【AI利用実験中】ポケモン世界に転生したら、旅どころではなかった 作:うどん風スープパスタ
翌朝
朝の光が差し込む食堂に向かうと、皆さん既に集まっていた。
「おはよう、ウノ君。昨日預かったお薬の検査結果が出てるわよ」
「!」
俺の姿を見つけたシズカ先生が、手元に置いていた書類を軽く揺らしながら笑顔で声をかけてきた。その明るい声色から、俺とウノ少年は期待に胸を膨らませて返事をする。
「おはようございます。結果は……?」
「結論から言うと大成功よ。ウノ君が作ったなんでもなおしは市販品と同等、キズぐすりは3倍の効果が見込めるわ。もちろん、どちらも安全性は確認済みよ」
「!!」
誇らしげに報告してくれるシズカ先生に続き、大人達も良かったなと声をかけてくれる。どうやら大人たちは昨晩のうちに結果を聞いていたようだが、改めて俺への報告の場を設けてくれたらしい。
(すごい! 大成功!)
『やったな! 頑張って色々試した甲斐があった。しかも、ゲームの第2世代ではキズぐすりの回復量は20でアルセウスのキズぐすりは60。可能性は考えていたけど……本当にそこも反映されてたのかよ』
(初期の方はキズぐすり1つの値段が比較的高かった気がするし、そこも反映されているなら、さらに役に立てるかも!)
脳内でウノ少年と喜びを分かち合いながら、俺はシズカ先生や協力してくれた皆さんに深く頭を下げる。隣にいる父さんや母さんも、我が子の成果を誇るように目を細めていた。
「ウノ君、お父さんからこれを提供してくれると聞いているが本当かね?」
「はい、いつもお世話になってますから、問題がなければ使ってください」
「ありがとう。フィールドワークで心強いし、薬の経費が一部研究費に回せて助かるよ」
「マジで俺達は森に入る機会が多いから、ありがたいことこの上ないぜ」
「ウノ君、クスリソウが必要ならまた用意するからね!」
「ありがとうございます! あっ、でも取り過ぎたら環境に悪いかもなので、クスリソウも栽培しようかと思ってます」
「それなら場所は僕の家の裏に、特に使ってないからね」
イワオさん達研究員の方々も、冗談交じりに称賛の言葉を次々と投げかけてくれる。
和やかな雰囲気で朝食に移り、しばらくするとケントさんが、何かを思いついたように手を叩いた。
「そうだ。さっきの薬の話だけどさ、効果を試すついでに誰かバトルしないか?」
唐突な提案に、俺達は思わずきょとんとしてケントさんを見つめ返す。
ケントさんはニヤリと笑いながら、腰のモンスターボールを軽く叩いた。
「シズカ先生と機械の分析で効果と安全性が認められたと言っても、実際に試したわけじゃないだろ? だったら本当に必要な状況になる前に一度試しておきたい。ただ、実験のためだけにポケモンを傷つけたくはないからな。
どうせやるならバトルして、お礼代わりにウノ君に“上級者の戦い方”ってやつを見せてやれたらと思ったんだが」
「へぇ、いいじゃない。それなら私が相手になってもいいけど、ウノ君はどう?」
ケントさんの意気揚々とした提案に、キリカさんも乗り気な様子。俺としても、薬の効果を安全に確認できる上に、大人同士のバトルを見学できるのは非常にありがたい機会だが……
『ウノ、どうだ? 無理はしなくていいが』
(ううん、大丈夫。2人なら、危険な戦い方はしないと思うし……テレビやネットのバトル映像はまだ見れないから、他人の、上級者の戦い方を見てみたい!)
『よし、なら勉強させてもらおう』
俺達は迷うことなく頷き、ケントさんの提案を受け入れた。
……
…………
………………
朝食を終えて、俺達は皆でログハウス前の広場へと移動した。以前、ミヤビさんのビリリダマと練習試合をした時と同じ場所だ。俺はバトルをする2人から少し離れた安全な場所に、父さんや母さんたちと並んで見学する。
「それじゃあ、始めるか。ブースター、出番だ!」
「ブースァ!」
「ピジョット、お願いね!」
「ピジョオォッ!」
ケントさんとキリカさんが十分な距離をとって向かい合い、それぞれモンスターボールを空に放つ。赤い光の中から現れたのは、もこもことした毛並みが特徴的な炎ポケモンのブースターと、力強い翼を持つ鳥ポケモンのピジョット。2匹の鳴き声には、明らかに気合が入っているように感じる。
(……)
『……』
普通の子供なら純粋に目を輝かせるのだろうけれど、ウノ少年と俺は若干の緊張。今後のための勉強とはいえ、体調が悪くなる可能性は否めない。しかし、その点は大人たちも重々承知の上。審判役として二人の間に立つイワオさんも念を押す。
「二人とも、今回はあくまでもウノ君に見せるための模擬戦だということを忘れないように頼むよ」
「分かってますよ。俺が提案した事ですからね」
「使用ポケモンは1体のみ。大きな怪我はさせないように、ある程度勝負がついたと判断された時点で勝ち負けを決めましょうか」
「ああ、それいいな」
キリカさんが俺達のための独自ルールを提案し、ケントさんが同意。すると、いよいよ模擬戦の幕が上がる。
「それでは、始めっ!」
「ピジョオォッ!」
イワオさんの開始の合図が響き渡った瞬間、先手を取ったのはピジョットだ。高い機動力を生かして上空を旋回し、一気にブースターへと急降下。同時に翼が白く光り、鋭い軌道を描いて“つばさでうつ”を仕掛ける。
しかし、ブースターもただ的になるわけではない。しなやかな動きで攻撃を回避し、追撃を試みたようだが……ピジョットは素早く上空に戻り、旋回を始める。どうやらピジョットの戦法はヒットアンドアウェイのようだ。
同じことが二度、三度と繰り返され、どちらもダメージのない時間が続いたが、
「今だ! “ひのこ”!!」
ピジョットが四度目の攻撃を仕掛けたところ、ギリギリまで攻撃を引き付けたブースターがふわりと身をかわしながら、広範囲にひのこをばら撒いた。
「ピ、ピジョッ!?」
「!」
逃げ道を塞ぐように放たれた炎を浴びて、ピジョットが声を上げる。飛行に支障が出ていないので、ダメージそのものは軽微なようだけれど……
(ピジョットが火傷した!)
『これで物理技の“つばさでうつ”は威力が落ちる。さらに継続ダメージで長期戦は苦しい』
俺とウノ少年が息を呑んで見守る中、ここで初めてキリカさんが指示を出す。
「ピジョット! “かげぶんしん”!」
ピジョットが空中で身を震わせると、無数の分身が上空からブースターを囲む。さらにピジョットは羽ばたきから真空の刃を放ち始めた。
『“エアスラッシュ”か』
(特殊攻撃だから火傷で威力は下がらないし、30%の確率で相手をひるませられるね)
『空を飛んでる上にかげぶんしんを積んで回避を上げたから被弾しにくいし、やけどで削られる前に一気に追い込む気かな』
このキリカさんとピジョットの戦い方の変化に対し、ケントさんも即座に動く。
「“スピードスター”だ!!」
ブースターの尻尾から放たれた星型の光線が、無数の分身をすり抜けて本体のピジョットに命中。相手の回避率の変動を無視できる必中技なので、空でもかげぶんしんを積んでいても意味がない。威力が低い技でもあるが、火傷の継続ダメージも合わせて、ピジョットの体力が静かに、着実に削られているように見える。
『本当に静かに……?』
(サノ?)
『いや、なんか本当に、バトル中にしては静かすぎないか?』
(確かに……)
思い返すと、攻防の中でトレーナーの2人が指示を出したのは僅か数回。タイミングを考えると、戦況を変える時だけだ。
「そこまで!」
この違和感に気づいた時、ちょうどイワオさんが模擬戦の終了を宣言。ピジョットが不利のまま状況が膠着していたため、ケントさんとブースターの勝利が決まった。
「ブースター、よくやったぞ」
「ピジョット、お疲れ様。よく頑張ってくれたわね」
模擬戦が終わると2人はそれぞれのポケモンに駆け寄り、労いの言葉をかけながら撫でた後、俺達が作った薬で手当をしていた。
手当の邪魔にならぬよう、終わったところを見計らって二人の元へと近づく。
「ケントさん、キリカさん、ありがとうございました」
「おっ、ウノ君。この薬よく効いてるみたいだぞ。
ところで、見ていて何か気づいたか?」
ケントさんがブースターを撫でながら訊ねてきたので、気づいたことを時系列順に挙げていく。
まずキリカさんとピジョットの戦法から、ブースターの対処。そしてピジョットが火傷を負ったことによるキリカさんの戦い方の変化と、それに対するケントさんの対応など、技の効果も合わせてなるべく細かく。
さらに気になったこととして、指示が少なかったと口にしたところで……ケントさんとキリカさんは顔を見合わせてニヤリと笑った。
「それが俺が見せたかった“上級者の戦い方”ってやつだよ」
「指示が少ないことが、ですか?」
ケントさんは深く頷き、説明を始めた。
「そもそもポケモンはトレーナーがいなくったって、自分で状況を見て、考えて、戦うことはできるんだよ。実際、野生のポケモンはそうだろ? だからポケモントレーナーは“右に避けろ”とか“今攻撃しろ”とか、1から10まで指示を出す必要はないんだよ。
そこまで細かい指示が必要なのは、ポケモンがトレーナーとのバトルに慣れていない最初のうちくらいだ。実力が上がってくると、細かすぎる指示は逆にポケモンの邪魔になる場合すらある」
「だから、お互いに指示が少なかったんですね」
「その通り。そしてもう一つ、公式のバトルには“ポケモンが使える技は4つまで”というルールがあるだろ? あれはちょっと文面が誤解を招くというか、主語がおかしいんだが……別に技を4つしか使っちゃダメって意味じゃないんだよ」
「えっ、そうなんですか?」
「正しくは“トレーナーが指示できる技は4つまで”なんだな。実際にポケモンが覚えられる技は4つ以上あるし、ポケモンが自分の判断で使う分には、どれだけ沢山の技を使ってもいいんだよ。
トレーナーの指示が制限されてる理由は、無制限だと指示しまくりでバトルが無駄に長くなったり、グダグダの泥仕合になりやすいからだな。初心者ならともかくリーグ出場レベルだとまず通用しないし、通用したとしてもそんな試合は見てても面白味がないだろ?」
「上級者の中でもトップクラス、それこそチャンピオンのポケモンとかだと、指示なしでも並のトレーナーじゃ敵わないわよね」
(そうなんだ……)
『知らなかった。っていうか技4つの制限はそう解釈されるのか』
予想外の事実に驚く俺達をよそに、ケントさんはさらに続けた。
「今言った2点を踏まえて、バトル中にトレーナーがすべきことは何かと言うと“戦況を冷静に見て判断し、必要に応じて作戦を変更すること”だ。4つの技の指示は、作戦変更の合図として使うんだよ」
ケントさんの言葉に、先ほどのバトルの光景が思い出されて、納得する。
「バトルに関するトレーナーの役割はそんなところだな。ただ、それもトレーナーとしての役割でいえば、全体の一割くらいに過ぎない。ポケモントレーナーとしての真髄は、バトルの外にある」
そこでケントさんは一度言葉を区切り、力強い眼差しで俺を見つめた。
「さっきキリカが言った通り、チャンピオンクラスのポケモンは単独で並のトレーナーに勝てる。それだけトレーナーから、戦術を叩き込まれてるってことだ。そのために大事なのは、わざわざ言わなくても分かると思うが、日頃の訓練。
自分のポケモンの技や性質を活かせるように、戦術を組み立てて教え込み、ポケモンが本番で自分で判断して動けるように鍛え上げる“指導者”だからこそ、俺達はファイターでもコマンダーでもなく、ポケモン“トレーナー”と呼ばれるのさ」
ケントさんの言葉は、俺達の胸に深く突き刺さった。
確かに、バトルといえば“自分がどう的確な指示を出せるか”を中心に考えていた気がする。
しかし実際のバトルでは状況が刻一刻と変化し、全ての行動を俺達がコントロールすることはできない。ましてや、攻撃を受ける度に負担を感じるというハンデを抱えているのが現状。バトル中に指示ができない状態になることも考えられる。
ケントさん達のような知り合い、そうでなくともまともな人が相手のバトルなら、その場で中断されるだろうからまだいいが……これが野生のポケモンとの遭遇戦なら、俺もミニーブ達も命の危機だ。
「ケントさん、キリカさん。今日は本当にありがとうございました。
僕、自分のポケモン達とどんな戦い方ができるか、これから考えてみます」
俺の答えを聞いて、ケントさんとキリカさんは満足そうに頷いた。
「ウノ君ならたぶん、それで一気に強くなれるだろ」
「それだけでは流石に」
「いや、マジな話だって。最初にミヤビとバトルした時の変化技もそうだけど、俺達のバトルで指示した技の性質とか意味とか、全部理解してただろ? おかげで俺らが言おうとしてたことの大半がなくなったぞ?
ハッキリ言うけど、ウノ君は経験不足なだけで“知識だけ”ならもう上級者レベルっつーか、俺も負けてる気がする。一応これでも昔、ジョウトリーグ本選出場経験あるんだけどさ」
「ケントさんポケモンリーグに出てたんですか!?」
目の前の人がポケモントレーナーとしてのトップ層って、今日一番の驚きだよ!?
「出てたっつっても、何年も予選落ちでようやく本選進出。そんでさらに上のトレーナーの壁にぶち当たって引退したから、リーグ本戦常連みたいにガチのトップクラスじゃないぞ。平均よりは上の方って程度だよ。
つーか、実力で言えばキリカは元ポケモンレンジャーだし、シズカ先生も元ポケモンレスキュー。どっちも野生のポケモンと遭遇する可能性の高い場所での救助活動をする仕事だから、相応の実力者だ。時と場合によっては俺も普通に負ける。
ちなみに俺よりウドさんの方が強いし、ミヤビもバトル専門じゃないトレーナーにしては強い方だと思う。イワオさんに至っては、危険なポケモンが多く生息してる“シロガネ山“に何度も挑戦してるような登山家だぞ?」
「ええ……ここそんなに強い人だらけだったんですか?」
「人里離れた森の中に長期滞在する仕事だもの、最低限身を守れるだけの実力がないと危ないから、私達みたいな駐在研究員はバトルの腕も込みで選抜されてるのよ。バトルが苦手な人は、もっと街に近くて安全な所に配置されるわね」
キリカさんの説明に、それはそうかと納得した。
「私達の事はいいとして、ケントの意見には私も同意よ。
強くなるためにバトルを繰り返すのは効率的で早道だけど、それはバトルを通して多くのポケモンや技の知識を身につけ、不測の事態への対応力を養えるから。特に意識してなくても、繰り返すうちに自然と身につく部分があるわ。
ただ、ウノ君の場合は既に十分な知識があると思うし、対応力に関しても準備を万全に、訓練を繰り返すことで補える部分も大きいから……っていうか、上を目指すなら闇雲にバトルをするんじゃなくて、勉強もしっかりやらないとダメだから、順番が変わるだけで結局同じことなのよ。
だからすでに知識のあるウノ君は、実戦の中で知識を使うコツさえ掴めれば、すぐに強くなるだろうな~っていうのが私達の感想ね」
「そういうことだな。まぁ何かわからない事があれば俺らも相談に乗るし、ゆっくりやってけばいいさ」
「……分かりました! ミニーブ達と話して、色々考えてみます」
2人の温かい言葉に背中を押されて、俺とウノ少年はバトルに対する気持ちを新たにするのだった。