がやっておくから、早めに上がってウノ君を手伝ってあげたらどうかね?」
「それは、いや、しかし……」
「残っているのは簡単な計測と数値の記録だろう? 誰がやっても構わんよ。それに君は単身赴任でウノ君と離れていた時間が長い。せっかくだからこれまでの分も、親子の交流をしたまえ」
イワオさんの粋な計らいに、父さんは少し照れくさそうに笑って頷いた。
「所長がそう言ってくださるなら、お言葉に甘えさせてもらいます。ウノ、近いとはいえクスリソウが生えているのは森の中だ。お父さんが取ってくるから、ウノは家で待っていなさい」
「ありがとう、お父さん! イワオさんもありがとうございます!」
「いいんだよ。私もウノ君が作る薬に興味があるしね。
そうだ、薬ができたらシズカに見てもらうといい。ここは人里離れているため、万が一に備えて医務室の機器はそれなりに充実させてあるんだけど、毒物や薬の成分を解析する検査機器もあったはずだ。たまには使って動作確認をした方がいいだろうし、話を通しておくよ」
「わかりました、重ね重ねありがとうございます!」
父さんが快諾してくれたことで、早くもクスリソウが手に入る。
さらにイワオさんとシズカ先生の協力で、作ったものの効果も確かめられる。
俺達は胸を躍らせて、薬作りの準備を進めておくために家に戻った。
……
…………
………………
~自宅内・リビング~
夕方、父さんは無事にクスリソウを採取して帰宅。ネギのように細長くて先端が緑の葉は、図鑑で見た通りの形。母さんとミニーブとウパーも合流し、俺達はリビングにあるテーブルに材料と道具を広げて準備完了。
「では始めます!」
「ウパー」
「ミッ」
まず今回作るものは“キズぐすり”と“なんでもなおし”の二種類。材料はそれぞれ以下の通り。
《キズぐすり》
オレンのみ、クスリソウ
《なんでもなおし》
クラボのみ、モモンのみ、チーゴのみ、ナナシのみ
「材料は揃っているけれど、具体的な作り方は?」
母さんが手元のクスリソウと、用意しておいたオレンのみやクラボのみを見比べながら尋ねてくる。しかし、その質問には答えられない。
「僕が読んだ本には具体的な作り方までは書いてなかったけど、できた薬が軟膏タイプで、すり潰して混ぜる、みたいな表現はされていた。あとこの薬作りはサバイバル技術の一部という感じに位置づけられていたみたいだから、高度な設備がなくても作れるはず。
強いていうなら、材料の部位ごとに薬効成分の量が違ったり、そもそも含まれていなかったりするかもしれないから……最初は全部潰して混ぜて、きのみを皮と実に分けて組み合わせたパターンも試したいかな」
「分かったわ。それじゃ私はきのみの皮を剥いておくわね」
「だったら僕は材料を潰すよ。ウノは潰した材料を混ぜつつ、全体を見ながら気になった部分を指摘してくれ」
作業の分担が行われ、実際に薬の試作が始まった。
『ゲーム中の映像とフレーバーテキストが頼りだけど、とりあえずやってみるしかない。頑張るぞ』
(うん! あっ)
「お父さん、僕が見た挿絵ではなめらかそうだったから、一回刻むか、後で裏ごしした方がいいかも」
「そうか、確かに軟膏なら繊維が多いと困るもんな」
「だったら最初はミキサーを使って、ある程度細かくしてから潰してもいいんじゃない?」
両親と意見を交換しながら、試作品を作っていく。
「うーん……混ぜてはみたけど、全部だとちょっと水っぽすぎるわね」
「水分の多い実の部分を除いて、皮だけでやってみようか。後日で良ければ、干して乾燥させたものを使うという手もあるけど」
「試すのは賛成だけど、そういった記述は無かったと思うから、皮でやってみよう。
その前にいったん道具を洗おうか。ウパー、お願いね」
「ウパッ!」
「ミニーブは次のきのみを持って来て」
「ミニ!」
皆で協力しながら作業を進め、色合いや粘り気の違う試作品がいくつか瓶に溜まってきた頃……外はすっかり暗くなっていた。
「あら、もう夕食の時間ね。今日はこのくらいにしておきましょうか」
「もうそんな時間?」
母の言葉で時間を思いだし、片付けを開始。
その後はまとめた試作品を両親に預け、一緒に食堂へ。
夕食を食べた後は疲れていたのか強めの眠気が襲ってきたので、後は任せて部屋に戻った。
(サノ、薬、うまくできてるかな?)
『期待はしていいと思う。今回がダメでも材料は間違いないんだ。やり方を1つずつ試していけば、可能性はある。ひとまずシズカ先生の検査結果を待とう』
充実感に満ちたウノ少年の声を聞きながら、俺達はベッドにもぐりこんだ。
……
…………
………………
一方その頃、食堂ではシズカ先生を除く大人達が、夕食後の酒盛りを始めていた。
「いやぁ、まさかウノ君がきのみから薬を作ろうとするとはね」
イワオがグラスを傾けながら、感心したように笑う。ミヤビ、キリカ、ケントの研究員三人も、それぞれお酒やおつまみを手にしながら深く頷いている。
「シンオウ地方がまだヒスイ地方と呼ばれていた大昔のレシピ……興味深いけど、そんなのがあるなんて聞いたこともない」
「私達は歴史方面の専門家じゃないし、専門家なら知ってるんじゃない? でもそれって逆に言うと、ウノ君が読んだ本が専門家レベルの、相当マニアックな本ってことよね。下手したら古文書みたいなやつとか」
「ヒスイの歴史をよく知らないからなんとも言えないが、確かに技術レベルでは現代の薬より自作できる可能性はある。ただ、クスリソウってそんなに高い効果があったか? 少なくとも単体だと、絆創膏の代わりとして傷口の保護に使えるくらいだった気がするんだが……」
ケントの疑問に他の研究員たちも考え込むように首をひねる中、ウノの父であるウドが思い出したように口を開く。
「そういえばウノが薬を作ろうとしたきっかけは、植物図鑑を調べてレシピを思い出したからだそうですが……植物図鑑を調べていたのは、昼にここでしたマトマのみの話が“前に本で読んだものと解釈が違ったから”とも言っていました。
あの子がアカデミーで読んだ本が分からないので断定はできませんが、アカデミーは引退したり亡くなった研究者の家族から、資料の寄付も受け付けていました。おそらくウノが読んだのはその類の、少なくとも世間一般に流通している本ではない可能性が高いかと。
そもそも図書室ではなく、その準備室かそれに準ずる書庫に入り浸っていたようですから」
「オレンジアカデミーって子供が通う学校なのに、そんな資料まであるんですか?」
ウドの説明に反応したミヤビの疑問には、アケノが答えた。
「アカデミーはパルデア地方最大の教育機関ですから、学問や技術に関する情報は常に収集と蓄積を続けているそうです。
ただ……今思えばそのせいで教育機関よりも研究機関としての側面が強くなっていると言いますか……子供の扱いがおざなりになっている印象がありますね。ウノの件があったから、余計にそう見えているのかもしれませんが」
「というと?」
「たとえばアカデミーは最低限、学習する意思と能力があれば入学可能。だから30代の大人もいれば10歳以下の子供もいるのですが、大学のように生徒は年齢の区別なく同じ授業を受けるんです」
「えっ!? 大人と子供が一緒にですか!?」
キリカの言葉は、ウドを除いた大人達の総意だ。
「そうなんです。“門戸が開かれている”あるいは“能力に合わせた授業を受けられる”と言えば聞こえはいいですけど……放任主義というか、個人の事情や子供の年頃を考慮した対応はあまりされていなかったように思いますね。
それでもパルデア1の教育機関であることは変わらず、高度な学問を学べるのは事実なので、子供を入学させる親からは人気があるわけですが」
「大学のような形式となると、生徒の自主性に重きを置いているわけか……幼い子供の教育環境としては、良い部分ばかりではない気がするね。学問以外にも学ぶべきことは多くあるだろう。
尤も、ウノ君のように興味を持って学べば高度な知識も得られるわけだから、一長一短なのだろうけどね……情報源と経緯はともかく、彼の知識には舌を巻くほどだ。先日のミントの件もそうだし、私は今回の薬にも期待しているよ」
イワオたちがそんな話をしていると医務室からシズカが、試作品を並べたトレーを持ち、脇に書類を挟んだ姿で食堂に出てきた。
「お待たせ、検査の結果が出たわよ」
「丁度ウノ君の薬について話していたところだ。で、どうだった?」
「……結論から言うと、効果はあるわ」
「本当に!?」
ウドが身を乗り出すと、シズカは無言で頷き、テーブルの上に試作品の瓶を並べ始めた。
「キズぐすりの場合、クスリソウの殺菌成分とオレンのみの回復成分が、相乗効果を生み出しているみたいね。組み合わせのパターンを探っていたみたいだけど、最も効果の高いものは市販品のキズぐすりの3倍。“いいキズぐすり”並みの効果があるとの結論が出たわ。
なんでもなおしも同様。市販品とは成分が少し違うだけで、効果は保証できるわよ」
「安全性は?」
「勿論確認したけど、成分的には問題なし。そもそも材料が食用可能な物ばかりだし、ポケモンは勿論のこと人間が使っても、舐めても安全よ」
「マジか。きのみとその辺の草から、市販品と同等かそれ以上の薬ができるってことは、ウノ君にきのみを貰って私達がクスリソウを取ってくれば、実質タダでいいキズぐすりとなんでもなおしが手に入るってことじゃね?」
「ウノ君には別途で何かお礼はするとして、これフィールドワークの経費が大分削れませんか?」
「フィールドワーク以外でも、ここにいるとキズぐすりを使う機会は多い。経費も相応にかかるから、これは大きい」
「医師としてはもう少し詳しく調べて検討したいところだけど、外での応急処置はこの2種類の軟膏でも対応できるでしょうね。クスリソウの成分で保存も効きそうだから、あとは安定した品質で製造できるかどうかよ」
「はっはっは! 期待はしていたけど、まさか一度で成功、しかも効果が高いとは……今の私達の状況的には非常にありがたい」
研究員たちとシズカの話を黙って聞いていたイワオが笑い始めたかと思えば、少し真剣な顔で両親をみる。
「ウノ君は、これも我々に提供してくれると?」
「ええ、ウノは成功したらそのつもりだと言っていました。いつもお世話になっているから、と」
「大人として当然のことと、趣味の研究活動をしているまで。ウノ君は手がかからないし、むしろ私達の方が世話になっている気もするんだがね……まぁ、このお礼は先程キリカ君も言っていたが、何か別の形で返すとしよう。
ひとまずウノ君の薬は彼の協力が得られる限り、使っていくことを前提として、フィールドワークで試してみよう。勿論、薬作りに手が必要なら呼んでくれていいからね」
イワオさんの言葉に皆が同意し、ウノの代理として両親が同意。一拍置いて協力を約束するように、乾杯の声が響き渡った。