【AI利用実験中】ポケモン世界に転生したら、旅どころではなかった 作:うどん風スープパスタ
夜
~食堂~
あれからポケモンセンターを訪ね、諸々の手続きをしているうちにバザーは閉場。後始末を終えてログハウスに戻った俺達は、留守番だった研究員の3人に今日の報告をしながら夕食を取っている。
「それで保護したのが、そのツボツボってわけか」
「はい。シズカ先生とミズハタウンのポケモンセンターで、診察と一緒に状況報告と手続きも済ませてきました」
まず前提として、既に誰かが所有しているポケモンは、通常のボールには入らない。これはボール自体にトレーナー固有のIDとポケモンの生体情報が自動的に登録され、ボール側でロックがかかるセキュリティー機能が搭載されているから。
つまりツボツボが俺の持っていたボールに入った時点で、法的にツボツボは所有者不在。野生、あるいは前所有者が所有権を放棄したものと見なされ、ゲットした時点で所有権は俺にあるのは明白。
ただし、だからといって問題が起こらないとは限らない。特に今回のように“非常識なトレーナー”が所有者だった場合、後々難癖を付けてくる事例が発生することがたまにある。その主張に法的な正当性はないが、こじれると面倒なのは明白だろう。
だから対策として、ポケモンを保護した際にポケモンセンターや警察に事実と状況を申請することで、ボール内に登録されている捕獲日時や捕獲時のボールの挙動データなどから“正当にゲットされたポケモンである”と公的に保証してもらうことができるのだそうだ。
「こんな制度があるなんて、今日初めて知りました」
「ポケモンの保護活動をしていると保護する数が多い分だけ、元のトレーナーが出てきて問題になるケースも増えるから割と当たり前なんだけど、一般的ではないでしょうね。義務化されているわけでもないし、普通はボールに入ったという事実だけで十分よ。
それに直接的な被害を防止するものではなくて、しかるべきところに通報・相談して認められたという公的な記録が残ることで“いざという時の保険として有効”というだけだから」
それでも、いざという時の備えがあるのは安心要素である。
さらに今回は関係各所への通報と注意喚起も同時に行った。
今更だがこの世界での“ポケモンを逃がす”という行為は言葉通りではなく、ポケモンセンター、警察、あるいは預かりサービスを通して“所有権の放棄申請と共に保護施設へ送る”という行動を指している。
ボールの機能的に個人で逃がすことは可能であっても、推奨はされていない。しかるべき機関に送って専門家の監修を受け、より安全かつ生態系への影響がないように、ポケモンの種類ごとに適した場所が選ばれた上で自然に返されるのが正式な手順だ。
この点から今回の件は“違法かつ悪質な放流”の可能性が高いとして、ツボツボのデータは警察にも共有され、今後は公的機関だけが触れられるボールのデータから逃がしたトレーナーの特定も視野に入れるとのこと。
トレーナーが特定された場合は罰金刑、前科があればトレーナー資格の剥奪もありえるらしい。ただし、この捜査は個人情報保護の観点からの制限も厳しく、また犯罪としては危険度が低いものとして、開示が認められない場合もあるので確実に捕まるとは言い切れない。
そんな風に、今日はポケモン関係の法律について、普段はあまり意識しない部分に触れて勉強になった。
「シズカ先生もいるし、保護に関してやるべきことは抜かりないでしょ。ところでウノ君はこのツボツボを今後はどうするのかな?」
「まず“きのみジュース”を作ってもらうことと、ネコメさんの家で収穫できた“ぼんぐり”を“むしくい”で、“むしくいぼんぐり”にしてもらおうと思っています」
むしくいぼんぐりはキズぐすりと同じく、ゲーム・レジェンドアルセウスに登場したクラフトレシピ“ねばりだま”の材料の1つ。
……本当はぼんぐりを使ったボールを作ってみたかったのだけれど、ぼんぐり以外に必要な“たまいし”らしき素材がないことと、作り方が不明であるため保留中。ヒワダタウンのガンテツさんという心当たりはあるが、気軽に行ける距離ではないし、接点もない。
結果としてこれまでぼんぐりには使い道がなかったが、ツボツボが来てくれたことで、むしくいぼんぐりに加工してねばりだまを作れる可能性が出てきた。少なくともすでに実験として1個、むしくいぼんぐり化には成功している。
残る素材は自分でも作れる“どろだんご”と、森で取れる“タマゼンマイ”なので材料は揃う。将来的にぼんぐりボールのクラフトに手を出せるようになった時の準備として、ねばりだまで試行錯誤し、加工のやり方に慣れておくのは悪くないだろう。
「ひとまずこの2つで役に立ってもらいつつ、バトルの訓練もして前のトレーナーで失った自信を取り戻してもらおうと考えています」
事故のようなものだけど、超能力で感じたところ、どうもこのツボツボはかなり“まじめ”な性格なので育てやすそう。ソウジさんから買ってきたパワー系アイテムも使えばより効率的に、少なくとも前のトレーナーのミスであることは証明できるはずだ。
「その道具って本当に効果があるのかい? よくある健康器具みたいなものでは?」
「ミヤビさんの疑問も当然ですが、僕が聞いていたものと同じであれば、ポケモンの身体能力の向上に役立つはずです。能力の向上という意味で言えば“タウリン”とか、ポケモンの能力を上げる薬品類と似たような効果が出るはずなので」
「マジ?」
ケントさんが自分の聞き間違いを疑っているが、ゲームでは道具の使用と所持した上でのバトルという過程こそ違えど、薬品類もパワー系アイテムも最終的には“努力値の取得”に行き着く。
こちらの細かい仕様は知らないが、最終的にそこに行き着くとすれば、効果も似通ったものになるはず。
「興味が出ましたか?」
「そりゃぁ、元リーグ挑戦者としてはな。
リーグはトレーナーもポケモンも、本気で徹底的に鍛えて来た奴が集まる舞台だ。どいつもこいつもガチな奴ばかりが集まってると実力が拮抗することは珍しくない。ほんのちょっとの差が勝敗を分けた、なんてこともよくある。
薬だけで強くなって勝ち抜けるような甘い場所じゃねぇけど、その“僅かな差”を埋めるためには有効な手段だし需要は高いんだ。ハッキリ言って、ウノ君の話が本当ならリーグを目指すトレーナー垂涎の道具だろ。
薬はただでさえ高いのに、ガチな上に金持ちのトレーナーが買い占めたりして値段が吊り上がるし、量も手に入らない上に使い捨て。その点、トレーニング器具ってことは壊れるまでは使い回しができるんだろ?」
「できますね。説明書にも書かれていました」
「それなら私も興味あるよ。リーグに出なくても、ポケモンが強くなってくれた方が活動をする上でも心強いしさ」
「リーグや活動関係なく、強くなって困ることの方が少ないと思うけど……」
ケントさん、キリカさん、そしてミヤビさんにも好感触のようだ。
……しかし、大人達のポケモンはすでにかなり鍛えられている。バトルも数多く経験していることを考えると、努力値が割り振られてしまっている可能性ありえる。そうなると、ただパワー系アイテムを使っただけでは効果が薄い、下手すれば出ないかもしれない。
ということで、大人達には先日伝えていなかった“マトマのみ”の仕様について、努力値という表現は控えて“各能力上昇には上限と、全体での許容量があること”と共に、本で読んだものとして伝えておく。
能力低下効果のあるきのみと組み合わせることで、最大の効果を得られるはずだと説明すると、微妙な顔をしていた。
「ウノがこの前、植物図鑑を借りて調べていたのはそこか……確かに図鑑では“ポケモンが弱くなる”という記述しかない。ウノの話と比較すると具体性に欠ける。
逆にウノの話の方には証拠がないけど、理屈としては一応の筋が通っている」
「これは試してみるっきゃないな……とはいえ、今あるのがマトマのみだけだから、必然的に下げられる能力は敏捷性だけか。バトルでの戦術の事も考えると、俺は普通に持たせるだけしかできないな」
「それなら私が試してみよう。うちの子たちは元々機動力が低いし、得意な戦術も専守防衛、待ち構えての返り討ちが基本だ。多少動きが鈍くなったところで困りはしないし、それで頑丈になったり力強くなるならメリットの方が大きい」
「僕のオーロンゲも同じタイプですから、マトマのみと一緒に試してみましょう」
「だったら医療データも取りましょうか? マトマのみに毒がないことは証明されているけれど、ウノ君の話を念頭に置いてみたら何か分かるかもしれないわ。
あと薬の方の話だけど、あれは一定量を投与すると他の薬も含めて、それ以上の投与は効果がなくなるわ。受容上限に達する言われているけど、マトマの実を与えることでそれが解消されたとしたら、あるいは他の薬で効果が出れば証明できるかしら?」
大人たちは既に器具を試すかどうか? ではなく、正確な効果を把握するための具体的な計画についての話し合いを始めている……今更だけど、よくこんな子供の話を真面目に聞いて、検証しようとしてくれるものだ。
『子供が何を言ってるんだと一笑されてもおかしくはないだろうに……笑うどころかわざわざ時間を割いてくれるんだから、ありがたいよな』
(……うん……)
ん? ウノ少年の反応に変な間を感じたが、あとで聞けばいいか。それより話に夢中になっていると、夕食が冷めてしまう。大人たちの話を聞きつつ、意見を求められれば答えつつ、皿の残りを食べ勧めていく。
……
…………
………………
~自室~
夕食の後はすぐに就寝準備をして、ベッドの中へ。ポケモンたちも既にボールの中だ。
今日は色々あって疲れたし、少し早いけどゆっくり休もう。
『本当に濃い一日だったな……特にシンとルリ。騒がしかったけど、いい子たちだったよな』
(……うん)
『どうした?』
さっきからウノの反応が鈍い。だけど以前のような無反応ではなく、何か考え事をしていた結果であることは分かった。
『ウノ、何か悩みでもあったか?』
(……ツボツボの前のトレーナーって、何を考えていたんだろう?)
『ん? ん~……何も考えてないだろと言いたくなるほどダメな組み合わせだったけど、しいて言うなら、いのちのたまを持たせてるんだから攻撃力上昇じゃないか? 元の攻撃力の低いツボツボに倍率のアイテム使っても焼け石に水だと思うけど』
(僕もそう思う。けど、 それは“ツボツボの特性をちゃんと理解していなかったから”だよね? もっと言うなら、僕たちと違ってポケモンの能力を数値として知らないからじゃないかな?)
いまいち要領を得ないが、ウノ少年の問いかけは必要な話なのだろう。こちらも真剣に考えて返答する。
『一理あるな……馬鹿にする気は毛頭ないけど、シンやルリもポケモンに対する理解度が低いように見えた。
昼にも少し考えたけど、ポケモンがデータの固まりだった前世は、いわばそれ自体が世界観を構築する“答え”だろ? 現実になったこちらではそれぞれに命があるし、それを扱うための倫理・技術・物理的な問題や制限がある中で、問題を解き明かしていかなければならない。
頭の良い方じゃなかった俺でもわかる。知識を深めること自体が難しくなったら、未知の部分も多くなるさ』
(だよね。だから、それが今回の原因の1つだと思う。前のトレーナーが悪いのは確実だけど、もしツボツボの種族値が世間に広まっていれば、変な組み合わせで傷つくことも、捨てられることもなかったんじゃないかな……?
ツボツボだけじゃなくて、数値化ができれば同じような理由で苦しむポケモンも減るんじゃないかな……?)
……なるほど。ウノ少年の言いたいことは分かった。
『確かにポケモンの能力が数値化されて、長所や短所が明らかになれば、的外れな育成のせいで理不尽な目にあうポケモンは減るかもしれない。
でも、そもそも無知で努力もしないトレーナーはいなくならない。それに数値化されるということは、長所と短所だけでなく優劣も明らかになる。“600族”なんて言葉があったように、今度はポケモンを数値でしか見ないトレーナーも確実に出てくるだろう。それこそ、この世界がゲームのようになる可能性もある。
3値や育成方法を世に広めること、数値化することが良いことかどうかは、俺には断言できない』
強いポケモン、弱いポケモン、そんなの人の勝手。本当に強いトレーナーなら、好きなポケモンで勝てるように頑張るべき……そんな四天王の名言がある。俺の知識はこの言葉を実現するために、大いに役立つだろう。しかし、人は易きに流れるものだ。
『そもそも3値、特に種族値は俺もツボツボしか覚えていないし、どうやって存在を証明するのか? って問題もある──と、そういう話をした上でだが……好きにしたらいいんじゃないか?』
(えっ?)
『ウノが知識を広めたいなら、広めればいい。悩むのなら急がずに、答えが出るまで考えればいい。俺はウノの決定を尊重するし、応援するよ。
こう言ってしまうと責任を押し付けるみたいだけど……俺はお前の“前世”だ。今は俺が主体になって行動することが多いけど、本来主体になるべきは“現世”のウノだろう。だから今を生きるウノが“こうしたい”と望むのであれば、俺は協力する。
……正直、俺はそんなに頭の良い方ではなかったからどこまで力になれるか分からないけど“ツボツボみたいな事例が減って欲しい”って部分には100%同意できるしな』
俺が思いつく限りの言葉を伝えると、ウノは沈黙した。うっすらと感じる雰囲気は悪くないので、何かを考えているようだ。急かさないようにじっと待っていると、
(……うん、ありがとう、サノ。 とりあえず、色々と調べてみる)
『そうか、分かった。じゃあ今日は寝よう、おやすみ、ウノ』
(うん、おやすみ……)
首元まで布団を引き上げると、自然と瞼が重くなってきた……