【AI利用実験中】ポケモン世界に転生したら、旅どころではなかった 作:うどん風スープパスタ
「どうかしたか?」
「いや、今何か言った?」
「俺は別に何も言ってねぇけど」
「私も何も言ってないわよ」
「そう? なにか聞こえた気がしたんだけど……」
気のせいか……?
(サノ、僕も聞こえたと思う)
『そうか。ならまた聞こえないか?』
声を潜めて耳を澄ませてみる。風の音、木の葉が揺れて擦れる音、自分自身の呼吸音。あれは違うこれは違うと邪魔なものを認識しては意識を逸らし、別の音を探していると──
『……ボッ……』
「あっ!」
また聞こえた。さっきよりははっきりとしたが、同時に何か嫌な予感がする。それは間違いなく生き物の鳴き声だけど、声というよりうめき声のような……非常に弱弱しいもの。
まさかと思って一瞬ウパーを視線で追った。この予感が本当であれば、悠長にしている暇はない。そう考えた時には体が動いていた。
「ウノ?」
「どうしたの?」
「こっちから聞こえた、ポケモンだと思う」
汗が滲む手で握った杖を突き立てて、舗装された道を逸れる。
『ウノ、大丈夫か?』
(大丈夫、それより確認。なにもなければそれでいい)
腹に力を入れて音の元を探すと、近づいたせいかさっきよりも容易に音の出所が見つかった。木の根元に生えている草むらの中、さらにその根元に転がっている岩……いや違う、“ツボツボ”だ! しかもやはり怪我をしている!
「ウノ? 何か──」
「シン! ルリ! シズカ先生呼んで!」
「──はっ?」
「弱ったポケモンがいる!」
「なんだって!?」
「シズカ先生は治療ができるから! 僕は走れないからお願い!」
「っ! 分かった! すぐ戻るから待ってろ!」
状況を理解したシンは素早く走ってくれた。一方のルリは動かなかったが、
「あっちはシン1人で大丈夫でしょ? 私はここにいるわよ。それより大丈夫なの? その」
「大丈夫、少し胃が重いくらいだから。それより少しでも、できることをしないと」
乗り物酔いになりかけたくらいのうっすらとした吐き気は感じるが、ウパーの時と違って事前に心構えがあったからかまだ落ち着いている。それに、ツボツボの状態を観察した限り、怪我の程度もまだ軽いようだ。
逆に言えば細かな怪我というか、殻には無数の傷がついている……
「ルリ、手伝って。この子をもう少し草むらの外に出したい。薬があるから細かい傷の治療だけでも」
「分かった! みんなもお願い!」
2人とポケモン達で力を合わせてツボツボを引きずり出す。この時、ツボツボは俺達の存在に気づいたが、軽く目を開けただけで抵抗はしない。する余裕がないようだ。しかし、バッグから取り出したキズぐすりを複数、ルリにも渡して傷に塗りこんでいたところ、
「ツ、ボ?」
「意識が! ってちょっと!?」
ツボツボがルリの持っていた薬に反応し、容器を奪って中身を舐め始めた。どうやらお腹が空いているようだ。
「待ってこれ薬よ!?」
「ルリ、それは食べても問題はないってシズカ先生が言ってた。原料がきのみだから」
褒められたことではないだろうけれど、ツボツボは必死だ。“今はそうするしかない”とでも言わんばかりの勢い。
軟膏にする際にすり潰してあるので、きのみをそのまま食べさせるよりは消化にもいいだろうし……他にできることもない。
「この子、野生のポケモンにやられたのかしら?」
「……どうだろう、それにしては傷が浅すぎる気がする。傷の数的に一方的に攻撃され続けた感じなのに、ほとんど外傷はない……
いくらツボツボが防御に秀でているポケモンとはいえ、同じポケモンの攻撃なら、これだけ受ければ普通は……」
「傷のないところがないくらいだもんね……」
ツボツボは容器の中の薬を舐め終えると、再び目を閉じて殻にこもったまま動かなくなる。
俺もルリも何も言えなくなり、無言の時間が続く。1分1秒がひたすらに長く感じて、早くきてくれと願ったのが何度目かわからなくなった頃。
「連れてきたぞ!!」
「ウノォオオオオ!!」
上の方から声が聞こえたと思えば、シズカ先生のペリッパーが2匹。先生とシン、そして父さんを乗せて飛んできていた。
「ウノ君! 弱ったポケモンはどこ!?」
「ここです!」
降下してきた先生に場所を譲ると、先生は直ちに診断を開始。
「キズぐすりを塗ったのね」
「応急処置として。ただその時に一度目を覚まして、薬を奪って必死に舐めていました。かなりお腹が空いていたのかも。食べ終わったらまたこの通りです」
「なるほどね。それなら、ペリッパー! たくわえて!」
ここで先生が乗っていたペリッパーが、何かを吸い込むような動作を行う。すると、口の中に何かが吸い込まれていき、塊が形成されるのを肌で感じた。
不思議な感覚に疑問を挟む間もなく、
「“飲み込ませて”!」
「ペッ、パー!!」
「!?」
続く指示でペリッパーが塊をツボツボに向けて吐き出した、かと思えばそれがツボツボの体に染み込んで、弱っていた様子が緩和されていく。
“飲み込ませる”なんて技はゲームにはなかったけれど、たくわえるはノーマルタイプの変化技。さらに蓄えた分をはきだすで攻撃に、のみこむで自分の回復に使える。
それと指示から予測するに、“はきだす”と“のみこむ”を組み合わせて、他のポケモンを回復させる技なのだろう。アニポケでサトシがやっていたような“応用”だと思われる。
「少し衰弱していたけれど、危険な状態ではないわ。ウノ君の言う通り外傷は軽微だし、このまましばらく休めば目を覚ますでしょう。様子を見てからポケモンセンターに移送すれば大丈夫よ」
「よかった……先生、原因は」
「ハッキリ言えるのは空腹が一つ。あとは“すいとる”とか“メガドレイン”とか、体力を吸収されるタイプの攻撃を受けた可能性があるわ。ツボツボは比較的餌が少なくても生きていけるポケモンだから、空腹だけが原因とは考えにくいの。
もちろん、空腹がどこまで長く続いたかにもよるのだけれど、きちんと調べないとそこまでは分からないわね」
「たぶん2週間くらいだと思う」
推論を述べたのはシンだった。皆の視線が集まると、彼は暗い表情で語り始める。
「さっき思い出したんだけど俺、前にそのポケモンを見たことある。競技場で。ほら、朝に話しただろ? 最近マナーの悪い奴が顔を出してるって、そいつが持ってたんだよ。そんでバトルでボロ負けしてた。
元々マナーが悪くてそいつが嫌われてたのと、バトルの前に“珍しいポケモンを手に入れた”って自慢してたこともあって、負けた後は笑われててさ……そのポケモンに“お前のせいで負けた”って怒鳴ってたのを覚えてる」
「じゃあ、この子はその後でここに捨てられたってこと!?」
「同じ種類ってだけかもしれないけど、そういうことがあったのは本当だ。ただ、そのポケモンはこの辺じゃ見かけないし、俺もそいつが持ってた奴しか見たことねぇから、たぶんそうだと思う。それに……」
「それに? 情報はあればあるほどいいから、些細な事でも教えてちょうだい」
シズカ先生が優しく問いかけると、シンは言いづらそうにしながらも、しっかりと話した。
「ボロ負けした時のバトルなんだけどさ、ずっと変だったんだよ。なんか、攻撃を受けてもいないのに勝手に弱って戦闘不能になったり、負け続けてから先に“からにこもる”で守りを固めろって指示されたら、逆に弱くなったりして。
だからあの時勝手に弱ってたのも、今その子が弱ってるのも同じじゃないか? って思った」
このバトルの様子に、俺達は違和感を覚える。
『ツボツボは確かに体力も少ないし攻撃面は弱い、けど防御に関しては伝説クラスだったはずだよな?』
(うん。種族値だと20 10 230 10 230 5、両極端すぎて唯一覚えてるから間違いない。“からにこもる”で弱くなったのなら、特性が“あまのじゃく”なんだと思う。変化技の効果が逆転するやつ)
『ただ、それだけなら勝手に衰弱はしない。となると原因はもちものか!』
急いで先生に推測を伝えて調べてもらったところ、殻の中から不気味な赤色に輝く球体が見つかった。まず間違いなく攻撃の威力が上がる代わりに、攻撃するたびに自分の体力が削られていく“いのちのたま”だ。
『体力も攻撃力も低いツボツボにいのちのたまを持たせて、さらに特性があまのじゃくなのに、からにこもるを指示……元のトレーナーは馬鹿なのか?』
(ツボツボの長所を片っ端から潰すような組み合わせをして、負けたからって罵倒して捨てるなんて……そうでなくてもこんなところに置き捨てる時点で馬鹿決定)
トレーナーとして、人として、あまりの稚拙さにウノ少年も怒り心頭……そんな時だった。
「ツ、ツボッ?」
「あら、目が覚めたのね」
「ボォ……」
先生とペリッパーの治療で少し元気が出たのか、周囲の様子をうかがっている。堂々と首をもたげていることから、俺達が危害を加えようとしていないことは理解しているのだろう。しかし、それはそれとして戸惑ってもいるようだ。
「ツ、ツ、ツ……ツボッ?」
「何かしら? ウノ君の方を見ているけれど」
一体何だろう。そっと近づいてみると、もたげた首をそっと俺の手に近づけた。さらに一方の手で、地面に転がっていた薬の容器を押し出す動作。
「もしかして、お礼を言ってるの?」
「ボッ」
この子も以前のウパーと同じで、助けられたと思っているのだろう。肯定するように一鳴きするツボツボ。一見微笑ましい行動のはずが、俺はその姿を見て“寂しそうだ”と感じた。
(サノ)
『ああ、言いたいことは何となくわかる』
「……シズカ先生、この子をうちで引きとれますか?」
「ツボッ!?」
「シン君の話と道具で、人のポケモンだったことはほぼ確定だけど……この状況ならウノ君がゲットすれば普通に貴方のポケモンよ。状況的に、たとえ権利が残っていてもしかるべきところに訴えれば無効になるわ」
「分かりました。ツボツボ、うちに来ない?」
「ツボッ、ッ!」
ツボツボは一瞬固まり、殻の中に閉じこもる。誰の目にも明らかな拒絶に見える行動のはず。だけど、やっぱり、なぜか寂しそうに感じる。まるで自分の内側からツボツボの気持ちが湧いてくるような感覚。
これが知ったかぶりや浅い同情なら、とんでもない勘違い野郎だけれど、
「君、人間が好きなんじゃない? 君の身に起きたことは概ね察しているけど、そんな扱いをされてもまだ僕達を見て暴れないし、近づこうとしていたでしょう」
「……」
肯定しないけど、否定もしない。だったら一緒に来ればいい。少なくとも俺は前のトレーナーのようなことをする気はないから、安全だ。食べ物にも困らない。どっちでもいいのであれば、一緒に来ても良いだろう。嫌になるまででもいい。
語りかけると、返事がないのに心が揺れていることは分かる。そして、ツボツボが殻にこもる理由も明確になってきた。
「ああ……前のトレーナーに言われたことを気にしているのか。自分は何の役にも立たない、って。そんなことはないよ。
それに、バトルだけが全てじゃない。たとえば君はきのみジュースを作れるだろう? 僕はそれに興味がある。僕が育てたきのみでジュースを作ってくれたら面白そうだ。他にも手伝ってほしいことは色々ある」
役に立たない、なんてことは絶対にない。そう言葉をかけると、おずおずと殻から首を出してきた。まだ信じ切れてはいないようだけれど、それでも前向きに検討しようという気持ちになってくれたようだ。
今は完全に信じきれないかもしれないけど、信用はすぐに積み重ねられるものではない。今は試しに、くらいの気持ちでいい。とにもかくにも、最初のきっかけが必要なのだ。
「だから、よろしくね」
「ツボ……」
腰から空のモンスターボールを取って、ツボツボの前に置く。するとツボツボは自らボタンを頭で押して、ボールの中に入っていった。
「よし……っ!?」
「ウノ!」
「大丈夫か!?」
ツボツボがゲットされたことを確認した直後、強いめまいに襲われる。シンと父さんが支えてくれたので転ぶことこそなかったけれど……
(あれ? ……今、何してたの?)
『わからない。あの感覚は一体』
喋らないはずのツボツボの声が聞こえたような。その一方で周囲の音や皆の存在が、すっかり頭から消えていた。あれは一体なんだったのか? という疑問が頭に浮かぶが、
「ちょ、ちょっとはな、離して──ウッ!」
急に込み上げた吐き気でそれどころではなく……
支えてくれた2人の手を振り払って木陰に飛び込み、胃の内容物をぶちまけた……