【AI利用実験中】ポケモン世界に転生したら、旅どころではなかった 作:うどん風スープパスタ
~ミズハタウン・バザール会場~
太陽が明るさを増してきた頃……遠くから、軽やかな鐘の音が響いた。バザール開場の合図だ。
「よっしゃあ! 今日もやるぜ!」
「先は長いから、のんびりやりましょうね~」
隣のゲンさんが大声で気合を入れ、反対側のタエさんは笑っている。
おそらくは、初参加で緊張しているうちの大人達4人に向けての激励だろう。
『この分なら、仮に何かあってもフォローしてくれそうだし、心配せずに俺達は行こうか』
(うん、2人と合流しよう)
ということで、俺は4人に一声かけて、キッチンカーの裏に向かう。
「来たな。よし! まずはあっちの方から行こうぜ、ちょっとした名物があるんだ」
「ちょっとシン、一人で走って行かないでよ。私達とペースを合わせなさいよね」
「わかってるっつーの!」
2人は相変わらず騒がしいけれど、入り始めたお客さんと出店の人々の声が混ざり始めて、徐々に目立たなくなってきた。じきに会場は更なる熱気に包まれるだろう。
俺達はそんな大通りを、2人と並んで歩き始める。
……
…………
………………
「ここだ!」
人で賑わう大通りを歩いて、案内されたのは大通りの中心部。ここには中心に噴水とそれを囲むように広場があり、出店は少ないかわりに1つが大きく、また大道芸人が芸を披露している姿も見える。
ここまでの道中も活気があったけれど、この辺はひときわ賑わっている。
「どうだ? スゲェだろ」
「ここは見ての通りバザー会場の中心だし、店を構えてる参加者もうちみたいな個人じゃなくて、企業なの。だから売ってる物の品質は保証されてるし、企業にとっては宣伝のためだからか、正規品が割安で手に入ることもあるのよ。
同じ参加者としては残念だけど、流石にここの人達には太刀打ちできないわね」
「当たり前だろ。ってか、だからバザーの運営の人達も俺達とは場所を分けてるんだろ?」
「それは分かってるけど、こうして見ると人気の差がよく分かって悔しいじゃない」
「まぁ、うちの父ちゃんの店も肉屋の宣伝だし、こっちに入ってもいいんじゃないか? と思ったことはあるけどよ、とりあえず今は遊ぼうぜ!」
親の働きと店の格差を見て、子供なりに考えることがあるのだろう……それはひとまず置いておいて、シンの言う通りに中心部を見て回る。
大道芸だとバリヤードのパントマイム、オタチ回し、水ポケモンを使った水芸に、ドーブルの即興アート等々、多種多様な芸をポケモンと人間が一緒になって披露していて面白い。
また、出店の中には売り物だけでなく、ゲームにチャレンジするタイプの店もある。特別なものではないけれど、お祭りらしい空気感が楽しい。熱中して散財しそうなシンを、ルリが諫めて引きずって連れて行くのお約束だ。
「ふぅ……」
こうして出店を回っていると、少し疲れを感じてくる。
きのみ栽培で少しは体力がついたと思ったけれど、子供の体力にはまだ敵わないようだ。
「ウノ、大丈夫? 疲れてきたんじゃない?」
「少しね。楽しかったからはしゃぎすぎたかな」
「シンより大分落ち着いてたと思うけど、それじゃどこかで休みましょうか」
「おし! っていってもどこで休む? 飯はさっき食ったから腹は減ってないし──」
「君達、ちょっといいかい?」
3人で足を止めていると、若い男が声をかけてきた。手にはチラシの束を持ち、その内の1枚をこちらに差し出している。
「君達くらいの年頃の子に、ぜひ来てほしいイベントをやっているんだ。高得点なら豪華な賞品ももらえるから、興味があればふるって参加してね!」
男性はそう言ってチラシを俺に渡すと、そのまま立ち去った……
「何あの人。愛想は良かったけど、なんか“作業”って感じ」
「会社の仕事でやらされてるなら、そういう人もいるかも」
「だな。それよりウノ、イベントって何のイベントなんだ?」
シンに尋ねられて、初めて内容を確認すると……
“ポケモンゼミナール主催・クイズ大会”
会場でクイズと解答用紙を受け取り、記入して提出すると得点に応じた豪華賞品が貰えます! 奮ってご参加ください!
……主催がポケモンゼミと、クイズ大会であること以外は新しい情報がなかった。
(あとこれ、クイズじゃなくてただのペーパーテストじゃない?)
『絵柄が完全に学習塾とかで見るテスト期間のやつだよな。そのまま流用してるのか、ゼミだからセンスがそっちに偏ってるのか……というかポケモンゼミって、あれか。初代のアニポケで出てきたやつ。この世界にもあるのか』
(……あの話を思い出すと、あまり良い印象ないなぁ……)
『あれは成績上位者が下位の子にだったけど、いじめの話だったもんな……まぁ、流石にこんなイベントであんなことにはならないだろ』
そんなことを脳内で話していると、
「おいウノ! 見ろよこれ! 80点以上取ると“わざマシン”が貰えるって書いてあるぞ! 中身はわからないけど」
「70点でも最新型の“ポケギア”が貰えて、それ以上取れば複数貰えるのね。流石エリートトレーナー育成機関で有名なポケモンゼミね。イベント1つに対するお金のかけ方が違うわ。
チラシを見る限りだとあんまり楽しそうじゃないけど、賞品は魅力的だし……どうする? 行ってみる?」
「行ってみようぜ! 参加無料らしいし、挑戦しなきゃ損だろ!」
「座って休むにもちょうど良さそうだし、僕もいいと思う」
「そう、じゃあ冷やかし半分で受けてみましょうか!」
こうして俺達は、ポケモンゼミのクイズを受けていくことにした。そしてチラシの案内を見ながら会場に向かうと……青い天幕の下に折りたたみ式の机とパイプ椅子が規則正しく並べられている一角があった。
“クイズ中のためお静かに”という看板が出ているし、不正防止なのか警備員なのか、真面目そうな面持ちの男女が周囲ににらみを利かせているため、バザー会場のそこだけが妙に静かで、ハッキリ言って周りから浮いている……
申し込みをしたら受験番号の札を渡されたし、テスト中の規則に関する注意書きもあり、想像以上にちゃんとした“試験会場”だった。心なしかシンとルリも戸惑っている。
指定されたパイプ椅子に腰を下ろすと、配られたのは目の粗い再生紙に印刷された試験問題。
「制限時間は50分です。それではテストを始めてください」
(あっ、テストって言っちゃった)
『言ったなぁ……』
そんな係員の合図とともに、一斉に鉛筆を走らせる音が響き始める。俺も手元の問題用紙に目を落とすと……
第1問:ジョウト地方で新人トレーナーが最初に与えられる3匹のうち、ヒノアラシが驚いたときや怒ったときに、背中から噴き出すものは?
第2問:夜になると活発に動き出し、首を360度回転させることができるジョウト地方のポケモンといえば?
第3問:ジョウト地方のジムリーダー・アカネのミルタンクが使うことで有名な、当たれば当たるほど威力が倍増していく岩タイプの技は?
第4問:みずねずみポケモンと呼ばれるマリルが川底の水草を食べるために潜るとき、浮き袋の代わりに使う体の一部はどこ?
『……ジョウト地方のポケモンや技、バトル関係の知識を中心に、包括的な内容って感じだな。イベントだからか多少マニアックな問題もあるみたいだけど、すごく難しいってわけでもなさそうだ』
(種族値の羅列からポケモンを特定するとか、相手と自分のポケモンの技を読んで何発耐えられるか計算するとか、そういうレベルじゃなくてよかったね)
『あんなの求められても困るっていうか、前世にはできる人がゴロゴロいたのが凄いよなぁ……配信とかで対戦やってる人、マジで頭の中どうなってるんだか』
元プレイヤーとしてはさほど難しくない問題ばかりだったので、ウノと話しながらサクサク解いていく。すると制限時間の半分もかからずに回答欄が埋まったので、再確認をしながら時間を潰して20分ほど経った頃。
「はい、そこまで! 筆記用具を置いてください」
試験終了の合図と同時に答案用紙が回収され、採点の間、俺たちは天幕の端にある待機所に移動した。
「うわー、全然ダメだった……テッポウオの進化系ってなんだよ……つーか海のポケモンとか全般、馴染みがねぇよ……」
「私はそこそこいけたと思うけど、“のろい”の効果がポケモンのタイプで違うってことが前提になってた問題あったでしょ? あれ、まず前提自体知らなかったわ。ウノ君はどうだった?」
「とりあえず全部埋めたよ」
どうやら2人はあまり手ごたえが良くなかった様子。言われてみれば俺達は文字通り“ゲーム感覚”で覚えた知識だけど、この世界の人達にとっては学問として生物学を学ぶようなもの。俺達も最初からそう考えていたら、勉強として、もっと苦労していただろう。
楽しめることは勉強に限らず、何をする上でも強みになる。ゲーム知識だけでなくゲーム感覚も残っているのは、適度であればこの世界を生きる上で一番のチートかもしれない。
「受験番号、320番から322番の方ー」
採点が終わったようなので受付に向かうと……まずシンに30点の答案が返却され、ルリに58点の答案を渡した直後、眼鏡をかけたゼミの係員が一瞬固まったかと思えば、信じられないものを見るような目で答案用紙を差し出してきた。
「おめでとうございます! 322番のあなたは99点、今回の最高得点です!」
「すげえ! ウノ、ほぼ満点じゃねえか!」
「99点ってことは、一問しか間違えてないわけ?」
「逆にどこ間違えたんだろう……」
気になって間違いの項目を探すと、
第82問:ハリーセンの進化とその条件について説明せよ。
俺の答えは“どくばりセンボン”を習得し、力業で20回以上使用した状態でレベルアップすることで、ハリーマンに進化する。この答えに対する赤ペンでの指摘は“ハリーセンに進化形は存在しない”だった。
『あー……そうか、これレジェンドアルセウスのヒスイハリーセンの進化条件だ。普通のハリーセンとは区別されてるのか』
(そもそもヒスイの情報が博物館の特別展示レベルの事だから、一般的に知られてないだけかも? キズぐすりのことも誰も知らなかったし、テストとしては、引っ掛け問題のつもりだったのかも)
『それもあるな。どっちにしろ試験としては誤答になるわけか』
ここで受付の人が箱を2つと、分厚い封筒を持ってきた。
「おめでとうございます。こちらが賞品のポケギアとわざマシン、それからポケモンゼミの入学案内です。中にある願書を提出することで今回の模試の結果も加味され、貴方の場合はほぼ満点ですから“特待生”として入学するチャンスが与えられます。
提出前の見学や相談も可能ですから、是非親御さんと相談して、お気軽にご連絡くださいね!」
「わかりました、相談してみますね」
入学するつもりはないけど、親には話そう。結構高額な賞品ももらったから、どのみち一言伝えておく必要はある。
思ったより小さくて軽いわざマシンと、見た目通りのポケギアの箱を手早くバッグにつめて、試験会場を後にする。
「ウノ君って勉強得意なのね。特待生になれるって言われてたけど、ポケモンゼミに行くの?」
「正直に言うと、行く気は全くないよ。あの場で行きませんとは言いにくかったから、相談するって言っただけ」
「そうなのか? ウノの自由だけど、ちょっともったいない気もするな」
「ポケモンゼミって卒業したら、バッジを集めなくてもポケモンリーグ参加資格が貰えるので有名だものね。
ジム戦をしなくても卒業資格で“リーグ参加者と同レベルの能力がある”と公的に認められるわけだから、リーグに限らず資格が簡単に取れたり、就職するにも有利になったり、色々なところで優遇されるって話よ」
「そうなんだ」
“就職”というのはゲームには存在しなかった選択肢だが、この世界で生きるなら将来的に、本気で考える必要はあるだろう。エリートコースに乗れば、確かに有利になるかもしれない。でも今は、心と体を癒すことが先決だ。
今回のテストを受けて改めて確認できたことだが、やはり俺達が持つ知識は通用する。多少の差異はあるけれど、他で多少遅れを取ったとしても、後で取り返すことは不可能ではないだろう。
「……それより、貰った“ポケギア”ってどう使うの?」
「えっ、あんな点数取ってるのにポケギアの使い方は知らないのかよ」
「名前だけは知ってるけど、パルデアでは“スマホロトム”が一般的だから使ったことない」
「スマホロトムって何? そういうとこも他の地方とでは違うのね」
シンがからかうように笑い、ルリが興味深そうに尋ねてくる。
休んで十分に軽くなった足取りで、俺たちはさらに賑わう大通りへと歩き出した。