【AI利用実験中】ポケモン世界に転生したら、旅どころではなかった 作:うどん風スープパスタ
「スマホロトムってポケットに入るパソコンみたいなものなのか。ポケギアより機能が多くて便利そうだな」
「最新型のポケギアでもそこまでじゃないわね。そもそもポケモンを住みつかせて利用するって発想がよく分からないんだけど」
「パルデアは昔から一部のポケモンとは共生してきた歴史があるからね。種類によっては物々交換もするよ。ちなみに今朝ルリが食べたサンドイッチにはその内の一種類、オリーニョという草ポケモンが出すオリーニョオイルを使ってある」
「そうだったの!?」
「そうなんだよ──ん?」
雑多な人混みを楽しく話しながら歩いていると、ふと奇妙な空間が目に留まった。
きらびやかな企業ブースの片隅に、1つだけ色褪せたござが敷かれているだけの出店がある。商品はござの片隅に積み上げられた在庫と、少数のサンプルが展示されているだけだ。
あとは店員らしき人が座る、折りたたみ式の丸椅子が一つだけ。看板もなければ飾り気もない。通り過ぎる人々は一瞬だけ怪訝そうな目を向けるものの、見る価値なしとスルーしていく。
しかし、俺はそのサンプルに見覚えがあった。
『ウノ、あれってパワー系のもちものじゃないか?』
(……僕にもそう見える、ゲームで出てきたのとそっくり)
ござの上に転がっている金属製と思しきバンドは第四世代から導入された、ポケモンの努力値振りを大幅に効率化できる育成用アイテムだ。何故ここにあるのか? と思っていると、俺は思わず足を止めていたようだ。
「あの店が気になるのか? なんか変な店だけど、気になるなら行ってみようぜ!
そこのおっちゃん! 何売ってんだ?」
シンの物怖じしない声が響くと、丸椅子に腰掛けていた男性はびくりと肩を揺らした。
「えっ? あ、いらっしゃい! よく声をかけてくれたね。これはポケモンを鍛えるためのトレーニング器具なんだ」
男性は一度見開いた目元を緩め、急いでござの上に並ぶ金属製のバンドを一つ手に取る。
「たとえばこれは『パワーリスト』といってね。トレーニング器具だから装着すると体が重くなるけれど、そのままバトルをしていると自然と腕力がつくんだよ」
「わざわざそんなのつける必要あるのか? ポケモンって普通にバトルしてても強くなるしさ」
「そうね……わざわざ動きを鈍くしてまで? って考えるとそこまで必要なさそうっていうか、バトルでは不利になるだけみたいだし」
「それはそうなんだけど、これは実戦用じゃなくて、あくまで訓練用のものだからね」
男性が困ったように説明しようとするが、実際に2人の意見は否定はできないようだ。
助け舟を出すつもりはないけれど、
「僕が聞いたことのあるものと同じならの話だけど、これは有用だよ。シンとルリの意見は尤もだけど、それはポケモンに持たせている間、つまり一時的な話でしょう?
持たせて鍛えて向上した基礎能力は外しても消えるわけじゃないんだから、ポケモンの老化を除けば一生物だよ」
「そう! そうなんだよ! 君はよく分かってるね! もしかしてうちの製品を知っていたのかい?」
「えっと、僕が知ってるのはシンオウ地方の道具だったはずですが……」
「間違いないよ! 僕は販路を広げるために海を渡ってこのジョウト地方に来たんだ。生産している会社はシンオウ地方にある。
ああ、よかった。ようやくジョウト地方でうちの製品を知っていて、理解してくれる人に会えたっ……!」
なんだか軽く引くほど感激されている。よっぽど売れてなかったみたいだ……というかネコメさんの旦那さんの件もそうだけど、この世界は同時に各地方が存在しているから、普通に地方同士の人や物の行き来があるんだな。
「おっちゃん、シンオウ地方から来てたのかよ」
「わざわざ海を渡ってきて、なんでこんなお店やってるのよ。見栄えが悪すぎるでしょ」
「うん……場違いなのはわかってる。でも事情があるというか、僕はもともとジョウト地方の企業に売り込むために、サンプルを持ってきたんだ。でも、いろんな企業の人に会って話をさせてもらっても、どこもいい返事をもらえなくてね……」
さらに話を聞くと、彼の名前はソウジさん。
サンプルを手に多くの会社を回ったものの、アイテムのデメリットを上回るメリットをうまくアピールできず、成果がないまま商談に応じてくれる企業の当てがなくなった。そのためシンオウの本社と電話で相談したのちに、一時撤退が決定。
しかし、このトレーニング器具は1つでもそれなりの重量があり、在庫をそのまま持って帰ると船の運賃が高くなってしまう。だから手元にある分だけは、どうにかして売り捌くことになったとのこと。
こうしてソウジさんは在庫処分のため、このバザーに出店することを決めた。
しかし、バザーに申し込みをした際にソウジさんと運営の間で行き違いが発生。まずソウジさんは個人規模の露店で商品を投げ売りするつもりだったが、申し込み用紙に会社の名前を記入していたために、運営の担当者が場所の割り当てを“企業ブース”に配置。
また、個人の出店は屋台やキッチンカーなどのレンタルサービスを受けられるけれど、企業ブースの場合はそれがなかった。会社のロゴが入ったテントなど、自社で用意した方が会社の色を出しやすいため、完全に出店側が用意するシステムになっていたのだ。
だが、シンオウ地方から来て、在庫処分のために成り行きで参加したソウジさんにそんな用意があるわけもない。結果として、急遽運営から借りたござ1枚と椅子1つで、他の企業が本気で力を入れるブースの隣で商いをするという、今の状況になったそうだ。
「せっかく場所を貸してもらった以上は、店を開く責任がある。とはいえ、周りのお店と力の入れ方が明らかに違って申し訳ないし、人目が痛くてね……もう心が折れそうだったときに君たちが来てくれたんだ」
「なんか、かわいそうになってきたな……」
「デメリットがあるにしても、そんなに売れないものなの? これ」
「いやいや、製品には自信があるよ! 売れないのは僕が口下手なせいだと思う。あとは文化的な差なのかな?
こっちでいろいろ意見を聞いたけど、総じてシンオウ地方よりも“もちもの”が文化として浸透していないというか“ポケモンとトレーナーの絆と力の真っ向勝負こそがバトルの醍醐味”と思われている印象があるんだ。
その上で、今も言われた通り、装着中のデメリットもあるし、効果もはっきり言ってわかりにくいのは事実だからね……僕もうまく説明できずに“意味のない商品”とか“わざわざ能力が下がる道具を持たせてバトルをするのは相手を舐めているので無礼”とか、悪い印象を持たれてしまって」
ソウジの言葉を聞いて、シンとルリは顔を見合わせた。
「あー、確かに。もちものを持たせてバトルするのが悪いとは思ってないけど、実際に持たせたり、持たせるものについて一生懸命考えるトレーナーは多くないかもな。俺もそうだし、持たせるとしてもデメリットのないものを選ぶ」
「私も同じ考えね。“道具を持たせて戦うのが邪道”みたいな考え方はジョウトよりもカントーの人って印象だけど、ジョウトとカントーはリニアで繋がってるから人の行き来も多いし、影響はあると思う。
それに、せっかく持たせるなら“あれば便利”と思えるものを持たせたいもの」
「やっぱりそうかい?」
ソウジはがっくりと肩を落とし、苦笑いを浮かべてパワーリストをござの上に置いた。
……そういえばジョウト地方って、ゲームでは第二世代。初代には存在しなかった“もちもの”というシステムが初めて実装された作品だった。
俺も当時は新しいシステムに心を踊らされたものの、新しいシステムゆえに道具の数も少なかったし、使いこなせてもいなかった。おそらくそういうプレイヤー、特に子供は多かったはず。攻略情報もネットで検索なんてできない時代だったからな……
2人のもちものに対する認識が、昔の俺を見ているようで懐かしくなるが……それはそれとしてこのアイテムが本当に第四世代のパワー系アイテムなら、ここで確保しておきたい。
「おじさん、これおいくらですか?」
「えっ? 君、買ってくれるのかい?」
「こちらにも予算があるので、値段次第で。買えるなら全種類を1つずつ、1セット。いや、予備も含めて2セット欲しいです」
「そんなに!? ああ、そうだね……値段は全部、1つ1万円。パワーウエイト、パワーリスト、パワーベルト、パワーレンズ、パワーバンド、パワーアンクル。全部で6種類だから本来は6万円なんだけど、セットで買ってくれるなら5万円にまけちゃうよ!」
「「高っか!?」」
シンとルリが値段を聞いて声を上げる。確かに安い金額ではない。しかし、これがあるだけでポケモンを育成する効率は上がるはず。本来かかる膨大な時間が、お金で解決できるのならば、惜しむべきではない。
そして今、バッグの中の財布に入っているお金なら……1セットは買える。俺たちの作ったきのみやキズぐすりの報酬として、子供としては大きな額のおこづかいを貰っていたから。
予算内だから買う! と言いかけた、その時。
「ちょっと待った!」
ルリがすかさず前に立ちはだかった。
「おじさん、重い在庫を抱えたままだと送料がかかるって言ってたわよね? もう少し安くしてくれてもいいんじゃない? 私達みたいな子供に5万円は高すぎよ」
「う、うぐっ……それは確かにそうだけど……」
「それに、ウノ君みたいに買おうとしてくれる人は貴重なんでしょ? さっきまでずっと売れなかったって話をしてたのに。ウノ君以外の人に買いたいって言う人が見つかるの? いたとしても在庫が全部捌けるほど? ここで少しでも処分できた方が、おじさんとしても助かるんじゃない?」
「でも、ジョウトに持ち込む時点で既にお金がかかってるから、すこしでも回収しないといけなくて」
「もう結構なお金をかけてるのは事実かもしれないけど、売れなかったらそれをもう一回、全額払って持って帰らなきゃいけないんでしょ? もう一回払いたくないから売ろうとしてるんじゃないの?」
ルリにぐいぐいと詰められて、ソウジさんは額に汗している。ソウジさんが口下手と言うのもあるだろうけれど、これはルリの押しが強い。
「あーあ、また始まった。こうなると長いぞ」
「そうなの?」
「あいつは小さい頃から、タエさんと一緒にバザーに参加してたからな。俺がバトルに行ってたように、あいつはバザーで買い物するのが習慣なんだよ。
個人の出店、特に街の爺さん婆さんは暇潰しでやってるとこも多いから、金より話し相手欲しさに値段交渉を持ちかける人も多くてさ。値切れるとこでは値切りにいくのが当たり前になってるんだ。
まぁ、今回はおっちゃんの方が明らかに弱腰だから、そう時間はかからないんじゃね?」
この予測は正しく、ルリとソウジさんの交渉はそれから5分と経たないうちに、ルリに軍配が上がった。
「まいった! 1セット3万円だ! これが限界!」
「そのくらいかしらね。どう? ウノ君」
「う、うん、買えるよ! 2セットください!」
元の値段からまさかの半額。俺が買うと言って、ソウジさんは露骨にホッとしていた。
「ソウジさんは、また2週間後もお店を出しますか?」
「一応、申し込みはしてあるよ。場所は変わるかもしれないけど、在庫が今日中に売り切れなければなんだけど……まぁ、たぶん次も来るね」
「だったら、今日のお礼に周りの大人に商品の紹介をしておきます。
父さんの仕事の都合で、父さんの仲間と森の中で暮らしているのですが、安全確保のためには強いポケモンが必要なので。それに研究職でバトルにも強い人たちばかりだから、この道具の価値も理解してもらいやすいと思います」
「ほ、本当かい? それは本気で助かるよ」
ちょっとかわいそうなので、せめてもの慰めに、買ったアイテムを使って周りに宣伝だけはしておいてあげよう。
(サノ、シンとルリにも)
『? ああ、そうか』
ウノ少年の意図はすぐに理解できた。
「それからシンとルリも、好きなのを1つ貸すから試してみない?」
「えっ、俺たちもか?」
「値切っても1個5000円でしょ?」
「有用だと思うから買ったけど、僕は今ポケモン2匹しか持ってないから、1セットでも必ず4つは余るんだよ。それならどれかお試しに2人に使ってみてもらう方がいいよ。それに、あげるわけじゃなくて貸すだけだから。
2人のおかげでいい買い物ができたしお礼として。それにこれからもうちの母さんたちはこのバザーに参加するし、それは2人の家もそうでしょう? 今後何度も会うことになるし、連絡も取れるだろうから、とりあえず2週間使ってみてダメなら返してくれたらいいよ。
そのくらいで壊れるような物じゃないですよね?」
「もちろん! トレーニング器具だから他の道具より頑丈に作ってあるし、意図的に壊そうとしたってそう簡単には壊れないさ。もし2週間で壊れたのなら不良品として、タダで交換したって構わない」
これまでの情けない姿が嘘のように、はっきりと言い放つソウジさん。今のでなんとなく察したけれど、この人たぶん本来は営業じゃなくて開発か製造の人だ。少なくとも気質はそっち側。バイトでこういう人を何度も見たことがある。
そして、そんな彼を見てシンとルリも納得した様子。
「そういうことなら、試してみるか。ウノの買い方を見ると、興味も出てきたし」
「私たちに損があるわけじゃないもんね。もし本当に良いものだったら私もおこづかいで買うし、友達にも薦めても良いかも」
「おお!」
「その時はまたよろしくお願いね、おじさん」
「お、お手柔らかにぃ……」
「しっかりしてるなぁ……」
こうして俺はパワー系のアイテムを手に入れて、ほくほくとしていたのだけれど、
「お、重い」
「大丈夫か? ウノ」
「少し分けなさい。持ってあげるから」
受け取ったアイテムはずっしりと重く、2人に手伝ってもらってようやく歩けるようになった。ゲームの主人公はこんなものを持ち歩いていたのか? と疑問が湧くが、それより今はこれをどうにかしなければ、バザーを楽しむどころではない。
荷物を置くために、一度キッチンカーへと戻ることになった。