【AI利用実験中】ポケモン世界に転生したら、旅どころではなかった 作:うどん風スープパスタ
「は―……」
何度か吐き戻してから、近くのベンチに移動してしばらく横になった。そしてようやく気分が落ち着いてきた頃……一度母さんに俺の無事を伝えるため、キッチンカーまで戻っていた父さんが息を切らせて帰ってくる。
「ウノ、大丈夫か? これ、お母さんから預かったモモナナラッシーだ。飲めるなら飲むといい」
「ありがとう……」
父さんから冷えた金属製の水筒を受け取り、起き上がって中身を喉に流し込むと、胃酸で荒れた喉の違和感が和らぐ。また、モモンとナナシの爽やかな甘酸っぱさで、吐き気も少し落ち着いた気がする。
……僅かに余裕が生まれたことで、先程の疑問が再び頭に浮かんだ。俺は一体どうしたのか? あれはいったい何だったのか? と。
……なんとなく感じるのは、おそらく“トラウマによる発作とは違う”ということだが……考えても一向に答えは出ない。
「おいウノ、本当に大丈夫か?」
「変な顔してるし、まだ気分悪いんじゃないの?」
「え? あっ、ごめん、気分はもうだいぶ良くなったよ。ちょっと考え事をしていて──そうだ」
さっきの俺は、傍からどう見えていたのだろうか? 尋ねてみると、2人は目を見合わせた。
「どう見えていたかっていわれると、まずはツボツボに話しかけてただろ? 最初は一方的にって感じだったけど、最後はツボツボが自分からボールに入ってたし、その段階になって通じてたんだな……って感じ」
「そうね。ウノ君、あの時はボーっとしてたように見えたから……その、怪我をしたポケモンがダメで何かあったのかと」
「私たちも何回か声をかけたけど、反応がなかったわね。錯乱や呼吸の乱れというより集中しているように見えたわ。落ち着いているようだったし、危険もなさそうだからとりあえず様子を見ていたの」
シズカ先生に補足された集中は、そうかもしれない。だけど、その結果としてシンが言うようにポケモンと通じ合った……会話というには曖昧な感覚だったけれど、ポケモンシリーズにはポケモンと会話のできる人間が登場することがある。
『まさか俺達も、その類の人間だった?』
(僕、これまで生きてきてそんなことなかったよ? 転生チートってやつじゃない?)
『そっちの可能性もあるか……』
と、再び思考に没頭しかけた時だった、
「あー……そのことなんだけどな、ウノ」
「父さん、何か知ってるの?」
「心当たりがある、というだけで確証はないんだが……もしかしたらウノは“超能力”に目覚めたのかもしれない」
「超、能力!?」
「おそらく。というのも……ええと、まず超能力と一口に言っても、その種類にはPK(念動力)とESP(超感覚)っていう分類があるらしいんだ。そしてお義父さん……お母さんのお父さんで、ウノのお祖父ちゃんにあたる人がESPに特化したエスパーだったんだよ」
「そうなの!? そんな話、初めて聞いたけど」
「そりゃ話してなかったからな、ちょっと複雑な人だったし……説明すると長くなるけれど」
父さんは、自分が知る限りのことを話してくれた。
祖父の出身はカントー地方であり、サイキッカーとして有名な一族に生まれたらしい。しかし、その一族は代々念動能力者を輩出しており、超感覚的能力を得意とする一方で念動力を全くと言っていいほど使えなかった祖父は、異端の存在だった。
迫害や冷遇を受けたわけではないそうだけれど、同年代の子供に心無い言葉を吐かれたり、大人が扱いに困ったり、ということは多々あったそうだ。そして超感覚に特化した能力者であった祖父は、それらを敏感に察知してしまった。
結果として祖父は一族から逃げ出すように旅に出て、カントーも出て、各地を放浪し、最終的にパルデア地方に腰を落ち着けたという。
パルデアには“サイキッカー”という肩書が公的に存在しない。超能力者がいないとは言い切れないが、少なくとも他の地方よりは一般的ではない。それが祖父にとってはかえって住みやすく感じたのだろうとのこと。
この時点で察せると思うが、祖父は自分の能力を快く思っていなかった。優れた能力を持っているからといって、その能力が本人を幸せにするとは限らない。むしろ、能力により苦しんだ経験が多くあったからこそなのだろう。
「本人はすごく優しくて会話好きな人だったけど、超能力に関する話だけはほとんどしてくれなかった。だから詳細は分からない。ただ、お義父さんがさっきのウノのような状態になっていたのは、何度か見たことがある。
それでさっき母さんにも話したら、同じように目覚めたのかもしれない、と言っていたよ」
「そうなんだ……」
「断定はできないけれど、血筋としては別におかしなことではないよ。戸惑いはあるだろうけど、心配はしなくていい。もし気になるのであれば、一度どこかで調べてみてもいいだろう」
父さんは俺の肩にそっと手を置いて、ニカッと笑う。息子の不安を少しでも和らげたいという気持ちが伝わってくるのは、きっと超能力とは関係ない。
『唐突に新事実が明かされたけど、よく考えたらポケモンの世界ってエスパーとか霊能力者とか、波動使いなんて人間もいるんだもんなぁ……』
(驚きはしたけど、そういう血筋の人がいたり、能力に目覚めてもおかしくはないか)
と、ここで俺を心配して残ってくれていたにも関わらず、放置してしまっていた2人と目が合う。何やら納得した様子で、感心しているようだ。
「さっきのって、そういうことだったのか」
「エスパーの人って珍しいものね。霊媒師とかイタコの人なら時々いるんだけど」
「エスパーって言ったらやっぱカントーだしな。ヤマブキジムのジムリーダーが超スゲェらしくて、エスパーは皆そこに行くって聞いたことある。ってか、パルデアってサイキッカーがいないってマジ?」
「あ、うん。それは本当。なんでかは知らないけど」
「それに関しては、地域ごとの歴史と文化の影響だという説があるよ。
たとえばここ、ジョウトや地続きのカントーは伝統や神秘といった“精神性”を重んじる土地柄だ。超能力者や霊能力者のような存在は、かつては畏怖の対象であり、歴史の影で特別な役割を持たされることも多かったし、紐づけられた信仰も残っている。
一方、パルデア地方は早くから地方全体を挙げて、科学技術の発展と研究推進を推し進めてきた。その結果として、曖昧な精神論よりも“正確な数字や再現性のあるデータ”が重要視された。これにより技術は大きく発展したものの、失われた伝統や歴史も少なくない。
超能力には精神性や信仰といった“心の在り方”が重要らしくて、文化的な観点から見ると、パルデア地方とは相性が悪いらしいんだ。あくまでも一説だけどね」
「「そうなんだ!」」
父さんの話を聞いて、2人が面白いと目を輝かせている。もちろん俺とウノ少年も。パルデア地方はタイムマシンとか諸々、オカルトよりもSF寄りの世界観だから納得感もある。
そんなことを考えていると、吐き気やだるさが消えていることに気づく。試しに杖を手に取り、右ひざに手を当ててぐっと足に力を込めると、普通に立つことができた。めまいで視界がぶれることもない。
「ウノ、立って大丈夫なのか?」
「うん。もう気分は悪くない。歩くくらいなら全然問題なさそうだよ」
心配してくれたシンを始めとして、皆にお礼を伝える。
しかし、俺が回復したのであれば街に戻った方が良いだろう。母さん達も心配しているだろうし、何よりツボツボの事がある。シズカ先生の保証はあるけれど、一応ポケモンセンターに連れて行った方がいいのではないか。
提案すると、シズカ先生が頷く。
「ポケモンセンターなら検査機器も揃っているから、もっと詳しく状態を把握できるし、回復装置にかければ体力の回復も早まるわ」
先生の鶴の一声で、とりあえず戻ることが決定。ただし歩いて帰るのではなく、先生が新たに出したペリッパーを待機していた2匹と合わせて、3匹に分乗しての帰宅。
出したままだったポケモンをボールに戻して、俺と父さん、シズカ先生とルリ、そして俺のバッグを担いだシンに分かれてペリッパーで飛んでいく。俺の足に合わせてくれていた行きとは打って変わって、帰りはほんの数分だった。
木々の向こうに見える街がどんどんと近づき、嗅ぎ慣れたスパイスの香りが鼻に届く。完全に自然公園を出る前に地面に降りたが、既に目の前には母たちのキッチンカーがある位置に付けられていた。
「ウノ!」
「お母さん、ただいま」
こちらに気づいた母さんが、キッチンカーの裏から飛び出してきた。
「よかった……お父さんから無事とは聞いていたけれど、やっぱり心配したわ」
「ごめんなさい」
「怪我をしたポケモンを助けたんでしょう? 心配はしたけど、そういう行動がとれるのは親として嬉しいわ」
複雑そうな顔はしているが、嘘ではないし、何より俺を責めるつもりはないのだろう。母さんは俺の頭を撫でている……が、止まらない。
「そうだ、お店は? お客さんを放っておいていいの?」
「心配いらないわ。もう今回用意していた分は完売したから。今は片付けをしていただけよ」
「えっ!? もう売り切れ!? まだ閉場までは時間があるのに?」
「そうなの。シズカ先生とお父さんがウノのところに行ってからは、ゲンさんとタエさんもお手伝いしてくださってね。残りは一気に売り切れちゃったのよ」
そう言われて2人の屋台を見ると話は聞こえていたようで、無言でグーサインを出された。お礼を言いたいが、接客で忙しそうなので話しかけるのはやめておこう。
「次回からはもっと量を用意しておいた方が良さそうだ、と話していたところなのだよ」
「あらあなた、それならもう少しここをお願いしてもいいかしら? ウノ君たちが保護したポケモンをポケモンセンターに連れていきたいのと、ポケモンの置かれていた状況と合わせて、センターを通して近隣に注意喚起をしておこうと思って。
私の前職の資格と経歴があれば、話も通しやすいと思うから」
「シズカがそう判断したのなら、その方が良いのだろう。こちらの事は任せておきなさい。
そうだ、片付けだけなら私だけでもなんとかなるから、アケノさんも行ってくるといい、さっきの今でウノ君と離れるのも心配だろう」
「ええっ、ですがお一人では流石に……」
「それなら僕がこっちに残るから、アケノはウノを頼むよ」
「そう? なら、お言葉に甘えます。ありがとうございます、イワオさん」
そして俺が隣の屋台を見ている間にも、大人達の間では話が進み、俺達は再びバザー会場を後にするのだった。